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2012.09.11 (Tue)

イリエアン・デイズ 4

サクサクと進めよう!






【More】



カタカタカタ…。
車輪の音を響かせながら、コトリーナはワゴンを押していた。
「やあ、コトリーナ。」
コトリーナの前から姿を見せたのは、ガッキー王子である。途端にコトリーナは警戒心を露わにした。
「そんなに怖がらないでよ。食べたりしないから。」
「王子様があまり近づかないようにって。」
コトリーナはガッキー王子を大きく避けようと、ワゴンの方向を変える。
「まったくあいつはろくでもないことばかり吹き込むんだから。」
「私は王子様の言うことを信じます。」
侍女をお持ち帰りした件といい、本当に女好きなのだなとコトリーナも呆れていた。

「それってもしかして、噂のお菓子?」
ガッキー王子はワゴンの上に用意されたお茶セットを指さした。
「聞いてるよ。コトリーナはお菓子つくりがとても得意なんだってね。こうやってナオキヴィッチの奴に手作りのお菓子を用意してるって。」
今まで吊り上っていたコトリーナの眉が少し下がった。それを見たガッキー王子がにこやかに続ける。
「僕も少しご相伴にあずかりたいな?だめ?」
コトリーナは銀の覆いとガッキー王子の顔を見比べる。散々ナオキヴィッチに罵倒されてきたコトリーナのお菓子。だがガッキー王子の耳には得意だと伝わっているらしい。
「てことは、やっぱり私はお菓子つくりの上級者だったってことじゃないの?」
もしかしてナオキヴィッチの見る目がおかしいのではないだろうか。ここで他人に認められたらコトリーナは胸を張ってナオキヴィッチへお菓子を作ることができる。

「一つくらいなら…。」
コトリーナの返事を聞くなり、ガッキー王子はにんまりと笑った。
コトリーナがお菓子作りが得意だなんて聞いたことはなかった。ただ、毎日のように手作りをしているという話だけを聞いたのである。まあ、手作りをするくらいのならばそこそこの味なのだろう。
これを機会にコトリーナと親しくなれれば、悔しがるナオキヴィッチの顔が見られる。

「それじゃ、この部屋でいただこう。」
一番近くに空いていた部屋の中に二人は入った。
「ではお茶から。」
コトリーナはポットからコーヒーをカップへ注いだ。
「うーん、いい香りだ。」
ガッキー王子はコーヒーに口をつける。コーヒーは美味だった。
「ではどうぞ。」
コトリーナは銀の覆いをカパッと取った。
「…ん?」
ガッキー王子の目が点になった。銀の覆いの中に隠れていたものは、うっすらと黒いものだった。
「これは、お菓子…なんだよな?」
ガッキー王子は瞬きを繰り返す。見たことがないがお菓子なのだろう。
「ごめん、僕お菓子の名前に疎くって。これ、何ていうお菓子かな?」
うまいことガッキー王子が訊ねた。
「マフィンですよ?」
「マフィン?」
ガッキー王子は脳内でマフィンを再生させる。マフィンは食べたこともあれば女性に贈った記憶もあった。その時のマフィンと目の前のマフィンは同じ物体とは思えない。
「僕の知らないマフィンみたいだけど?」
「やだ。マフィンは世界共通じゃありませんか?ニッシー王国のマフィンって違うんですか?」
「いや、僕の国のマフィンも世界共通のものだと思うけれどね。」
と、そこまで話した時ガッキー王子は「ああ」と何かに気づいた声を出した。
「何ですか?」
「わかった。これは君のお母上からのレシピなんだろう?君のお母上はどこか外国のご出身なんじゃないのかな?その国独特のマフィン、当たりだろ?」
「…私の母はイーリエ王国で生まれ育ちましたけど?」
せっかく下がり始めたコトリーナの眉が再び吊り上りかけている。これを見たガッキー王子は追及をそこで止めた。

「チョコマフィンか。うん、おいしそうだね。」
何とか褒める個所を見つけガッキー王子は笑顔を作った。
「プレーンですけれど。」
コトリーナが答えた。ナオキヴィッチにプレーンを極めてから次へ進めと叱られたので、従ったのである。
「え?この黒いのはそれじゃあ…まあいいや。いただきます。」
自分の軽はずみな行動を反省しつつ、ガッキー王子はマフィンをフォークで割った。
バリ、ベチョッ。
ただフォークで割っただけなのに、なぜこんな音がするのかと恐ろしく思いつつガッキー王子はマフィンを口へ運んだ。

バリッバリッ!ベチョッベチョッ!

「…ふ、不思議な味だ。」
外はバリバリ、中はベチョベチョのマフィンなんて初めてである。
「今日は結構いい出来なんです。」
得意げなコトリーナを横に、黙々とガッキー王子はマフィンを食べ続ける。
――愛って、すげえ。
この得体のわからない代物をほぼ毎日食べているナオキヴィッチに、ガッキー王子はこの時初めて感心したのだった。



一方、お茶の時間になっても現れないコトリーナをナオキヴィッチは探していた。
「まさか、あの男にどこかへ連れ込まれたんじゃ…。」
あの口の上手さでは、コトリーナ一人を丸め込むのは簡単だろう。ナオキヴィッチは手当り次第部屋のドアを開けて探していた。

と、二人の声が聞こえてきた。
「やっぱり!」
ナオキヴィッチはノックもせずにドアを開けた。

「王子様!」
コトリーナの顔が輝く。傍にガッキー王子が座っていた。それを見たナオキヴィッチの眉は思い切り吊り上った。
「ガッキー王子様がぜひ食べたいと仰ったので。」
自分のために用意されたマフィンが、どういうわけかガッキー王子が食べている。しかもガッキー王子は嬉しそうである(本当は無理矢理笑顔を作っていたのだが、ナオキヴィッチの目にはそう見えた)。
「いかがでしたか?ガッキー王子様。」
コトリーナがガッキー王子にマフィンの感想を求めた。
「うん、個性的な味だったよ。アハハ。」
ガッキー王子には「女性には優しく」というポリシーがある。このポリシーにかけてもガッキー王子はコトリーナのマフィンをけなすことはできなかった。
「よかった!やっぱり私は上級者だったんだわ!」
コトリーナが手を叩いて喜んだ。
「いや、別に上級者とまで僕は…。」
言いかけたガッキー王子だったが、そこに別の声がかぶさった。

「何が上級者だ、このウスラボケ。」
「…え?」
コトリーナの顔から笑みが消えた。
ナオキヴィッチはテーブルの上のマフィンに目をやると、鼻で笑った。
「これが上級者だ?お前は本当にめでたい奴だな。」
「だって、ガッキー王子様はおいしいって…。」
「こんなもんをおいしいなんて言う奴、世界中探したっていねえよ。」
「何ですって!」
コトリーナの顔は青ざめ、ワナワナと体が震え始めた。
「調子に乗って、他人に出すなんてふざけるのも大概にしろ。」
ナオキヴィッチはコトリーナから顔を背ける。

「…王子様の味覚がおかしいんじゃありませんか?」
コトリーナは怒った顔でナオキヴィッチを見た。ここでコトリーナが反抗してくるとは思っていなかったナオキヴィッチは予想外の展開に内心驚く。
「俺の味覚は正常だ。」
「嘘!王子様一人だけだもん、私のお菓子を馬鹿にするのは。」
「そりゃそうだ。俺しか食ったことないんだから。俺だけが犠牲になっているんだからな。」
コトリーナの個性的な菓子を食べられるのは世界中で自分だけのはずである。それなのに違う人間、しかも男へ喜んで提供していた。それがナオキヴィッチには許せなかったのである。
「犠牲って、ひどい!!」
コトリーナは顔を真っ赤にして怒りを爆発させた。
「犠牲は犠牲だ。」
「ひどい、ひどい、ひどい!」
涙目で怒っているコトリーナ。冷静なナオキヴィッチ。
「おいおい…お二人さん、とりあえず落ち着いて。」
まさか喧嘩になってしまうとは。ガッキー王子が何とかなだめようとするが二人に聞き入れる余裕はもはやなかった。

「王子様がこんなに冷たい人だったなんて!」
「てめえのまずい菓子に付き合ってやったんだから、冷たいはないだろ。むしろ人格者だと褒めてほしいね。」
「何よ、パンツ王子のくせに!!」
怒りのあまり、コトリーナが意味不明の単語を発した。
「パ、パンツ王子?」
それは一体何ぞやとガッキー王子がナオキヴィッチを見た。
「文句あるのか、まな板娘。」
ナオキヴィッチも言い返す。
「まな板娘?」
ガッキー王子はこっそりとコトリーナの胸を見た。
「…納得。」
しかしその言葉すら、コトリーナとナオキヴィッチの耳には入らなかった。

「もう知らない!こんな人と結婚なんてできない!婚約なんてなかったことにする!!」
コトリーナが叫んだ。
「ああ、望むところだ。これで得体の知れない物体を食わなくて済むんだから助かる。」
ナオキヴィッチは最後まで冷静だった。これがまた、コトリーナの癪にさわるのである。
「さようなら、パンツ王子!」
「あばよ、まな板娘!」
二人は先を争うように部屋を出て行ってしまった。



「ええと…僕のせい?」
謎のマフィンと残されてしまったガッキー王子はポカンとしたまま、しばらくそこへ立ち尽くしていたのだった。











要はテーマがないからだめなのよね、うちは…と反省しつつ、次行ってみよう!


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 |  2012.09.11(Tue) 18:37 |   |  【コメント編集】

★紀子ママさん、ありがとうございます。

パンツ王子は本当にヤキモチ焼きですよね。
コトリーナちゃんが自分以外の男にどうこうなるわけないのに。
幼稚な言い合いをする二人に、さすがのガッキーも呆れ果てていることでしょう。
マフィンは本当に、どうしてこの出来で上級者だと思い込むのか。パンツ王子じゃなくとも不思議なところです。
水玉 |  2012.09.13(Thu) 23:23 |  URL |  【コメント編集】

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