日々草子 イリエアン・デイズ 3

イリエアン・デイズ 3





「まさか、ナオキヴィッチの婚約者だったなんてねえ。」
その後、テラスに設けられたお茶の席で、ガッキー王子は愉快そうに笑った。
「ナオキヴィッチ、知ってるかい?僕よりかっこいい婚約者かって聞いたら「はい」って即答したんだよ?」
「当たっていたでしょう?」
コトリーナはナオキヴィッチの腕をギュッと抱きしめた。ガッキー王子があの時のナンパ男だと知り、態度は完全に変わっていた。
「王子様、お友達はちゃんと選んだ方がいいですよ。」
「だから友達じゃないと何度も言っている。」
「ですよね。王子様のような方がこんな人と友達になるわけありませんもん。」
「…君たち、似た者同士なんだね。」
自分をケチョンケチョンにけなす二人に、ガッキー王子が引きつった笑いを浮かべた。

「それにしても、またあなたは愚かなことをしているんですね。」
ナオキヴィッチはコトリーナに自分のケーキをあげながら、冷めた目でガッキー王子を見た。
「コトリーナだけじゃなく、子連れ女性にまで声をかけたそうじゃないですか。」
「仕方ないだろ。僕は美しい女性を見ると放っておけない性質なんだ。」
と、ガッキー王子はすかさずコトリーナの手に自分の手を重ねようとした。が、すかさずナオキヴィッチがフォークでその手を刺した。
「痛いっ!!」
「人の婚約者に手を出さない!」
「ふん、ケチケチナオキヴィッチ。」
フーフーと刺された痕に息を吹きかけながら、ガッキー王子は恨みがましくナオキヴィッチを見つめたが、ナオキヴィッチの背後を見て「あっ」と声を出した。

「キャッ。」
ナオキヴィッチの後ろでは、お茶のお代わりを運んできた侍女がバランスを崩してポットを落としかけていた。
それを見つけたガッキー王子は光の速さで侍女の傍へ駆け寄り、落としかけたポットを左手でキャッチ。右手で倒れかけていた侍女の腰をしっかりと抱きしめる。
「大丈夫かい?可愛い人。」
「は、はい…申し訳ございません。」
キラキラとここぞとばかりに白馬に乗った王子面したガッキー王子に、侍女は顔を赤くして完全にのぼせ上ってしまった。
「全く鬼のような王子だね。こんなか弱い君にこんな重たい物を運ばせるなんて。」
と、ガッキー王子はこれまた素早い動作でポットをナオキヴィッチへと押し付けた。侍女の腰から手は離さない。
「とんでもございません。私の仕事でございますから。」
「何て君はいい子なんだろう。さ、怖い目に遭ったね。今日はもう部屋で休んだ方がいい。」
「そんな!」
「ああ、そうだ。僕の部屋の方が近いだろう。さ、おいで。ゆっくりと休もう。ね?」
と、ペラペラと喋りつづけた後ガッキー王子は「それじゃ失礼」と言い残し、侍女をどこぞへと連れ去ったのだった。

「…数時間は出てこないな。」
ガッキー王子に押し付けられたポットをツンツンと突きながら、ナオキヴィッチは心底呆れ果てていた。
「数時間後、あの侍女を見てみろ。ツヤツヤの顔をしているだろうよ。」
「ツヤツヤ…。」
さすがに奥手なコトリーナも、結婚を前にするとその言葉の意味が分かり顔を赤らめた。
「分かっただろ?」
ナオキヴィッチは自分だけじゃなくコトリーナのカップにもお茶のお替りを注ぎながら言った。
「俺はお前をあいつに紹介したくないんじゃない。あいつをお前に紹介したくなかったんだ。」
とんだ客人を迎えたものだと、コトリーナは深い溜息をついたのだった。



ナオキヴィッチの予想通り、数時間後に侍女はツヤツヤした顔で歩いていた。それはガッキー王子も同様であった。
「ああ、いい運動した!」
ナオキヴィッチの前でガッキー王子は伸びをした。
「イーリエ王国の宮殿はなかなか可愛い侍女が多いよね。」
「呆れ果てて言葉が見つからない。」
相手をしたくないナオキヴィッチはガッキー王子に背を向けて本を読もうとした。が、その本をガッキー王子が取り上げる。
「何をするんですか、邪魔をしないで下さい。」
「まあまあ。久しぶりに会ったんだから話をたくさんしようよ。あれ?君の愛しい婚約者は?」
「コトリーナは母上と結婚式の衣装を選んでいます。」
「ほう、嫁姑仲睦まじく、良きこと良きこと。王妃様からはたっぷりとコトリーナの話を聞かされたからねえ。」
「そうですか。」
「そうか。結婚式の衣装…試着もしているんだろうなあ。その部屋のドアをいきなり開けたらコトリーナの白い肌を見ることができちゃったりして…。」
ここでギロリとナオキヴィッチがガッキー王子を睨んだ。
「おお怖い。何だよ、自分だけしっかりと見ているくせに。」
「は?」
ガッキー王子はナオキヴィッチが座っている肘掛け椅子の肘当ての部分に両手を置き、ナオキヴィッチの顔を覗き込むような体勢をとった。
「とぼけちゃってえ。さっきの可愛い侍女から聞いたんだ。結婚前だってのに二人で仲良く寝ているらしいじゃん。もう、お前って結構手が早かったんだな。ま、結婚するんだから別に構わないけれどね。」
ナオキヴィッチは肘置きに置かれていたガッキー王子の手をパンと払った。「おっとっと」とガッキー王子がバランスを崩す。
「下品なことを言わないで下さい。」
「だって本当のことだろ?」
「あなたじゃあるまいし。俺とコトリーナはまだ何もありません。」
「はい!?」
ガッキー王子は顔面蒼白になり、フラフラとわざとらしく尻もちをついた。
「な、何もない…?毎晩二人一つのベッドで寝ているのに?何もない!?」
尻もちをついたかと思ったら、ガッキー王子はガバッと立ち上がった。
「お前、どこか悪いんじゃないのか!?」
「俺は正常です。悪いのはあなたです。。」
「嘘だ!絶対おかしいって!なあ、正直に言えよ?毎晩毎晩コトリーナっていう畑を耕しまくっているんだろ?どんな花を咲かせるかなって楽しみにしながら…。」
「あなたじゃあるまいし。」
ナオキヴィッチはガッキー王子に取り上げられた本を奪い返し、再びページをめくりながら時計を見た。
「そういえば、そろそろ父上が戻られる時間ですけど?」
「あ、まずい。」
ガッキー王子は慌てた。公務に朝から出かけていたナオキヴィッチの父、イーリエ王国の国王へ挨拶せねばならない。
「とにかく、後でゆっくり話を聞くからな。」
「する話もありませんので。」



その晩、ナオキヴィッチはいつものようにコトリーナと一つのベッドに入っていた。以前よりましになったとはいえ、コトリーナが傍にいるのといないのとでは、ナオキヴィッチの眠りの質が全然違うのである。
「ねえ、王子様。」
ナオキヴィッチの顔を下から大きな目でコトリーナが見上げた。
「王子様、我慢してませんか?」
「我慢?」
ナオキヴィッチはドキッとした。ガッキー王子に言われたことを思い出してしまった。
「もしそうなら、我慢しなくていいんですよ?」
「…何を?」
「私、聞いてしまったんです。王子様とガッキー王子様のお話。」
やはり聞いていたのか。ということは、コトリーナは自ら体を委ねるつもりなのか。
「だがアイハーラ子爵の気持ちもあるし」とナオキヴィッチはコトリーナの父の顔を思い浮かべた。こうして同じベッドへ入ることを許してもらっているだけで感謝せねばならない。婚約したとはいえ、結婚前にそういう関係になることは父として不愉快であろう。
「私は王子様がそうしたいのならば、一緒に。」
コトリーナはギュッとナオキヴィッチのパジャマを握った。こういう仕草がナオキヴィッチの本能をくすぐっていることにコトリーナは気づいていない。
コトリーナがここまで積極的になってくれるのならば…ナオキヴィッチは頭の中のシーソーにアイハーラ子爵とコトリーナを乗せた。義父の気持ちを取るか、妻となる女性の気持ちを取るか――。
アイハーラ子爵が今にもシーソーから飛び上がろうとした時――。

「王子様、ガーデニングがなさりたいんですよね?」
「え?」
「はい。だってガッキー王子様とお話してたでしょう?耕すとか花を咲かせるとか。」
「ああ…。」
飛び上がりかけたアイハーラ子爵が満面の笑みでシーソーに戻ってきた。と、同時にコトリーナがシーソーから吹っ飛んで行った。
ナオキヴィッチは額に手をやり「ふう」と息をついた。
「私もお花は大好き。王子様と一緒に畑を作っていっぱい咲かせてみたいです。あ、お野菜もいいかも。自分で作ったお野菜で、そう、ホウレン草のキッシュとか作るの!」
「マフィンを極めろ、マフィンを。」
ナオキヴィッチはコトリーナの額を弾いた。
「ったく、素人以下のくせにどうしてそういう大物を作りたがるんだ。」
「挑戦するのは悪いことじゃないでしょう?」
コトリーナは口を尖らせた。ナオキヴィッチはその口にキスを落とす。
「高望みはやめておけ。寝るぞ。」
「はあい。」
ナオキヴィッチが差し出した腕に、コトリーナはちょこんと頭を乗せた。たちまち健やかな寝息が聞こえてくる。
「俺の忍耐力、半端ねえな。」
自分で自分をほめながら、ナオキヴィッチはもう一度コトリーナの唇に自分の唇を重ねたのだった。










胸がときめく物語が書きたい…。

久々にアクセス解析を見てみたら、「イタキス 二次小説 パンプキンラブソング」で一件の検索がありました…。
も~誰ですか、そんなにパンプキンを愛してくれているのは!笑







関連記事

comment

管理者にだけ表示を許可する

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

苺さん、ありがとうございます。

そうだったんですか!!
パンプキンをそこまでと思って驚いたので、ちょっと書いてみたんですが(笑)
パソコンから見ていらっしゃるのならば、わかりやすい場所に入り口を置いているのですが…。

トンブリがお好きなんてありがとうございます!
トンブリは琴子ちゃんの方が入江くんより立場が上?だからか、今一つ人気がないんですよね…。
だからお好きだと言って下さって嬉しいです。
しかも宴会!あれは私もかなり気に入っているエピソードです。
初めてのお買いもの、そういえばスルーしちゃってますね。
初めてポイントカードを知った時とか、書いたら楽しいかも!
プロフィール

水玉

Author:水玉
『イタズラなkiss』のほかには『ゴルゴ13』が好きです☆
多数あるイタキスの二次小説の中で邪魔することなく、ひっそりとマイペースで我が道をゆきつつ生息しております。
そっと見守っていただけたら嬉しいです。

※当ブログに掲載されている文章及びイラストの無断転載・使用はご遠慮下さい。

現在の御訪問者
現在の閲覧者数:
御訪問ありがとうございます
このブログについてのお願い
当ブログは、『イタズラなkiss』の二次創作をメインとしておりますが、時折管理人の趣味や日々の出来事についての記事も書いております。

原作者様や関係各位とは一切関係ありません。

二次創作については、いわゆる原作の隙間をぬった作品もありますが、主人公以外のキャラクターをメインとしたものや オリジナルキャラクターが出てくるものもございます。

そして、原作と違った時代(平安や明治やその他の時代を舞台にしております)、異なる設定(主人公を医者と看護師じゃない職業にしております)で書いてあるものが多いですが、原作を冒涜しているつもりは全くございません。

二次創作が苦手という方及び原作のイメージと合わないと思われる方はどうぞお引き取り下さいますようお願いいたします。

コメント及びメールなどでの苦情及び批判は公開、非公開を問わず、私へ告げることはご遠慮いただけますよう、お願い申し上げます。

このブログ及び掲載されている話が嫌いだと思われたら、黙ってあなた様の中から、このサイトの存在を消去していただけますよう、お願い申し上げます。

カテゴリー+月別アーカイブ
 
最新コメント
最新記事
カボチャの世界
Private
カレンダー
07 | 2017/08 | 09
- - 1 2 3 4 5
6 7 8 9 10 11 12
13 14 15 16 17 18 19
20 21 22 23 24 25 26
27 28 29 30 31 - -
リンク