日々草子 イリエアン・デイズ 1

イリエアン・デイズ 1

このお話は『イリエアン・ナイト』の続編です。
先に『イリエアン・ナイト』を読まれることをおすすめします☆





雲一つない青空。風が心地よい。
イーリエ王国の王位継承者であるナオキヴィッチ王子は、宮殿の小庭園にもうけさせた席にて読書を楽しんでいた。

カタカタカタ…。

車輪が動く音がナオキヴィッチの耳に聞こえてきた。
「来たか…。」
ナオキヴィッチは本を閉じ、テーブルの上に置いた。

「王子様、お茶の時間ですよ。」
カタカタカタとワゴンを押して姿を見せたのは、長い髪の毛を背中に垂らし、クリーム色のドレスをまとった目の大きな少女だった。
彼女の名前はコトリーナ。アイハーラ子爵の一人娘でありナオキヴィッチの婚約者である。
コトリーナの日課は、愛するナオキヴィッチのお茶の準備を自らすることであった。侍女たちがすると言っても、自分が準備すると譲らない。

「王子様、どうぞ。」
コトリーナはまず、カップにコーヒーを注いでナオキヴィッチへ渡した。
「そして、今日のおやつです。」
テーブルの上に置かれた大皿から、コトリーナが銀の覆いを取った。中から現れたのは、黒い物体である。
「今日はいい出来だと思います。」
「お前のいい出来の基準が分からねえ。」
黒い中に、さらに黒い部分がちりばめられたこの物体。それはコトリーナが焼いたマフィンである。
「いただきまあす!」
コトリーナがあーんと口を開け、マフィンを頬張る。ナオキヴィッチも口にする。
バリバリバリッ。
ベチョ、ベチョ、ベチョッ。
マフィンとからは出るはずのない効果音が、二人の周りに響く。

「いかがでしょう?」
「この音で分からねえか?」
眉を寄せるナオキヴィッチに気づかないのか、コトリーナはご機嫌で続ける。
「私もマフィンに関しては上級者のレベルに達したと思うんです。なので今日は上級者らしくチョコチップマフィンにしてみたのです。」
「上級者…だあ?」
「ええ。色々な味の方が王子様も楽しめるかと思って。」
コトリーナはバリバリバリと音をさせながら、説明をする。

「ところで王子様?」
指についたマフィンの生地をなめるナオキヴィッチに、コトリーナが笑顔を向けた。
「何だよ?」
「あの…私たちの結婚式のことなんですけれど。」
コトリーナは赤くなった両頬に手をやりながら、目を伏せた。
「何だ?結婚式の夜に打ち上げる花火は100発ということで母上を説得しておいたはずだが。」
ナオキヴィッチの母、ノーリー王妃は息子の嫁となるコトリーナを溺愛している。結婚式も盛大に、花火は500発とわめいていたのだが、ナオキヴィッチが何とか説得して数を減らしたのだった。
「いえ、花火ではなくケーキのことなんです。」
「ケーキ?」
「ええ。」
コトリーナは頷いた。
「王子様もお分かりの通り、私もお菓子作りでは上級者となりました。ですのでウェディングケーキを自分で焼きたいと思っているのですけれど…痛いっ!!」
話の途中でコトリーナから悲鳴が上がった。
「王子様、耳を引っ張らないで!」
「お前がふざけたことを言っているからだ!」
ナオキヴィッチが引っ張っているコトリーナの耳に向かって怒鳴った。
「お前、さっきから上級者だって言っているが、一度上級者の意味を辞書で引いてこい!」
「それくらいわかりますよう!」
「分かってねえよ!これが上級者の作るお菓子か!」

コトリーナの耳から手を離したナオキヴィッチは、皿の上のマフィンを一個手に取った。
「お前、これが何マフィンだって?」
「…チョコチップマフィン。」
するとナオキヴィッチはコトリーナがマフィンと言い張る代物をパカッと二つに割った。
「これがチョコチップ?チップ?」
中から出てきたのは、長さ5センチのチョコレートの塊であった。
「お前がチョコチップマフィンと言い張るこれは、チョコの周りに生地をくっつけているのと違うのか?え?」
「あら…砕き忘れたのかしらん?」
コトリーナはとぼけて見せた。その口にナオキヴィッチはチョコの塊をくわえさせる。
「もっとまともなものを作れるようになってから、上級者を名乗れ。お前なんぞ素人以下だ。」
「ひどーい。」
ナオキヴィッチに文句を言いつつも、コトリーナはポリポリとチョコを食べた。

「だって、私も結婚式に何かしたかったんだもん。」
コトリーナはしょげてしまった。
「ふん。」
ナオキヴィッチはコーヒーのお替りを自分で注ぎながら、コトリーナを見た。
「お前ができることは、俺のために綺麗になることくらいだ。」
「え…?」
コトリーナの頬にまたもや赤みがさした。
「せいぜい磨きをかけてこい。」
ナオキヴィッチはコーヒーを飲む。
「で、でも…元がこんなだし…。」
先程までの元気の良さはどこへやら、コトリーナがもじもじと恥ずかしそうに呟いた。
するとナオキヴィッチはそのコトリーナに素早くキスをした。
「式当日、この俺がお前に見とれて誓いの言葉をど忘れするくらい綺麗になってこねえと許さねえからな。」



「そうだよ、コトリーナちゃん。ケーキはプロの僕に任せてよ。」
コトリーナの話を聞いたヨシヤが胸を叩いた。
「ありがとう、ヨシヤくん。よろしくね。」
ヨシヤはコトリーナの幼馴染であり、現在は菓子店を経営している。最近王室御用達になったことから店は繁盛しているらしい。
コトリーナはマフィン作りを教わりに、この店を度々訪れていた。

「王子様、ヨシヤくんの腕をよほど信用しているみたいなの。ケーキもヨシヤくんに頼めばいいって。」
「嬉しいなあ。」
ヨシヤは喜んだ。
「でも王子様、本当にいい方だよね。コトリーナちゃんがこうやってうちに来ることも許して下さるし。ウェディングケーキもご用命下さるなんて。」
コトリーナのケーキ作りを阻止するために、ナオキヴィッチはヨシヤにケーキ作りを依頼したのだった。ナオキヴィッチがヨシヤの腕を信用していることは事実であるが…。

「そういや、前にうちに来た変な男はどうなったんだろ?」
ヨシヤがオーブンからクッキーを取り出しながら首を傾げた。
「コトリーナちゃんに大分ご執心だったみたいだけど。」
「そうなのよね。私もちょっと怖くて、王子様に話してみたの。そしたら放っておけって。」
「そうだね。何かあったらきっと王子様が守ってくれるよ。」
その変な男こそ、コトリーナとヨシヤの仲を誤解したナオキヴィッチであった(『イリエアン・ナイト』参照)。ナオキヴィッチが何かとヨシヤを贔屓するのはこの件に対するナオキヴィッチの反省がこめられているのであるが、二人は全く知らない。

「コトリーナちゃん、いらっしゃい!」
「こんにちは!」
そこへヨシヤの妻が買い物から帰ってきた。背中には赤ん坊がいる。
「コトリーナちゃんもすぐにできるかもよ。」
赤ん坊をあやすコトリーナを妻がからかった。
「やだ、そんな!」
赤くなるコトリーナに、ヨシヤ夫妻が声を立てて笑う。

「そうそう、さっき変な男がいたわ。」
妻がヨシヤへ苦々しく言った。
「変な男?こないだのコトリーナちゃんの時の?」
「違う違う。」
妻は手を振って否定した。
「どんな風に変だったの?」
コトリーナが恐ろしそうに訊ねた。
「ほら、私この子をおぶっていたでしょ?それなのに“きれいな人、お茶しないか”って声をかけてきたの。」
「何、それ!」
コトリーナが憤慨した。
「子連れに声をかけるなんて、変な人!」
「でしょう?私も“結婚しているので”と言ったのよ。そしたら、“そんなこと構わないよ。僕に結婚なんて文字は関係ないんだ”とか言うわけ!」
「やだあ!!」
コトリーナはブルルッと震えた。
「気味が悪くて逃げてきたわ。」
「正解よ。」
コトリーナが強く頷いた。
「コトリーナちゃんも帰りは十分気を付けてね。」
妻がコトリーナにアドバイスした。



「そこの可愛いお嬢さん。」
宮殿へ一人帰る途中、コトリーナは声をかけられた。
「うーん、君は貴族のお嬢さんってとこかな?」
「もしかして、ヨシヤくんの奥さんに声をかけた人?」
もしかしなくても、そうであった。
「よかったら僕とお茶しない?好きなものを何でもごちそうするからさ。」
男は眼鏡をかけ、一見、インテリ風であった。着ている服もそれなりの値段がしているようである。
「貴族のバカ息子ってところかしらね?」
「ん?何?」
「いえ、何でも。私、急いでいるので。」
男を無視して通り過ぎるコトリーナ。しかし男はコトリーナの後を追いかけてくる。
「ケーキ好き?それともパンがいい?」
「今お腹いっぱいなので、結構です。」
「つれないなあ。可愛い顔が台無しだよ?」
コトリーナは足を止めて、クルッと振り返った。
「私、婚約しているんです!」
「嘘!」
「本当です!」
コトリーナとナオキヴィッチの婚約は、実はまだ国民に知らされていなかった。知っているのはコトリーナの友人だけである。だからコトリーナの顔はまだ国民に知られていなかった。
「相手は僕よりいい男?」
「はい。」
きっぱりとコトリーナは即答した。男は「ヒュー」と信じていないといった様子で口笛を吹いた。
「だから私に構わないで下さい!」
「ふん!」とコトリーナは言い残し、男の前から立ち去ったのだった。










すみません、先にこちらをちょっと書いてみたくて。
大正物は構想がまだまとまらなくて。とある話の続編とどっちにしようかなと思ってまだふんぎりがつかないものでして。
この話も途中で止まりそうです。その時はすみません。
お試しアップということで!



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え~そんなこと言わず(^。^;) さん、ありがとうございます。

嬉しいです!
私もあの口紅はみ出したコトリーナちゃんを意識して書いていたので、そういっていただけてとてもうれしかったです♪ありがとうございます!!
あのコトリーナちゃん、本当に可愛いですよね。
あの後、どんな結婚生活を送っているのか(だって結婚式のナオキヴィッチは怒りマークが入っていたし(笑))気になります。
おかげさまで寸止めせずに終わらせることができました!

カスガノツボネさん、ありがとうございます。

読み返してくださったんですね、ありがとうございます!
あ~そのセリフ、使ってみたかった!
後ろか前かわからないって、絶対コトリーナちゃんに言いそう!

私もコトリーナちゃんのマフィンは気になります。
あの効果音から考えると、絶対生焼けですもんね!
毒も重ねれば耐性がつくように、コトリーナ印のマフィンも耐性が付くのかもしれません(笑)
時代物がお好きでしたよね!ぜひ読んで下さると嬉しいです。

るんるんさん、ありがとうございます。

まさしく愛です、愛。
愛がなかったら絶対食べられませんよ~。
でもコトリーナちゃんがおいしそうに食べている姿で、王子様はもうお腹いっぱいなんだと思いますよ♪
私のいいようにとのお言葉、ありがとうございます!
安心してこちらを完結させることができました。

茉莉花さん、ありがとうございます。

すごい!ヨシヤくんのファンがいたんですね♪
私も初めて出しましたが、いい味出るな~と思いました。
他の作品でも出してみたいかも!
コトリーナちゃんのマフィンが食べたいなんて…なんて勇気のある行動を(笑)
なんか食べたら歯の詰め物とか取れそうだなと書きながらいつも思います。
メールアドレスですが、いれなくても大丈夫ですよ!
プロフィール

水玉

Author:水玉
『イタズラなkiss』のほかには『ゴルゴ13』が好きです☆
多数あるイタキスの二次小説の中で邪魔することなく、ひっそりとマイペースで我が道をゆきつつ生息しております。
そっと見守っていただけたら嬉しいです。

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当ブログは、『イタズラなkiss』の二次創作をメインとしておりますが、時折管理人の趣味や日々の出来事についての記事も書いております。

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二次創作については、いわゆる原作の隙間をぬった作品もありますが、主人公以外のキャラクターをメインとしたものや オリジナルキャラクターが出てくるものもございます。

そして、原作と違った時代(平安や明治やその他の時代を舞台にしております)、異なる設定(主人公を医者と看護師じゃない職業にしております)で書いてあるものが多いですが、原作を冒涜しているつもりは全くございません。

二次創作が苦手という方及び原作のイメージと合わないと思われる方はどうぞお引き取り下さいますようお願いいたします。

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