日々草子 愛されていることを自覚した時から始まる恋 3

愛されていることを自覚した時から始まる恋 3




「入江くん、あたしたち結婚することになったから。」
琴子がきっぱりと直樹に告げた。
「ここで暮らすから、これからもよろしくね。」
そう言って琴子が微笑む相手は、青木である。
「ここで暮らす?何で?」
「何でって、ここもあたしの家じゃない。お父さんも喜んでくれているし。」
確かに琴子が言うとおり、この家は琴子の父、重雄の家でもある。結婚後も親と同居ということは珍しくもなんともない。広さだって余裕である。

「入江くんにはお世話になったから、特別に見せてあげるね。」
「何を?」
「あたしたちの愛の巣よ。」
琴子がドアを開けて、中へ入るよう直樹を促した。

「何だ、これは…。」
部屋の中央にはハートがこれでもかとプリントされているベッド。枕までハートの形。
そして部屋の壁にはコトリンのポスターが、何枚も貼られていた。

「ま、青木さんたらここにも飾ったの?」
直樹が見ると、ベッドサイドにまでコトリンのフィギュアが何体も飾られていた。
「矢野さんが結婚祝いだからって、張り切ってくれたんだよ。」
「ぐふふ」と笑う青木。
「んもう!本物のコトリンがこれからはずっと傍にいるのよ?」
拗ねながら琴子は、青木の胸を指でグリグリといじっている。
「くすぐったいよ、コトリーン。」
「だあめ、おしおき。」
「そんなことしたって、全然怖くないよお。」

イチャイチャする二人の前で、直樹は自分がどうしてここにいるのかと思わずにいられない。

「入江くん、あたし気がついたんだ。」
イチャイチャし終えた琴子が、直樹に向き直った。
「あたし、ずっと入江くんを追いかけていたけど青木さんと出会って真実を知ったの。」
「真実って何だよ?」
「男は顔じゃないってこと。」
「お前がそれ言っても、真実味が全然ねえぞ。」
そんなことを言ったらいくら何でも青木に失礼だろう。いや、なぜ自分がここで青木に気を遣うんだと自問自答していると、いつの間にやら琴子と青木は抱き合っていた。

「コトリン。」
「青木さん。」

直樹の目の前で青木の唇が琴子のピンク色の唇に重ねられた。
「おい!琴子、お前吸い取られるぞ!」
直樹が思わず叫んでしまったくらい、青木は唇を重ねるというよりも琴子の唇を吸い上げるという感じにキスをする。

ズゴゴゴゴ!

「青木、いくらなんでもそんな音を出すな!」



「凄いわねえ、琴子ちゃん。やっぱりプロは道具からして違うのねえ。」
「本当ですね。」

直樹が目を開けたと同時に、琴子と紀子の会話が耳に飛び込んできた。

「あら、お兄ちゃん。起きたの?」
紀子が直樹に気づいた。
直樹はいつの間にかリビングで寝ていたらしい。

「見て、プロがお風呂場のお掃除をしているのよ。ほら、排水溝なんてあんなにすごいことになっているのよ。それをね…。」
テレビではどうやら視聴者の自宅をプロの掃除集団が訪問しているという特集を放送しているらしい。

ズゴゴゴゴ!!

音を立てて排水溝のゴミが吸い上げられている。

「この音が聞こえたのか…。」
夢であることに少し安堵した直樹。ふと琴子と目が合う。

「あの…入江くん、大丈夫?」
「何が?」
「すごい汗だから。」
相変わらず自分を見る時、琴子はおどおどとしている。それを見ていたら直樹の胸にまたもや苛立ちが込み上げてきた。

「お前みたいに呑気に過ごせたら苦労はしないけどな。いろいろ疲れているんだよ、俺は。」
またもや直樹の口から冷たい言葉が飛び出した。
「ごめんね、テレビの音が大きかったから目が覚めちゃったんだね。」
琴子は慌ててリモコンに手を伸ばした。

「お兄ちゃん、いいかげんにしなさい!!」
とうとう紀子の雷が直樹に落とされた。この声に、同じくソファで本を読んでいた裕樹までビクッとなった。

「何なの、この間から!琴子ちゃんに八つ当たりして!」
「俺は別に八つ当たりなんてしてねえよ。」
「それはどこから見ても八つ当たりでしょう!琴子ちゃんがいいって言うから我慢してたけど、もう限界だわ!」
「おばさん、いいんです。」
「よくないわ、琴子ちゃん!」
紀子が止める琴子を悲しげに見つめる。
「琴子ちゃんは家のお手伝いもしてくれるし、お兄ちゃんの邪魔だってしてないわ。それなのに何なの、当たり散らして!いい加減になさい!!」
最後は直樹を睨みながら紀子は怒鳴った。

「違うんです、おばさん。悪いのはあたしなんです!」
琴子がたまりかねて叫んだ。

――とうとう言う時が来たのか。

直樹は思った。

「悪いのは…全部あたしなんです。あたしが入江くんの気持ちを…。」
「琴子ちゃんが?」
紀子はキョトンとなった。裕樹も本を伏せて琴子を見ている。

「ちょうどよかった。おばさんと裕樹くんにも聞いてもらった方がいいのかも…。」

――ご丁寧に、家族にまで説明するのかよ。
俯く琴子を見ながら、直樹はため息をついた。
確かに琴子が自分を好きであることは、この家の人間全員が知っている。特に紀子は息子の気持ちを無視してまで琴子の恋に協力を惜しまなかった。
だからこそ、その恩を仇で返すような真似をすることを琴子は詫びたいのだろう。




「いいよね、入江くん?」
琴子が直樹に確認する。
「どうぞ、ご自由に。」
――とことん、バカがつくくらいの律義さだよ、お前は。

こんな所で琴子が自分に愛想を尽かしたことを聞かされることになろうとは。



「あのですね。」
琴子はゆっくりと紀子、裕樹、そして直樹の顔を見た後口を開いた。

「あたし…。」
そこまで言うと、まだ琴子が黙ってしまう。やはり言いにくいらしい。

「はっきり言えよ、グズ琴子。」
裕樹が言うと「これ!」と紀子がたしなめる。

「琴子ちゃん、ゆっくりでいいわ。さ、怖がらずに。」
紀子は琴子に笑顔を向ける。
「大丈夫よ、お兄ちゃんだって許してくれるから。」
何か琴子が悪いことをして直樹を怒らせたのだろうと、紀子は単純に思っているらしい。

「あたしが…入江くんの恋を邪魔しているからなんです!!」
琴子はとうとう言った。

「…はい?」
紀子は一瞬、ポカンとなった。裕樹も同様である。
そしてもっと呆気に取られていたのは…当の本人の直樹だった。

――俺の恋って、何だ?

「こ、琴子ちゃん?お兄ちゃんの恋って、な、何なのかしらん?」
まさか直樹にそんな相手がいるとは露ほども思っていなかった紀子は、明らかに狼狽していた。

「入江くんは…青木さんが好きなんです!!青木さんも入江くんが好きで、二人は相思相愛なんです!!」

琴子はそう叫ぶと、「わあ!」と泣き崩れてしまった。

「青木さんって誰なの、お兄ちゃん!!」
「さあ?」
泣き崩れる琴子を見つつ、直樹は頭の中で青木という人物を探す。小学校までさかのぼってみたが、青木という女性に全く心当たりがない。

「とぼけるんじゃないわよ!琴子ちゃんがいながら、何、よその女に手を出してるの!」
「よその女って、別に俺は琴子とは何でもねえし。」
「おだまりなさい!」

「ち…違います、おばさん。」
ぐすん、ぐすんとしゃくり上げながら、琴子が泣きはらした顔で紀子を見た。
「青木さんは…女性じゃありません。」
「え…?」
琴子の言葉に、紀子と裕樹から血の気が引いた。

――まさか、こいつ…。
直樹も嫌な予感がした。いや間違いなくその予感は的中するだろう。



「青木さんは男性なんです。」
琴子の言葉に、
「そんな…。」
と、紀子がソファに倒れ込んだ。
「ママ、しっかり!」
と、裕樹が声をかける。

「驚くのも無理はないと思います。あたしも最初は信じられなかったから。」
琴子は告白してから、落ち着きを取り戻してきたらしい。いつの間にか涙が止まっている。
「でも、今までの入江くんのあたしへの態度を考えると…そうなのかなって。あたし、入江くんが幸せになるためには身を引かないとだめなんですよね。」
「琴子ちゃん、そんなこと…。」
気を取り直した紀子が琴子の肩に手を置いた。
「いいえ。やっぱりそうしなければいけないんです。だからここ数日、あたしは入江くんをあきらめないといけないって何度も自分に言い聞かせてきました。でも…。」
ここで琴子は直樹をチラリと見た。
「でも、やっぱりあきらめられない。入江くんがあたしを好きになってくれる確率はゼロになってしまったけれど、それでも無理だって気づいて。だから入江くん。」
琴子は直樹を見つめる。
「あたし、入江くんと青木さんの邪魔はしない。でも時々、電信柱の陰からこっそりと入江くんを見ていい?」
「琴子ちゃん、そんなのだめよ!」
「おばさん、お願いします。」
琴子は紀子に頭を下げた。
「愛にはいろいろな形があるんです。男同士だってあり得るんです。それが入江くんの幸せなんです。入江くんは青木さんに愛されていることを知ったときに、真実の愛に目覚めたんです。だからおばさんも裕樹くんも温かく二人を見守って…。」

そこまで琴子が話した時、直樹の拳が琴子の頭に炸裂した。

「痛い!」
「お前は底なしの馬鹿だな。」
さも自分の拳の方が痛かったとばかりに、直樹はフーと手に息をかけた。
「馬鹿って、あたしは入江くんの幸せを願って…。」
「気持ち悪いことを何1人で勝手に妄想してるんだ、このバカ女!」
「気持ち悪いって、それってどういうことよ?」
「俺がいつ、青木を愛しているって言った?いつそんな態度を見せた?」
「それはその…。」
「俺に相手にされないからって、くだらないことを考えやがって。」
「ち、違うもん!」
頭をさすりながら、琴子は直樹に抗議をする。
「あたしはちゃんと聞いたんだから。オタク部の部室であの、変な人が入江くんが青木を好きだとか話していたのを聞いたの!」
「あいつか」と直樹は矢野の顔を思い浮かべた。諸悪の根源はそこだったかと気付く。
「あの変な人が、愛されることを自覚した時に知る恋もあるとか言ってたから。入江くんは青木に愛されていることを知って、自分も青木を…。」
「ばあか。」
今度は少し声のトーンを落として、直樹は琴子に言った。
「お前はそんな変な奴の言い分をのこのこと信じたってわけかよ。」
「だって。」
「大体、そこで何で俺に確認しねえんだ?」
「入江くんに?」
琴子も落ち着きを再び取り戻しつつあった。
「そうだよ。お前いつもだったら俺のところに飛んできてああだこうだってわめくだろ?何で今回はそれをしなかったんだよ?え?」
「それは…なんか…怖くて。」
「そもそも、お前は俺よりもその変な奴の言い分を信じるわけか?ああ、そうか、そうだったのかよ。」
言いながら、直樹は自分の胸がスッと晴れてくることを感じていた。

「そんなことない!」
琴子がムキになった。
「あたしは入江くんを信じる!」
「だったら信じろよ。」
琴子のまっすぐな視線から直樹は逃げた。

「じゃ、じゃあ…あたし、入江くんを好きでいていいの?」
ここ数日のおどおどとした様子ではなく、しっかりと直樹を見つめて琴子は訊ねた。
「何を今さら。」
そう答えつつ、やはり自分のことが好きだったと分かった直樹の気分も明るくなっている。
「おばさん、裕樹くん!あたし、入江くんをあきらめなくていいそうです!」
琴子が紀子の手を取った。
「ああ、そうよ!あきらめなくていいのよ!」
紀子も握り返す。
「うわ…可哀想、お兄ちゃん。またストーカー琴子に苦しめられるんだ。」
同情しながら裕樹は直樹の顔を見た。
――あれれ?
てっきり苦虫をつぶしたような顔をしているかと思ったのに、直樹はうっすらと笑みを浮かべている。
裕樹の視線に気づいた直樹は、口元をひきしめいつもの冷静な顔つきになった。
――見間違いか。
喜びにむせび泣く紀子と琴子にあきれながら、裕樹は本を手にした。
――でも…?
本の文字を追うこともせず、裕樹は思い返す。
――さっきのお兄ちゃんの言い方だと、なんか…自分じゃない男を信じた琴子に腹を立てていたような。それって、何だ?
どうも直樹の行動はおかしい気がする。しかしそれを確かめる度胸は今の裕樹にはなかった。









このような話が、まさか上中下で終わらないなんて。
まさかの4話ですみません。

それにしてもどうして、こんな話を書こうと私は思ったのか。
ドン引きされている様子をひしひしと感じている水玉です。
ドン引きしつつも読んで下さるそこのあなた様、ありがとうございます!



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茉莉花さん、ありがとうございます。

ありがとうございます!!

サイコーにくだらなくておもしろい…最高です!(笑)
本当に書いていて自分でもくだらないなあと思いつつ、でも楽しくて。
でも調子に乗ってもしかして、一人で楽しんでいるだけ?不安になっていたたので安心しました。
母のことも気づかって下さってありがとうございます。元気です♪
今回は入院中も体力があったので安心しました。

紀子ママさん、ありがとうございます。

入江くんはきっと自分の想像が違っていたことに安堵したと同時に、どうしたらいいかわからなくてごまかしたくて琴子ちゃんに当たってしまったんでしょうね。
まさか自分じゃない男に夢中になったことを心配していたなんて、絶対ばれたくありませんもんね~。
紀子ママさんもうちの母と同じでイケメン好きですもんね。
確かにアオナオじゃ美しさのかけらもないわ(笑)

まあちさん、ありがとうございます。

も~まあちさんだけですよ、青木に優しい言葉をかけてくれるのは!!
入江くんと琴子ちゃんにメタメタに言われている青木、少々哀れ…。
続きが読みたいと思っていただけて、とてもうれしかったです。

お忙しい中コメント残してくださってありがとうございました。
もう、まあちさんがお元気でしたらそれだけで十分です。
だからお体にだけは気を付けてくださいね。

sayuさん、ありがとうございます。

sayuさん、はじめまして!コメントありがとうございます!
ドン引きどころか、もっとくださいなんて…嬉しーい!!
おかげで、最終話までノリに乗って書けました!ありがとうございます♪

ぜひぜひ、これからもお気軽にコメント下さいね!お待ちしております^^

メルさん、ありがとうございます。

入江くんの気持ちに唯一、気づいていたのが裕樹くんでしたからね。
裕樹くんの観察眼は鋭いし。
でも入江くん、琴子ちゃんを好きなことは絶対にばれたくなかったんだろうな~。
母のこともお気遣いくださり、いつもありがとうございます。
メルさんもどうぞご自愛くださいね!

しぃさん、ありがとうございます。

しぃさん、はじめまして!コメントありがとうございます!!
誤解なんてとんでもない!
ばかばかしくて大好きなんて、ありがとうございます♪とてもうれしいです。
しかも、めちゃくちゃ食いついてくださっているなんて!
あ~書いてよかった!
ぜひぜひ、また遊びに来て下さいね!
プロフィール

水玉

Author:水玉
『イタズラなkiss』のほかには『ゴルゴ13』が好きです☆
多数あるイタキスの二次小説の中で邪魔することなく、ひっそりとマイペースで我が道をゆきつつ生息しております。
そっと見守っていただけたら嬉しいです。

※当ブログに掲載されている文章及びイラストの無断転載・使用はご遠慮下さい。

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このブログについてのお願い
当ブログは、『イタズラなkiss』の二次創作をメインとしておりますが、時折管理人の趣味や日々の出来事についての記事も書いております。

原作者様や関係各位とは一切関係ありません。

二次創作については、いわゆる原作の隙間をぬった作品もありますが、主人公以外のキャラクターをメインとしたものや オリジナルキャラクターが出てくるものもございます。

そして、原作と違った時代(平安や明治やその他の時代を舞台にしております)、異なる設定(主人公を医者と看護師じゃない職業にしております)で書いてあるものが多いですが、原作を冒涜しているつもりは全くございません。

二次創作が苦手という方及び原作のイメージと合わないと思われる方はどうぞお引き取り下さいますようお願いいたします。

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