日々草子 愛されていることを自覚した時から始まる恋 1

愛されていることを自覚した時から始まる恋 1






斗南大学アニメ部部室は、今日もむさくるしかった。
部員たちは最初は最近のアニメ情報の話題に花を咲かせていたのだったが。

「しかし、何でドンはああやって俺たちの前に出てくるんだ?」
いつしか部員たちの話題はドンこと入江直樹へと移っていた。
「そうだよな。俺らがコトリンを追いかけると決まって出てくる。」
「つーか、邪魔なんだよ、邪魔。」
本人の前では言えないことを今のうちにとぶちまけているのは、青木、黄原、白山の三人であった。

「よう、何を盛り上がってるんだ?」
そこへ現れたのは、ご存じアニメ部OBの矢野であった。
「矢野さん!」
青木たちは矢野に「さあどうぞ」と椅子をすすめる。その椅子も壊れかけどころか、壊れないのが不思議なくらいの代物。矢野はそこにどっしりと巨体を落ち着けた。

「いえね、ドンがいつも俺らとコトリンの間を邪魔するのが気に入らないって話をしていたんですよ。」
白山がひびをセロハンテープで補修した湯呑に、水を入れて矢野へと出した。矢野はそれを一気に飲み干した。
「ドンが邪魔…。」
矢野は湯呑を机の上に置くと、腕を組んで考え込んだ。

「…俺は前から考えていたことがあったんだが。」
しばらくして、矢野が徐に口を開いた。
「何ですか?」
青木たち後輩が視線を矢野へと向けた。
「ドンなんだが…。」
「ドン?ドンを懲らしめる方法を見つけました?」
目を輝かせる青木たち。しかし矢野の表情は冴えない。
「矢野さん?」
「もしかして、ドンは青木に気があるんじゃねえのか?」

ガターンッ!!

「おおっ!!」
矢野の悲鳴が上がった。座っていた椅子が突然壊れたのである。
「矢野さん、大丈夫ですか!」
「やっぱ、ガムテープでの補強は限界だったか。」
矢野が座っていた椅子は三本の足をそれぞれガムテープで補強していた物であり、残り一本の足で矢野の巨体を支えていたのである。今まで壊れなかったことが奇跡である。

矢野は違う椅子に座り直した。
「もう一度言うが、ドンは青木、お前が好きなんじゃないかと俺は思う。」
「はい!?」
三人は目を丸くした。
「な、何で?俺?」
「色々考えたんだけどな。ほら、お前、前にコトリンお手製のマフラーをドンに自慢したことがあったろ?」
「え?ああ、そうですけど?」
「あの時、ドンに首を絞められたって言ったよな。」
「そうです、そうです。その前には俺は気にしないから自由にどうぞとかにこやかに笑っていたくせに。それなのに態度をコロッと変えて。」
その時のことを思い出した青木が顔をゆがめた。

「あれは、ドンの嫉妬じゃねえか?」
「嫉妬!!」
三人が声をそろえた。
「そう。コトリンのマフラーに喜ぶお前を見て、ドンは嫉妬したんだ。」
「そ、そんな…。」
「ドンが俺たちの前に姿を見せる理由もそれで説明がつく。あいつは青木がコトリンを追いかけていることに我慢ができなくて邪魔をしにくるんだ。あと、お前に自分を意識してほしい。そんなところじゃないか?」
矢野はささくれだった指をビシッと青木へと向けた。

「お前、ドンの気持ちに応えてやれ。」
そして矢野は無常な命令を青木へと下した。
「こ、応えてやれって。」
青木はシャツの裾をもじもじと引っ張った。
「いきなりそんなこと言われても…俺、ドンのことをそういう対象として見たことなかったし。」
入江直樹もそんな対象として見られたくないだろう(by筆者)。
「俺、どうしたらいいか…。」
「青木。」
矢野は青木の肩にポンと手を置いた。
「矢野さん…。」
矢野は青木に向かい、ガサガサの唇の口角を上げ微笑む。
「愛されていることを自覚した時から始まる恋もあるんだよ。」
少女マンガチックな台詞も、言う人間によっては不気味なものになってしまうものである。
「愛されていることを自覚した時から…。」
なぜか黄原、白山の二人も穏やかな笑みを浮かべ、青木を見守っている。
「どうだ?そう考えるとドンの嫌がらせも可愛いものじゃないか?」
矢野の言葉が青木の胸に響いた。



「…やっぱり、そうだったの?」
アニメ部の連中のやり取りを聞いていた者がいた。相原琴子である。
琴子も直樹が度々、アニメ部と会話を交わしていることが気になっていたのだった。
そして今日はその理由を突き止めようと、本当は近寄ることも嫌なアニメ部の部室の傍で、何か発見できないかと張り込んでいたのだった。
「まさか…入江くんが…青木を本当に…。」
マフラー事件の時もそうではないかと、青木コスプレまでしてみたがうまいことはぐらかされてしまった琴子である。
今、彼らの話を聞いて琴子はやはりそうだったかと打ちのめされていた。

「入江くんが…。」
フラフラと立ち上がり、あてもなく琴子はさまよう。
考えてみれば思い当たるふしはあった。バレンタインの時に直樹のマンションに泊めてもらった時、自分に指一本触れなかった直樹であった。あの時もホモではと口にしたが、直樹ははぐらかした。
「入江くん…そんな…。」
フラフラとさまよっていると、
「ちょっと、どこ見てるの!」
という声に、琴子はハッとなり顔を上げた。

「もう、あなたは歩いている時も寝ているのかしら?」
そこで琴子を睨んでいたのは、恋のライバルの松本裕子だった。
「松本姉…。」
「何よ?入江くんのことでも考えていたんでしょ?」
裕子は呆れた顔をする。
「松本姉。」
琴子は裕子をじっと見た。
「な、何よ?」
「入江くんのこと、まだ好き?」
「当たり前じゃないの。」
裕子は言った。
「何よ、あなた。もしかして入江くんが医学部へ移ったからって私があきらめるとでも思ったの?残念ね。そんなことであきらめたりしないわよ。」
ここでいつもなら「あたしだって!」と食ってかかる琴子である。が、琴子は俯いたきり一言も発しない。
「相原さん?」
一体どうしたのかと、裕子は琴子の顔を下から見ようとした。
すると琴子は裕子の手をガシッと握った。
「あ、相原さん?」
「松本姉…。」
「何よ?」
「入江くん…ううん…もういいの!」
「はい?何を一体…。」
「それじゃあ!!」
「ううっ」と泣きながら、琴子は風のように去って行った…と思いきや、すぐに誰かとぶつかり「ごめんなさい」と謝っていた…。



「琴子が?」
「ええ。いつもおかしいけれど、今日は更におかしいのよね。」
図書館で直樹を見つけた裕子は、琴子の様子を報告した。「また泣かせたの?」
「そんな、俺がいつも泣かせているみたいなこと。」
直樹は笑った。
「だって相原さんが泣く原因って、入江くんがらみじゃないの。」
ちゃっかりと裕子は直樹の隣に座った。
「そんな本を読んでいて相手にしてあげてないんでしょ?」
直樹の前には分厚い医学書が広げられている。これを見るだけでも、天才入江直樹が編入先でかなり苦労していることが裕子には分かった。

「何で松本があいつの様子を報告してくるわけ?」
直樹は訊ねた。
「だって、正常な状態に戻ってくれないとフェアな勝負はできないでしょ?」
裕子は答えた。
「私、相原さんとは正々堂々と勝負して入江くんをゲットしたいの。」
「俺は物じゃないぞ。」
「失礼しました。」
これ以上邪魔しては悪いし、言うべきことは言ったので裕子は「それじゃあね」と図書館を後にしたのだった。



家に帰り、琴子の部屋の前を通りかかった時、中から聞こえた声に直樹は足を止めた。

「愛されていることを自覚した時から始まる恋もある…。」

「何だ、それは?」と直樹は耳を疑った。
「あたし…あたし…こんなに入江くんが好きなのに…!」
と、琴子が泣いている。
更にその後に続いたセリフに、直樹は驚いた。
「でも青木が!!」



「…。」
直樹は自分の部屋に戻り、考えた。
先程の琴子の台詞は何を意味しているのだろうか?
「俺を好きなのに…?」
琴子が自分を好きなことは知っている。だがそれと一緒に「愛されていることを自覚した時から始まる恋」と続き、最後は「青木が」と叫んでいた琴子。
「つまり…。」
直樹は机の前に座り、整理する。
「あいつは俺を好きなのに、青木から愛されていることを自覚し、青木が気になり…青木に恋をしたってことか?」
そう考えれば裕子に琴子が言った「入江くんのことはもういい」という台詞も辻褄が合うというものである。

「俺よりもあのオタクを選ぶってことかよ…。」

直樹の脳裏に、寄り添い見つめ合う琴子と青木が浮かんだ。と同時に、胸の中に何とも言えない違和感が広がる。
琴子の様子がおかしかったのは、自分より青木を選んだ申し訳なさだったということなのか。
なぜだかわからないが、イライラしてくる直樹。

「お兄ちゃん、帰ったの?」
満点のテストをほめてもらおうと部屋に裕樹がやってきた。が、すぐに「失礼しました!」と慌ててドアを閉めた。それくらい、直樹の顔は険しいものへと変化していたのだった。










着地点を全く考えていないので…完成できるかどうかも未定です。

最近、どうも過去作品と内容がダブっている気がして…一応読み返しているのですが、その時はごめんなさい。


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NO TITLE

続きとても楽しみにしていま~す♪
IQ200の直樹さんでも、さすがに事の真相はつかめないですか??
そりゃそうですよね~まさか自分が、青木を愛しているなんて
考えもつきませんよね。←てか、考えたくもないのが本音。
片思い進行形の琴子ちゃんがかわいいです♪頑張れ琴子ちゃん!!
さあ~入江君これからどうする???ウッシシシッ!

紀子ママさん、ありがとうございました。

貴重なコメントを下さりありがとうございます。
やはりオタク部は受け入れられにくいのね…とか知りつつ書かずにいられない。
そしてお忙しい中、コメントを下さった紀子ママさん、ありがとうございます!

入江くんは琴子ちゃんが面食いだってことに気付いているのでしょうか?
自分を好きだから面食い…だとしたらどんだけ自信家なんだ!!笑

なんか最初はオタク部と琴子ちゃんのドタバタを描くつもりだったのですが、描いているうちに入江くんの変てこな勘違いまで入れちゃいました!

ゆみのすけさん、ありがとうございます。

ゆみのすけさんも、こちらへのコメントありがとうございます!!
もう嬉しいです!!構って下さって!!
自分が青木を愛していると琴子ちゃんが勘違いしているなんて、まったく思わないでしょうね~。
それより青木へ嫉妬しつつある入江くんが…ぷぷぷ。
こんなこと絶対原作ではありえないでしょうけれど二次だからいっかと思って気楽に書いちゃいました。
片思いゆえに色々考えちゃう琴子ちゃん、楽しんでいただけて嬉しいです!

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早く続きを読みたいよ

はじめまして、どうしても続きが気になり、コメント初デビューしました。

入江君の行動が気になるところです。

これからも、続きが読みたくなる物語を待っています。
プロフィール

水玉

Author:水玉
『イタズラなkiss』のほかには『ゴルゴ13』が好きです☆
多数あるイタキスの二次小説の中で邪魔することなく、ひっそりとマイペースで我が道をゆきつつ生息しております。
そっと見守っていただけたら嬉しいです。

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二次創作については、いわゆる原作の隙間をぬった作品もありますが、主人公以外のキャラクターをメインとしたものや オリジナルキャラクターが出てくるものもございます。

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