日々草子 王様の… 下

王様の… 下







「…また来たのか。」
なぜだか、シゲオにくっついてコトリーナが城に姿を見せるようになっていました。
「父が何かしゃべらないか、見張っていないと心配なんです。」
そう話すコトリーナの手には、今日もバリカンが握られています。
「ったく、なんであいつはバリカンと仲良くしたがるんだか。」
そう話すナオキヴィッチですが、コトリーナといると寛げることに気づき始めていました。最近では月一度だった散髪が、一週間に一度になっていました。とはいっても髪はそんなに伸びないのでメインは髭剃りです。



「今日はあいつは?」
ある日、シゲオが一人だけの時がありました。
「コトリーナは友達と川遊びに出かけました。」
「友達?」
「はい。」
カミソリの準備をしながらシゲオが答えます。
「…それは男もいるのか?」
ナオキヴィッチの口から意外なことが出ました。
「男?あ、そうですね。あいつの幼馴染も一緒ですから。」
「幼馴染…。」
自分じゃない男と楽しく過ごすコトリーナを想像し、ナオキヴィッチは面白くありませんでした。



それから数日後。
コトリーナは自分が焼いたパンを入れたバスケットを手に、城を訪れました。
二人の放送(?)合戦は今でも続いていました。つい先日は料理下手な事実をナオキヴィッチに暴露されてしまったのです。
「これを食べて撤回放送を流させてやるんだから!」
そう意気込むコトリーナでしたが――。

「何だよ、これで撤回放送だ?ふざけるな。」
コトリーナが焼いてきたパンは真っ黒でした。
「苦い、こんな苦い食い物は初めてだ。」
顔をしかめるナオキヴィッチでしたが、それでも全部食べたのでした。
「お前さ。」
「何ですか?」
完食してくれたナオキヴィッチがうれしくて、コトリーナは抗議の気持ちを忘れお茶を淹れていました。
「この間、男と出かけたって?」
「男?ああ、川遊びの時ですか?ええ、出かけましたよ。」
あっさりと認めたコトリーナを見て、ナオキヴィッチはムッとしました。
「年頃の娘がはしたない真似するなよ。」
「年頃?何ですか、それは?」
「男といちゃいちゃ川で戯れるなんて、みっともないってことだ。」
「いちゃいちゃ…何ですって!!」
コトリーナの顔が怒りで真っ赤になりました。そんなことはしていません。みんなで楽しく釣りなどをしていただけです。

「ふん、もういいから行け。」
コトリーナが怒ったことがますます面白くないナオキヴィッチはまたもや「シッシッ」と手を払いました。
「何よ、変な王様!!」
コトリーナは「べーっ」と舌を出して、部屋を出て行ったのでした――。



変な別れ方をした二人でしたが、コトリーナは数日後、シゲオにくっついてまた姿を見せました。それにはナオキヴィッチも密かに安堵したのでした。

「ああ、いつもより念入りに頼むな。」
ナオキヴィッチはシゲオに命じました。
「かしこまりました。何か大事なご予定でも?」
「ホクエイ国のサホティーヌ姫がやってくるのでな。」
いつものようにバリカンの準備をしていたコトリーナが、顔を上げました。
「サホティーヌ姫って?」
「…お前に関係ないことだ。」
ナオキヴィッチは答えませんでした。
サホティーヌ姫とは、ナオキヴィッチの王妃にとホクエイ国の王から勧められているのです。今までは適当に返事を濁していましたが、どうも本腰を入れるつもりになったホクエイ国王が数日後に姫と共にやってくるのでした。
ナオキヴィッチは、そのことをコトリーナに話しませんでした。いえ、話せなかったのです。

しかしコトリーナは女の勘で、その事実に薄々気づきました。
ナオキヴィッチが自分以外の女性と会う様子を想像するだけで、胸が苦しくなりました。
そうなった時、コトリーナは初めて自分がナオキヴィッチに恋をしていることに気が付いたのでした。
今思うと、キスをされた時から恋に落ちていたのかもしれません。

自分の気持ちに気が付いたコトリーナは、一人で城に出向きました。
しかし運悪く、一番見たくない場面を目にしてしまったのです。

「本当にナオキヴィッチ様は物知りですわね。」
「そうですか?」
コトリーナが見たのは、親しく散歩するナオキヴィッチとサホティーヌ姫でした。サホティーヌ姫は光り輝く美しさです。美男美女でお似合いの二人でした。

「…王様、楽しそう。」
自分といるときはいつも怒鳴ってばかりのナオキヴィッチが笑っています。コトリーナはショックで立っているのがやっとでした。

「そういえば、ナオキヴィッチ様?」
サホティーヌ姫が言いました。
「ここに来る途中で変な噂を耳にしました。」
「変な噂?」
「ええ。ナオキヴィッチ様がマンガを楽しまれているとか、キュウリが嫌いとか。」
「それは…。」
答えに困るナオキヴィッチを見て、コトリーナはハッとなりました。
自分が流した噂で、この縁談が壊れたら大変です。ナオキヴィッチはサホティーヌ姫と結婚したいに違いありません。普通の男でしたら美人が好きですから。

「大変!!」
コトリーナは慌てて家に戻りました。そして庭の穴の前に立ちました。

「王様は勉強が好きで民思いの素晴らしい方です…。王様は運動神経抜群です…。」
自分がナオキヴィッチの好きな所を、コトリーナは穴に向かって言い続けます。

「王様は口は悪いけれど優しい方です…。王様は…。」

コトリーナはそれ以上続けられませんでした。大きな目から涙が穴の中へ一粒、また一粒と零れ落ちていきます――。



「まあ…これは一体…。」
コトリーナの声は、城内の二人にも届いていました。サホティーヌ姫が驚いています。
「あいつ…。」
ナオキヴィッチも驚いていましたが、やがてその顔に笑みが浮かびました――。


「ひっく…ひっく…。」
穴の前ではコトリーナが泣き続けていました。これでサホティーヌ姫も安心してくれるだろうと思いました。
「もう王様と会えない…。」
ひっくひっくと泣き続けているコトリーナの耳に、城からのアナウンスを告げる声が聞こえました。

「何だろ…?」
もしやナオキヴィッチの結婚が決まった知らせかと思い、コトリーナは耳を塞ごうとしました。

「国王が選んだ王妃は床屋の娘コトリーナ。国王が選んだ王妃は床屋の娘コトリーナ…。」

ナオキヴィッチの声が国中に響きました。もちろん、コトリーナの耳にも。
「これは…?」
一体何の冗談かとコトリーナは耳を疑いました。

しかし、これが冗談ではないことは数時間後に判明しました。
「よう。」
ナオキヴィッチがコトリーナの家にやってきたのです。
「あの、先程の放送は?」
「一応プロポーズ。」
ナオキヴィッチは笑顔で答えました。コトリーナはそう言われてもまだ信じられません。
「だって王様にはサホティーヌ姫が…。」
「好きな奴がいるからと断った。ついでにあのマンガを見せたらあっさりと引き下がった。」
ナオキヴィッチは面白そうに答えました。
「いいのですか?本当に?」
コトリーナは嬉しさと驚きで顔を真っ赤にして、ナオキヴィッチを見つめます。ナオキヴィッチはそんなコトリーナを抱きしめました。
「俺はお前と一緒にずっといたいんだ。」
「王様…。」
コトリーナはナオキヴィッチのぬくもりに包まれ、やっと本当のことなんだと分かりました。まだ夢を見ているようです。
「一つだけ、結婚の条件がある。」
「何でしょうか?」
「…嫁入り道具にバリカン入れないこと。」
これを聞いたコトリーナはクスッと笑いました。ナオキヴィッチはコトリーナに二度目のキスをしました。
――最初のキスの時に、もうお前に惚れていたのかもな。
耳元でナオキヴィッチはコトリーナにそう囁いたのでした――。



それから、季節が何度かめぐりました。

「…ここに座るのは久しぶりだな。」
マイクの前に座ったナオキヴィッチは、コトリーナとやりあった思い出を懐かしく思いながらスイッチを入れました。

「国王に世継ぎが誕生…国王に世継ぎが誕生…王妃と王子は二人とも無事…。」

このアナウンスに国民が大喜びしたのは言うまでもありません。

「まあ、あの子ったら。」
ノーリー大妃は笑いました。その傍のベッドには国王の寵愛深い王妃コトリーナと、生まれたばかりの小さな王子がいました。
「自分でアナウンスするなんて、よほど嬉しいんだろうなあ。」
シゲキヴィッチ先王が頷く傍には、シゲオもいます。

「国王に世継ぎ誕生…国王に世継ぎ誕生…。」
ナオキヴィッチの声を聞きながら、コトリーナは幸福に包まれたのでした。

めでたし、めでたし。





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marimariさん、ありがとうございます。

お返事遅くなり申し訳ありませんでした。
頭の形がきれいだから、坊主頭も似合いそうですよね(笑)
マイク合戦は私も楽しんで書けました♪

紀子ママさん、ありがとうございます。

お返事遅くなり申し訳ありませんでした。

そうそう、大妃をテヒと思わず読んじゃう、これが某ドラマの影響ですよね~。
『太陽を抱く月』は『王女の男』の後にNHKでやるっていう噂があるのですが…どうなんだろ?
すごい視聴率を取ったらしいですけど。
最近はもうネタをやりつくしたのかフュージョン物が多くなりましたね。
ベースは王様の耳は…ですよ。ただあれって最後はなんかよくわからなかったのでラブコメにしちゃいましたけ。

佑さん、ありがとうございます。

お返事遅くなり申し訳ございません。
バリカンをこよなく愛する琴子ちゃん、キュートと思ってもらえてうれしいです。
今回もめでたしめでたしですよ~。

sarasaさん、ありがとうございます。

お返事遅くなり申し訳ありません。

夏休みはお母さんは大忙しですよね~。
そんな中来て下さり、とてもうれしいです。

バリカンで続編…バリカンをお嫁入り道具に持ってきたということでしょうか?
確かにこよなくバリカンを愛するコトリーナちゃんだったらこっそり持ってきそうですよね。
私も穴に向かって叫ぶコトリーナちゃんが可愛くてたまりませんでした。
掘っている姿からしてキュートですよね♪

苺さん、初めまして

お返事遅くなり申し訳ありませんでした。

おとぎ話気に入っていただけてうれしいです。
背景だけうまく変えている…そう思っていただけて安心しました!
パラレル中心ですが、楽しんでいただけたらいいなと思っております。
ぜひまた遊びに来て下さいね♪

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プロフィール

水玉

Author:水玉
『イタズラなkiss』のほかには『ゴルゴ13』が好きです☆
多数あるイタキスの二次小説の中で邪魔することなく、ひっそりとマイペースで我が道をゆきつつ生息しております。
そっと見守っていただけたら嬉しいです。

※当ブログに掲載されている文章及びイラストの無断転載・使用はご遠慮下さい。

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当ブログは、『イタズラなkiss』の二次創作をメインとしておりますが、時折管理人の趣味や日々の出来事についての記事も書いております。

原作者様や関係各位とは一切関係ありません。

二次創作については、いわゆる原作の隙間をぬった作品もありますが、主人公以外のキャラクターをメインとしたものや オリジナルキャラクターが出てくるものもございます。

そして、原作と違った時代(平安や明治やその他の時代を舞台にしております)、異なる設定(主人公を医者と看護師じゃない職業にしております)で書いてあるものが多いですが、原作を冒涜しているつもりは全くございません。

二次創作が苦手という方及び原作のイメージと合わないと思われる方はどうぞお引き取り下さいますようお願いいたします。

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