日々草子 王様の… 上

王様の… 上






昔昔、ある王国にそれはそれは美形の王様がいました。
この王様は頭もよくスポーツも万能、名前をナオキヴィッチといいます。

「王様、ごきげんうるわしゅう。」
「ああ、床屋。今日もよろしく頼む。」
「かしこまりました。」
ナオキヴィッチは月に一度、床屋を城へ呼んで髪の毛を切ってもらっていました。床屋の名前はシゲオといいます。

「終わりました、王様。」
散髪を終えたシゲオは、うやうやしく鏡をナオキヴィッチに差し出しました。
「うん、今日もいい出来だ。来月も頼む。」
「ありがとうございます。」



翌月、またもや散髪の日がやってきました。ナオキヴィッチは散髪専用の部屋にやってきました。
「王様、ごきげんうるわしゅう。」
しかし部屋の中で待っていたのはシゲオではありませんでした。
「誰だ、お前?」
ナオキヴィッチは怪訝な顔をしました。そこにいたのは若い娘だったのです。
「シゲオはどうした?」
「父はぎっくり腰になってしまいました。私はシゲオの娘のコトリーナと申します。」
「で、お前が代わりだってことか?」
「はい。」
ナオキヴィッチはコトリーナをまじまじと見ました。長い髪の毛に大きな目のコトリーナは美形の国王に見つめられ頬を染めました。

「それじゃあ頼む。」
不安が残るものの、国一番の床屋であるシゲオの娘です。門前の小僧何とやらで、腕はまあまあかもしれないと思いながらナオキヴィッチは椅子に座りました。
「かしこまりました。」
コトリーナはシゲオと同じように、ナオキヴィッチの襟に真っ白な布をかけました。

ジジジ…ジジジ…。

突然聞こえた音に、ナオキヴィッチは振り返りました。
「てめえ、何を持ってやがる!!」
「へ?」
突然怒鳴られたコトリーナは、目を丸くしました。
「何って、バリカンですけど?」
コトリーナの手にはしっかりと、バリカンが握られていたのです。
「何でそんなもんを使うんだ!」
「何でって?」
「俺は頭を丸坊主にするつもりはない!!」
「ええ!そうなんですかあ?」
コトリーナはがっくりと肩を落としました。
「…せっかくバリカンを使えると思ったのになあ。」
コトリーナは手の中で音を出しているバリカンを残念そうに見ています。
「シゲオ、お前の父親はそんなもんを一度も使ったことがない!!」
「…たまには、新しい自分を発見してみるおつもりは?」
コトリーナはバリカンをまだ離しません。
「断る!」
「チェッ。」
コトリーナはやっとバリカンをテーブルに置きました。

「ったく…。」
何とか髪を守ったナオキヴィッチは、安堵の溜息をつきました。それにしてもこのコトリーナという娘、今まで会ったことのないタイプです。
「ほら、さっさとやってくれ。俺は忙しいんだ。」
「はいはい。」
最初のかしこまった態度はどこへやら、コトリーナは王の前とは思えない口調です。
「…ちょっと待て。」
ナオキヴィッチはまた振り返りました。
「何ですか?」
「お前、腕はどうなんだ?」
シゲオの娘だからと思ったものの、バリカンに目を輝かせていた様子を見るとどうも不安が胸をよぎるナオキヴィッチでした。
「腕はなかなかですよ。」
コトリーナは胸を張りました。
「本当か?」
「もう、疑い深いんだから!心配なら証拠を見せますよ、証拠を。」
「面倒くさい王様だ」と文句を言いながら、コトリーナは持参した大きなカバンをゴソゴソと探ります。
「ほら、これをご覧ください!!」
カバンから出したのは、頭だけの人形でした。そうです、美容師さんがカット練習に使うあの人形です。

「…子供のおもちゃにでも使ったのか?」
「何を言ってるんですか!私がカットしたんですよ!」
その人形の髪の毛は何と表現していいのやら。左右非対称であり、長さもバラバラ。斬新な髪形をすることで話題になる瑛○やオダ○ョーもここまではしないだろうというくらいのものでした。
「何か…人形の顔が悲しそうに見える。」
ナオキヴィッチが思わず漏らしました。そう言いたくなるくらい、人形はこんな無残な髪形にされたことを嘆いているかのような顔に見えるのです。
「王様もそう見えるのですか?なぜか、これを見たら皆がそう言うんですよね?」
コトリーナは人形を抱えて首を傾げます。
「もしかして、呪いでもかかっているとか…。」
「てめえの腕が悲惨すぎるってことだよ!!」
ナオキヴィッチは怒鳴りました。コトリーナは耳がキーンとなります。

「とにかく、俺の髪はお前には絶対触らせない。」
「えー!」
自分を否定されたコトリーナは不満げです。
「だったら、やっぱりこれでバッサリといきましょうよ。これだったら誰も失敗しないし。」
コトリーナはまたもやバリカンにスイッチを入れます。
「いい!俺はシゲオの復帰を待つ。すぐに名医を遣わすから腰を早く治すよう伝えてくれ。」
ナオキヴィッチに追い払われ、コトリーナは渋々帰り支度をしました。
「それじゃあ、失礼します。」
「さっさと出て行け。」
ナオキヴィッチはシッシッと手を払いました。

しかし、コトリーナは出て行きませんでした。
「あれ?」
天井からぶら下がっていた太い紐にコトリーナは気づいたのです。
「何だ、これ?」
コトリーナはグイッと紐を引っ張りました。
「馬鹿ッ!!」
ナオキヴィッチが止めようとしますが、間に合いませんでした。

サーッ!!
壁を覆っていた厚いカーテンが動きました。その向こうにあったのは…。
「こ○亀!?」
コトリーナはあんぐりと口を開けました。そこにはあの長寿マンガ、『こ○亀』が揃っていたのです。

実はナオキヴィッチは、この部屋で散髪をしてもらいながらこの漫画を読んでいたのでした。

「なぜ隠しているのですか?」
「…俺のイメージの問題だ。」
楽しみがばれてしまったナオキヴィッチは苦々しく答えました。
「イメージ?」
確かにナオキヴィッチ国王といえば、いつも難しい本をたくさん読んでいるイメージが国民にはあります。
「だからといって、別に漫画を読んじゃだめってことではないでしょう?」
「いいや。国民が汗水流して働いている時に俺がマンガをのほほんと読んでいるなどもってのほかだ。」
「のほほんって…。」
「まあ、一年365日のほほんとしている誰かには、俺の悩みなど分からないだろうがな。」
「んまっ!」
ナオキヴィッチはムッとしたコトリーナの前に進み出ました。そしてコトリーナの可愛い顎を持ち上げます。
「え?あ、あの…?」
戸惑うコトリーナの唇に、ナオキヴィッチは自分の唇を重ねました。

「…てめえ、俺の秘密絶対喋るなよ。」
キスをされてフニャフニャになってしまったコトリーナの耳にナオキヴィッチがささやきました。

コトリーナは信じられない気持ちで家に戻りました。
ナオキヴィッチの知られざる(?)顔、そしてキス…思い出すと顔が真っ赤になります。
「あたし、ファーストキスだったのに。」
何でキスをしてきたのだろうかと考えるうちに、コトリーナの中にふつふつと怒りが込み上げてきました。
「そうよ!人の唇を奪っておいて!何よ、あの暴君!」
コトリーナは許せませんでした。ファーストキスはもっとロマンチックにと考えていたのです。その夢を無残に破られてしまったのですから。

「こうなったら…。」
コトリーナは家の庭に穴を掘り始めました。掘り終ると、穴に向かって言いました。
「王様の愛読書はこ○亀~。王様の愛読書はこ○亀~。王様の愛読書は…。」
一応、誰にも言わないという約束を守るつもりでした。でもファーストキスを奪われた恨みは晴れません。なのでコトリーナは穴に向かって秘密を暴露したのです。穴に向かえば誰にもばれないだろうと。

しかし――。

コトリーナの声は風に乗って外へと響きました。
「へえ、王様ってマンガ読むんだ。」
「意外だけど、なんか親しみが持てるなあ。」
コトリーナの声を聞いた民たちは噂をしました。

「あの女、しゃべりやがったな!!」
風に乗ったコトリーナの声はナオキヴィッチの耳にも届いてしまいました。
ナオキヴィッチはすぐさま、とある場所へ向かいました。

「邪魔するぞ。」
「これは王様!」
ナオキヴィッチが向かった先は、城の放送室でした。王からのメッセージを流すことに使う場所です。
「ちょっとマイクを借りる。」
ナオキヴィッチはマイクの前に座りました。

「床屋の娘のコトリーナのバストはA70~。床屋の娘のコトリーナのバストはA70~。床屋の娘の…。」

このアナウンスが流れた時、ちょうど食事をしていたシゲオとコトリーナは同時にスープを噴き出しました。

「コトリーナのバストってA70かあ。」
「へえ、もっと小さいかと思った。」
「ていうか、何で王様が知ってるんだ?」

民たちはまたもや呑気に噂をしたのでした。



「ひどいじゃないですか!!」
ぎっくり腰が治ったシゲオにくっついてやってきたコトリーナは、ナオキヴィッチの顔を見るなり抗議しました。
「お前が悪いんだろうが。」
ナオキヴィッチはシゲオに髪を切ってもらいながら答えます。
「私は穴に向かって言ったんです。王様はマイクで流したじゃないですか!ていうか、なんで王様が私のバストを知っているんです?」
「見りゃわかる。」
しれっと答えるナオキヴィッチに、コトリーナは言い返せません。

「王様、つぎはお髭を…。」
親しくなったようなそうじゃないような、不思議な関係のナオキヴィッチとコトリーナの間に挟まれたシゲオが言いました。
「ああ、頼む。」
「ふん、こんな冷たい人の頭なんてこれでひとおもいにやっちゃえばいいのよ!」
またもやバリカンにスイッチを入れるコトリーナ。
当然、ナオキヴィッチとシゲオから追い出されました。



「ねえねえ、コトリーナちゃんってあなたでしょ?」
城内を歩くコトリーナに声をかけたのは、美しいドレスに身を包んだ美しい女性でした。
「大妃様!」
それはナオキヴィッチの母、ノーリー大妃でした。ノーリー大妃は位を息子に譲ったシゲキヴィッチ先王と悠々自適の暮らしを送っています。
「可愛そうに。あんなふうに暴露するなんて、なんてひどい男なのかしら!」
ノーリー大妃はコトリーナを抱きしめました。
「あ、でも…私もちょっと悪かったというか…。キスされて…。」
「キス!?今、キスって言った?」
ノーリー大妃の目が輝きました。
「あ、ええと、その…。」
「何てことでしょう!あの息子がキスをしたなんて!!ああ、あのマンガと結婚でもするのかと思っていたら、ちゃんと女の子に興味があったのねえ!!」
「大妃様?」
「この機会を逃すわけにはいかなくてよ!!」
ノーリー大妃はフフフと笑いました。コトリーナは訳が分からず目を白黒させています。
「いい?私が味方になりますからね?」
「は、はあ。」
一体何の味方になってくれるというのでしょうか。
「コトリーナちゃん、お耳を貸してごらんなさい。」
「はい。」
コトリーナは素直に耳を貸しました。ノーリー大妃はその耳元に口を近づけます。コトリーナの顔に笑みが浮かびました…。



「王様の嫌いなものはキュウリ~。王様の嫌いなものはキュウリ~。」
コトリーナの声がまたもや風に乗って響きました。

「あいつ、俺の秘密をどこから仕入れやがった!!」
城では食事をしていたナオキヴィッチが立ち上がりました。それを見ていたノーリー大妃がにんまりと笑います。息子がこんなに他人に興味を持つとは嬉しくてたまりません。



「コトリーナは国語理科算数社会で全て10点を取った~。コトリーナは国語理科算数社会で全て10点を取った~。もちろん100点満点で~。」



「お父さん!!なんであんなことを王様に喋ったの!!」
涙目で父に抗議するコトリーナです。
「いや、その、王様が疲れておいでの時に笑い話をと…。」
「娘の恥を笑い話に使わないでよ!!」
自分の勉強の出来なさが、知れ渡ってしまったコトリーナだったのでした。





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水玉

Author:水玉
『イタズラなkiss』のほかには『ゴルゴ13』が好きです☆
多数あるイタキスの二次小説の中で邪魔することなく、ひっそりとマイペースで我が道をゆきつつ生息しております。
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当ブログは、『イタズラなkiss』の二次創作をメインとしておりますが、時折管理人の趣味や日々の出来事についての記事も書いております。

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二次創作については、いわゆる原作の隙間をぬった作品もありますが、主人公以外のキャラクターをメインとしたものや オリジナルキャラクターが出てくるものもございます。

そして、原作と違った時代(平安や明治やその他の時代を舞台にしております)、異なる設定(主人公を医者と看護師じゃない職業にしております)で書いてあるものが多いですが、原作を冒涜しているつもりは全くございません。

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