日々草子 鶴の…

鶴の…








昔昔、あるところに一人の若者が住んでいた。名前を直樹という。
それは昨晩から降り続いていた雪により山が覆われた日の朝だった。
直樹が歩いていると、雪の中で何かがもがいている様子が目に入った。
「ケーン、ケーン。」
それはわなにかかった一羽の鶴だった。鶴は直樹を見て助けを求めるかのようにまた、「ケーン、ケーン」と鳴いた。
しかし、直樹は鶴を無視しスタスタと歩いて行く。
「大体罠にかかるなんて、頭の悪い証拠だ。」
そんな頭の悪い鶴に構っている時間は勿体ない。しかし直樹の背中に向けて鶴は「ケーン、ケーン!!」と声を大きくして鳴く。それはまるで「動物愛護団体に訴えてやる!」と言うかのように。

「ったく…。」
このまま無視して戻ると、鶴に何か仕返しをされそうなので直樹は渋々助けてやった。
「二度と罠になんてかかるなよ。」
直樹はそれだけ言うと、家へと戻った。

その晩のことだった。
「また吹雪いてやがる…。」
直樹が思わず口にしたように、吹雪となっていた。
コンコン。
直樹一人暮らしの家の戸が叩かれた。
「雪がぶつかっているんだな。」
直樹は無視して書物を読んでいた。
コンコン…コンコン…ドンドンッ!!
それはもう雪がぶつかっている音ではなかった。雪男でも体当たりしているかのような音である。

「…誰だ?」
用心深い直樹は戸を開けず、中から声をかけた。
「もし…道に迷った者です。どうかお宿をお願い申し上げます。」
外から聞こえたのは若い女の声だった。
「だったら、雪洞を掘って雪をよけるといい。」
「はい!?」
直樹の返事に女は声を上げた。
「あの、私、女なんですけれど?」
「こんな夜中にフラフラ歩いているような女を泊めるなんて愚かな真似はしたくないんでね。」
「いえ、決して私は怪しい者ではありません。」
「十分怪しいって。」
「そんな!どうぞ一目私の姿を見て下さいませ!」
女が懇願するように悲痛な叫びを上げるので、直樹は戸を少し開けた。
外に立っていたのは年の頃、直樹と同じくらいの若い女だった。目がおおきく長い髪を一つに結び、可愛らしい着物を着て立っていた。
「ね?こんな可愛い娘が何かをたくらむなんてありえないでしょう?」
「自分で可愛いとかほざく奴ほど信用できねえ。」
戸を閉めようとした直樹。だが女はすかさずその戸を押さえた。
「お願いします!」
「断る!」
「何よ、一晩くらい泊めてくれたっていいじゃないの!!ケチ!!冷血漢!!」
「それがものを頼む態度か!」
結局、このまま娘を放置して凍死されたら後味が悪いと思い直樹は嫌々ながら、女を家の中へ入れた。

翌朝。
「ありがとうございました。私は琴子と申します。」
琴子は丁寧に直樹に礼を述べた。
「じゃあ、さっさと出て行って…。」
「お礼に機を織りたいと思うのですが。」
琴子はニッコリと笑った。
「いや、そんな余計なことはしなくていいから。」
「とんでもありません!」
琴子は直樹の手をガシッと握った。
「異種格闘技の恩義と申しますし。」
「一宿一飯の恩義だろ。」
「そう、それです。このまま何もせずに去るわけにはまいりません。」
「いいって。」
「いいえ!」
どうもこの琴子という女は、直樹を言い負かす迫力があった。この大きな目で見つめられると直樹は逆らうことができない、いや逆らう気力が失せるといったところである。

「では、機織り機を買っていただけますでしょうか?」
「恩返しとか言いつつ、俺にずいぶん散財させるんだな。」
直樹は呆れた。
「まあまあ。決して損はさせませんから。」
琴子はニコッとまた笑った。
「何か悪徳セールスを家に入れた気分だ…。」
直樹は仕方なく、外へ出かけた。

「ほら、これでいいだろ?」
何で自分がこんなものを用意せねばならないのだと思いながら、直樹は機織り道具を琴子へ見せた。
「近所の孫作さんのかみさんが新しいのを買ったからもういらないっていうから。」
「えー中古?」
琴子は口を尖らせた。
「中古で十分だ。ほら、さっさと織るもの織って、帰ってくれ。」
直樹は琴子を機織りの部屋へと押し込めた。
「あ、すみません。」
琴子がニョキッと首を出した。
「私が機を織っている間は、決して中を見ないで下さいね。」
「100万積まれても見ねえから安心しろ。」
直樹の返事を聞くと琴子はパタンと戸を閉めた。



「…あいつ出てこねえな。」
あれからもうどれほど時間が経っただろうか。
山へ行き薪を広い、そして書物を一冊読み終えた直樹であるが、琴子が出てくる気配が一向にない。

「おい、生きているんだろうな?」
直樹は戸を叩いた。
「…ふぁーい。」
中から疲れ切った声が聞こえたかと思うと、戸が開いた。
「お前、その顔は何だ?」
琴子の顔はすっかりやつれていた。一日も経っていないというのに、目の下にはクマまで作っている。
「織物を見せろ。」
「え!?」
琴子の目が大きく開かれた。
「何だよ、それは?できたもんを見せろって言うんだ。」
直樹は手を琴子の前へと突き出す。
「あ、あの…ええと…。」
「ほら、早く。」
手を出す直樹の前に、琴子はおずおずと作品を出した。

「…何だ、これは?」
直樹が広げた物は、雑巾とも思えない代物だった。どうやったらこんなに幅が違い、どうやったら穴がこんなに開くのかと思えるものである。
「機織りって…結構難しいんだもん。」
「てことは、てめえ初心者かよ!!」
それでよく機織りがしたいから準備しろと言えたものだと、直樹は開いた口が塞がらなかった。
「そもそも中古だからうまく織れないんじゃないのかなあ?」
「ったく…貸せ!!」
直樹は琴子を押しのけ、機織り機の前に座った。そして――。

「ほら。」
「うわあ!!何これ!!」
琴子の膝の上には、どこの名人が織ったのかと思うような見事な織物が乗っていた。
「すごい!!何よ、経験者なら最初から言ってくれれば…。」
「悪いが、今初めて織ったんだ。」
そして直樹は続ける。
「道具が中古だろうが新品だろうが、腕が良ければちゃんと織れるってことだ。」
「うう…。」
琴子は口を尖らせた。
「ということでお前に用は…。」
「これ売れる!!絶対売れるわ!!」
琴子は直樹の織物を見て目を輝かせた。
「私が町で売ってきます!!」
「何だって?」
「だって勿体ないもの。大丈夫、任せて!」
「任せられるか!」
無残な織物を見て直樹が言い返す。
しかし今回も琴子に押し切られることとなった。
直樹が織ったとは口が裂けても言わないという条件で、琴子は翌日、織物を手に町へ下りて行った。


「さあさあ、こんな織物見たことがない!!」
琴子は威勢よく売り始めた。途端に人だかりができる。
「これ、姉ちゃんが織ったのかい?」
「え?ええ…まあ…。」
「ほう、大したもんだな!」
「ね、ここどうやって織ったの?」
「ええと、それは…長年の経験と勘で。」
嘘をつくことに後ろめたさを感じつつ、琴子は説明する。
「素敵だわ!一反しかないのね。」
「あ、でしたら…。」



「というわけで、こんな大金を稼ぐことができました。」
琴子は金貨の入った袋を直樹の前に置いた。
「何か勝手にオークション始まってしまって。一番高値を付けた人に売れたの。」
「あ、そ。」
「でね?」
琴子はゴソゴソと懐を探った。
「これ。」
そして直樹の前に紙切れを出した。
「何だよ?」
「…注文票。」
「何!?」
直樹は紙切れを見た。
「一、 二…七枚分だと!」
「だって皆さん、ぜひにって。」
琴子は直樹の肩を叩いた。
「頑張りましょう!私が売りさばきますから!」



そして直樹が家で機を織り、琴子が町で売りさばくという日々が始まった。
琴子は不器用であったが、口は達者だった。そのため売り文句は見事なもので人が常に集まる。
「お前、意外な才能があったんだな。」
毎日琴子が抱えてくる金貨の袋を眺めながら、直樹は驚いていた。

そして――。

「お前、そろそろ空に戻る時なんじゃねえの?」
直樹と琴子の見事なコンビネーション(?)でたんまりとお金がたまったため、家を新築できた頃、直樹が琴子に切り出した。
「そ、空?」
突然挙動不審になる琴子。
「な、何のことかしらん?」
「何のことって、お前、鶴なんだろ?」
全く遠慮もせずに、直樹はズバリ言ってのけた。
「俺があの時助けた、間抜け面の鶴なんだろ?」
「どうしてわかったの?」
「誰でも分かるだろ。」
直樹は金持ちになった。恩返しは完了といったところである。
「いつ帰る?」
いつかはこの日が来ると思っていたが、そうなると直樹の胸に一抹の寂しさがこみあげてきた。
琴子は料理も裁縫も全てダメな女であるが、愛嬌がある。何より家に帰った時に「お帰りなさい」と出迎えてくれる人間がいることは悪いものではない。

「それが…その…。」
琴子は別室へと入った。そこの押し入れの中から大きなつづらを出してきた。
「驚かないでね?」
琴子が蓋をあけた。
「何だ、これは!!」
直樹は驚かずにいられなかった。つづらの中には白い羽がぎっしりと埋まっていたのである。
「ほら、機織りをするって言った一番最初の日。あの日でね、実は…私の羽、全部使ってしまったの。」
「全部!?」
「そう。だってうまくできなくて、次、次って羽を取っていたら…気づいたら全然残ってなかったんだよね。」
「エヘへ」と笑う琴子。
「ということは?」
「…羽がなくなってしまったので、もう鶴には戻れないってことなんですが。」
「戻れない…。」
「人間として暮らしていくしかないってことで。」
「まじかよ…。」
何という結末だろうか。こんなことでいいのだろうか。
直樹は呆れて開いた口が塞がらなかったが、どこかでホッとしていた。それは琴子には秘密であったが。

そして二人は新しい家で夫婦となった。
その家からは今日も直樹が織る機織りの音と、「行ってきます!」という明るい琴子の声が聞こえているのである――。

めでたし、めでたし。



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(笑)~♪

冷血漢ぽいのに、意外と小心者で心配妄想の入江くんがツボです!(笑)
迫力ある琴子ちゃんとは凸凹で相性ピッタリ~♪

お話の中の琴子ちゃんの、
「お帰りなさい」
「行ってきます!」
なんだか素敵に響きました♪
~~小さな子供にも聞かせたい現代版のおとぎ話面白かったです!!!

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紀子ママさん、ありがとうございます。

こちらこそ、暑い中にうちに来て下さるだけでもう嬉しいです!!
何かお礼の品の一つでも差し上げたい気持ちですよ。
おとぎ話シリーズ、鶴の恩返しがこんなに受けるとは。
調子に乗ってもう一個書いちゃいました!
入江くんは器用だからすごい品を作り上げると思うんですよね。で、琴子ちゃんはお父さん譲りのサービス精神でそれを売りさばくと(笑)
羽をむしる琴子ちゃん、ちょっと可哀想でしたけど羽を失った代わりに入江くんをゲットできたのだからよしってことで!!

佑さん、ありがとうございます。

恩返し、本当にしてませんよね。
高値で売りさばくことくらいしか(笑)
琴子ちゃんらしいとほめていただけてうれしかったです!

カスガノツボネさん、ありがとうございます。

恩返しどころか、恩を仇で返すかのような琴子ちゃん(笑)
入江くんはどんなシチュエーションでも冷たいんですよね。でも琴子ちゃんに根負けしていくところがまたなんとも。
琴子鶴は狙った獲物は逃がさないとばかりに、入江くんにくらいついていましたし。
その根性でどうやら入江くんもゲットできたみたいですしね!!
カスガノツボネさんに気に入っていただけてとてもうれしいです♪

あおさん、ありがとうございます。

そうですよね!冷たく見えて結構心配性(笑)
勝手に織りはじめた琴子ちゃんを心配したり、言われるがままに機織りの道具を買わされたりと。
きっと薪を拾ってくる入江くんをかわいらしい笑顔で待っているんでしょうね。
その後入江くんは機織りまでしている、かなりの働き者になりそうですが(笑)

sarasaさん、ありがとうございます。

いえいえ、こちらこそ夏休みのお供にしていただけてうれしゅうございます。
入江くんは鶴を追い返しているし、正体は早々気づいているし。
でもそんな入江くんを離さない琴子ちゃん♪
琴子ちゃんが織物を織って恩返しなんて絶対無理だろうなと思って。見ていられなくて入江くんが手を出して、まんまと利用されるという…(笑)
坊や~が浮かんだなんて!あれは確かたつのこたろうでしたっけ?
イメージしていただけることは、本当にうれしいです!ありがとうございます♪

るんるんさん、ありがとうございます。

ラストはめでたしめでたしで〆ると決めているので、どんなアンハッピーエンドなお話でもハッピーエンドにするのが水玉流なんです(笑)
二人ともいいコンビとほめていただけてうれしいです。

りんさん、ありがとうございます。

そうですよね!
恩返ししたいとか言っているのに、要求するところがまたなんとも。
それを素直に買う入江くんが何だか可愛いなと思いました!

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あけみさん、ありがとうございます。

いえいえ、来て下さりありがとうございます!

結果として恩返しになりましたよね。
色々準備させたけれど売り子をすることで貢献したわけですから。
異種格闘技の恩義…琴子ちゃん、すごい勘違いしたもんだ(笑)
おとぎパロ、楽しんでいただけて嬉しいです。

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プロフィール

水玉

Author:水玉
『イタズラなkiss』のほかには『ゴルゴ13』が好きです☆
多数あるイタキスの二次小説の中で邪魔することなく、ひっそりとマイペースで我が道をゆきつつ生息しております。
そっと見守っていただけたら嬉しいです。

※当ブログに掲載されている文章及びイラストの無断転載・使用はご遠慮下さい。

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このブログについてのお願い
当ブログは、『イタズラなkiss』の二次創作をメインとしておりますが、時折管理人の趣味や日々の出来事についての記事も書いております。

原作者様や関係各位とは一切関係ありません。

二次創作については、いわゆる原作の隙間をぬった作品もありますが、主人公以外のキャラクターをメインとしたものや オリジナルキャラクターが出てくるものもございます。

そして、原作と違った時代(平安や明治やその他の時代を舞台にしております)、異なる設定(主人公を医者と看護師じゃない職業にしております)で書いてあるものが多いですが、原作を冒涜しているつもりは全くございません。

二次創作が苦手という方及び原作のイメージと合わないと思われる方はどうぞお引き取り下さいますようお願いいたします。

コメント及びメールなどでの苦情及び批判は公開、非公開を問わず、私へ告げることはご遠慮いただけますよう、お願い申し上げます。

このブログ及び掲載されている話が嫌いだと思われたら、黙ってあなた様の中から、このサイトの存在を消去していただけますよう、お願い申し上げます。

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