日々草子 姫と軍師 21(最終話)

姫と軍師 21(最終話)

婚儀の準備が着々と進む中、直樹はとある行動を起こした。それは――。

「まさかこのような形で…。」
「会う日が来ようとは…。」
直樹は啓太と顔を合わせていた。そこにはもう一人の人物がいた。
「…何で僕がここにいなければいけないんだ。」
西垣であった。
相原、鴨狩、西垣の三家が顔を揃えたのだった。

三家の領地から等しい距離にある、とある寺にて三人は顔を合わせていた。
目的は、三国同盟である。

「そろそろ無意味な争いはやめるべきでは。」
直樹は言った。
「確かに…。」
啓太とて争いは好きではない。争いにかまける暇があれば国のことを考えていたい。
「西垣殿も、そろそろ女体におぼれるのもほどほどにされては…。」
「大きなお世話だよ!」
直樹の言葉に西垣は目を吊り上げる。

「では、われらだけで話を進めますか。」
ぷりぷりと怒っている西垣を放置し、直樹は啓太を相手に話を始めた。
「元々同盟を結んでおりますので細かいことはあまりないのですが。ただ、鴨狩家が困った時は私がすぐに知恵をお貸しします。」
「ほう!天才軍師の知恵を貸してくれるのならば…。」
啓太が言いかけた時、「ちょっと待った!!」といういつもの声が入った。
「そんなもの無用!!なぜなら鴨狩には私、船津がおりますゆえ!!」
船津である。
「わかった、わかった。お前がいれば安心だよ。」
最近船津の扱いに慣れてきた啓太が適当にあしらう。

「…そっちが望むなら同盟結んでやってもいいよ。」
西垣が言った。
「条件があるけど。」
「何でしょうか?」
直樹は訊ねた。
「琴子姫を一晩貸してくれたら…。」
直樹は手をサッと上げた。するとどこに隠れていたのか、相原家の兵たちが一斉に西垣へ矢を向ける。
「な、何だよ!!これが同盟を結ぶ場か!!」
「…しょうもないことを言うと思って準備しておいたのです。」
「殿!!あれだけの目に遭ってもまだ懲りないのですか!!」
そこへ現れたのは、西垣の軍師、大蛇森だった。
「どうして軍師の私を置いていったのです!」
大蛇森は直樹を見つけると、とたんに顔を赤らめた。
「…だから置いて行ったんだよ。」
「ひどい!入江殿にお会いできると思って昨夜は風呂で念入りに…。とにかく同盟を結ぶべきです!」
「お前は入江に会いたいだけだろうが!!」

「殿、私が一番の軍師ですからね!この船津が一番だと!!」
「ああ、はいはい。わかった、わかった。」

ギャーギャーとわめく人間を、直樹は溜息をつきながら見ていた。
何はともあれ、三国同盟は結ばれた。平和が三国に訪れることになったのだった。



そして、直樹と琴子の婚儀の日がやってきた。
琴子は入江家へ嫁ぐ形をとるが、直樹と二人で今まで通り相原家の城で暮らすことになっている。相原家の民、家臣を率いるのは直樹になる。
紀子と桔梗が磨きあげた甲斐あって、この日の琴子は光り輝く美しさであった。
これには家臣たちもみとれる。兄の想いに気づいていた裕樹も嬉しそうに婚儀を見守っていた。重樹も息子が幸せになれて喜んでいる。



そしてとうとう、床入りの夜がやってきた。
琴子の待つ寝所へと、寝間着に着替えた直樹は向かう。寝所に到着すると、そこには桔梗が控えていた。
「…武者姿でお迎えしようか迷ったのですが。」
桔梗の冗談に思わず直樹は頬を緩めた。
「姫様が怖がっておいでではないので、やめておきました。」
「お待ちです」と桔梗が戸を開けてくれた。直樹は静かに中へ入った。



室内は薄暗かった。いや明かりが控えめだからではない。雰囲気が暗かった。
その理由はすぐに分かった。
先に待っている花嫁が、暗かったのである。
桔梗の話によると直樹を怖がっていることはないはず。本来ならば緊張と恥ずかしさが琴子を包んでいるはずである。
それなのに、琴子の表情は冴えないものだった。

「何かあったのか?」
もう夫婦になったのだから言葉もざっくばらんである。直樹は琴子の前に座った。琴子も寝間着姿である。
「琴子?」
「…じゃありませんでしたか?」
「え?」
「…私、綺麗じゃありませんでしたか?」
琴子の口からそんな言葉が聞こえてきた。
「固めの盃の時に、目が合ったでしょう?その時、軍師様はすぐに目を逸らしてしまわれて。なんか…。」
「なんか?」
「…変なものを見てしまった、みたいな感じでした。」
そう言って琴子はぐすんと涙ぐむ。
本来ならばこれからとうとう結ばれるぞという、期待の時間のはずなのに、この雰囲気は一体…と直樹は思う。

「それは別に醜いものを見たから目を逸らしたわけではなくて。」
「醜い!?」
琴子は大きな目を見開いた。
「醜かったのですか、私?」
「いや、たとえ。たとえだ。その逆で。」
「逆?」
「その、まぶしすぎて目を逸らしたというか。」
「まぶしい?明かりが多すぎました?」
もしや今も直樹はまぶしいと思っているのかと、琴子はキョロキョロと周囲を見回す。
「いや、明かりではなく。」
「じゃあ何でしょうか?ああ○×殿の頭ですか?確かに今夜は一層磨きがかかっていましたよね。何でも秘伝の磨き粉で磨いたとか。」
「確かに○×殿の頭はピカピカと輝いていたが、その話ではなく。」
「では何がまぶしかったのですか?」
「…お前が。」
直樹は答えた。
「お前?」
琴子はキョトンとなっている。
「そう、お前がきれいでまぶしくて。あのまま目を逸らさなかったら俺は間抜けな面になりそうだったから、慌てて目をそらしたんだよ。」
そして直樹は琴子の体をやや乱暴に抱きしめた。

「…もう離さない。」
直樹が言うと琴子も、
「私だってどこにも行きたくありません。ずっと軍師様のお傍にいます。」
と直樹の背中に手を回した。
「これからもたくさん、軍師様を驚かせてみせますからね。」
「覚悟してるよ。まずは今夜から。」
「今夜?」
さすがに今夜は驚かせるつもりはない。直樹は一体何を言っているのだろうと、琴子は首を傾げた。
「今夜…お前がどんな顔をして俺を迎えるんだろうと思うと、今からドキドキしてたまらないよ。」
「なっ!!」
琴子は真っ赤になって、まだ脱いでもない寝間着の前をかきあわせた。
「そんな驚くようなものでは…それに前、軍師様がおっしゃったじゃないですか。石を投げつけるような体だって。まだあれからそんな成長も…。」
と、ごにょごにょと言う琴子をよそに、直樹はフッと息を吹きかけて明かりを消してしまった。
「ああ!そんな、突然…!」
まだ気持ちが落ち着いていないのにと焦る琴子の体に直樹は手をかけ始めたのだった――。



「とんぶり、おいしい?」
「ヒヒーン。」
翌朝、琴子は厩にてとんぶりの世話をしていた。とんぶりは飼葉をおいしそうに食べている。
「これからもお前の世話をできるようになったのよ。」
「ヒヒーン。」
嬉しそうな声を上げるとんぶり。琴子もその背中を優しく撫でる。
「…ここにいたのか。」
「軍師様!!」
琴子は未だ、直樹のことを「軍師様」と呼んでいる。昨夜は何度も直樹が指摘しても、恥ずかしがって「殿」とは呼べない。
「とんぶり、軍師様がいらしたわよ。」
「…チッ」ととんぶりが舌打ちをした。「それは俺の気持ちだ」と直樹も琴子に聞こえぬよう呟く。琴子だけが直樹ととんぶりは仲がいいと信じている。

「さ、軍師様にご挨拶をなさい。」
琴子がとんぶりに促してもとんぶりは「フン!」と顔をそむける始末。
「まあまあ。とんぶり、それはだめよ。軍師様は私の大事な旦那様なのですよ。」
それでもとんぶりは「フン!」という様子。
「いつもはいい子なのに…分かったわ。軍師様の前では恥ずかしがっているのね。」
「恥ずかしがるタマかよ。」
直樹が言うと、「ケッ!」とそれは自分の台詞だと言わんばかりのとんぶり。

「お前さあ。」
甲斐甲斐しくとんぶりの世話を焼く琴子に、直樹は話しかけた。
「新婚の夫を放っておいて馬の世話かよ。」
「いえ、そんな!」
琴子が焦って直樹の側に駆け寄った。
「ったく。」
直樹はとんぶりをチラリと見た。
「…夕べ、結構辛そうだったから心配してたのに。」
「そ、それは!!」
昨夜のことを思い出し、琴子は顔を真っ赤にした。
「ずいぶん身軽に動いているみたいで、安心したよ。」
ニヤニヤと意地悪く直樹は笑う。
「いえ、それはその…大変でしたけれど…。」
もじもじと琴子は恥ずかしそうに動く。
「あ、私、お水を!とんぶりのお水を汲んで来ます!」
いたたまれなくなった琴子は、空の桶を手に厩を飛び出して行った。

あとに残された直樹ととんぶりの間に、火花が飛び散る。
「…うらやましいんだろ?」
直樹はニヤリととんぶりに笑いかけた。
「フンッ!」と顔をそむけるとんぶり。
「まあまあ。琴子を愛する者同士、仲良くしようぜ?」
直樹はとんぶりの頭を軽く撫でた。
「誰も知らない琴子の顔を俺だけが見て、申し訳ないけどさ。」
「ヒヒーンッ!!!」
と、とんぶりが暴れ出した。
「どうしたの、とんぶり!」
水を手に戻ってきた琴子が、とんぶりの様子に驚く。
「水をそこに置いておいて、放っておいたほうがいい。」
自分が怒らせておきながら、直樹は平然と琴子に命じた。
「でも…。」
「馬だって一人、じゃない一頭になりたい時もあるさ。」
「そうかしら?」
そう言われても琴子は心配である。
「俺の言うことに間違いはあるんだっけ?」
直樹はそんな琴子の肩に手を回し、綺麗な顔を琴子の顔に近づけて尋ねた。
「…軍師様の仰ることに間違いはありません。」
「よくできました。」
直樹は琴子の唇に自分の唇を重ねる。
それを見てとんぶりが更に暴れ出す。

「とんぶり、後で様子を見に来るからな。」
「色々あったから興奮しているのね、きっと。」
「そんなことない!」ととんぶりは訴えるが、新婚夫婦は全く気付かずに厩を後にする。

相原家とその周辺国に平和は生まれたが、琴子をめぐる直樹ととんぶりの戦いはまだまだ、続きそうであった――。












最後までおつきあい下さり、ありがとうございました!
あとがきは後程。
関連記事

comment

管理者にだけ表示を許可する

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

佑さん、ありがとうございます。

とんぷりにとってはあまり嬉しくないような、でも大好きな琴子ちゃんが幸せなので嬉しいような、複雑な気分でしょうね。
自分の愛馬が大事な旦那さまを嫌っているなんて疑いもしないのだろうな、琴子ちゃんは。
最後までお付き合い下さり、ありがとうございました!

紀子ママさん、ありがとうございます。

あんなに気持ちを打ち明けていたのに、琴子ちゃんが手に入った途端掌を返す入江くん…うん、こうでないと(笑)
家臣たちはこの二人がうまくいくって確信してたんですよ。でも当の本人たちが変に気を遣いあっていたものだから遠回りしてしまって。
船津くんは今回、かなり男を上げてましたね。いや、こんなに立派に書く予定はなかったのですが(笑)
曹操はガッキーですよ。だって他にいなかったんだもん(笑)
最後までお付き合い下さりありがとうございました!

カスガノツボネさん、ありがとうございます。

初めまして!コメントありがとうございます。
ハンドルネームから、かなりの日本史通の方かなあと思っているのですが、いかがでしょう?
こんなでも直樹がいいと(笑)船津くんと馬に人気を取られている入江くんを応援して下さりありがとうございます。
なんちゃってコスプレ物と化してましたが、楽しんでいただけて嬉しかったです。
これからもほんわかなお話を目指しますね♪
最後までお付き合い下さり、ありがとうございました!

ゆっちゃんさん、ありがとうございます。

ありがとうございます♪
家臣たちは「あーあ、この作戦は大失敗だな」とがっかりしていたんでしょうね。
でも姫が普通の姫と違い行動力があったので、なんとかうまい方向へと進んでくれました♪
最後までお付き合い下さり、ありがとうございました!

りんさん、ありがとうございます。

おお!!続編希望して下さり、ありがとうございます♪
りんさんの癒しに少しでもしていただければ、こんなにうれしい事はありません。
最後までお付き合い下さり、ありがとうございました!

marimariさん、ありがとうございます。

本当に船津夫妻さまさまですよね!
でも入江くんは、また船津と顔を合わせたら二番攻撃をするんでしょうね(笑)
時代物楽しんでいただけてほっとしました。
最後までお付き合い下さり、ありがとうございました!

あけみさん、ありがとうございます。

私もこんなに船津くんを活躍させたことは初めてかもしれません(笑)
家臣たちもとうに認めていたし、重樹パパの取り越し苦労だったということで♪
お世継ぎ…努力は言われなくとも入江くんが主導権を握って頑張りそうですが、仲が良すぎてコウノトリが入り込む隙がないのかもしれませんね♪
とんぶりとの戦いはずっと続きそうですし。琴子ちゃんがとんぶりを可愛がると「俺も~」と甘える入江くんの様な気がします。
かっこいい入江くんランキング、あけみさんの中では軍師がトップとは!とてもうれしいです♪
最後までお付き合い下さり、ありがとうございました!

sarasaさん、ありがとうございます。

こんななんちゃってコスプレ物を時代劇と仰っていただけるだけで、本当にうれしゅうございます~!!
もう途中から「これは戦国ぽいけど、架空の時代なんだ」と自分に言い聞かせてましたよ!
続編ご希望、うれしゅうございます!とりあえず結ばれたところでいったん終わらせました。また機会があれば書きたいです。
過去作まで読み返していただいて…感謝感謝です。
sarasaさんもどうぞお体に気をつけて下さいね!
最後までお付き合い下さり、ありがとうございました!
プロフィール

水玉

Author:水玉
『イタズラなkiss』のほかには『ゴルゴ13』が好きです☆
多数あるイタキスの二次小説の中で邪魔することなく、ひっそりとマイペースで我が道をゆきつつ生息しております。
そっと見守っていただけたら嬉しいです。

※当ブログに掲載されている文章及びイラストの無断転載・使用はご遠慮下さい。

現在の御訪問者
現在の閲覧者数:
御訪問ありがとうございます
このブログについてのお願い
当ブログは、『イタズラなkiss』の二次創作をメインとしておりますが、時折管理人の趣味や日々の出来事についての記事も書いております。

原作者様や関係各位とは一切関係ありません。

二次創作については、いわゆる原作の隙間をぬった作品もありますが、主人公以外のキャラクターをメインとしたものや オリジナルキャラクターが出てくるものもございます。

そして、原作と違った時代(平安や明治やその他の時代を舞台にしております)、異なる設定(主人公を医者と看護師じゃない職業にしております)で書いてあるものが多いですが、原作を冒涜しているつもりは全くございません。

二次創作が苦手という方及び原作のイメージと合わないと思われる方はどうぞお引き取り下さいますようお願いいたします。

コメント及びメールなどでの苦情及び批判は公開、非公開を問わず、私へ告げることはご遠慮いただけますよう、お願い申し上げます。

このブログ及び掲載されている話が嫌いだと思われたら、黙ってあなた様の中から、このサイトの存在を消去していただけますよう、お願い申し上げます。

カテゴリー+月別アーカイブ
 
最新コメント
最新記事
カボチャの世界
Private
カレンダー
07 | 2017/08 | 09
- - 1 2 3 4 5
6 7 8 9 10 11 12
13 14 15 16 17 18 19
20 21 22 23 24 25 26
27 28 29 30 31 - -
リンク