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2012.07.07 (Sat)

七夕の宴






この時代は当然旧暦でしょうから、七夕は梅雨が明けている頃にやってくるのですが…今に合わせて、こちらも梅雨祭りの一作ということで♪






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「はあ…全くもう、憎たらしいくらいのお天気だわ。」
星がちりばめる空を見上げ、桔梗が溜息をついていた。
「何だよ、いいじゃないか。天の川もちゃんと見えて七夕万歳ってところじゃないか。ねえ、ちい姫様?」
と、話すのは鴨狩。
「たばなた!」
「七夕ですよ、ちい姫様。」
桔梗の膝でパタパタと手足を動かしているのは、桔梗と鴨狩が仕える主たちの一人娘である。
「ちい姫様、今夜はお星さまにお願いをするとかなえてもらえるんですよ?さ、こちらの短冊にお書き下さいね。」
桔梗はちい姫の前に短冊を置き、その小さな手に筆を握らせた。
当然、赤ん坊のちい姫は字など書けない。筆をぐるぐると回して落書きするだけである。
「あい!」
「まあ、お上手ですわ!!」
何が何だか全く判読できないが、桔梗は手放しで褒めた。そしてそれを笹につけるように女房に命じた。

「それにしても、こんな可愛らしいちい姫様がいるのに…直樹様ったら!」
ギリリリと歯をかみしめなぜか桔梗は悔しがっていた。
「もう、いい加減にしなさい!」
その背中を叱りつけたのは、桔梗が忠実に仕える女主人の琴子であった。
「だって姫様!くやしいじゃありませんかあ!!」
「くやちい!!」
「ほうら、ちい姫が口真似をするでしょう?もう、しょうのない人。」
琴子は鴨狩から愛娘を抱き上げると、乳母へと預けた。

「だってだって姫様!七夕ですよ?こうやって飾りつけも済ませて準備も万端なのに。お空だってほら…。」
「直樹様は大事なお勤めなのよ。」
桔梗がブツブツと文句を言い続けているのは、せっかくの七夕の夜に直樹が宮中に出ていて留守であることだった。
愛する妻と可愛い娘と和やかな宴をと期待していたのに、宮中の宴に出かけてしまったことに腹を立てているのである。
「仕方ないじゃないか。悲しきものは宮仕えなり。」
「おだまりっ!!」
桔梗は鴨狩の首を締め上げる。それを琴子が必死で止めた。

「だって姫様…この日のために…。」
「私はいいのよ。それより直樹様がつつがなきようお勤めできるようお星さまにお願いしましょう。ね?」
「でも…。」
「それに直樹様がいらっしゃらなくても、我が家でも宴はちゃんとやるのよ。御馳走だって用意したでしょう?」
「そうだ、そうだ。御馳走食って騒いで忘れましょう!」
いい加減桔梗の愚痴から逃れたかった鴨狩が両手を上げて囃し立てた。
「はあい…。」
いつまでも文句を言っても仕方がない。桔梗も気分を変えることにした。



「本当に姫様は奥方の鑑だよなあ。」
ちゅるちゅると素麺をすすり上げながら、鴨狩が言った。
「そりゃあ私が幼い頃よりお仕えしてきたからよ。」
ふふんと胸を張りつつも、こちらも素麺に夢中の桔梗。
「間違っても“お勤めと私、どちらが大事なのですか”とは聞かないところが素晴らしいわ。」
「そうだよな。それ言ったら終わりだもんな。」
「そうよ、そうよ。」
その琴子は、ちい姫に素麺を少しずつ食べさせている。
「“実家に帰ります”とか言いたくても、帰れないしなあ。」
琴子には実家はない。
「でもその代り、直樹様のお母上様がいらっしゃるわ。今夜だってあちらの宴にぜひにと誘われたのに、直樹様がお勤めなのにご自分だけ楽しむわけにいかないってお断りになられて。」
「それを聞いた北の方様が“なんて素晴らしい姫!”と号泣されたって、あちらの女房達が言っていたぞ。」
「でもね。」
素麺をすするのを中断した桔梗が、琴子を見た。
「姫様が今夜を心待ちにしていらしたことは間違いないのよね。」
「そうだよな…。」
琴子は新調した袿を着ていた。これはおそらく直樹のために違いない。



ちい姫を寝かしつけ、琴子は七夕飾りの所に座っていた。
「お菓子でもお持ちしましょうか?」
女房達を下がらせて一人残っている桔梗が気遣った。
「ううん、大丈夫。」
そう言う琴子の顔はどこか寂しげであった。
「…直樹様、遅いですわね。」
もうすぐ七夕の夜も終わってしまう。
「そうね、今夜は宮中にお泊りかもしれないわ。」
さぞ賑やかな宴だったのだろうと琴子は思う。それを抜け出して一人帰ることは難しいに違いない。
「織姫は彦星に会えたかしらね?」
琴子は夜空を見上げた。
「それは勿論。今頃一年ぶりに会えて大喜びで語り合っていますよ。」
「二人は一年も会えないことを我慢しているんですもの。それに比べて私はたった一晩お会いできないだけなんだものね。」
やはり直樹がいなかったことはさびしかったのだと、桔梗は辛くなった。本当にこの女主人は我慢強い。こんなに我慢しなくともいいのにと思う。

「お前も休んでいいわよ。」
琴子は桔梗に笑いかけた。
「姫様は?」
「私はもう少し、彦星と織姫の逢瀬を見守っているわ。」
一人にしてほしいという意味かと分かった桔梗は「では、何かあったらいつでも」と言い残し、琴子の前から下がった。

桔梗もいなくなり一人ぼっちになった部屋。琴子は琴を引き寄せた。
「今夜はぴったりだと思ったのに…。」
つい恨み事が出てしまい、「いけないわ」と琴子は頭を振った。そして琴をゆっくりと奏で始める。

「ああ…琴の音が…姫様が弾いておられるのよ。」
下がった部屋で菓子を食べながら涙ぐむ桔梗。
「そうだな。頑張って練習されてたし。」
一緒に菓子を食べている鴨狩も鼻をすする。
琴子という名前ながら、琴の演奏が大の苦手の琴子。それでもがんばって練習を重ねてきた。
「姫様のお琴の音が直樹様まで届けばいいのに…。」
桔梗がそう口にした時だった。
何か音が聞こえてきたのである。

最初は風の音かと思った。
「何?アンタの鼻の音?」
桔梗は鴨狩を見た。
「失礼な!」
怒る鴨狩。その間にも音が続いている。
「あれは…。」



聞こえてきた音に、琴子も琴を弾く手を止めていた。最初は空耳かと思った。しかしどうも違う。
やがて、
「何だよ、せっかく合わせてやろうと思ったのに。」
という声が聞こえた。そして現れたのは、横笛を手にした直樹だった。

「直樹様!」
「ほら、演奏するぞ。あの曲だろ?」
直樹は琴子の傍に腰を下ろすと、また笛を口に当てた。琴子も慌てて琴に手を置く。
直樹の流れるような笛の音。そしてぎこちない琴子の琴の音。

「…ああ、やっと合奏できたのね、“想夫恋”!」
聞こえてくる音に桔梗は嬉しさで胸がいっぱいになった。
夫を恋い慕う曲――この曲を直樹と共に演奏するために、琴子は苦手な琴の練習を懸命にしてきたのである。
隣で耳を傾けている鴨狩も嬉しそうだ。



「うん…なかなかうまくなったじゃないか。」
演奏を終えた直樹が優しい顔を琴子に向けた。
「だって…直樹様が丁寧に教えてくださったもの。」
いつか二人で合奏したいという願いが、やっと今夜叶ったのである。

「でも、いいの?」
「何が?」
「だって宮中での宴は?」
「あんなの途中で抜けたって誰も分からないさ。」
直樹は事も無げに言うと、琴子の体を抱きしめた。

「これ、俺のために新調したんだろ?」
琴子の袿を見る直樹。琴子はコクンと頷いた。
「綺麗じゃん。よく似合っているよ。」
「直樹様。」
「ん?」
「…怒らない?」
「何だよ?」
琴子は直樹に抱きしめられたまま、おずおずと口を開いた。
「本当はね…宮中の美しい女房たちに夢中になっているんじゃないかって心配だったの。」
「俺が?」
また琴子がコクンと頷いた。それに直樹が声を上げて笑った。
「…俺の琴子は誰よりも可愛いよ。そりゃあ織姫も裸足で逃げ出すくらいね。」
「そんな…。」
直樹の腕の中で琴子がポッと赤くなった。


二人は七夕飾りを見る。
「何だ、これは?」
「ちい姫が書いたの。桔梗が書かせたの。」
「のびのびと書いているな。これは手習いの教え甲斐がありそうだ。」
直樹は親馬鹿ぶりをのぞかせた。
「お前のは…なるほど、琴がもっと上手になるように、か。」
「だって七夕は芸事の上達を願う日でしょう?」
「確かにな。」
もっと上手になって直樹と色々な曲を合奏したいと琴子は願っている。その気持ちが直樹は嬉しい。

「直樹様も書いて。」
琴子は筆と短冊を用意した。
「そうだな…。」
直樹は少し考えるとサラサラと筆を短冊に走らせた。相変わらず見事な手蹟である。
「…何か難しそう。」
それは漢文であった。琴子には判読できない。
『在天願作比翼鳥  在地願爲連理枝』
と短冊には書かれていた。
意味を琴子に問われた直樹は、
「天に在りては 願わくば 比翼の鳥と作(な)り 地に在りては 願わくば 連理の枝と為(な)らんことを」
と答えた。
それでも琴子は首を傾げている。直樹は笑いながら、
「今も次の世も夫婦であろうって意味だよ。」
と説明する。
「今も次の世も…。」
呟く琴子に直樹は続ける。
「これは長恨歌っていうものの一節で、七月七日、七夕の夜に密かに交わされた愛の言葉なんだ。」
「素敵…今夜にぴったりね。」



「ああ、何て何て直樹様は素敵なのかしら!!」
物陰から直樹が短冊を下げる様子を見ていた桔梗は顔を真っ赤にしていた。
「さっき文句言ってたくせに。」
「うるさい!」
桔梗は鴨狩の頭をべしっと叩いた。
「とにかく、今夜はもうお邪魔はしちゃいけないわ。さ、退散退散。」
「そうだな。」
桔梗と鴨狩は邪魔をしないよう、そっとその場を離れた。



「さて、俺たちも密かに愛の言葉を交わすか。」
直樹が琴子の耳元でささやいた。
「織姫と彦星が負けたって言うくらいにな。」
「まっ…。」
琴子は直樹を軽く睨んだが、すぐに嬉しそうに笑ったのだった。

「ね、直樹様?」
「何だよ?」
「もしね、私と一年に一度しか会えなくても…忘れないでいてくれる?」
可愛らしい琴子の問いに、直樹は答えた。
「当たり前だろ。」
「本当?嬉しい!」
「まあ俺だったら、天帝に喧嘩売ってでもそんな決まりは受け入れねえけど。」
直樹は琴子の顔に自分の顔を近づけた。
「…お前に一年に一度しか会えないなんて、耐えられねえし。」
そして直樹はそのまま唇を琴子の唇に重ねた。



七夕の今宵。一年に一度しか会えない織姫と彦星ですらかなわないと思うくらい、他の誰も入り込めないくらいに仲を深める琴子と直樹の様子を、天の川だけがそっと見つめていたのだった。











また使っちゃいました、比翼連理(笑)
きっとこれからも頻出することでしょう(笑)

アンケート、長い期間ご協力ありがとうございました!
アンケートとるたびに、このシリーズが上位になるんですよね♪今回もそうでした。
携帯オンリーの方の皆様は何が何だかさっぱりだと思うので簡単なご説明を。
テーマは『うちのブログで一番かっこいい入江くんは?』でした。
一位:神戸シリーズ
二位:君がためシリーズ
三位:直琴軒

でした。

直琴軒が三位というのが、すごい意外でした!!
神戸と君がためはどんなテーマでも上位ですね^^

コメントも本当にありがとうございました!これからの励みになります!
皆様がどういうものを楽しんで下さっているのか、とてもよくわかりました。
お忙しい時間の中ご協力くださった皆様、ありがとうございました!!


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 |  2012.07.08(Sun) 00:19 |   |  【コメント編集】

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 |  2012.07.09(Mon) 08:05 |   |  【コメント編集】

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 |  2012.07.09(Mon) 14:48 |   |  【コメント編集】

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 |  2012.07.09(Mon) 17:08 |   |  【コメント編集】

★あやみくママさん、ありがとうございます。

ええ!!そうなんですか!!知らなかった!!
七夕伝説を教えてくださりありがとうございます。そっか、ロマンチックだわ…朝露を集めて短冊♪
ラブラブすぎて働かなくなった二人を引き離したということしか知りませんでした!!
私も久しぶりに書けてうれしかったです。
水玉 |  2012.07.19(Thu) 23:02 |  URL |  【コメント編集】

★まあちさん、ありがとうございます。

コメントは気にしないで下さいね~。
まあちさんもお元気そうで嬉しいです。
そうそう、まあちさんのところのちい姫さまは本当に面白いですよね。今頃は夏休みを前にウキウキしているところでしょうか?
しかし豪雨の中お墓参り…大変でしたね。色々お家の事情もあるんだなあと思いました。
またぜひ遊びに来て下さいね!
水玉 |  2012.07.19(Thu) 23:03 |  URL |  【コメント編集】

★るんるんさん、ありがとうございます。

入江くんが彦星だったら、天帝を言い負かして琴子ちゃんから離れないでしょうね。
なんといっても琴子ちゃんにゾッコンですもの♪
七夕といったらこの二人が浮かびました~♪
水玉 |  2012.07.19(Thu) 23:05 |  URL |  【コメント編集】

★紀子ママさん、ありがとうございます。

君がためは本当に毎回上位に食い込みますね~。
入江くんが嫉妬して琴子ちゃんに意地悪しないからという理由が圧倒的に多いんです。
嫉妬するほど琴子ちゃんを愛する入江くんが好物の私は一体…(笑)
蝉しぐれはラスト、せつないものがありますよね。
紀子ママさんのコメントを見て思わず、姫と軍師もそっち系のラストを別ものとして書いてみたくなりましたよ(笑)
水玉 |  2012.07.19(Thu) 23:06 |  URL |  【コメント編集】

★悠さん、ありがとうございます。

初めまして!コメントありがとうございます。
それなのにお返事遅くなって申し訳ありません。
君がため、お好きだと言って下さり嬉しいです。
この話は入江くんがすごく人気なのですよ。
ぜひまた遊びに来て下さいね!
水玉 |  2012.07.19(Thu) 23:08 |  URL |  【コメント編集】

★りんさん、ありがとうございます。

ありがとうございます!!
七夕はラブラブの二人を是非書きたいと思って!
どの直樹も好きだなんて嬉しいお言葉をありがとうございます!
水玉 |  2012.07.19(Thu) 23:09 |  URL |  【コメント編集】

★佑さん、ありがとうございます。

そうでしょう、そうでしょう♪
入江くんが素直で琴子ちゃんをいじめず、一途に愛しているのが人気みたいなんですよ!
久しぶりに甘いお話にしてみました!
水玉 |  2012.07.19(Thu) 23:10 |  URL |  【コメント編集】

★あおさん、ありがとうございます。

アンケートご協力ありがとうございました!!
以前好きな話はなんですかというものも募集したことがあったのですが、ほぼ同じでしたね(笑)
アンケートのおかげで、どんな入江くんがかっこいいのかが、ほんの少しわかった気がします。
『君がため』は青木をパラレルで初めて出した話として、私は印象が(笑)
しかも悪い役だったし…あの時は本気で青木ファンに叱られるのではと不安でしたよ~。最近はそんなことまったく気にしなくなりました。神経が図太くなったものです。
水玉 |  2012.07.19(Thu) 23:14 |  URL |  【コメント編集】

★ぴろりおさん、ありがとうございます。

横笛を吹く直樹に注目していただけただけで、すごく嬉しいです!!
初めて挑戦した平安物なので私にとっても印象深いです。
直樹スキーなぴろりおさんにかっこいいと言っていただけただけで、すごく嬉しいです。
ありがとうございます!!
ぴろりおさんのところの直樹のように書きたいと頑張ってみましたが、まだまだですね。
いや、追いつこうとすることが無謀なのだと最近気づき始めました(笑)
読んで下さりありがとうございます♪
水玉 |  2012.07.19(Thu) 23:17 |  URL |  【コメント編集】

こんにちは。君がため大好きです。
水玉さんの小説は何回読んでも面白いですね。
続き楽しみに待ってます!
紫 |  2014.10.28(Tue) 15:24 |  URL |  【コメント編集】

一気に読んでしまいました。なんかすごい素敵。

ここから、はじまるのね〜なんて勝手に思っちゃいました。夢ごち気分ありがとうございました。
chibinchama |  2015.01.03(Sat) 17:41 |  URL |  【コメント編集】

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