日々草子 姫と軍師 14

姫と軍師 14

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直樹が船津を馬鹿にしたのはわざとであった。船津が一番言われたくないことを連呼したら発奮するだろうと思っての事だったのだが、それが見事に当たった。

あの風が起きた日の夜、船津たち鴨狩軍は多数の船を率いて西垣軍へ突入。火をつけた矢を西垣軍の船へ向けて射た。
西垣軍の船は裕樹の体を張った行動により、全てが鎖でつながってしまっている。逃げようにも逃げることができなかった。火はあっという間に西垣の船に広がっていく――。



「誰だよ、鎖でなんてつないだ奴は!!」
西垣軍では大将の西垣が怒鳴っていた。
「大蛇森、お前が変なことをするから!」
「私は殿の許可を得てしたのです!」
西垣軍の軍師大蛇森が反論する。
「よく考えてみろ!こうなったら逃げられなくなることは分かるはずだろうが!そんなことも分からないで何が軍師だ!」
「お言葉ですが!」
大蛇森は西垣を睨んだ。
「私は殿がくだらない女にうつつを抜かしている間も必死で策を練っていたのです。大体、こうなったのも殿の考えが浅はかだったからでしょう。ああ、私がもっと早く来ていれば…。」
「うるさい!お前が男のケツばかり追いかけまわしていたからだろうが!」
「男のケツ!なんという下品なことを!女の腹に顔を埋めている人に言われたくありませんね!」
「はあ?男だったら女の方を選ぶに決まってるじゃんか!」
「お二人とも、早くお逃げ下さい!火の手がすぐそこまで!」
「どうしてこんな主君と軍師に従わねばならないのか」と言いたい気持ちをかろうじて堪えている家臣たちが二人を逃げるように促した。



西垣と大蛇森、そして家臣たちは命からがらに川辺を逃げ出し馬に乗って領地へ戻り始めた。
その道すがら、船を鎖でつないだ策は大蛇森一人ではなく謎の美少年からのものだったことを西垣は聞き出した。
「…入江の親戚?お前、そんなことを信じたのか?」
「だって、あの少年の目は本当のことを…。」
「そんなもん、入江の廻し物に決まっているだろ!!」
「嘘!!」
大蛇森は信じられなかった。
「ああ、これだからお前はだめなんだ!」
西垣は馬上で頭を抱えた。

西垣に従っている兵たちは道を進めば進むほど、数が減少していった。皆燃えさかる船から必死で脱出し、疲れと空腹で倒れていく。

「ここらで休憩をするか。」
西垣は谷間で馬を止めた。
「鴨狩軍も追いかけてくる様子はありませんしね。」
ようやくくだらない言い争いをやめた大蛇森も少し安堵した様子を浮かべる。
「おい、誰か!」
西垣が命じる。
「鏡を持て!」
「鏡?」
大蛇森の顔が引きつった。
「何にお使いで?」
「決まっているだろ。この美しい顔の汚れを落とすのさ。これじゃ男前が台無しだからな。」
西垣がそう言って煤で汚れている自慢の顔を撫でた時だった。



「…こんな時まで顔を気にするんですね。だからみじめに敗走することになるんですよ。」

突然聞こえた声に西垣や大蛇森たちが辺りを見回した。

「待ちくたびれましたけどね。」

西垣たちが一斉に上を見た。自分たちを見下ろすように軍勢が立っている。
そしてその先頭に立っているのは――。

「い、入江!!!」

「ここを通ると思って待っていたんです。」
「お、お前!!」
顔色を変える西垣の隣では大蛇森が、
「あれが…あれが噂の入江殿…。」
とボーッとなっている。それもそのはず、直樹は鎧兜凛々しい。男も惚れる姿であった。

「かかれっ!!」
直樹が軍配を振ると、後ろに控えていた相原の兵たちが「わーっ!」と声を上げながら崖を降りてきた。その数はゆうに西垣の兵の数を超えている。

「殿、早くお逃げを!!」
「な、何で僕があんな弱小軍団に!」
「そんなことを言っている場合ではありません!この数ではとても勝てません!逃げましょう!」
「そんな!」
誇り高い西垣を守るようにしつつ、半ば強引に家臣たちが馬を引っ張る。
「大蛇森殿!何を!」
「だ、だって入江殿が…。」
「目を覚ませ、このバカ!」
ようやく逃げる気になった西垣が大蛇森の馬の轡を取った。

西垣軍はまたもや敗走することになった。それでも何とか自分の領地へと逃れることができたのは奇跡だった--。



「あと少しで西垣を捕えられたのですが。」
城に引き揚げてきた直樹は琴子の前で悔しそうに報告した。
「ですが、元のお城は取り返せましたし。」
琴子が言うとおり、西垣たちは一度は奪った相原家の城、あの燃やした城をも捨てることになったのである。直樹の采配で取り戻すことができたのだった。

「今回も皆が無事で何よりです。鴨狩家も勝ちましたしね。」
「当分は西垣も大人しくしているでしょう。」
あそこまで痛手を負ったのだから、何もする気は起きないだろうと直樹は言った。

「では、今宵は勝ち戦の宴ですね!」
琴子が張りきった。
「楽しみです!」
「あ、それですが姫。」
直樹が浮かれる琴子を手で制した。
「恐れながら、今後から宴には姫は出られませんようお願い申し上げます。」
「え…?」
これには琴子だけでなく、傍に控える桔梗も驚いた。
「なぜです?」
「…男たちの宴に女性が顔を出すものではございません。」
直樹は冷たく琴子に言い放った。
「姫たるお方はそう簡単に表に出られては行けません。よって今後は軍法会議にも顔をお出しになりませぬよう。」
「そんな…。」
琴子はまとっている打ちかけを握った。
「ですが私は当主で…。」
「男がいないから仕方なく姫が当主ということになっているだけです。」
「仕方なく」という言葉が琴子の胸に突き刺さった。
「ご自分の立場を自覚なさるよう。桔梗、お前がしっかりと姫にそう指導いたせ。」
直樹は桔梗のことも叱った。
「はい…軍師様…。」
こんな直樹は初めてだと、琴子も桔梗も思った。それだけに逆らうことはできなかった。
直樹は「失礼」とスタスタと琴子の前から立ち去ったのだった。

その晩の宴は、どこか物足りないものとなった。
「姫様がいらっしゃらないと…。」
「あのお顔がないと寂しいのう…。」
愚痴る家臣たちに直樹は、
「今までがおかしかったのです。これからは当家も他家同様厳しくしないと生き残れません。」
と告げる。相原家の家臣たちの中でこの天才軍師に逆らえる人間は誰もいなかった――。



表に出ることを禁じられた琴子は、とんぶりの世話をしていた。
「ごめんね、とんぶり。長い間お留守番させて。寂しかったでしょ?」
たすきがけで甲斐甲斐しくとんぶりの体を拭く琴子。とんぶりは嬉しそうに目を細めた。
「さあ、さっぱりしたわよ。ほら、いいお顔になった。」
とんぶりの顔を両手で挟み、琴子は「うふふ」と笑いかけた。
が、すぐにその笑顔が消えた。

「…軍師様に出しゃばるなって怒られちゃった。」
しゅんと落ち込む琴子を前に、とんぶりの顔も沈む。
「やっぱり色々やり過ぎたのかなあ?巫女のふりとか頑張ったつもりだったんだけど…あれも軍師様からするとお行儀が悪いってことなのかしら?」
直樹のために何でもいいから役に立ちたいと強く願うあまり、逆に直樹の邪魔をしていたのではと琴子は不安だった。いやそれよりも…。
「軍師様に嫌われちゃったのかしら?」
直樹に嫌われたのではということが琴子には心配だった。
「とんぶり…軍師様に嫌われたら…私、耐えられない…。」
目に涙をためる琴子に、とんぶりも悲しげなまなざしを向けている。



それからしばらくして、厩に直樹がやってきた。
「ったく、人の気も知らずに。」
母紀子に呼びつけられ、散々小言を言われたのだった。勿論琴子のことである。琴子はこの家の主なのだから会議にも宴にも出ることは当然だと紀子は主張していた。
「私は姫に請われてこの家にやって来たのです。私に従えないのならば、この家を出て行きますが?」
そう言って何とか紀子を黙らせてきたのだった。

そしてどういうわけか、気づいたら厩に足が向いていた。
「姫がいなければいいが…。」
そっと厩を覗くと中は誰もいなかった。
が、何かが飛んできた。

「てめえ、唾を飛ばしやがったな!」
とんぶりが直樹に向かって唾を飛ばしてきたのである。
「フンッ!」という声を出し、とんぶりは直樹からわざとらしく顔をそらした。
「てめえは本当に可愛くない奴だな。」
それでも直樹はなぜかとんぶりの傍に近寄った。
「ったく、少しはご主人の素直なところを見習えよ。」
唾まで飛ばされた割には、直樹は優しい顔でとんぶりを撫でる。とんぶりはやはり直樹を無視したままだった。
「お前のご主人は素直で愛嬌があって…なかなかの女人なんだぞ?」
相手が物言わぬ動物ということで直樹もいつになく素直になる。だからこういう時はとんぶりの傍にいたくなるのかもしれない。


ピュッとまたもやとんぶりが唾を直樹へ向けて飛ばした。直樹は持ち前の反射神経の良さでそれを交わす。
「お前、本当に俺が嫌いなんだな。」
「フンッ!」
少しも懐こうとしないとんぶりに、直樹はやはり笑っている。
「いいな、お前は。」
直樹はとんぶりへ語りかけた。
「…姫の傍に、何の遠慮もなくいられて。お前はずっと傍にいられるんだもんな。」
とんぶりがチラリと直樹へ目を向けた。直樹の目はとんぶりではなく、どこか遠くを見ているようだった。
「…俺も馬だったらな。」
どこか寂しげな直樹を、とんぶりが静かに見ていたのだった。





















親友は馬です。by直樹
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紀子ママさん、ありがとうございます。

爆笑していただけて何よりです~。
雰囲気を自分でぶち壊しているかなあとちょっと心配でもあるのですが。
船津君たちは本当に自由に生きているのに、この二人だけ縛られてますよね。
悩める入江くん、確かに美しい!

Foxさん、ありがとうございます。

なんだかんだと、とんぶりちゃんを好きな入江くん(笑)
それも琴子ちゃんが愛しているとんぶりちゃんだからでしょうね!

るんるんさん、ありがとうございます。

そう、全て計算どおりなのに琴子姫との恋だけはうまくいかない軍師様。
とんぶりしか話せないのが、せつなさを誘う気がします…うう。

あやみくママさん、ありがとうございます。

ダンゴムシ(笑)そんな話もありましたよね!
でも姫が好きですなんて、そう簡単に打ち明けられませんよね。
とんぶりもきっと、そんな悩める入江くんにじれじれしていることでしょう!

あけみさん、ありがとうございます。

受けてくれて安心しました(笑)

自分から距離を作ることで、想いを断ち切ろうとしているんでしょうね。
会えない時間が…ってひろみGOでしたっけ?あ、そっか。そうだったわ。
そうそう、離れようとすればするほど想いは募っていくだけなんですよね。
傍にいたら辛いからといっても、離れても辛くなるだけなんですよ。

本当に西垣の家臣は気の毒です。こっちの方が反乱をいつ起こされてもおかしくない感じ。

ちぇるしいさん、ありがとうございます。

マザー水玉(笑)、元気にしております。
ありがとうございますと言ってましたよ!ありがとうございます!
前回は本当、コメディタッチでしたからこちらはせつない系で…。
ちぇるしいさんもお体に気をつけて下さいね!

佑さん、ありがとうございます。

動物に心中を吐露する入江くん、ちょっと素敵かなあと(笑)
じれったいのもあと少しです(多分)。
プロフィール

水玉

Author:水玉
『イタズラなkiss』のほかには『ゴルゴ13』が好きです☆
多数あるイタキスの二次小説の中で邪魔することなく、ひっそりとマイペースで我が道をゆきつつ生息しております。
そっと見守っていただけたら嬉しいです。

※当ブログに掲載されている文章及びイラストの無断転載・使用はご遠慮下さい。

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原作者様や関係各位とは一切関係ありません。

二次創作については、いわゆる原作の隙間をぬった作品もありますが、主人公以外のキャラクターをメインとしたものや オリジナルキャラクターが出てくるものもございます。

そして、原作と違った時代(平安や明治やその他の時代を舞台にしております)、異なる設定(主人公を医者と看護師じゃない職業にしております)で書いてあるものが多いですが、原作を冒涜しているつもりは全くございません。

二次創作が苦手という方及び原作のイメージと合わないと思われる方はどうぞお引き取り下さいますようお願いいたします。

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