日々草子 続・猿とエプロン

続・猿とエプロン

すごい皆様をご心配させてしまったので、せめてものお詫びに!

「続」とつけましたが、中身は全然そっち系じゃありませんので。








イーリエ家は今日も変わらず賑やかだった。

「モッたん、モッたん。」
可愛い声が聞こえ、メイドのモッティは笑みを浮かべながら腰をかがめた。
「モッたん、今日のおやつはなあに?」
「今日のおやつは、あんぱんですよ。ほうら。」
モッティは今焼きあがったばかりのあんぱんを見せた。
「ジュゲムちゃまの大好きなあんぱんですからね。」
「わあい!」
ジュゲムと呼ばれたのは、この家の主であるナオキヴィッチ・イーリエ公爵とその妻コトリーナの間に生まれた、今年2歳になる一人息子である。
「もうすぐお父様がお戻りですから、そしたら食べましょうね。」
「とうたまが帰ったらね!」
父親のことは「とうたま」、母親のことは「かあたま」、ノーリー夫人のことは「ばばたま」、モッティのことは「モッたん」、そしてこの家の執事のシップのことは口がまわらないので「チップたん」とジュゲムは呼んでいた。

「やあ、いい匂いだね。これはあんぱんかな?」
そこへやってきたのは、すっかりイーリエ家に入り浸っているウェスト男爵であった。
「まあ、男爵様。ごきげんよう。」
ちょうど洗濯物を取り込んできたコトリーナが笑顔で男爵を出迎える。
「あ、エロたんだ!」
「エロたん…その呼び方、何とかならないかい?」
男爵はジュゲムに引きつった笑顔を見せる。
「とうたまが言った!」
「ナオキヴィッチのやつめ…。」
コトリーナは何とかして男爵様と呼ぶよう、ジュゲムに教えようとした。が、ナオキヴィッチが、
「そんな高貴な呼び方、必要ない。あんなエロ男爵に。」
と否定したのである。
「エロ…たん?」
それを聞きかじったジュゲムが発した声にナオキヴィッチが、
「そうそう。エロたんだ。エロたんでいいぞ、ジュゲム。」
と教え込んだのである。

「ジュゲムちゃん、ご挨拶は?」
母に促されジュゲムは、
「エロたん、こんにちは。」
とペコリと頭を下げた。


「ジュゲム、おさるたんと遊んでくる!」
挨拶を済ませるとジュゲムは居間のソファに座って、お気に入りのサルのぬいぐるみと遊び始めた。
「サル好きは父親譲りかねえ?」
その様子を眺めながら男爵が言うと、モッティとシップは「うん、うん」と頷いた。
数あるぬいぐるみの中からジュゲムが選んだのは、サルのぬいぐるみであった。
「でもどうしてエプロンつけているのかしら?」
そしてそのサルのぬいぐるみにジュゲムはエプロンを着せているのだった。

「ジュゲムさあ。」
サルのぬいぐるみを抱いているジュゲムの傍に、男爵は近寄った。
「何でおさるたんにエプロン着せているの?」
「とうたま!」
「とうたま?とうたまが着せたのかい?」
「うん!」
「ふうん。ナオキヴィッチの奴、変な趣味だなあ。」
男爵はジュゲムからぬいぐるみを取り上げ、そのおでこをツンツンと突いた。
「ジュゲムのおさるたん、ツンツンだめ!」
ジュゲムは背伸びして両手を出した。
「ジュゲム、届くかなあ?」
男爵は大人げなく更に高い所にサルを持ち上げる。
「やーん!ジュゲムのおさるたん、返して!」
「ハハハ。」
と笑っていた男爵の手から、ひょいとサルが取り上げられた。
「あなたって人は本当にいつまでたってもしょうがない人だ。」
「ナオキヴィッチ!」
いつの間に帰ったのか、ナオキヴィッチがサルを手にして立っていた。

グリグリグリ!!

男爵の額にナオキヴィッチのステッキが炸裂した。
「痛い、痛いよ!」
額を押さえる男爵を無視し、ナオキヴィッチはサルを愛息子に返しながら、
「さ、ジュゲム。おさるたんと同じように、エロたんをツンツンとしておいたからな。」
と優しくその頭を撫でた。
「おさるたん、よかった!」
サルを愛おしそうに抱きしめるジュゲムに、ナオキヴィッチは目を細める。

「ツンツンってレベルじゃないですわよね。」
「頭に穴をあけるつもりかと思いましたよ。」
モッティとシップがヒソヒソと言葉を交わした――。



「さあさあ、皆さんがそろったところでおやつですよ。」
ノーリー夫人とコトリーナがあんぱんを運んできた。
「ジュゲムちゃん、どうぞ。」
「ありがとう、ばばたま!」
「ばばたま」と呼ばれノーリー夫人が相好崩す。
「焼き立てだから、ふうふうしましょうね。」
あんぱんを少しちぎって、コトリーナは「ふうふう」と冷ましてからジュゲムに渡した。
「おいひい!」
もごもごと口を動かすジュゲムに、大人たちの頬が緩む。
「おさるたんにも、あーん。」
ジュゲムは膝にしっかりと抱いているサルにもあんぱんを食べさせる真似をした。
「かあたま、おさるたんもおいしいって!」
「まあ、よかった!」
こうして穏やかな時間は過ぎていく――。



「…王子様が白雪姫にキスをするとその綺麗な目がぱちっと開きました…白雪姫は王子様と一緒に幸せに暮らしました。めでたしめでたし。」
ナオキヴィッチが穏やかな声で絵本を読み終えた。その傍にはサルをしっかりと抱いたジュゲムが横になっている。
「ん?ジュゲムはまだおねむじゃないのか?」
コトリーナそっくりの大きな目はまだぱっちりと開いていた。
「先生の声はとても気持ちがいいのにね。」
ジュゲムを挟んでやはり寝ているコトリーナが笑った。
「ねえ、とうたま。」
「ん?」
「どしておさるたん、エプロン?」
昼間男爵に言われたことが、ジュゲムなりに気になっていたらしい。ジュゲムはエプロンを引っ張りながら父の顔を見た。
「そうだなあ…。」
ナオキヴィッチはコトリーナの顔を見た。コトリーナはなぜかナオキヴィッチを睨んだ。
「どして?」
「うーん、おさるたんにエプロンが似合うと、とうたまは思ったんだよ。」
「ふうん。」
ジュゲムはそれ以上追及しなかった。

「さ、もう寝ような。」
「とうたま。」
またジュゲムがナオキヴィッチを見た。
「ジュゲム、ねんねするでしょ?」
「ああ。」
「そしたら、とうたまは何をしてるの?」
「ジュゲムがねんねした後?」
ナオキヴィッチはクスッと笑った。
「…とうたまも、おさるたんと仲良くしてるんだよ。」
「とうたまもおさるたん、いるの?」
ジュゲムの目が輝いた。
「ああ。とうたまにも仲良しのおさるたんがいるんだよ。そのおさるたんと遊んでいるんだ。」
ナオキヴィッチがコトリーナの顔を見る。コトリーナは「先生…」とまた睨んだ。
「ジュゲムも!ジュゲムもとうたまのおさるたんと仲良し!」
「ハハハ。」
ナオキヴィッチは笑って、ジュゲムを抱きしめた。
「とうたまのおさるたんは、恥ずかしがり屋さんなんだ。だからとうたまの前にしか出てこないんだよ。」
「はず…?」
「ジュゲムの前だといやいやしちゃうんだ。」
「なんで?ジュゲム、いじわるしないよ!」
「ハハハ。」
ナオキヴィッチは笑ってごまかした。



「もう先生は。」
ジュゲムが眠った後、コトリーナはナオキヴィッチに文句を言った。
「誰がおさるたんなの!」
「最初はサルだっただろうが。」
ナオキヴィッチはベッドから起きて、隣にある書斎へと入る。まだ寝るには早い時間だった。コトリーナも後を追いかける。
これから先は、夫婦水入らずの時間である――。



「あら?ジュゲムちゃま、お父様の真似ですか?」
翌日、絵本を読んでいるジュゲムにモッティが声をかけた。
「うん!とうたま!」
本を読むことが多いナオキヴィッチの真似をしているらしい。
「ジュゲムちゃまもお父様のようにお勉強好きになるといいですね。」
シップが付け加えた。
「あ、そうだ。」
ジュゲムはサルを膝の上に抱き上げた。
「あら?お膝に乗っけたら邪魔じゃありませんか?」
モッティが訊ねると、
「ううん。とうたまもやってるもん!」
とジュゲムは満面の笑みで答えた。

「とうたまも…。」
「やってる…。」
唖然とするモッティとシップをよそに、大喜びしたのはノーリー夫人だった。
「まあまあ!ジュゲムちゃん、それから先は?それから先は?とうたまはかあたまをどうしてるのかしら?」
「ええとねえ…ここまでしか覚えてない。」
「そんなあ!」
がっくりとするモッティとノーリー夫人だった。



「…いつの間に見ていたんだ?」
それをこっそりと見ていたナオキヴィッチは驚いていた。
「もう!先生が変なことばかり言うからよ!」
ぷりぷりと怒るコトリーナ。
「さすがにあの先は見られていないだろうな…。」
「あの先?」
「エプロンで遊んでいる所だよ。」
意地悪く笑うナオキヴィッチにコトリーナは、
「知らない!」
と顔を真っ赤にしてそっぽを向いたのである。

何はともあれ、イーリエ家の跡取り息子であるジュゲムはこうしてすくすくと育っているのだった――。



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お元気そうで良かったです

電車内で姫軍13を読んじゃったから、笑いが我慢できずに大変でした(笑)。
カラ咳でどこまでごまかせたやら・・・。
水玉さん、コメディの天才だわっ。
そして私の大好きなコトリーナシリーズ!
ジュゲムちゃん、成長してるんですねぇ~♪

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ぴろりおさん、ありがとうございます。

ご心配おかけしてすみません!!

や~ちょっと色々考えごとをしていて…。
気づいたらこんなことになってました!
ぴろりおさんからのメールでしたらいつでも大歓迎ですよ!
…返事、すごい遅い可能性がありますが(笑)
誤字脱字というかひらがながやたら多いかもしれません(笑)

直樹スキーなぴろりおさんに萌えていただけて嬉しいです。
なかなか素敵な直樹が書けなくて…ううっ!←なんか毎回愚痴っている気がします。
ジュゲムちゃん、成長させてみました。
とりあえず親子そろってお猿フェチってところが可愛いかなあと。
「とうたま、エプロンこうしてた!」とか真似したら大変ですもんね♪

ぱぴよんさん、ありがとうございます。

笑って下さり嬉しいです♪
13話はかなりコメディタッチにしてみたので。
ジュゲムちゃん、成長させましたよ~。
口が回らないところが可愛いかなと思って書いてみました!

佑さん、ありがとうございます。

佑さんに可愛いって言ってもらえる子供を書きたくて!
嬉しいです!
そうですそうです、ジュゲムちゃんは男の子だったんです!
なんかママ大好きな男の子を書くのが私は好きなんですよね♪

名前もジュゲムでいっか(笑)
おさるたんだいすきジュゲムちゃんを、これからもよろしく♪

紀子ママさん、ありがとうございます。

自分と同じものを息子にも好きになってほしいんですよ。
ジュゲムちゃんがおさるたんをかわいがっているのを見て、一番喜んでいるのはとうたまのはずです♪
たとえ変な趣味であろうと(笑)

アンケートありがとうございます!
そろそろ締め切らないといけないなあと思いつつ、まだできずにいるという…。
私も久々に君がためを読み返して、なかなか面白いなと自画自賛しておりました(笑)
月読みも読み返してみようかな…あれはかなり苦心して書いていた覚えがあります。

ぷりんさん、ありがとうございます。

ご心配おかけしてすみません!元気です~!!
軍師直樹、かっこいい直樹を書くと目指し始めてはやどれほどか…かっこいいというおほめをいただくのは本当に少数なので、もうぷりんさんの感想が嬉しいです!

ジュゲムちゃん、あっというまに二歳です。
これからどんどんおしゃべりしていくんでしょうね。
とうたまとかあたまも気が抜けないでしょう(笑)
プロフィール

水玉

Author:水玉
『イタズラなkiss』のほかには『ゴルゴ13』が好きです☆
多数あるイタキスの二次小説の中で邪魔することなく、ひっそりとマイペースで我が道をゆきつつ生息しております。
そっと見守っていただけたら嬉しいです。

※当ブログに掲載されている文章及びイラストの無断転載・使用はご遠慮下さい。

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このブログについてのお願い
当ブログは、『イタズラなkiss』の二次創作をメインとしておりますが、時折管理人の趣味や日々の出来事についての記事も書いております。

原作者様や関係各位とは一切関係ありません。

二次創作については、いわゆる原作の隙間をぬった作品もありますが、主人公以外のキャラクターをメインとしたものや オリジナルキャラクターが出てくるものもございます。

そして、原作と違った時代(平安や明治やその他の時代を舞台にしております)、異なる設定(主人公を医者と看護師じゃない職業にしております)で書いてあるものが多いですが、原作を冒涜しているつもりは全くございません。

二次創作が苦手という方及び原作のイメージと合わないと思われる方はどうぞお引き取り下さいますようお願いいたします。

コメント及びメールなどでの苦情及び批判は公開、非公開を問わず、私へ告げることはご遠慮いただけますよう、お願い申し上げます。

このブログ及び掲載されている話が嫌いだと思われたら、黙ってあなた様の中から、このサイトの存在を消去していただけますよう、お願い申し上げます。

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