日々草子 姫と軍師 13

2012.06.30 (Sat)

姫と軍師 13

スマホの音声検索で最初に検索したのはなぜか「ヴィクトリア女王」でした…。
ちゃんと一発で認識されて「ああ、これで滑舌悪い芸人の仲間入りはしなくてすむ」と喜んだものです。

少しの間ご無沙汰してしまい、すみませんでした。
私も母も元気ですので!
ご心配おかけしてしまい、申し訳ございませんでした。







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さて、計画通り西垣軍の船を全てつなぐことに成功したのはよいが船津にはまだ心配していることがあった。
この計画は西垣軍の船を全てつなぎ、鴨狩軍が火をつけるというものであった。しかしただ火をつけただけでは巨大な西垣軍に痛手を負わせることは無理である。

「風を起こす?」
計画の仕上げとして直樹が船津へ申し出たのは、とある日に風を起こして見せるので、それに乗じて火をつけるようにといったものだった。
「んなバカな。そんなことできるわけがないじゃないか。」
現実主義の船津は呪いの類は一切信用しない。直樹が風を起こすなどと鼻で笑った。
「しかし、船津様。入江殿は十万本の矢を集めた方ですぞ。」
家臣たちはあの直樹ならばそんなことも平気でするのではと、本気にしている。
「ふん、おもしろくない。」
直樹が一目置かれている状況を船津は面白く思っていなかった。そして面白くないのはそれだけではなかった。
船津の妻が日を追うごとに、直樹へ夢中になっていくのである。やれ今日はどこそこで姿を見かけただのと近所の妻女たちと共に騒ぎまくっている。それが船津には腹立たしい。
このままではいいところは全て直樹に持って行かれてしまう。
そこで船津はある決意をした――。



「風を起こすってどうやるのですか?」
案の定やってきた琴子たちの前に、直樹は衣装を一揃え出した。
「これを桔梗、お前に着てもらう。」
それは巫女の衣装だった。
「祭壇を作り、その上でお前に祈ってもらう。」
「祈るって、軍師様、私はそんな力持ってませんよ!」
桔梗はブンブンと手を振った。
「それは俺もそう思う。お前の謎は性別だけだってことは知っているし。」
「はあ。」
「そもそも人間が風を起こすなんてできるわけない。」
「じゃあどうするのですか?」
「風は起こせないが、起きる日を予測することはできる。それに合わせて演技、まあ踊りでも踊ってくれればいい。そうすりゃあのボンクラ船津は簡単に信じる。」
「踊り…。」
「巫女の格好をした方がよりそれらしく見えるだろ?」
直樹はまるで面白い遊びを思いついたかのように、楽しげに笑った。

「それ、私がやります!」
巫女の衣装を広げていた琴子が直樹に言った。
「え?」
直樹、桔梗、裕樹が琴子を見る。
「私がやります!だって演技なんでしょう?だったら私にもできますよ!」
目を輝かせている琴子に、直樹は眉をひそめた。
「演技は演技ですが…。」
「踊りでしたら私も踊れます。」
琴子は巫女の衣装を自分の体に合わせ体を揺らしてみせた。
「姫、お遊びじゃないのですよ。」
「分かっていますとも。」
琴子は顔を引き締めた。
「でも桔梗と裕樹殿はこの間、西垣の所に乗り込んで一仕事してくれました。私だけ何もしていないんですもの。私だって軍師様のお役に立ちたいです!」
「俺の役に立ちたい?」
直樹の顔つきが変わった。
「え?あ、いえ…。」
琴子は狼狽し言い直した。
「ごめんなさい。いえ、もちろん国やそこで待っている家臣たち、民のために役に立ちたいんです。」

こうして琴子が必死で頼み込んだ甲斐あってというか、直樹が折れたことにより巫女役は琴子が勤めることになった。



「はあ…。」
一人部屋に戻った琴子は溜息をついた。
姫たる自分が常に考えねばならないことは国、そこで待つ家臣や民たちのことなのに、あそこで直樹のためにと口走ってしまった。直樹の表情が変わったことから、慌てて言い直したのだが。
「軍師様、怒っていらっしゃらなければいいけどな。」
琴子はしゅんとなってしまった。


そして直樹も庭で思いをめぐらせていた。
あの時琴子が「軍師様のために」と言った時、思わず耳を疑った。しかし琴子はその後、すぐに訂正してしまった。おそらく単純な言い間違いだったのだろう。
「俺のことを優先して考えてくれていると思ったんだが…。」
直樹は自分でも驚くくらい、先程の琴子の態度に落胆していたのだった。



あれよあれよという間に、風が吹く予定の日がやってきた。
川沿いには見事な祭壇が設置されている。船津が自分の威信をかけて作らせたのだった。
そしてその祭壇の周りには船津が兵たちを配置していた。

「大丈夫ですか?」
声を潜め直樹は琴子に訊ねた。その琴子は巫女の衣装に身を包み、口を布で覆っており目だけが見えている状態だった。万が一、姫とばれたらという直樹の予防策である。
「大丈夫ですけれど…緊張してます。」
これほど大掛かりなものだったとは。琴子は足がすくんでしまう。
「とりあえず適当に踊ればいいので。」
「適当に…。」
「大丈夫です。俺がここでちゃんと見てますから。他の奴らは芋だと思えばいいです。」
直樹は琴子の目を見て言った。それを聞いて琴子も緊張が解けていく。



「…いかにも怪しい奴を連れてきたな、入江は。」
直樹と琴子が打ち合わせをしている様子を見て、船津は渋い顔をしていた。
「あんな奴と知り合いだなんて、やはりおかしい。」
だがまずは風を起こしてもらわないと。そうしないと作戦が完了しない。



琴子はゆっくりと祭壇へ上がった。下を見るとめまいを起こしそうになるので見ないようにする。目の端にチラリと直樹の姿を確認すると両手を天へ突きあげた――。



「何だ、あれは?」
祭壇の上で舞う琴子を見て、船津達鴨狩軍は息を呑んだ。
「何という怪しい踊り…あれこそ呪いそのもの。」
「確かに。あのような不気味な踊りは見たことがありません。」
祭壇の上で懸命に踊る琴子を見て、船津達はつぶやいた。
そしてそれは直樹も同様だった。
「ある意味、何かを起こしそうだな。」
そんな声が聞こえることのない琴子は、体の全てを使い大きく動き続けている。
両手を大きく動かしたかと思うと首を上下に振ったり、足を高く上げたりとせわしない琴子の踊り。
「クエーッ!!」
踊りながら琴子の口から変な悲鳴が発せられ、下にいる人間は皆ビクッと体を震わせた。
「な、何だ。あれは?」
「呪いの言葉か?」
皆が口にした時だった。
風が突然吹いたのである。
そして琴子は踊り続ける。すると風はどんどん強くなってきた。

「東南の風だ!」
船津が叫んだ。風向きは船津達が望んだものだった。
そして船津は兵たちに命じる。
「捕えろ!あの怪しい巫女と入江を捕えろ!!」
こんな怪しいことをしてのける巫女、そしてそれを知っている直樹は危険人物に他ならない。
ここで捕まえないと後々、鴨狩家、そして船津の妻へ災難をもたらすに違いない。
船津はかねてよりこの儀式が終わった後直樹を捕まえるつもりだった。
しかし――。

「いない!?入江が!?」
兵たちは手ぶらで戻ってきた。船津は祭壇を見上げる。そこにあの怪しい巫女の姿はなかった。
「おのれ、入江!!」
船津は血相を変えた。



その頃、直樹は琴子の手を引き走っていた。風が吹いたことに夢中になっている船津たちの目を盗み、琴子を連れ出したのである。もちろん、船津が自分をどうこうしようとしていることが分かっていたからだった。

「兄上!」
「軍師様、姫様!」
少し離れた場所の川辺で、裕樹と桔梗が船を用意して待っていた。すぐに鴨狩の領地から逃げられるようにと直樹が命じて用意させていたのである。
「姫、あと少しです!」
「は、はい!」
頑張って琴子は走っているが、裾の長い巫女の衣装で足がもつれ気味である。

「待て、入江!!」
船津たちが追いかけてきた。そして船津は琴子のひらひらとした衣装の端を捕まえた。
「まずはお前から捕まえる!!」
「キャーッ!!」
琴子が悲鳴を上げた。が、船津は容赦なく刀を琴子へおろそうとした。

ガシッ!!

「な、何?」
船津の刀は直樹の扇で止められていた。直樹は琴子の体を自分の背後へと隠す。
船津は刀に力を入れるが、なぜか扇はびくともしない。

「…戯れがすぎるぞ、船津。」
直樹が怒りに燃えた目を船津へ向ける。船津は歯ぎしりをした。
「お前、恩を仇で返すってことか?」
「だ、だけど…お前を生かしておくと…。」
「…くだらない嫉妬をする暇があったら、さっさと西垣へ突入しろ!」
直樹は素早い動作で扇を上へと動かした。すると船津の手から刀が跳ね上がり地面へと落ちた。
怯んだ船津の前で、直樹はサッと袖を大きく翻した。
「うっぷ!」
袖で顔を払われ船津が目をつぶる。その隙に琴子を抱え直樹は桔梗と裕樹が待つ船へと乗り込んだ。二人が乗り込むとすぐに船は岸を離れた。

「待て、入江!!」
船津達はざぶざぶと川へ入ったが、船はかなりの速度で遠ざかっていく。
船の端に直樹は立ち、船津達を見て叫んだ。
「さっさと戦え!負けたらお前は永遠に“俺の次の男”だぞ!!」
「俺の次の男」という部分を直樹は殊更強調した。すると直樹の背後から「次の男、次の男」という合唱が起きる。琴子たち三人によるものである。
「それでいいのか!鴨狩の軍師は永遠に“二番手”だな!!」
そしてまた「二番手」というところを直樹は強調する。そして直樹はその後ろに回した手で合図すると、またもや背後から「二番、二番」という合唱が起こった。
「俺は二番じゃない!!」
「そうかあ?」
直樹はニヤリと笑った。
「ああ、そうか。相原、西垣に次ぐ三番手か。悪い悪い。三番だったな。」
すかさず「三番、三番」という合唱が起きる。
「三番でもない!!見てろ、入江!!すぐに西垣などめちゃめちゃにしてやる!!」
「そうでないと、この俺が骨を折った甲斐がないからな。頑張れよ、ヘタレ軍師!」
「ヘタレ、ヘタレ」という合唱と共に、直樹たちの乗った船は船津達の視界から消えていったのだった――。



「軍師様、踊りはいかがでしたか?」
もう大丈夫というところまで来て、落ち着いた琴子が直樹に感想を求めた。
「まるで鶴が…。」
「さすが軍師様!お分かりでしたのね!」
琴子が喜んだ。
「ええ、私、鶴が大空にはばたく姿を舞ったのです。ほら、風を起こすように演じるとのことでしたので、風のって優雅に舞う鶴がぴったりだなと思って。やはりそう見えたのですね!よかった!」
「ではあの声は…?」
「あれは鶴が空に恋する気持ちを表現してみました!」
「恋する…ですか。」
「まるで鶴が罠にかかってもがいているようだ」と言おうとしたのだったが。あんな声を出されたら実る恋も実らないのではと思ったが、琴子がいい方へ解釈しているようなので直樹は放っておくことにした。



「兄上…。」
船の中で景色にはしゃぐ女たちをそのままに、風に当たっている直樹の元に裕樹が近づいてきた。
「お前が姫についてきたのは、違う目的があったのだろ?」
「え?」
顔色を変える弟に、直樹は優しく微笑んだ。
「…父上から俺への伝言があるのではないか?」
裕樹は船の中を見た。琴子たちは相変わらず景色にはしゃいでいる。
「あの…でも…。」
「当ててやろうか。」
言いよどむ裕樹から直樹は目をそらし、周りの景色を見た。
「いえ…お分かりでしたら。それに兄上がそんなこと、あるわけないと僕は思うし。」
直樹は内心、助かったと思った。そんなこと、いくら可愛い弟の前でも口にはしたくなかった。

父重樹はおそらく、直樹にこう言いたかったに違いない。

―― いくら姫がお前を信頼しているからといっても、お前は臣下の立場。いずれはそれなりの名家から婿を迎えることになるのだから、決して変な気持ちを抱かないように。姫がお前を信頼する気持ちを誤解しないように。

そんなこと言われなくとも分かっている――直樹は心の中で呟いたのだった。







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 |  2012.06.30(Sat) 15:12 |   |  【コメント編集】

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 |  2012.06.30(Sat) 17:37 |   |  【コメント編集】

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 |  2012.06.30(Sat) 21:20 |   |  【コメント編集】

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 |  2012.06.30(Sat) 21:22 |   |  【コメント編集】

更新ありがとうございます♪

こんにちは(ペコリ)
季節の変化に体調がついていかないのでは・・・と、心配していました

 琴子姫の踊りには笑わせて頂きました♪
呪いそのものと言われ、直樹軍師様からはある意味何かを起こしそうだと言われ、雄叫びまで(アハハ笑)可笑しくて涙が出るわぁ~♪
それが鶴の舞だったとは・・(ブッハハハ笑)
ゴメンナサイ・・琴子姫・・・(ツボにはまった笑)
 父重樹からの伝言・・はぁ~
続きを楽しみにしてます♪

   お母様お大事に......   御身体ご自愛ください(^^)
メル |  2012.07.01(Sun) 10:00 |  URL |  【コメント編集】

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 |  2012.07.02(Mon) 11:07 |   |  【コメント編集】

あけみさん、ありがとうございます。

12から続けてのコメントありがとうございます。
すみません、お待たせしちゃって!
今回はお笑い要素入れてみました(笑)
やっぱり完全シリアスは書けないらしいです。
まさかの重樹からの妨害?に、入江くんはまたもや気持ちにストップかけそうな勢いです。
水玉 |  2012.07.02(Mon) 15:01 |  URL |  【コメント編集】

メルさん、ありがとうございます。

ありがとうございます。
本当に季節の変化に体調、やっとの感じです。
メルさんも気をつけて下さいね。

姫の踊り、最初は誰に踊らせようか迷ったのですが…ここはコメディ要素にしてみようと思って。
雄叫びまでするんですから、かなりの演技派といおうか…(笑)
そこが可愛いところでもあるんですけれどね。
母の事も気遣って下さり、ありがとうございます♪
水玉 |  2012.07.02(Mon) 15:03 |  URL |  【コメント編集】

YKママさん、ありがとうございます。

すみません、ご心配おかけして!
大丈夫です。二人とも元気にしておりますよ~♪
続き、ぜひとも楽しんで下さいね♪
水玉 |  2012.07.02(Mon) 15:04 |  URL |  【コメント編集】

りんさん、ありがとうございます。

ええ!!それは大変!!
いやいや占いのせいにしたらだめですよ!どんどん暗くなっちゃいますよ~。
私も気をつけてますもん。そんなの忘れて忘れて!
悪い方向に考えてしまうのですが、なんとか明るく考えようと努力しています!
りんさんも落ち込まないで下さいね!
水玉 |  2012.07.02(Mon) 15:05 |  URL |  【コメント編集】

佑さん、ありがとうございます。

12から続けてのコメントありがとうございます。
お~佑さんに気長になんて言わせてしまった!!
すみません!!
入江くんの「2番」の連呼は私も原作で好きなところなんですよ。ちょっと嫉妬してますしね。
琴子ちゃんのダンスは本当に可愛いですよね。本人が一生懸命な分!
水玉 |  2012.07.02(Mon) 15:07 |  URL |  【コメント編集】

紀子ママさん、ありがとうございます。

12からの連続のコメントありがとうございます。
え~あの写真で元気でましたよ!色々考えてて更新がご無沙汰になってしまいました^^;すみません!
あのガプスは待ち受けにしたいくらいだったわ~♪
「王女の男」、NHKのプッシュぶりがすごいですね。
でもやっぱり時代劇はおっさんであふれないと!私は気付きました。時代劇にイケメンは不要なんだと!(笑)
おっさんであればあるほど、私の中では盛り上がるらしい(笑)

水玉 |  2012.07.02(Mon) 15:09 |  URL |  【コメント編集】

おばちゃんさん、ありがとうございます。

ご心配おかけしてすみません!
大丈夫です、元気です!

いつもの言葉が何よりうれしいです。
ありがとうございます♪
水玉 |  2012.07.02(Mon) 15:09 |  URL |  【コメント編集】

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