日々草子 姫と軍師 11

姫と軍師 11

このあたりから「ああ、読んだ(見た)ことあるぞ!」という方もいらっしゃるのでは?
あの物語の名場面をイタキス風にアレンジしてみました♪








鴨狩家はとんとん拍子に相原家と手を組み、西垣を倒すということが決まった。
元々当主の啓太は家督を継いだばかり、自分の力がいかほどか試したくてうずうずしていたから西垣と戦うことは賛成だった。そこへ船津があの迫力で「西垣と戦う」と喚きまくったのだから他の家臣たちも同意したというところらしい。

こうして鴨狩家と西垣家の戦いの火ぶたは、今まさに切って落とされようとしていた。

一方、表立って関係のない相原家側の直樹は安心して琴子たちを引き連れて戻れると思った。が、そうは問屋が卸さないといったところ。

「あの入江とかいう軍師、邪魔だ。」
船津は直樹に憎悪の目を向け始めたのだった。
元々船津は自分より賢い男に会ったことがなかった。性格はやや(かなり)難ありであるが、とにかく頭はいい。
「自分は三国一の軍師」と鼻高々に生きて来たところ、直樹が出現したのである。船津が一番嫌う言葉「二番手」に自分が甘んじる可能性が出て来てしまった。
それだけだったらまだしも。何とも大人げない理由もそこに加わった。

船津の愛妻までもが直樹をほめたたえたのである。
「この間、相原家からおいでの軍師様をお見かけしたのだけど、あんなに素敵な殿方は初めてだったわ。」
この愛妻、多少の情はあるとは信じたいのだが、夫に対する扱いがまこと粗略なものであった。それでも船津は惚れて惚れまくっている。堅物だの何のと言われようと、妻以外の女には目もくれない。
と、このように愛情を注いでいる妻が、あろうことか自分の目の前で一番比べられたくない男の話をしたのである。

「入江、絶対許さん!」
このままでは西垣ではなく直樹に妻を奪われるのではと、船津はいてもたってもいられなくなってしまった。
そこで当主啓太や他の重臣たちには内緒で、こっそりと直樹を消し去ろうと考えたのだった。

かといって、闇討ちだのという物騒な手段は使いたくなかった。すぐにばれるようなことはしたくない。
そこで賢い男なりに考えを出した。

「矢が足りない?」
「左様。」
鴨狩対西垣の戦いは川、水上で行われる様相であった。この日直樹は船津に「鴨狩の船団を見て感想を」と請われ、川辺までやってきていた。
そこで船津は直樹に、西垣と戦うには矢が足りないと言ったのである。

「何せ西垣はかなりの大軍。わが軍もそれなりに集めたのですが、まあ矢が足りそうもなく。」
いかにも困って困って途方に暮れているという様子を演じる船津。
「今回の戦いはどうしても矢が必要だし。」
「でしょうな。」
完全に他人事といった態度の直樹に、船津は苛立ちを感じるがかろうじて堪えて続ける。
「いかがでしょう?入江殿だったら集められるのではと。」
「何で私が?」
心底嫌そうな顔をする直樹に、これまた船津は苛立ちを覚えるがまた堪える。
「だって入江殿はここに同盟を結ぶためにおいでになった。同盟も結んだわけですし、ここはひとつ、そちらにも鴨狩家に協力する証拠のようなものをお見せしてほしいのです。」
これはなかなか上手い言い訳だと船津はほくそ笑んだ。
「証拠…。」
直樹は少し考える。

「で?いかほど必要なのです?」
「そうですねえ。少なく見積もって十万本くらいあれば。」
「十万!」
船津は内心笑った。
「で、何日で集めればよろしいのでしょう?」
直樹は眉一つ動かさず、船津へ尋ねた。
「十日くらいで集めていただければ。」
「十日…そんなに時間がかかっていいのですか?」
「はい?」
船津は笑いを引っ込めて直樹を見た。
「いえ、この危急の折りに十日もかけて矢を集めるなんて、余裕だと思って。」
「そ、それでは、入江殿はどれくらいで集められると!」
「まあ、三日でいいかな。」
「三日だあ!?」
船津はあんぐりと口を開けた。
「分かってるのですか?三日というのは三日ですよ?」
船津が三本指を立てると直樹は、
「分かってます。」
と、平然と答える。
「ならば、三日で十万本、集めてもらおうじゃないか!!」
船津は言った。
「分かった。」
直樹は頷いた。
「三日で集められなかった時は…。」
「好きにすればいい。」
これで船津は自分の勝利を確信した。三日で十万集められるわけがない。そうすれば「約束を破った」と直樹を罰することができる。そして妻は自分のすごさを見直す。



「三日で十万本!?」
屋敷に戻った直樹から話を聞いた琴子たちは、目を丸くした。
「それをお受けしたのですか?」
「はい、受けました。まああの男のくだらない浅知恵からのことだとはすぐに分かりましたし。」
ゆったりとお茶を飲む直樹。
「きっと奥方が軍師様のお顔を褒めたんですわよ!それで頭にきて、あの変てこ男は軍師様に無理難題を押し付けたんですわ!」
直樹どころか桔梗にまで全て見透かされている船津の考えだった。
「で、でも…。」
琴子は両手の指を折って何かを数え始める。
「何をされているのです?」
直樹が訊ねると、
「え?十万本でしょう?相原の土地の民や私たちが一人何本作ればいいかなって…三日で足りるかしら?」
と琴子はまた指を折って数え始める。
「できない計算はされないほうがよろしいかと。」
直樹は冷たく琴子に言い放った。
「だ、だって。」
「そもそも職人でもない人間に矢など簡単に作れませんよ。」
「だったらどうやって?」
「ここを使うんです、ここを。」
と、直樹は琴子のこめかみを指で数回つついたのだった。



そしてそれから約束の三日目の夜がやってきた。
直樹は鴨狩家で口が固いと見込んだ人間に密かに命じ、船を二十隻用意させた。それらは全て藁で包まれていた。
「ではこのことは船津殿には内緒にしておくように。」
「はい。」
口止めをした後、直樹はそのうちの一隻に乗り込んだ。そして出すように命じる。
「やれやれ…まったく鴨狩はどうしてあんな男を信頼しているんだか。」
「…本当は信頼していないんじゃありません?」
「え?」
何でここに聞こえるはずのない声がと、直樹は一人だけしかいないはずの船内を見回した。
すると隅に置かれている木箱がガタガタと揺れ始めたかと思うと、
「ぷはっ!!」
という声と共に中から琴子が出て来たのである。

「…また付いて来たのですか。」
直樹は額に手を当て、「はあ」とまたもや深い溜息をついた。
「だって、軍師様が心配で心配で。」
木箱からはい出て来た琴子は、四つん這いになって直樹の前へと歩いてきた。とても姫らしからぬその行儀。
「もしかして、西垣に自分と引き換えに矢をくれとか言うのかなと。」
「んなこと言ったら、今までやって来た事が全てだめになるでしょうが。」
「それはそうですけど、でも他に方法が…。」
直樹は方法については説明せず、話題を変える。
「それにしても、どうやって中へ入れたのです?」
「あ、それはですね。」
ニコニコと琴子は笑った。
「私は軍師様の愛妾ですので一緒に行きたいと行ったら、“ああなるほど、そういうことか”って、いとも容易く入れましたよ?」
「ああ…。」
直樹はこの船を用意させた目的は誰にも言っていなかった。そうなるときっと用意してくれた人間はこの船で直樹が(自称)愛妾としっぽりよろしくやりたいと思ったんだなと、誤解したに違いない。
「道理で誰も中を窺いに来ないわけだ。」
船を操る男たちもきっと直樹と(自称)愛妾の邪魔をしてはいけないと、遠慮しているのだろう。
「だって、愛妾ということにしておくってこの間仰ったじゃありませんか。」
琴子は自分は間違っていないと、頬を膨らませている。
「時と場合というか…ああ、面倒だからもういい。」
連れて行くしかないだろう。まさか川の中に琴子を放り投げるわけにはいかない。



「ところで、この船はどこへ向かっているのです?」
琴子はそわそわとし出した。
「そろそろ着くころか…。」
直樹は船の入り口からこっそりと外を見ると、琴子を手招きした。
「ご自分の目で確かめてごらんなさい。」
言われるがまま、琴子は外を覗いた。
「あっ!!」
思わず声を上げてしまった琴子の口を、直樹は塞いだ。

「こ、ここって。」
震える指で外を指しながら中へ戻る琴子に、直樹は言った。
「ええ、西垣の水軍の駐屯地です。」
すぐそこには多数の船が停泊していた。
直樹と琴子の船は、敵陣の傍まで来ていたのである。



「やはり西垣に矢を下さいと?」
「んなわけないでしょうが。」
直樹は船を操る人間に合図を送った。すると他の船と一緒に音を出し始める。
「こんなことしたら、西垣にばれちゃいますよっ!」
青くなる琴子に、
「それが目的なのです。」
と直樹は平然と座ったままである。



「あれは?鴨狩の船か?」
こちらは正真正銘の愛妾と戯れていたところを邪魔された西垣は、不機嫌そのものといった様子で川に目をやった。霧につつまれていてよく見えないが、確かに船が浮かんでいる。
「音を出しているってことは、勝負しろって意味か?」
せっかく手を組むことを持ちかけてやったのに、それを破棄した鴨狩にひと泡吹かせてやろうと西垣は、矢を射るように合図した。


ビュン、ビュン、ビュン!!

「きゃあっ!!」
突然船が揺れ琴子は悲鳴を上げた。しかし直樹は落ち着き払っている。
「軍師様、これじゃ沈んでしまいませんか?」
「大丈夫です。藁でしっかりと折っているのでここまでは届きません。」
中まで届かないが、大量の矢が当たる衝撃は伝わってくる。
ミシミシといったりグラグラと揺れたりと、船は落ち着かない。

「怖い!!」
琴子は自分でも気づかないうちに、直樹の袖を掴んでいた。
「…。」
頭を低くしてまるで矢から体を隠そうとしているかのような琴子の様子を直樹は黙って見ていた。

ビュン、ビュン、ビュン!!

矢は次から次へと放たれている。船も揺れ続けている。
直樹の袖を掴む琴子の手がブルブルと震えている。
直樹は俯いている琴子の肩をそっと抱き寄せた。
そして矢から守るようにその細い体を抱きしめた。そしてその美しい髪に唇を寄せる。

「…俺がついているから、大丈夫。」
言葉遣いが改まった者じゃなくなったのは、直樹が本音を口にしている証拠だった。それが琴子に聞こえたかどうかは定かではないが。

しばらく矢を受けた後、直樹は琴子に声をかけた。
「ちょっと離れますが。」
「え?」
琴子は顔を上げた。するとすぐ間近に直樹の顔があった。それはもう唇と唇が触れそうな距離だった。
「あっ…。」
途端に恥ずかしくなった琴子が顔をそらすと、直樹はそれを合図にその体から離れた。
そして外の兵たちに引き上げるよう合図をする。
「追いかけてきませんか?」
琴子が直樹に訊ねた。
「大丈夫でしょう。西垣はこんな船を負うよりも女と戯れることを優先する男ですので。」
「こんな場にまで女人を連れているのですか!」
「女なしで過ごすのは三日が限度という男ですからね。」
こうして大量の矢で覆い隠されたかのような船は、また霧の中へと消えて行った。



「…何だ、あれは?」
まだ眠気が覚めない西垣は大欠伸をしながら、引き下がって行く船を見ていた。
「追いますか?」
「いや、いい。」
そんなことで時間を取るより、わざわざ戦いの場まで連れて来た愛妾とまた布団に潜りたかった。
「まったく、こんな所、女なしじゃとてもいられないね。」
案の定直樹の思惑どおり、西垣は船を追うことはなかったのだった。



「これは…。」
翌朝、集められた矢を前に船津は歯ぎしりをした。

「お約束の矢は十万本でしたが、それ以上あるでしょう。」
直樹はそれだけ告げると、さっさと下がった。

「くそっ、入江の奴!!くそっ!!」
船津が地団駄踏むのが分かったが、相手にする気もなかった。

誰もいない所まで来て、直樹は足を止めた。
そして両手をじっと見つめる。
まだ琴子の体の温もりがそこに残っているかのようである。
直樹は最近、自分の立場を忘れそうになることに気づいていた。
「西垣みたいに外聞構わず好きなように振る舞えたら…。」
そこまで考えて、直樹はフッと笑った。
「何を俺は考えているのだ。俺は軍師、あの人は…。」
主家の姫なのだと、直樹は何度も自分に言い聞かせたのだった――。



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水玉さん、こんばんは♪

今回改めて敵を知ることが一番の戦法になることを軍師様から教わりまいした!!
まあ、船津が入江軍師と渡り合おうというのは、初めっから無理だろうけれど。。。
西垣の女好きが軍師の作戦に加勢し、
計算しつくされた船の位置・藁に放たれた矢。
ビュン、ビュン、ビュン!!~なんと十万本以上!!!
後に、名軍師としてその名を馳せることになる逸話の一つなのでしょうね。
ブルブルと震えている琴子姫、入江軍師、姫への愛おしさについ本音。。。姫と軍師ではなく、琴子ちゃんと入江くんになるのね。

「何を俺は考えているのだ。俺は軍師、あの人は…。」
きゃ~~!!!
美しい軍師様の独り言~~切ない恋をしている軍師様。
今どんな目をされているのでしょうか???

☆~お話の行方~~楽しみにしております!
更新ありがとうございました。

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プロフィール

水玉

Author:水玉
『イタズラなkiss』のほかには『ゴルゴ13』が好きです☆
多数あるイタキスの二次小説の中で邪魔することなく、ひっそりとマイペースで我が道をゆきつつ生息しております。
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当ブログは、『イタズラなkiss』の二次創作をメインとしておりますが、時折管理人の趣味や日々の出来事についての記事も書いております。

原作者様や関係各位とは一切関係ありません。

二次創作については、いわゆる原作の隙間をぬった作品もありますが、主人公以外のキャラクターをメインとしたものや オリジナルキャラクターが出てくるものもございます。

そして、原作と違った時代(平安や明治やその他の時代を舞台にしております)、異なる設定(主人公を医者と看護師じゃない職業にしております)で書いてあるものが多いですが、原作を冒涜しているつもりは全くございません。

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