日々草子 姫と軍師 10

姫と軍師 10

いつまで続くんだ~と思われている方、多いでしょうね(汗)
す、すみません!!まだしばらく続きます…。





しかし、直樹の手はそれ以上琴子の中で動かなかった。
「…行ったか。」
「え?」
直樹は手を引っ込めた。琴子は拍子抜けする。

「そこに、人がいたのです。」
暗闇に包まれた庭を顎で示しながら、直樹は話した。
「人?」
「ええ。おそらく鴨狩家の船津が私について調べるためにこっそりと入れてきたのでしょう。」
「船津?」
「鴨狩家の家臣です。私が何を企んでいるか気になったのでしょう。」
「では軍師様はそれを知って、お芝居を?」
「はい。」
直樹は頷いた。
「ここに相原家の姫がいることがばれたら、大変ですからね。ただでさえ、女を家に入れているということで目をつけているでしょうし。」
「…なぜ、あのようなことを?」
「家に入れる女といえば、ただの侍女じゃなく情をかけた女と思うでしょうから。そうなるとその証拠を示した方がいいかと。」
「証拠…。」
琴子の複雑な胸中に気づくことなく、直樹は「ご無礼をお許し下さい」と謝った。



それが功を奏したのか、しばらく直樹の元は静かだった。
琴子もだいぶ、家事に慣れてきたようである。

「姫は最近どうしている?」
直樹は裕樹に訊ねた。
「なかなか楽しんでいるようですけどね。桔梗さんと市場へ買い物へ行ったり。」
「そうか。ばれた様子はないんだな?」
「ばれるどころか。」
裕樹は半分呆れながら言った。
「すっかり馴染んでしまって。今では近所の女房たちと世間話までするようになってますよ。誰も姫とは疑わないでしょうね。」
琴子の人懐っこい性格がどうやらいい方向へ進んでいるらしかった。
「それより、兄上。鴨狩家との間は?」
「先程使いが来て船津が自ら、俺に会いにくるらしい。」
兄弟がそこまで話した時、「ただいま」という明るい声が聞こえた。

「え?船津殿がここにいらっしゃるんですか?」
「はい。明日に。」
「まあ。」
それがどんなに大事な会談になるかは、琴子にもよく分かっている。
「船津殿といえば、お嬢様。」
やはり「琴子」と名前で呼ぶのは気が引けるのか、最近の桔梗は「お嬢様」と呼ぶようになっていた。
「ほら、お嬢様がお聞きになったあの話。」
「ああ!あれね!」
どうやら琴子たちは井戸端会議で何か仕入れてきたらしい。

「船津殿って、とっても御妻女を大事にされているんですって。」
「船津は妻帯しているのですか。」
直樹は初耳だった。
「ええ。それはもう、掌中の珠という感じで。」
「へえ。」
「先程、市場の帰りに御妻女、真里奈様をお見かけしたんですよ。」
琴子と桔梗が「ね」と顔を合わせる。
「別に妻を見たからって…。」
それが何になると言いたげな裕樹を、直樹は手で制した。
「どのような女人でしたか?」
「どうって…こう、ボン、キュッ、パッって感じ。」
琴子が両手で船津の妻の体型をなぞった。
「つまり姫とは正反対の体つきと?」
「正反対…ええ…まあ…そういうことに…。」
琴子は口を尖らすが、直樹は気にも留めない。
「軍師様は、そういう方がお好きなのかしら?」
訊ねたいが、訊ねることができない琴子だった。



そして、船津が直樹の元へやってきた。

「どんな人?」
「何か神経質そうな人ですねえ。」
琴子と桔梗、裕樹は戸の隙間から中を伺う。
「うちの軍師様の方が素敵よね。」
「勿論ですとも!」
「…外見で勝負が決まるわけでもないし。」
裕樹が冷たい目を向けても、琴子たちの口は止まらない。

「お嬢様、目をこうやって細くしたら船津様も男前に見えます。」
桔梗が目を糸のように細くすると、
「どれどれ…あら、ましに見えるわね。」
と、琴子も同様に目を糸のように細くする。
「ったく、何を馬鹿なことを。」
そう言いながらも、裕樹も目を細くしてしまう。

「あいつらは何を一体…。」
直樹の方からは三人の様子が見えていた。

「入江殿。」
船津が力を入れて直樹を呼んだ。
「…ということで、鴨狩家は相原家と同盟を結ばないということで。」
船津は相原より西垣と手を結んだ方が有利だと考えたと、説明した。

「そんなっ!!」
思わず声を上げそうになった琴子だが、何とかそれを押しとどめた。


「…。」
直樹は冷静なままだった。懐からゆっくりと扇子を出して広げる。
「お分かりいただけましたか?」
船津の方が逆に焦っているようである。
「まあ、それもいいかもしれませぬな。」
直樹の態度に、船津は目を丸くした。てっきりここは何としてでもと、直樹が懇願してくると思っていたのである。
「西垣にいいようにこき使われる、それもよいでしょう。」
「こ、こき使われる?」
「左様。西垣に顎で鴨狩の殿は使われる。」
「そのようなことはっ!!」
船津が怒った。しかし直樹は全く表情を変えない。むしろ笑みすら浮かべている。
「西垣に女がほしいと言われれば、それを懸命に探して献上。そうそう、この国にも西垣が狙っている女がいるそうで。まずはその女を西垣に献上すれば一安心というところでしょう。」
直樹は口元を扇子で隠した。やはりそこには微笑みが浮かんでいる。

「女?」
「この国には、真里奈という名前の色っぽい女がおるそうですな。その真里奈の体は西垣の好みに見事はまっているとか。その女を献上すればよろしいでしょう。西垣は大喜びで鴨狩と同盟を結ぶでしょうな。」
「な…に?」
船津の顔色が青ざめていく。握った拳はブルブルと震えている。
「いいじゃありませんか。女一人で国の平和が保たれるのです。女だって西垣の側女になれるのですから…。」
「ふざけるなあっ!!!」
船津の声は屋敷の戸を突き破るかのような大きなもので、隠れていた琴子たちはびくっと体を震わせた。

「何が、何が献上だ!!」
「どうされました?」
「真里奈は…真里奈は僕の妻だあ!!!」
「おや、そうでしたか!」
直樹はわざとらしく目を大きく開き、驚いた様子を作った。
「真里奈は僕の妻だ!!何が体が好みだ!!僕以外の男に触らせるなんてふざけるなあ!!」
「それは、それは、大変失礼を。」
直樹はこれまたわざとらしく謝った。
「ふざけるな、西垣!女なら誰でも奪っていいなんて思うんじゃない!!」
船津は傍の柱に頭をぶつけ始めた。ゴンゴンと鈍い音が部屋に響く。
「真里奈は渡さん!!」

「…何、あの人?」
「すごい豹変ぶり…。」
船津の変わり様に琴子と桔梗も青くなっていた。
「だけど驚くのは…あれを前にしても兄上が全く動じていないことだ。」
裕樹の台詞に琴子たちは「確かに」と頷く。柱を頭にぶつけ続けている船津を、直樹はこれまた平然と見ているのである。
その昔、とある国に『美周郎』とあだ名される美しい武将がいた。「美しい周家の若様」という意味である。これをもじって船津は『危船郎』とあだ名されていた。「危ない船津さんちの若様」いう意味である。直樹はこのあだ名を知っていたので、船津の奇行をこうして目にしても驚かなかったのだった。

「入江殿!!」
額に血をにじませて、船津は直樹に詰め寄った。
「同盟だ!!共に西垣を倒そう!!」
「…それは願ってもないこと。」
直樹はニヤリと笑った。
「妻は誰にも渡さん!今からすぐに殿へ奏上いたしますれば!これにて失礼!」
来た時とは全く違う態度で、船津は屋敷を出て行ったのであった。



「軍師様、西垣が船津殿の御妻女を狙っているというのは本当ですか?」
「さあ?」
船津が帰った後、琴子が訊ねると直樹は意地悪く笑った。
「しかし時には嘘も必要です。」
「そうですか…。」
心配する琴子に、直樹は言った。
「…姫が仕入れてこられた噂のおかげで、話がまとまりました。」
「え?」
「姫が船津の妻についていろいろ仕入れてこなかったら、こうはなりませんでした。」
琴子が淹れたお茶を直樹はおいしそうに飲む。
「では…私が軍師様のお役に立ったのですか?」
「ええ。」
それを聞き、琴子は笑顔を輝かせた。やっと直樹の役に立てたのである。

「でも、船津様は本当に御妻女を愛されておいでなのですね。」
お茶のお代りを淹れながら、琴子は言った。桔梗と裕樹はそれぞれの仕事に戻っており、この部屋には直樹と琴子だけしかいない。
「御妻女を守るために戦をするなんて。」
「まあ、あれは少々度が行き過ぎているようですけれどね。」
「軍師様?」
琴子は直樹の顔を見た。
「何でしょうか?」
「軍師様も…戦をしてまで守りたいと思う方がいらっしゃいますか?」
ドキドキしながら琴子は直樹に訊ねた。
直樹はお茶を飲み、茶碗を置いた。それでも口を開かない。

「…愚問ですな。」
「え?」
ようやく口を開いた直樹に、琴子が聞き返す。
「愚問だと申し上げました。」
「愚問…。」
「軍師たる者、私情で戦を動かすなどもってのほか。愚かなことです。」
「そう…ですか。」
「私は部屋で書物を読みます。」
「は、はい。」
直樹は静かに琴子の前から去って行った。

「愚問、か。」
一人残された琴子は、直樹の返事に安堵半分、失望半分といったところだった。
あそこで「います」と答えられたらそれは誰なのかと気になって仕方がなかっただろう。その相手を聞けるほどの勇気は琴子にはない。
「いない」と言われたら、それはそれで自分は対象外かとがっかりしただろう。
「当然よね。軍師様は相原家のために頑張って下さるんだもの。」
自分の愚かさを琴子は恥じたのだった。



「愚問だ…。」
机に向かった直樹だが、目は書物を追っていなかった。
あそこで何と答えればよかったのだろうか。
「いる」と答えて相手は誰かと問い詰められたら?直樹にはその名前を答える勇気はなかった。

悶々とする二人の夜が更けていくところで、次回に続く。

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水玉さん、こんばんは♪

軍師入江くんの、
“問題はその者をどう扱うかだった。”
の答えを琴子ちゃんが見つけてくれたようなものなのね!
船津の弱点“掌中の珠真里奈”
~船津あいかわらずだけど幸せそうで何よりです^^♪
あいかわらずの船津を利用し扇子で隠した口元だけは軍師の本音!
作戦成功!
~でもこの軍師の話ガッキーなら有り得ますよね!(笑)
側女人数制限なし!いつでもどこでも側女ウエルカムでしょっ!(笑)

戦をしてまで守りたい思い人。。。
答える勇気が無いって。。。悶々とする軍師様素敵!!
キュン(年齢制限なしとのお言葉に甘え~キュン♥)
『相原』『西垣』『鴨狩』のこれからの戦は?
軍琴子姫と入江軍師のこれからは???
~引き続き楽しませていただきます!!!
次回もよろしくお願いいたします~~♪

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佑さん、ありがとうございます。

入江くんが気持ちを抑え込んでいますからねえ…。
琴子ちゃんがかわいそうじゃなくても、どうやら佑さんをハラハラドキドキさせられたようで、私はうれしいです♪

紀子ママさん、ありがとうございます。

そうなんです、結婚しているんです。
そうしないと話にならなかったので(笑)
ある意味、船津くんはそこそこいい夫だと思うんですよね。絶対浮気しないし。
全身全霊をかけて愛してくれますし(笑)
ガッキー、体もかなり重視しそうですよね。真里奈のあの胸には興味がある気がしますよ。

あけみさん、ありがとうございます。

おそらく肌には触れなかったのではないかと(笑)
それを超えたら臣下としてまずいと踏みとどまったのではないでしょうか?
でも自分以外の男に触らせるのは絶対にいや~という気持ちになったかもしれませんね。
今回、船津くんが結婚していることに驚いた方がいて楽しかったです。

あおさん、ありがとうございます。

側女の数なんて無制限でしょうね!!城中女だらけにしたいのが本音じゃないでしょうか?
ついでに年齢制限もなさそう(笑)気に入ったら何歳だろうがウェルカムって感じがします!
というかもう、性別が女性ってだけでOKなんじゃないかと(笑)

悶々とする入江くんにまたもやきゅんとしてもらえてうれしいです。
叶わぬ恋に苦しむ入江くんも少しお届けできたらいいなと考えております。
いや、もうこれは恋でしょ、恋。
たまには入江くんにも苦しんでもらわねば!

りんさん、ありがとうございます。

ありがとうございます!!
続くけどそんなに大長編にはならないはずっ!!
りんさんのテンションを上げるお手伝いができてうれしいです!

NO TITLE

水玉さん♪
ご無沙汰です!!
久しぶりに一気に読んでみましたら
船津の光景が絵に浮かぶ!!!
素晴らしい描写に笑いまで!!!
もう私、大興奮しています。
やっぱり水玉さんはすごいやぁ~♪
よし!!続き読むぞ!!
プロフィール

水玉

Author:水玉
『イタズラなkiss』のほかには『ゴルゴ13』が好きです☆
多数あるイタキスの二次小説の中で邪魔することなく、ひっそりとマイペースで我が道をゆきつつ生息しております。
そっと見守っていただけたら嬉しいです。

※当ブログに掲載されている文章及びイラストの無断転載・使用はご遠慮下さい。

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このブログについてのお願い
当ブログは、『イタズラなkiss』の二次創作をメインとしておりますが、時折管理人の趣味や日々の出来事についての記事も書いております。

原作者様や関係各位とは一切関係ありません。

二次創作については、いわゆる原作の隙間をぬった作品もありますが、主人公以外のキャラクターをメインとしたものや オリジナルキャラクターが出てくるものもございます。

そして、原作と違った時代(平安や明治やその他の時代を舞台にしております)、異なる設定(主人公を医者と看護師じゃない職業にしております)で書いてあるものが多いですが、原作を冒涜しているつもりは全くございません。

二次創作が苦手という方及び原作のイメージと合わないと思われる方はどうぞお引き取り下さいますようお願いいたします。

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