日々草子 姫と軍師 8

姫と軍師 8

ひとりよがりになってしまってないか、ちょっと心配です…。
読んで「楽しいです」とおっしゃって下さる方が一人でもいらっしゃれば頑張れます♪






鴨狩家では、居並ぶ重臣たちが相原家からやってくる使いの者に興味津津であった。
「あの西垣の大軍の中をわずか一騎で駆け抜けたつわものとか。」
「槍を振ると蝶が舞うかのようなだったとか。」
噂をしていた時、その使者が入ってきた。

「ん?」
重臣たちは入ってきた使者を見て、それは人違いかと思った。
西垣の大軍を蹴散らしたというから、かなりの怪物かと想像していたら全然違う。
そこに現れたのは身の丈五尺の長身。さぞや筋肉隆々かと思っていたらそんなことは全くない。
そして切れ長の目に筋の通った鼻、薄い唇と見るからに賢そうな顔立ち。
何より一番重臣たちを驚かせたのは、その若さであった。

「入江直樹と申します。以後よろしくお願い申し上げます。」
直樹が丁寧に挨拶をすると、見とれていた重臣たちは我に返った。そして自分たちが驚いていたその若さに、対抗心を燃やし始めた。

「此度は当家との同盟を願われているとか。」
重臣の中の一人、初老の者が口を開いた。
「左様でございます。」
「しかし…相原家と手を結んで当家になんの利点があるか、どうもそこが分からないのだが。」
直樹が自分たちより遥かに若いことから、彼らは完全に見下し始めていた。
「左様、左様。しかもこのような大事な使者に若造を遣わすなんて、事を軽くお考えなのではなかろうか。」
その者の言葉に一斉に重臣たちは頷いた。

「入江殿、そなたはつい先日まで草深い庵にて畑を耕していたとか?」
別の者が話しかけてきた。
「できたらそのまま、畑にて大根や芋を掘っていた方がよかったのでは?」
これには重臣たちが笑い声を上げた。

「…そうでございますな。」
笑われているのに眉ひとつ上げず、直樹は口元に微笑を浮かべた。
「確かにその方がよかったかもしれませぬな。」
「ほう、ご自分でもお分かりならば…。」
「どなたかと同じように、水分が抜けしわだらけになっても、大根はうるさい口を聞きませぬし。物言わぬ大根相手の方がどれほど楽か。」
「なっ!!」
話をした重臣は、その皺だらけの顔を真っ赤にした。
直樹がチラリと彼らに目をやると、周囲の者も黙り込んでしまった。

「…入江殿、年長者を敬うということをお忘れか。」
自分たちからふっかけてきたくせにと思いながら直樹は、
「御無礼お許しを。なにぶん、畑から出てきたばかり故世間を知りませぬ。」
と切り返した。



「入江殿。」
今度は別の重臣が口を開いた。
「現在、当家は西垣家と同盟を結ぶことも考えておる。西垣という男についていかにお考えか?」
「ただの女たらし!」
直樹は言い放った。その迫力に重臣たちは口をつぐんでしまう。
「…と言いたいところですが、それだけではあるまい。」
直樹は扇子を出し広げた。
「まあ、女たらしだけであの強国を率いることはできません。ただの女たらしだったらとっくに家臣たちがその首を奪っていることでしょう。」
「では?」
「そこそこ賢い男ではありましょう。そして。」
直樹は扇子を優雅に動かしながら続けた。
「この入江直樹はその西垣を撃退した策を講じた人間であります。相原家が某を当家へお遣わしになった理由がお分かりいただけましょう?」
自信たっぷりに切れ長の目を向けられた重臣たちはまたもや何も言えなくなった。


「なるほど、自分を切れ者だというその自信はしかとわかった。」
別の重臣が出てきた。
「しかしその切れ者の入江殿がいながら、なぜゆえ相原家は城を一つ失い逃げる羽目になったのか。」
「左様。そもそも相原家は未だ姫が一人で出しゃばっていると聞く。」
重臣たちがどんどん続く。

「そもそも女が城主ということがおかしい。」
「なぜ婿でもなんでも迎えようとしないのか。」
「さては、まれに見る不細工さゆえ男に逃げられ続けているのか。」
最後の言葉に一同がどっと沸いた。
彼らの話を聞いているうちに、直樹の脳裏には琴子が足を汚してまで自分を三度も迎えに来たこと、軍議に参加して内容を理解しようと頑張っていたこと、そして赤ん坊を探すことに命をかけたことなどが次々と浮かんだ。

「いかに優れた家臣を抱えていても、それを生かしきれない主君ではどうしようもあるまい。」
「そのような者と同盟を結ぶなど笑止千万…。」
「黙られよ!!」
直樹は閉じた扇子を最初に琴子を馬鹿にした重臣につき付けた。その迫力に重臣は顔色を変えた。
「無礼ではないですか。」
「し、しかし…。」
「当家の姫ほど民の事を考え、そして民に慕われている主君はおりません。」
直樹は重臣を睨みつけたままだった。その眼力に重臣は震え始める。

「先程、某がいながらなぜ相原家は城を失ったとお尋ねになられましたな?」
扇子で片方の手を軽く叩きながら、直樹は言った。
「それは民を大事に思う姫だからこそ、できたこと。」
「何ですと?」
「民を捨てるわけにはいかないという姫のお考え、そしてその姫に絶対ついていきたいという民の考え、両方を尊重するために某が提案したことでございます。」
直樹は扇子を広げ、また優雅に扇ぎ始めた。

「確かに女が一人で城を守るなど、笑止千万と思われるでしょう。しかし姫を中心として相原家の結束は確固たるものとなっております。これほど慕われる主君がどこにおりましょうか。御存知ならば教えていただきたい。」
家臣たちは直樹に言い返せない。
「我が主君である琴子姫の強さと根性のほどは、その辺の男など太刀打ちできないものであります。失礼ながら皆様など姫の足元にも及ばないでしょう。」
直樹の声が静まった大広間へ響く。
「何より、私が仕えていることが唯一の証拠。この軍師が命をかけてお守りしている姫に向かって侮辱の言葉をまたかけたら、容赦はいたしませぬぞ。」
直樹が一同を睨みつけると、皆うなだれた。

「その方であったな?」
自分より遥かに年長である、最初に琴子を侮辱した重臣を直樹は見据えた。
「…当家の姫はその方が軽々と口にできるお方ではない。以後言葉には十分気をつけられよ。」
「くっ…。」
若造にここまで言われて悔しさが込み上げてくる。しかしこの頭脳明晰な若者に太刀打ちできる人間はこの場にはだれ1人、いなかった。



「…負けだ、負け。」
大広間に若い男の声が響いた。重臣たちが顔を上げる中、颯爽と入ってくる。
「その方たちの方が悪い。」
空いていた上座に着席したのは、鴨狩家の若き当主啓太であった。

「しかし殿。」
「しかしも何もない。客人に対して無礼を働いていたのはその方たちだ。しかも言わなくていいことまで口にして。相原の軍師殿が腹を立てるのも無理はない。」
啓太は直樹を見た。
「すまない。年をとっている分、どうしても若い者に負けたくないという思いが強すぎる。今後は良く言って聞かせるゆえ、この場は私の顔に免じて許してほしい。」
「某こそご無礼を働きました。何卒お許しを。」
直樹は素直に啓太に頭を下げた。

―― なるほど、主君の方が人間はできているらしい。
太い眉に意思の強そうな目、なかなかの顔だと直樹は思った。


「して、同盟についてだが。」
啓太は早速本題に入った。
「重臣たちも言ったと思うが、当家では戦よりも西垣と同盟を結ぶ事を考えている。」
「左様でございます。」
重臣たちが声を上げた。
「民も苦しむことになります。西垣も手を結べば鴨狩家を悪いようにはしないと。」
「何と言っても西垣は強すぎます。」

琴子を侮辱したり、直樹につまらぬ喧嘩をふっかけてきたりした重臣たちではあったが、鴨狩家と民を思う気持ちは相原家と変わらないらしいと直樹は思った。しかしここで鴨狩家と西垣家に同盟を結ばれたら困ってしまう。この二つの家を相手に戦えるほど、相原家の戦力は強いものではない。

「では…鴨狩家は西垣家の犬となられると?」
直樹はわざとそのようなことを啓太へ向かって言った。
「犬だと?」
啓太の眉がぴくりと上がる。
「左様でございます。今後は西垣に顎でこき使われることになる道を選ばれるということでしょう?」
「そのようなことはせぬ!」
啓太が声を荒げた。
「入江殿、殿に向かってあまりに無礼!」
「何たることを!」
重臣たちも怒り始める。

「ですが、いずれかはそうなりましょう。」
「西垣は当家を手厚く扱うと言っておるが?」
「そんなこと、すぐに忘れましょう。」
口元に扇子を当て、直樹は意地悪く微笑んだ。
「この鴨狩家の領土を手に入れるためには手段は選びますまい。口八丁手八丁な男ですから。」
「何…。」
啓太の拳が震えるのを、扇子の陰から直樹は見た。

―― この若さだったら、本音は屈するより戦いたいはず。

一年前に家督を継いだばかり、年齢も自分と同じほど。直樹は啓太の内心をそう見ていた。
しかし、親の代から仕えている重臣たちの声を押さえるのは苦労しているはず。

「…しばし考える。入江殿には滞在用の邸を用意したので、そこにて待たれよ。」
啓太は大広間から出て行ってしまった。



「どうしたものだろうか…。」
自室へ戻った啓太は脇息にもたれ考えていた。本心は戦いたいのだが、重臣たちの考えも分かるので強く出られずにいた。つまり直樹の見通したとおりだったのである。
「殿、このような時は亡き父上のご遺言を。」
幼い頃から仕えている傅役が啓太に言った。
「父上のご遺言?」
「はい。戦をするかどうするか、困った時に呼ぶようにと。」
「困ったときに…あの者か。」
「はい、左様でございます。今は川のほとりで水上で戦う兵たちを鍛錬しているはず。」
「そうか。」
話の流れ的には打開策を講じてくれる者の登場のようだが、啓太の顔は浮かない。
「しかし…父上はなぜ故、あの者を呼べとご遺言されたのだろうか。」
「それは私にも分かりかねますが…。」
「まあ、藁にも縋りたい気持ちではある。意見を聞いてみるだけ聞いてみるか。」
啓太はその者を呼ぶよう、使いを出すよう命じたのだった。



「あとひと押しというところだな。」
鴨狩家の領土には広くゆったりとした川が流れている。その川の向こうに沈む夕日を見ながら直樹は考えていた。
「おそらく、鴨狩の殿はあの者を呼ぶだろう。」
直樹もその者の名前は知っている。問題はその者をどう扱うかだった。

ふと、直樹は琴子のことを考えた。
あの重臣たちに琴子を侮辱された時、頭に血がのぼった。自分が愚弄されても全く気にもならなかったのに。

「あのじゃじゃ馬、今頃どうしていることやら。」
相原家を旅立ってまだ十日ほどしか経っていないというのに、直樹は琴子のあのにぎやかさが懐かしくなってきていた。

「何をお悩みなのですか。」
「いや、大したことではない。」
直樹は答えた。
「ですが眉間にしわがよっています。」
「だから大したことではないと…。」
答えかけた時、直樹は我に返った。自分は誰と会話しているのか。
直樹は声がした方を向いた。

「姫!!」
「軍師様、来ちゃいました!」
そこにはいるはずのない琴子が笑って立っていたのである。

琴子が来たらどうなるのか、そして啓太や直樹が危惧する「あの者」の正体とは?続きは次回にて。
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水玉さん、こんばんは♪

次なる展開への、序曲のような8話。
危惧する「あの者」???
どなたが登場なさるのでしょうか???
そして、どんな展開が始まるのでしょうか???
楽しみにお待ちしております!!

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こんばんは

「来ちゃいました」って、琴子姫、可愛らしすぎです。(*^^*)
まっ、軍師様の方は、思いっきり眉間に皺が寄っちゃったでしょうけどね。(笑)

さあ、次回登場の『あの者』とは、何者!?
こういうお話し、大好きです。
続き、楽しみにしております♪

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一人目

あら?やっぱり。。。
すごく楽しませて頂いていること伝わっていませんでしたか!(涙)
次回のコメントに「楽しんでいます!!!」
とお伝えしなければと思っていたところでした!!!

楽しんでいますとも!!!
いつも本当にありがとうございます!!!!!

紀子ママさん、ありがとうございます。

いい線行っている~!!
でもちょっと違うかも(笑)
啓太が血迷うってところがまた笑えました!
そうそう、この二人はまだ自分の気持ちにも気づいていない漢字ですもんね。
うふふ、韓国時代劇フェチって言われてちょっとうれしい♪

みづきさん、ありがとうございます。

このシーンは見どころの一つなので、扇をふんだんに使わせてみました!
かっこいいと言って下さって嬉しいです。
きちゃいましたも琴子姫ぽくて可愛いかなと自分でも思っているんですけれどね。
本当は来ちゃだめなんだけど(笑)

佑さん、ありがとうございます。

天然には本当、かないませんよね~。
琴子スキーの佑さんに可愛いっていってもらえると、やはりうれしいです。
まさか金ちゃんを想像されるとは!うふる、色々楽しいです♪

ぴろりおさん、ありがとうございます。

お忙しい中、ありがとうございます!
ぴろりおさんのところの入江くんみたいにかっこよく書きたいと、その一心で頑張っておりますが、私にはやはり無謀な挑戦だったかと…(笑)
直樹スキーなぴろりおさんに「やられました!」と言われるように、何とか最後まであがいてみます(笑)
本当に来ちゃだめじゃん(笑)でも琴子ちゃんに来てもらわないと、この先数話入江くんしか出てこない状態で、ますます読者様が離れていくような気がして…苦肉の策でございます(笑)
そうそう、いやらしい言葉も直樹が言うと上品に聞こえるところが魅力的ですよね!!
ぜひまた読んで下さいね!!←懇願

もぐもぐさん、ありがとうございます。

軍師様の眉間のしわはどんどん深くなっていく一方のようで(笑)
「来ちゃいました」は琴子ちゃんらしいかなと思って書いたので、可愛いと皆さんに言っていただけてうれしいです!
もぐもぐさんに楽しんでいただけるよう、頑張りますね!

あけみさん、ありがとうございます。

そうなんですよ。続きは?ってところで終わらないと続きを読んでいただけないから(笑)
雰囲気が出てると思っていただけて、うれしいです。
姫を馬鹿にする爺さんたちを一喝するシーンのために、今まで頑張ってきました!
「だめじゃないですか、軍師様。お年寄りは大事にしないと」とか本人たちの前で言う琴子姫に「年寄扱いするなあ!」とまた怒る老臣たち…なんて想像しちゃいました♪
キーパーソン、あの人です。あの人…。

あおさん、ありがとうございます。

ああ、ごめんなさいっ!!
私も後から付け加えたのでよく読み返したら…なんだか誤解を招く文章に!!
違うんですよ~。
書きながら「ちゃんと人が読んでわかる文章になってるかなあ」と不安で。自分でいくら読み返しても、自分の中では意味が分かっているから客観的になれないんですよね。
だから「もしかして意味が分からない文だったらどうしよう」と心配してたんです。
それでなくとも、今回は入江くんが敬語だったり時代背景が謎だったりで色々不安要素が多いものですから…
だから感想がいつもより心待ちにしてますって意味だったんです~。
と、このコメント返事もよく意味が分からないかも!!
あおさん、お気を遣わせて申し訳ございません。
楽しんで下さっていること、ちゃんと伝わってますからね!
プロフィール

水玉

Author:水玉
『イタズラなkiss』のほかには『ゴルゴ13』が好きです☆
多数あるイタキスの二次小説の中で邪魔することなく、ひっそりとマイペースで我が道をゆきつつ生息しております。
そっと見守っていただけたら嬉しいです。

※当ブログに掲載されている文章及びイラストの無断転載・使用はご遠慮下さい。

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このブログについてのお願い
当ブログは、『イタズラなkiss』の二次創作をメインとしておりますが、時折管理人の趣味や日々の出来事についての記事も書いております。

原作者様や関係各位とは一切関係ありません。

二次創作については、いわゆる原作の隙間をぬった作品もありますが、主人公以外のキャラクターをメインとしたものや オリジナルキャラクターが出てくるものもございます。

そして、原作と違った時代(平安や明治やその他の時代を舞台にしております)、異なる設定(主人公を医者と看護師じゃない職業にしております)で書いてあるものが多いですが、原作を冒涜しているつもりは全くございません。

二次創作が苦手という方及び原作のイメージと合わないと思われる方はどうぞお引き取り下さいますようお願いいたします。

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