日々草子 姫と軍師 6

姫と軍師 6

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直樹に槍を突き付けたのは、西垣軍の兵だった。突然のことに顔をゆがめながらも直樹は腰から刀を抜き斬り捨てた。
「軍師様!!」
琴子は直樹の元へ駆け寄り、その体にしがみつく。
「軍師様、軍師様…。」
泣いてすがりつく琴子の前で直樹は刺された場所に手をやる。
「ん…?」
衝撃があったにもかかわらず、血が出ていない。直樹は槍を抜いた。血は噴き出さなかった。
「え?」
琴子も涙が止まった。直樹の顔色は変化していない。

どういうことだろうかと、直樹は鎧を脱いだ。そして懐に手を入れてみた。
「これのおかげか?」
直樹が取り出したのは、琴子が縫った守り袋だった。それが破けている。
中から出てきたのは、真っ二つに割られた刀の鍔であった。
「これが入っていたのか。どうりで重かったわけだ。」
槍がこの鍔に刺さったため、直樹は命拾いをしたらしい。
「父上が守って下さったんだわ。」
琴子が呟いた。
「お父上が?」
「はい。これは父上の形見の品です。」
「そんな大事な物を!」
直樹は驚いた。形見を琴子が自分へ渡していたとは。
「これは姫がお持ちになるべき物ではありませんか。」
直樹は鍔を袋に入れ琴子へ渡そうとした。が、琴子は受け取ろうとはしない。
「大事な物だからこそ、軍師様のお守りにしたのです。」
「しかし。」
「私がお願いしたばかりに、軍師様は戦に出ることになりました。父上が守って下さるようにと願いを込めたのです。だから軍師様がお持ち下さい。」
琴子は直樹に守り袋を握らせた。
「確かに守って下さいましたね。」
直樹が笑った。これがなかったら今頃自分はこの世にいなかったかもしれない。
「はい。」
琴子も笑顔を見せた。
「では何としてでも、私は姫をお守りせねばなりませんね。」
直樹は鎧をつけた。兵が襲ってきたということは、間もなく西垣軍と遭遇するということである。



「では姫。」
直樹は琴子をとんぶりに乗せた。言われた通り帯を解いた琴子は前を隠す。直樹は鎧の中に赤ん坊を入れるとひらりととんぶりに乗った。そして琴子と自分の体をしっかりと帯で結んだ。
「もう少し、しっかりと掴んでいただかないと、落ちますが?」
「でも。」
琴子は遠慮して直樹の鎧の端を少し掴んでいる程度である。直樹は琴子の腕を自分の腰にしっかりと回した。そして琴子の顔を自分の胸へと押し付ける。琴子の顔が赤くなったが、直樹は気づかない。
「参ります。」
「はい。」
直樹は自分を襲った槍を手にした。刀よりもこちらの方がいい。
「はっ!」
直樹はとんぶりの腹を蹴った。



「軍師様、あれはもしかして?」
しばらく走ると兵の集団が見えてきた。西垣軍であろう。
「目を閉じていて下さい。」
直樹は手綱を緩めることなく言った。
「すぐに終わりますから。」
琴子は目をギュっとつぶった。
直樹は槍をしっかりと握る。相手がこちらに気づいて向かってきた。
「命惜しいものはどけ!」
直樹は叫んだが相手はひるまなかった。直樹は槍を振りかざした――。



「あれは相原の者か?」
高台から兵たちの様子を見ていたのは、真っ赤な地に金糸で刺繍を施した派手な陣羽織をまとった西垣軍の総大将の西垣だった。若いがなかなかの切れ者である。
「たった一騎に何をあんなに惑わされているんだ?」
白い馬に乗った者が大勢の西垣軍の中を走っていく。その手に握った槍で兵たちをなぎ倒していく様は、まるで花を散らせるかのような美しさであった。

「わが軍がたった一騎に押されているとは情けない。」
西垣は自軍の不甲斐なさに溜息をつきつつ、その男に興味を持った。そして何者か調べてくるように命じた。

「殿、あれは近頃相原家に仕官した軍師のようです!」
戻った部下の言葉に西垣をはじめとした重臣たちが驚愕した。
「軍師!」
「先日わが軍を退けた軍師か!」
「はい。名前は入江直樹とか。」
「入江…。」
西垣はその入江直樹を見る。直樹は槍でどんどん兵を蹴散らして進んでいる。
「わが軍はたかが軍師にここまでやられているのか…。」
軍師といえば作戦は立てるものの、自ら戦うということはあまりない。それによく見ると年の頃は自分よりほんの少し下くらいである。
「あの若さであそこまでできるとは。わが家中にあれほどの者はいない。」
「わが家中どころか、他国にもおりますまい。あれほど強い者は見たことがございません。」
諸国と戦を繰り広げてきた西垣、そして家臣たちは悔しさで唇をかみしめた。
そう話しているうちに、直樹の槍は蝶が舞うがごとく動き、西垣軍の中を一直線に進んでいく。

「ここは生かして捕えるべきかと思いますが?」
家臣は西垣に提言した。生かして西垣に仕えさせた方が得策だと考えたのである。
「いや、必要ない。」
西垣は真っ赤な陣羽織を翻しながら言った。
「しかし。」
「…僕より強くていい男など、必要ない。」
暗に「殺せ」と命じているのである。家臣たちは惜しいと思ったが主の命令は絶対である。この主は常に自分が賢さ、見栄えで一番でなければ気が済まないのだった。
「では…。」
言われた通りの命令を伝えさせようとした家臣に西垣が「待て!」と手を上げた。
「いかがされました?」
「あの者、一人ではないな?」
「え?」
家臣たちは直樹の姿に目を凝らす。よく見ると直樹の前に長い髪を垂らした女性が乗っているようである。
「軍師があそこまで守るということは、相原の姫ではないか?」
「かもしれませぬ。」
「いや、間違いなかろう。」
女性に関してはことのほか勘が働く西垣であった。

「姫に傷をつけてはならぬ。二人とも生け捕りにしてまいれ。」
西垣の命令が変わった。



「軍師様…。」
琴子はそっと顔を上げ直樹の様子をうかがう。
「目を閉じ、耳を塞いでおられるよう申し上げました。」
直樹は息を切らせながら琴子に告げた。さすがにここまで敵を散らしたのは初めてである。疲れが出て来ていた。しかしここで負けるわけにはいかない。
「あと少し我慢なされよ。」
「はい。」
琴子はしっかりと直樹の体にしがみついた。
直樹は必死でとんぶりを走らせる。とんぶりも見事な走りを見せていた。

あと少しで相原の者たちに追いつくはずだった。ところがとんぶりの足が止まった。
「いかがされましたか?」
琴子が顔を上げた。直樹がまっすぐ前を見ている。
「これは…。」
琴子たちの前には大きな川が流れていた――。

「そこまでだ、入江直樹。」
聞こえた声に直樹は振り返った。
「うちの軍をよくもあそこまで追い込んでくれたものだ。」
直樹を見て笑みを浮かべているのは西垣だった。その後ろには多数の家臣と兵が控えている。
「どうだ?姫をこちらへ渡せば命だけは助けてやろう。」
西垣は言った。
「…冗談じゃない。」
直樹は西垣を睨んだ。そしてとんぶりの腹を蹴った。とんぶりは川の中へと進んだ。

「馬鹿めが!」
西垣たちは笑い声を上げた。
「この流れの中、進めるはずがない!自分で命を捨てる気になったのか!」
笑い声が響く中、琴子が直樹に言った。
「軍師様、私、あちらに参ります。」
「何を仰るんですか。」
「命を奪うことはしないでしょう?私があちらへ行けば軍師様のお命は助かります。」
「姫と引き換えに助かりたいとは思いません。それにあちらに行ったら一刻も経たないうちにそれこそ素っ裸で西垣の前へ出ることになりますよ。」
「それで軍師様が助かるのならば…。」
「そんなことを姫にさせたら、お父上に顔向けできません。」

「ほら、どうするんだ?そのまま二人で川に流されるのか?」
ニタニタと西垣が笑う。
「とんぶり、進め。」
直樹はとんぶりに命じると、とんぶりはゆっくりと川の中を進む。
「馬鹿だな。自ら命を捨てるか。」
またもや西垣軍から笑い声が起きた。

とんぶりはゆっくりと進んでいたが、とうとう足を止めた。流れが早くこれ以上進めないらしい。
「ここまでか…。」
とんぶりが悪いわけではないことは直樹も分かっている。こうなった以上は自分の命と引き換えに琴子を助けるしかないと思った。
「あきらめてはいけません、軍師様。」
琴子が直樹に声をかけた。
「軍師様はいつも“あきらめるのは早い”と仰っているじゃありませんか!」
「姫…。」
琴子はとんぶりの頭を優しく撫でた。
「とんぶり、もうちょっと頑張ってちょうだい。ね?」
何度も琴子はとんぶりに声をかける。
「とんぶり、お前の大事な姫様を助けてくれないか。」
直樹も声をかける。
「俺のことは嫌いだろうが、お前の大事な姫様のためだ。」
その時、とんぶりが突然「ヒヒーン!!」と大きな声で嘶き、前足を上げた。
琴子は直樹にしがみつき、直樹も手綱を握り直す。

そこで奇跡は起きた――。

二歩、三歩と進んだ後、とんぶりが突然飛び上がったのである。それは高く高く――。

「これは一体…!」
馬上の直樹と琴子も驚いた。とんぶりは水しぶきを上げ高く跳んでいる。
そして気づいたら対岸に渡っていた。

「何が起きたんだ…?」
西垣たちは目を疑った。しかしそれは幻ではない、現実である。その証拠に琴子と直樹は対岸にいる。もう矢を射ても届かないだろう。

「とんぶり、お前はやっぱり名馬だったのね!」
琴子が大喜びで褒めると、とんぶりは自慢げに直樹を見た。
「…馬肉にして食うことは延期だな。」
口ではそう言った直樹だが、琴子のためにとてつもない力を発揮したとんぶりに内心舌を巻いていた。これも琴子の日頃の愛情の賜物に違いない。
「きっと軍師様のことが好きになったのね。そうでしょう?とんぶり。」
とんぶりは「フフン」と鼻を鳴らすと、「早く」というように首を動かした。
「よし、行くぞ!」
直樹が腹を蹴るととんぶりはまた走り出したのだった――。



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No title

原作とは違い琴子ちゃんのお守りに守られたのですね。
けど、一人で敵を散らすなんて♪素敵!!
テニスで直樹と琴子ちゃんがダブルスをしているみたい!
そしてとんぶり!琴子ちゃんにそっくりなパワーを持つ!!
ミラクルパワー全開で興奮しました。

水玉さん♪どんなお話でも原作を匂わせ絵が浮かんでくることに脱帽ものです!
パラレルの世界なのに名馬とんぶりまでもが私にはしっかりと画像が浮かんできます!
「フフン」と鼻を鳴らすってところがさらにいいのよねぇ~♪

名馬すぎ…

時間をとめてまっていてのジェシー並の名馬ですね~

はらはらしながら楽しく読んでます(*^_^*)

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水玉さん、更新ありがとうございます♪

やっとお目にかかれた派手な陣羽織の西垣♪
真っ赤な地に金糸で刺繍←(拍手~笑)
水玉ワールドのガッキーにはずれはない!いつも笑かしてくれる、でも意外と大人!
入江軍師にどう立ち向かうのか?。。どうやられるのか!?今回もガッキー楽しみです!!

お守りの刀の鍔。
琴子姫の軍師の無事を祈る強い気持ちが奇跡となったんですね。
琴子姫を守るべく、槍で西垣軍の兵を蹴散らし一直線に進んでいく軍師。
臨場感ある動きと流れ~♪
軍師かっこいい!でもそれ以上により美しすぎます!!!

見事な走りのとんぶり♥
水しぶきを上げ高く跳ぶとんぶり♥
琴子ちゃんの愛情にこたえるようなとんぶりの心意気!かっこい!!!
展開中のキャンペーンですが、
かっこいいは、今回もとんぶりに一票~♪(笑)

こんばんわ

琴子を「姫」と呼び敬語を使う直樹ってちょっぴり違和感~!でも、新鮮でドッキドッキします♪凛々しさもピカ一!!とんぶりに跨がり敵を蹴散らす直樹さま!こんなにも琴子がうらやましく、私と代わって欲しいと思ったのは初めてです。琴子が直樹の事を「殿」あるいは「わが君」と呼べる日が早くきますように。でも、その時は最終回かぁ…それは淋しい~!PSそれからお願いです!あんまりガッキーを悪者にしないでくださ~い!私の中のガッキーは憎めないおバカな女ったらしなんです。

佑さん、ありがとうございます。

佑さんが気に入ってくださったとんぶり、なかなかの活躍でしょ?
この物語、もしかしたら主役はとんぶり…?
ガッキーは悪役のような登場の仕方でしたけど、そんなにひどくないですからね~。

ゆみのすけさん、ありがとうございます。

原作では琴子ちゃんのお守りで色々大変だった入江くん、こちらではちゃんとそのご利益があったようで♪
テニスのダブルス!!あれ好きなんですよ~!そんな風に思っていただけて嬉しいです。
琴子ちゃんが愛情かけているから、とんぶりは似てくるのかもしれませんね。
絵が浮かぶなんてこれまたうれしいことをありがとうございます!
今回は二人ともやたら丁寧な言葉づかいなので(本当はもっと崩したかったのですが、もうどこから崩せばいいのかわからないことに)ますます原作から遠ざかって行っているような気がして心配でしたので!

emaさん、ありがとうございます。

emaさんの前で馬の話を書くことがいかに無謀か…いや、お恥ずかしいです!

紀子ママさん、ありがとうございます。

勿論、わかってますとも!だってイケメン好きじゃないですか♪
ガッキーはちゃんと女に目がない設定は残してますよ!これがないとガッキーじゃないし!
名馬とんぶり、二人の命を救いました。入江くんとの関係は相変わらずのようですが。
これから少しずつ、琴子ちゃんと入江くんの間も近づいていくのでぜひともお付き合いください!

あけみさん、ありがとうございます。

吊り橋効果でいいのかな?お互いドキドキした状況で知り合ったら愛が深まるとかなんとか。
とりあえず、琴子ちゃんはただの軍師とは思っていない様子ですよね。
入江くんがあきらめかけたら、琴子ちゃんがハッパかけて。本当にお互い助け合っていいコンビなのですけれど。
ガッキーについては…今後はコメディ路線へ入っていく可能性が大なので、気楽に構えていてください♪
続き、ぜひともお願いします!なんか気分は倉庫へもう移動させたい…(笑)

あおさん、ありがとうございます。

ガッキーは絶対派手好きな感じなんですよね。
もう遠くから見ても一目瞭然って感じで!
軍師、美しいってほめてくださりありがとうございます。ここは元ネタでも一、二を争う見せ場なので頑張ってみました。でも難しいですね。
なんだか書けば書くほど、自分の文章力のなさを露呈していっている気がしてなりません。
そして美しいはずなのに、最後はとんぶりにもっていかれる入江くん。
ここがこの話のダメな部分なのかしらと悩んでおります。いえ、とんぶりは書いていて可愛いと自分でも思うんですけれどね。

祐樹'Sママさん、ありがとうございます。

迷ったんですけれど、ここはちょっと敬語な入江くんにチャレンジしてみようかと。
色々違和感ある方多いんだろうな~。でも書いちゃったものは仕方ないかなと(笑)
ガッキー、思った以上に登場の仕方が悪役めいてしまって。でもちゃんと女たらしは強調する予定なので!

夜中のラブレター(笑)

本当にこの回は臨場感があり、
やはり壮大路線?。。。と、思いました。
ドラマでこういうシーンは音響効果で迫力・動きを一層感じますが、
文字だけで夢中になりました。

入江くんはかっこいい<美しい!!!
です!!!

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プロフィール

水玉

Author:水玉
『イタズラなkiss』のほかには『ゴルゴ13』が好きです☆
多数あるイタキスの二次小説の中で邪魔することなく、ひっそりとマイペースで我が道をゆきつつ生息しております。
そっと見守っていただけたら嬉しいです。

※当ブログに掲載されている文章及びイラストの無断転載・使用はご遠慮下さい。

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このブログについてのお願い
当ブログは、『イタズラなkiss』の二次創作をメインとしておりますが、時折管理人の趣味や日々の出来事についての記事も書いております。

原作者様や関係各位とは一切関係ありません。

二次創作については、いわゆる原作の隙間をぬった作品もありますが、主人公以外のキャラクターをメインとしたものや オリジナルキャラクターが出てくるものもございます。

そして、原作と違った時代(平安や明治やその他の時代を舞台にしております)、異なる設定(主人公を医者と看護師じゃない職業にしております)で書いてあるものが多いですが、原作を冒涜しているつもりは全くございません。

二次創作が苦手という方及び原作のイメージと合わないと思われる方はどうぞお引き取り下さいますようお願いいたします。

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