日々草子 姫と軍師 5

姫と軍師 5






嘆く桔梗に構っている暇はない。直樹は周囲を見回し自分の馬を探した。が、運悪く見つからなかった。
直樹の肩に何か当った。見ると琴子の愛馬とんぶりが、「フンフン」と直樹に鼻をすり寄せてきた。
「お前、探しに行くっていうのか?」
「フンフン」と首を動かすとんぶり。どうやら琴子を助けたいという気持ちは同じらしい。
直樹はとんぶりの背に跨った。
「軍師様!」
馬上の自分を見上げる桔梗や兵たちに直樹は「先に進んでおくように」と言い残し、手綱を手にとんぶりの腹を蹴った。

元来た道を直樹は飛ばして行く。
「一体どこまで探しに行ったんだ?」
時折とんぶりを止めて見回すが、琴子の姿は見つからない。
「ったく、お前のご主人はどこへ消えたんだ?」
直樹が漏らした時、とんぶりが勝手に歩き始めた。
「何か分かったのか?」
「ヒヒーン。」
「自分に任せろ」というかのように、とんぶりは森の奥へとすすんでいく。直樹はとんぶりの勘を信じることにしてみた。

「姫!!」
直樹は森の中へ何度も呼びかけた。が返事はない。
「姫、いずこにおられますか!」
呼びかけながら直樹が森を抜けた時だった。
「とんぶり、待て。」
直樹は手綱を引き、とんぶりを止めた。そして耳を澄ませた。どこからか女の歌声が聞こえてくる。
「あれは…。」
直樹は「はっ!」と歌が聞こえる方向へ馬を走らせた。



「姫!!」
「軍師様!!」
少し走ったところで、赤ん坊を抱いて歌を歌っている琴子を直樹は発見した。直樹を見ると琴子が笑顔を見せた。
「ご無事ですか?お怪我は?」
直樹はとんぶりから飛び降りると琴子の元へと駆け寄った。
「大丈夫です、ほら。」
琴子は直樹の前に赤ん坊を見せた。赤ん坊はぐずることもなく大人しくしていた。
「怪我もしていませんよ。」
琴子は直樹が赤ん坊について訊ねたと思っている。
「姫もお怪我はないのですね?」
「…ええ。」
琴子は少し間をおいた後答えた。その様子を直樹は訝しんだ。
「失礼。」
直樹はそう言うと着物をめくって琴子の足を出した。
「…血だらけではありませんか。」
直樹が少し触ると琴子は「うっ」と顔をしかめた。どうやらねんざもしているらしい。

「ああ、とんぶりと来て下さったのですね。」
琴子は自分の怪我から直樹の気を反らせようと話題を変えた。とんぶりは琴子に呼ばれると近寄ってきた。
「軍師様。」
「何でしょうか?」
直樹は辺りを見た。そろそろ西垣軍がこの辺りを通る可能性がある。すぐに琴子を連れださねばならない。
「この子を預かって下さいますか?」
琴子は赤ん坊を直樹へ差し出した。
「私はちょっと…。」
「…わかりました。」
厠でも行きたいのだろう。といってもここにそのようなものはないから奥で用を足すに違いない。直樹は詳しく訊ねることをせず、赤ん坊を受け取った。
琴子は赤ん坊に微笑みかけると奥へと歩いていった。

「…遅いな。」
琴子はなかなか戻ってこなかった。
「まさか…。」
西垣の手に見つかったのかと、不安に駆られた直樹は琴子が歩いて行った方向へ向かった。

「姫?」
見ると少し離れた所にある古井戸の中に琴子は飛びこもうとしていた。
「姫、何をされます!!」
直樹は琴子の元へ駆け寄りその肩を掴んだ。
「お離し下さい!!」
琴子はそれでも井戸の中へ飛び込もうとする。直樹は必死でその体を井戸から離した。

「私は…この足では軍師様のお邪魔です。」
琴子は怪我をしている足を見ながら、涙をこぼした。
「私を助けたらその子も助からないかもしれません。だったら私をここへ置いて…。」
「ふざけるな!!」
直樹の怒鳴り声に琴子はびくっと体を震わせた。

「お前、少し前に自分が言ったことを忘れたのか?」
琴子を止めるために直樹の言葉づかいは荒っぽいものとなっていた。しかし直樹はそれには気づかずに続ける。
「命より大事なものはないって言っただろうが!言った自分が命を無駄にするんじゃねえ!!」
「…で、でも。」
「でもも何もあるか。第一お前が死んだら、お前のために頑張っている家臣たちはどうする?赤ん坊が戻ってきてもお前が死んだらあの夫婦は首を吊りかねねえぞ?」
「ですが…。」
まだ何かを言おうとする琴子の額を直樹は指でピンと弾いた。
「痛いっ!」
「…あなたは城主として領主として全ての民を守りたいと俺に言いました。」
直樹の口調が元に戻っていた。
「あなたが民を守るように、俺も軍師としてあなたを守ります。」
「軍師様…。」
額を押さえながら琴子は直樹を見た。
「あなたは何でも一人で背負い過ぎます。少し俺にも分けて下さい。」
琴子はじっと直樹を見つめた。
「軍師様に分ける…。」
直樹も琴子を見つめる。

「それに俺はは姫が見くびるほど、弱い男ではありませんよ。」
琴子の視線に戸惑いながら、直樹が目を反らせ軽く笑った。
「そんな、見くびるなんて!」
「俺が赤子か姫のどちらか一方しか守れないと思いこまれているではありませんか。」
「それは…だってどう考えても…。」
赤ん坊を懐へ入れたまま自分も守るなんてこと、できるわけがないと琴子は思っていた。
不安げな琴子に直樹は自信たっぷりの笑みを浮かべて、はっきりと言った。
「姫が選んだ軍師がどれほどの男か、しかとご覧に入れましょう。」



琴子は直樹と共にとんぶりと赤ん坊の元へ戻って来た。
「それでは姫。」
「はい、軍師様。」
「帯をほどいて下さい。」
「はい、帯ですね…って、え!?」
琴子は腰に結んだ帯を押さえながら目を丸くした。が、少し考えてその手を帯の結び目に持っていく。
「分かりました、軍師様。私が素っ裸になって馬に乗り、敵の目を釘付けにしながら突破する方法ですね?」
「…はい?」
「確かに、私の体に見惚れている隙にということはいい方法だと思います。軍師様も体を張って下さるんですもの、私だって…。」
直樹は琴子の額にまた指を弾いた。
「痛いっ!」
「何か勘違いしておいでのようで。」
直樹は溜息をついた。
「先程背負っていた時に感じましたが、残念なことに姫は男が夢中になるようなお体ではありません。その体を見せられたら敵は喜ぶどころか、“そんな粗末なもんを見せるんじゃない”と石を投げつけてきますよ。火に油を注ぐようなものです。」
「そ、粗末…。」
琴子は自分の胸を撫でた。
「姫と赤ん坊が馬から振り落とされないよう、私としっかりと結ぶのです。私にしっかりと体を密着させれば前がはだけることもありますまい。」
「ああ、そういう意味ですか…。」
「そもそも帯を解いても肌着を着ているから全裸にはならないでしょう。」
「…ですね。」
成程と思いながら、琴子は帯をほどこうと直樹に背を向けた。
「そんなに粗末な体なのかなあ?」
琴子は呟きながら溜息をついた。

「やれやれ…。」
琴子が全裸になって馬の上に立ち「どいて、どいて」と叫ぶ様子を想像した直樹は、つい「クスッ」と笑ってしまった。
「とんでもない姫君に仕えたものだ。」
琴子の突拍子のない行動には毎回驚かされる。そんなことを考えていたから、いつもなら絶対気づくはずの気配を感じなかった直樹だった。
「ヒヒーン!!」
とんぶりが大きな声で嘶いた。
「え?」
直樹が何事かと振り返った時、その胸に槍がグサッと突き刺さった。
「軍師様!!」
真っ青になった琴子の悲鳴が辺りに響き、直樹の体が崩れた所で、次回へ続く――。




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ここで続くんかい!?

すみません。つい驚いて叫んでしまいました(^。^;)

水玉さんが殺戮だとか戦だとか残酷なシーンが好きなんて思ってませんよ! はい! 神に誓って(^^)/
琴子姫様ったら足手まといになるから自害しようなんて~入江君がいて良かったわ。
粗末な体と言われてもそれだけ大事な琴子姫様の体なんですよ。心優しい琴子姫様に領民は全てを預けますよね。
入江君、大丈夫?
ここで続くなんてサイレン映画で喋ってくれる人(思い出せない)あんまりだ~。

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粗末とは、、、おかわいそうな琴子姫(笑)

「ヒヒーン!!」ええ~~~~!!ここで次回とは~!
気になる次回!お待ちしております。

入江軍師の琴子姫への敬語からの怒鳴り声に、
キュン♪←ここ年齢は不問でお願いします!
それにしても、今回は琴子姫に驚かされるというか、
その可愛さに笑えました!(笑)

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思わず、えええっ??ここで終わり~~???気になる~、寝れない~と叫んでしまいました( ̄m ̄〃)
水玉さまの戦国に、すっかり虜となっています。

琴子姫がかわいくてかわいくてどうしましょう?ですよ。
「少し俺にも分けて下さい。」にノックアウトされました❤

直樹ぃ~!!

水玉様こんにちは。筆が進んでいますね~。読者は嬉しいのですが(笑)コメントが追い付かな~い(泣)さてさて、赤ちゃんを助けようと怪我を負った姫、琴子。そこで赤ちゃんを優先させる為に自分を犠牲にするなんて琴子らしいですね。でも、その行動は琴子自身の信条とはちょっぴり矛盾するというか、直樹が言っているように、もっと直樹を信頼して赤ちゃんも琴子も、そして直樹も、もっと言えば相原家の領土に住む民達皆も幸せになれるように前を向いて頑張って欲しいですね。……ってラスト、直樹ぃ~っ!どうなってしまうのかしら~?オバちゃん、もうドキドキハラハラしております(笑)続きを楽しみにお待ちしていますm(__)m P.S.お母様やご家族のお世話に奮闘されているだろう水玉様、たまには息抜きもしていますか?少しでも皆様が心穏やかな看病生活が過ごせますように…m(__)m

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紀子ママさん、ありがとうございます。

よかったです、紀子ママさんの中での私のイメージがクリーンなままで!
粗末な体と言われた琴子姫、でもそんな粗末な体を守ってくれる軍師様がいれば大丈夫でしょう。
それにしても、「入江くん、大丈夫?」のセリフに紀子ママさんの入江くんに対する心配度が表れているような気がしました!
サイレント映画でしゃべってくれる人って弁士のことですか?

佑さん、ありがとうございます。

こちらもそんなに入江くんを心配していない方が(笑)
とんぶり号をそこまで気に入ってくださるなんて!
琴子ちゃんになついている所が人気の秘密なのでしょうか?

あおさん、ありがとうございます。

本当におかわいそうですよね(笑)
琴子姫は文字通り体を張っていますけど!
あおさんのコメントに色がついているなんて、珍しい!!
キュンに年齢は関係ありませんとも!いくつになっても乙女心は必要なんですわ♪

るんるんさん、ありがとうございます。

そうなんですよ。琴子ちゃんは赤ちゃんを助けるために自分は…って考えちゃったんですよね。
二人も守ることはいくら入江くんでも難しいだろうって。
そこで怒鳴る入江くんをひそかに気に入っていたりします^^

みゆっちさん、ありがとうございます。

ありがとうございます!そんな眠れないなんて…♪
この話を毎回読んで下さっているだけで嬉しいです。
琴子姫、可愛いですか?嬉しいです。
うちの入江くんはへたれ度が強いので、ノックアウトされる日が来るなんて…夢のようです!

いたさん、ありがとうございます。

琴子ちゃんも戦乱から逃げて少々お疲れだったのかもしれませんね。
琴子ちゃんが選んだ軍師様は二人だって平気で守れちゃうんですから。
これをきっかけに軍師様との間もぐっと深まるといいのですけれど。
コメント追いつかないなんて!嬉しいです♪
ここまでは結構筆がのっておりまして!
ありがとうございます。
息抜きしてますよ。さっきもウォーキングしてきました(笑)

あやみくママさん、ありがとうございます。

とりあえず、ここまでてんこ盛りな内容でした(笑)
まあ本当に琴子ちゃんをなんとか止めたと思ったら自分が…。
今ここで入江くんに何かあったら、琴子ちゃん(&赤ちゃん)は絶対助かりませんものねえ…。
プロフィール

水玉

Author:水玉
『イタズラなkiss』のほかには『ゴルゴ13』が好きです☆
多数あるイタキスの二次小説の中で邪魔することなく、ひっそりとマイペースで我が道をゆきつつ生息しております。
そっと見守っていただけたら嬉しいです。

※当ブログに掲載されている文章及びイラストの無断転載・使用はご遠慮下さい。

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このブログについてのお願い
当ブログは、『イタズラなkiss』の二次創作をメインとしておりますが、時折管理人の趣味や日々の出来事についての記事も書いております。

原作者様や関係各位とは一切関係ありません。

二次創作については、いわゆる原作の隙間をぬった作品もありますが、主人公以外のキャラクターをメインとしたものや オリジナルキャラクターが出てくるものもございます。

そして、原作と違った時代(平安や明治やその他の時代を舞台にしております)、異なる設定(主人公を医者と看護師じゃない職業にしております)で書いてあるものが多いですが、原作を冒涜しているつもりは全くございません。

二次創作が苦手という方及び原作のイメージと合わないと思われる方はどうぞお引き取り下さいますようお願いいたします。

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