日々草子 姫と軍師 2

姫と軍師 2

第一話をお読みくださった皆様、ありがとうございます。
とりあえず第二話をUPしてみます。あとは様子を見ながらということで。
これから話が進むにつれ、ひとりよがりな文章にならなければこちらで続ける事が出来るかな?と考えておりますが。










「ん…?」
直樹は目を開けた。そしてゆっくりと起き上がる。傍の机の上には読みかけの書物が広げられている。
「そうか、読みながら寝てしまったのか。」
一つ伸びをすると直樹は立ち上がり、部屋を出た。裕樹は居間にでもいるのだろう。
「おい、裕樹…。」
居間の戸を開けた直樹の目に、見慣れない女性二人の姿が飛びこんできた。
「…。」
直樹は少し二人を見ると、すぐに戸を閉めた。

「姫様、姫様!もしかして今の方が直樹様?」
桔梗が鼻息荒く琴子へと話しかける。
「え、ええ。そうでしょうね。」
「それにしても…なんて素敵なんでしょう!ご覧になりました?身の丈も五尺(180センチ)近くあったし、あの顔!あんな美しい殿方がこの世にいらっしゃるなんて!」
先程まで「生意気な兄弟」と文句を言っていた桔梗はすっかり興奮してしまっている。
「これ、落ち着きなさい。」
一応桔梗を注意するものの、琴子も同様に興奮していた。その証拠に心臓が激しく動いている。
「あのようにご立派な方がこの世におられるとは。」
紀子の話だと少々心もとない感じだったのだが、実物は全く違っていた。



「おい、裕樹!」
「はい!」
突然部屋の戸を開けられた裕樹はびくんと背筋を伸ばした。
「お前、客がいるならどうして起こさない!」
「す、すみません!でもあちらが起こさないでいいと言うので…。」
「何だ、それ?」
「兄上がお目覚めになるまで待っていると言われるので、じゃあ好きにすればいいかなと思いまして。」
「ったく…まさか、あれが姫か?」
「そうです。相原家の琴子姫とその侍女です。」
取りあえず身なりを正してくるかと直樹は自室へと戻った。



「失礼しました。」
少しの後、身なりを整えた直樹が琴子たちの前に姿を見せた。
「お初にお目にかかります。相原家の琴子と申します。」
「いつも母がお世話になっております。」
「とんでもございません。私の方がすっかりお世話になっております。」
挨拶を済ませた所で直樹から本題に入った。
「あの手紙を拝見しましたが。」
「はい。」
「残念ながら私はどこにも仕官する気はありません。」
「そんな!」
直樹の言葉に琴子は顔色を変えた。
「あの、お手紙を読んでいただけたと…。」
「ええ、読みました。確かに相原家の広大な領地を狙っている西垣は恐ろしい存在でしょう。だけど私がお力になれるとは思えません。」
「直樹様は大変優秀だとおば様が仰ってました。」
「母が何を申したかは存じません。ですが今の私はこの暮らしが気に入っておりますので。」
「それでは姫様が西垣の側室になれと仰るのですか!」
それまで黙っていた桔梗が声を上げた。

「側室?」
直樹は怪訝な顔をした。
「そのようなこと、この手紙には一言も…。」
手紙にはとにかく力を貸してほしいと延々とつづられているだけだった。
「西垣の狙いは領土だけではありません。姫様を側室にしたいだけなのです!」
そして桔梗は琴子に向かって口を開く。
「…側室にでも何でもなればよろしいでしょう。」
しかし直樹の答えは冷たいものだった。
「西垣の当主は若いながらも頭の切れる人間だと聞きます。女ひとりで城を守るよりそういう男に守ってもらえれば楽ではありませんか。」
「ですが西垣は女好きで有名です。」
桔梗は引かなかった。
「西垣は正室を迎えると好き放題女遊びができないという、まことふざけた考えの持ち主です。それゆえうちの姫様も正室ではなく側室にということを言っているのです。」
「敗れた家の娘が側室になるなんて、この時代不思議なことではない。」
直樹は桔梗にびしっと言い返した。
「むしろ女好きであるから、そう粗略に扱うことはないでしょう。」
「…西垣がわが国の民を心から大切にしてくれるのならば、私は側室でも何でも上がります。」
琴子が口を開いた。
「姫様!」
止めようとした桔梗を琴子は手で制する。
「ですがどう考えても、あの人の元ではうちの民は幸せになれない気がするのです。父や祖父、相原家が大事にしてきた民を私が不幸にするなんてできません。」
「…そんなこと、実際に側室に上がらないと分からないでしょう。」
直樹は冷たいままだった。
「側室になって男子でも産めば後継ぎの母として権力も持てるでしょう。そうすれば今の相原家の家臣たちだって優遇する事が出来るかもしれない。長い将来を考えたら得策だと思いますが。」
直樹は琴子が深くは考えずに、ただ紀子の言うがままに自分を訪れたと思っていた。紀子は何としてでも自分をここから引っ張り出したいだけなのである。

「分かりました。」
琴子は頷いた。
「姫様!」
悲痛な声を上げる桔梗に琴子は、
「直樹様がおっしゃることです。間違いはないでしょう。私が西垣の元へ上がってもそんなに悪い方へとことは進まないかもしれません。」
と穏やかに言った。
「そんな…。」
「直樹様、お忙しい所を何度もお邪魔して申し訳ありませんでした。」
琴子は最後にもう一度微笑むと、丁寧に手をついて礼を述べた。

一応両親が仕える家の姫ということで見送りくらいはせねばと、直樹は家の玄関まで出て行った。
が、そこで直樹は異変に気付いた。あるはずのものがない。
「それでは、失礼いたします。」
琴子と桔梗はもう一度頭を下げた後、歩き出した。
「お待ちを。」
直樹がその後ろ姿に声をかけた。
「はい?」
琴子は何だろうと立ち止まり、直樹を振り返った。
「何でしょうか?」
「輿はいかがなされました?」
直樹は訊ねた。姫ともなれば輿で来たはずである。玄関前で待っているはずのそれがないことに直樹は気づいたのだった。
「輿は…ございません。」
琴子は答えた。
「ない?」
「はい。」
「そんな…だったら…。」
直樹は琴子の足元を見た。そして目を見張る。その足は足袋をつけておらず素足に草履というものだった。
「姫ともあろう方が、なぜゆえ素足なのです?」
「それは…。」
言い淀む琴子に代わり、桔梗が答えた。
「汚れた足袋でお邪魔するのは大変失礼だと姫様が申されましたので。」
「汚れた?」
直樹は考えた。なぜ足袋が汚れるのだろうか。直樹は「まさか」と思ったことが当っていたことに確信を持ち、口を開いた。
「もしや…徒歩でこちらに?」
「はい。」
琴子の返事に直樹は驚いた。
「なぜゆえ?城からここまではゆうに三里(約12キロ)はあるはず。その道を歩いていらしたと?」
城内で蝶よ花よと育てられている姫の足で歩ける距離ではない。
「お願いに上がるのに、輿で乗りつけるなんて失礼なことはできません。」
琴子はニッコリと笑った。
「ではこの家にいらした三度とも、徒歩で?」
「はい。途中、相原家の縁あるお寺に泊めていただいたりして。歩く事などめったになかったので、新鮮で楽しかったです。」
「これも直樹様のおかげですね」と琴子は屈託なく笑っている。
「徒歩で…。」
直樹は考え込んだ。会ったこともない人間に頼みごとをするのに失礼だからと自分に会うために慣れぬ道を延々と歩いてきた--。

「…側室にされそうだということを、なぜゆえ手紙に書かなかったのですか?」
直樹は琴子に訊ねた。あの手紙にはとにかく国を救ってほしい、善良なる民を救ってほしいと、そればかりが綴られていた。
「それは私の事情ですから。」
相変わらず琴子の顔からは笑みが消えなかった。
「先程も申し上げた通り、私が西垣の元へ上がれば全てうまくいくのならそうします。でもどうしてもそうなるとは思えないのです。ですがそれは自分が側室になりたくないわがままから、無理矢理こじつけているのかもしれないと思えますし…。」
そのように自分の中でも曖昧なものとなっていたから書かなかったと、琴子は話した。

「兄上、あの迷惑な客人は…あっ。」
家から出てきた裕樹はまだ琴子たちがいることに気づき、口をつぐんだ。
「もう帰ります。裕樹様にもご迷惑をおかけしました。」
琴子はやはり笑ったまま裕樹に言葉をかけた。
「兄上様と末長く仲良くして下さいね。」
「はあ。」
そして琴子は「では」と門へ向かって歩き始めた。

「裕樹…。」
直樹は琴子たちの後ろ姿から目を離さず、弟の名を呼んだ。
「はい、兄上。」
「…俺はしばらく留守にする。」
「また旅ですか?」
「いや、母上の元へ参る。」
「母上の元へ!?」
突然の兄の言葉に裕樹は腰を抜かさんばかりに驚いた。そして驚いたのは裕樹だけではなかった。
琴子と桔梗は足を止め、また直樹を振り返った。

「兄上、母上の元とは?まさか?」
裕樹は兄に訊ねた。
「しばらくこの家には戻らない。お前は父上の元へ戻るように。」
直樹は裕樹の問いに答えずそう言うだけだった。
「あの、直樹様?」
琴子はドキドキしながら直樹に訊ねた。
「それはその…相原の家を、民を助けていただけるということでしょうか?」
「助けるというようなことが私にできるかは分かりません。」
直樹は答えた。
「今まで諸国を旅したり書物で学んだりしてまいりました。蓄えた知識がどれほど実戦で役に立つか試したくなったまでです。」
自分でも不思議だった。しかし目の前にいる姫の足、そしてあの分厚い手紙を見ているうちになぜだかそのようにしたくなったのである。
「この家を片付けてから参りましょう。」
「ありがとうございます!」
琴子は桔梗と手を取り合って大喜びした。

こうして相原家に入江直樹――後に名軍師としてその名を馳せた男が仕官することになったのである。
この軍師がどのように相原家を、琴子姫を救っていくのか。それは次回から。

関連記事

コメントの投稿

非公開コメント

よかった

続きが読めてよかったです。最後までおともいたします。

水玉さん、こんばんは♪

待っていました。
“善良なる民を救ってほしいと、そればかりが綴られていた。”
厚い手紙には民を思う姫の気持ちでいっぱいだったんですね。
そんな琴子ちゃんに、グッときました。
名軍師となる入江くんのこれからの数々の戦略が、すごく楽しみです。
壮大な物語が始まるんですね。
その中でふざけた考え健在のガッキー!(笑)
嬉しいと言うのもおかしいですが、そこも楽しみです♪(笑)

水玉さんが思うように描かれた物語を拝読できたら、
それが一番幸いです。
更新ありがとうございました。☆続きにわくわく☆

続きが気になります!

更新ありがとうございます(T ^ T)
もぉ、琴子姫の民を思う気持ちの強さとか考えるだけでじーーーんときました!(//∇//)\n
よろしければ、ぜひこのままここで更新を続けていただければと切に思います(*^o^*)

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

reikoさん、ありがとうございます。

ありがとうございます!その言葉、何よりうれしいです♪

あおさん、ありがとうございます。

や~(汗)
作戦なんて大層なものを書くことはできないので…サラっと(笑)
なんか最後、すごいあおり過ぎたなあと反省してます。本当、夜中のラブレター状態(笑)
確かにあの最後は壮大な物語になりそうな書き方でしたよね(笑)
なんちゅうことを書いていたんだ、私は…(恥)
ガッキーはいつの時代もあの調子でいてほしいという私の期待も込めて♪
ありがとうございます。
私の書きたいように書いていくつもりです^^

奈々さん、ありがとうございます。

続き、読んで下さってありがとうございます!
3話までなんとかこちらでUPできました!これから先もここで書けたらいいなあと思っておりますが…
「だめだ、こんなもん読ませられない!」と思ったら消えるかもしれません(笑)

babaちゃまさん、ありがとうございます。

こんにちは。
babaちゃまさん、お疲れさまでした。
共倒れにならなくてホッとしました…。
私は介護の経験がないので偉そうなことは言えませんが、介護経験のある方がよく「介護は自分だけで頑張ろうと思わない方がいい」「助けてもらえるところは助けてもらったほうがいい」「助けを求めることは間違いではない」と口にされているのを聞いたことがあります。
他人に任せるというのはかなり不安もあるかと思いますが、プロにお任せするということは安心ではありますよね。
どうぞお体をゆっくりと休めて下さいね。

あけみさん、ありがとうございます。

私もタイトルが出てこないです(笑)
あ、「めでたしめでたし」か!「鴛鴦文様」はすぐに出てきたんですけどね~。
そうなんです、今回は琴子ちゃんがお姫様です。いつも入江くんが王子様ですので逆に。
ガッキー出てきますよ。相変わらずのキャラですけれどね!
ぜひ続きを楽しんで下さるとうれしいです。

紀子ママさん、ありがとうございます。

私も山本勘助が浮かびますね~でもあの人、なんかばっちいイメージで(笑)
入江くんにはもっと美しい軍師を演じてほしいなあと思って。←男は美しくなければ
殺戮は私も苦手ですよ~だから安心して下さい。
もしかして紀子ママさんに私、すごい残虐シーンを好む女に思われていた?(笑)
韓ドラですら私早送りしているんですから(笑)
ただあまりに韓国や中国ドラマを熱心に見ているものですから母に「少しは自国の歴史も勉強せい!!」と言われてます。

いたさん、ありがとうございます。

人柄がよくないなんてそんな、なんとことを!!いたさんはお優しいですよ~♪
とりあえず、目下の課題は琴子ちゃんの出番をいかに増やすかです(笑)
入江くんも人を見る目があるのね~と笑う私。

No title

今から贅沢読みしますね。
まだ2話までしか読んでいませんが続きがとても楽しみです♪
いつもありがとうございます。

No title

水玉さま、直樹様が素敵すぎます(*ノωノ)
琴子姫の素直な気持ちや、優しい心に心動かされたんでしょうね。
琴子姫じゃないですが、直樹様の「母上の元~」にドキドキしてしまいました。
これからの2人にドキドキしながら次読ませていただきます。

余談ですが、私、水玉さまのお江戸シリーズ、本当に大好きで何回も読み返ししたぐらい大好きなんですよ(^^)
読ませていただいてお琴の気持ちとか泣けちゃったし。
素敵なお話に巡り会えて、すごく幸せです❤

ゆみのすけさん、ありがとうございます。

もう、贅沢読みなんてそんなうれしい事を!!
ゆみのすけさん、待ってましたよ~!!ぜひぜひ読んで下さいね!

みゆっちさん、ありがとうございます。

直樹が素敵過ぎるなんて…いつぶりのコメントでしょうか!!(笑)
うちは本当に入江くんがへたれすぎて、「これじゃ二次創作としてはだめじゃん!」と思ってこの話を書いてみたのですが…ありがとうございます!!

お江戸を何回も読んで下さったなんて!!他の話の陰に隠れちゃっているのですがありがとうございます!
お琴ちゃんは私も大好きなんですよ♪
プロフィール

水玉

Author:水玉
『イタズラなkiss』のほかには『ゴルゴ13』が好きです☆
多数あるイタキスの二次小説の中で邪魔することなく、ひっそりとマイペースで我が道をゆきつつ生息しております。
そっと見守っていただけたら嬉しいです。

※当ブログに掲載されている文章及びイラストの無断転載・使用はご遠慮下さい。

現在の御訪問者
現在の閲覧者数:
御訪問ありがとうございます
このブログについてのお願い
当ブログは、『イタズラなkiss』の二次創作をメインとしておりますが、時折管理人の趣味や日々の出来事についての記事も書いております。

原作者様や関係各位とは一切関係ありません。

二次創作については、いわゆる原作の隙間をぬった作品もありますが、主人公以外のキャラクターをメインとしたものや オリジナルキャラクターが出てくるものもございます。

そして、原作と違った時代(平安や明治やその他の時代を舞台にしております)、異なる設定(主人公を医者と看護師じゃない職業にしております)で書いてあるものが多いですが、原作を冒涜しているつもりは全くございません。

二次創作が苦手という方及び原作のイメージと合わないと思われる方はどうぞお引き取り下さいますようお願いいたします。

コメント及びメールなどでの苦情及び批判は公開、非公開を問わず、私へ告げることはご遠慮いただけますよう、お願い申し上げます。

このブログ及び掲載されている話が嫌いだと思われたら、黙ってあなた様の中から、このサイトの存在を消去していただけますよう、お願い申し上げます。

カテゴリー+月別アーカイブ
 
最新コメント
最新記事
カボチャの世界
Private
カレンダー
05 | 2017/06 | 07
- - - - 1 2 3
4 5 6 7 8 9 10
11 12 13 14 15 16 17
18 19 20 21 22 23 24
25 26 27 28 29 30 -
リンク