日々草子 オタク、倒れる 上

オタク、倒れる 上

久々のオタク部です。
部員の皆様、ご機嫌いかがでしょうか?
一部下品な表現が含まれている可能性がありますので、お嫌な方はどうぞスルーして下さいますようお願いいたします。










気温が高い日が続くようになってきた。

「矢野さん!大丈夫ですか!」
「…おお、お前ら来てくれたのか?」
ベッドの上で弱々しく笑うのは斗南大アニメ部OBのご存知矢野である。
彼は今、斗南大医学部付属病院へ入院していた。
「びっくしりました、いきなり入院なんて!」
やって来たのもいつもと変わらぬ面々、青木たちである。
「あ、これ。言われた物を持ってきました。」
「ああ、悪いな。何せ突然の入院だったから。」
青木たちが矢野に渡した物は唐草模様の風呂敷。中から出て来たのは。
「これこれ。これがないと眠れねえんだよ。」
唐草模様の枕である。
「パジャマとか着替えも一応。」
「気が利くな、矢野。お前が女だったら嫁にもらいたいくらいだ。」
「やだなあ、矢野さん。」
ガハハハハと笑うむさくるしい男たち。

「でも矢野さん、個室なんですね。」
白山が部屋を見回しながら言った。
「ああ、ここしか空いてなかったんだって。まあテレビとか音を気にせず見られるからいいけどさ。」
その矢野のベッドの脇のテレビでは『パリキュア』のアニメDVDが流れている。

「入院、昨日でしたっけ?」
「そう。これから担当ナースと医者が来ることになってる。」
「ナース…。」
「ナース…。」
途端に青木たちの顔がデレッとだらしないものに変化する。
「いいなあ、ナースって響き。」
「なんか、やらしいよなあ。」
「ゲヘヘヘヘ。」
全国の看護師の皆さんもこんな奴らにだけはナース呼ばわりされたくないだろう。

コンコン。
ドアがノックされた。
「…失礼します。」
聞き覚えのある声に矢野たちが「おやっ」という顔をした。

「矢野さん…担当の入江です…。」
「コトリン!!」
現れた担当看護師は琴子だった。
「そうか、コトリン看護師になったんだった!」
青木が叫んだ。
「コトリンが俺の担当!」
「…はい。」
「うわあ、すごい偶然!」
「…ですかね?」
興奮するオタクたちとは全く違って、琴子の顔は見るからに嫌々である。

「ねえねえコトリン、そんな顔してたら患者様に失礼だよ?」
青木が言った。「そうだぞ、そうだぞ」と白山達も続く。
「矢野さん、矢野さん。」
青木が耳元に分厚い唇を持ってきた。
「コトリン、照れているんですよ。」
「…そうか?」
「ええ、ええ。きっとそうですって。コトリン、ツンデレだから。」
「可愛い奴だなあ。」
グフフフフと気持ち悪く笑い合う矢野と青木を無視し、琴子は採血の準備を始める。

「え?コトリンが採血?」
「…何か文句が?」
ギロリと矢野を睨む琴子に、
「こええ…ドンみたい。」
「夫婦って似るっていうけどさあ。」
とヒソヒソと話す青木たち。

「大丈夫ですよ、私だって看護師になって一年経ちましたし。」
「あ、そう…?」
「ええ。」
そう言うとおり、琴子の手際は思いのほか良かった。駆血ベルトもきちんとしめた。
「痛くないですか?」
「大丈夫。」
「それじゃあ…。」
琴子は血管を探し始める。が体の割には細いのかなかなか見つからない。
「ちょっと叩きますね。」
琴子は矢野の太い腕をペチペチと叩き始めた。
「うーん、コトリンの手が気持ちいい…。」
気持ちの悪いことを思いながら矢野はうっとりと目を閉じる。

ペチペチ、ペチペチ…。

パンパン、パンパン…。

バシッバシッ!!バシッバシッ!!

「痛いよっ!!!」
矢野の目が開かれた。
「何だよ、この腕!!」
琴子に叩かれた矢野の太い腕は真っ赤になって腫れあがり、ますます太くなっている。
「だって矢野さん、血管見つからなくて。」
「チェンジ、チェンジ、チェンジ!!ナース、チェンジ!」
いくら愛しのコトリンとはいえ、これじゃたまったものじゃない。
「うーん、そうした方がいいかも。」
琴子もあっさりと引き、「違う人を探してきます」と病室を出て行った。

「矢野さん、大丈夫ですか?」
「このままじゃ俺のフィギュアをつくる黄金の腕がだめになってしまう。」
フーフーと生臭い息を腕に浮きかけながら、矢野はあるないか分からない小さな目に涙を浮かべていた。

「失礼します。」
そこにやってきたのは病棟の事務担当の女性だった。
「矢野さん、こちらを貼っておきますので。」
「はい、どうも。」
女性は枕元に矢野の名前、生年月日、担当医と担当看護師の名前が書かれたプレートを貼ると出て行った。
「しかし斗南大病院は事務も美人が多いっすねえ。」
黄原が顔を赤らめて口にした。
「看護師も美人多かったし。」
「目の保養にはいいっすね。」
「ハハハハハ。」
機嫌を良くした矢野が笑った時だった。

「や、矢野さんっ!!」
青木が悲鳴を上げた。
「これ、これを見て下さい!」
「あ?」
矢野は首を動かした。途端に小さい目がやや大きくなった。

「担当医、入江…担当看護師、入江…?」
「何ですか、この入江のオンパレードは?」
「ま、まさか…。」
「…騒々しいな。」
その声を聞いた途端、矢野たちの背筋に冷たいブリザードが吹きつけられたかのようだった。
彼らは恐る恐る上を見た。

「いくら個室だからとはいえ、お前らのダミ声は他の患者に迷惑になるのだが。」
「ド、ドン!!」
彼らの天敵、入江直樹が白衣姿で冷たい目を向けている。

「お、お前が俺の担当医なのか?」
先日彩色したフィギュアに使用した着色料がまだ落ちていない、太く汚い指先を矢野は直樹へ突きつけた。
「なりたくてなったわけじゃねえ。」
「何だ、その口のきき方は!」
「そうだぞ、そうだぞ!」
矢野に青木たちが加勢する。
「い、入江先生、あの…採血を…。」
平気で矢野を怒らせている直樹に琴子がおずおずと声をかけた。いくらなんでもここまで患者を怒らせるのはまずいような気がする。直樹は研修医である。これが指導医である西垣にばれたら…。
「大丈夫、あの人にはこの間貸しを作っておいたから。」
琴子の考えを見透かした直樹が言った。
「この前俺があの人のフォローをしておいた。当分は俺に逆らえない。」
「あ、そうなんだ。」
琴子は胸を撫で下ろした。

「俺に逆らえない…。」
「こいつ、病院でももうドス黒い勢力を伸ばしているのかよ…。」
矢野たちは青ざめた。

「ったく、お前はいつまでたっても採血一つまともにできねえのかよ。」
パンパンに腫れあがった矢野の腕を見て、直樹が琴子に注意した。
「すみません。」
しょんぼりとなる琴子。

「へえ、ドンもこういう時はちゃんと言うんだ。」
「ドンも医者になったら成長したもんだ。」
あれだけ好き放題言っておきながら、ちゃんと技術面で注意すべきところは注意するのかと矢野たちは直樹を見直そうとした。

しかし。

「ったく、こんな奴の採血なんて適当にぶっ刺して採っちまえばいいんだよ。」

「はあ!?」
直樹の言葉に愕然となる矢野たち。

「どっか適当に刺せば血管にぶち当たるだろう。」
「おい、お前!!」
矢野が怒鳴った。
「適当って何だ!お前、それでも医者か!!」
「医者だけど何か?」
平然としている直樹を見ていると矢野の怒りは増す一方だった。
「何だよ、その態度!!」
少しでも見直そうと思っていた自分がバカだったと矢野は悔やむ。

「病院のベッドはいつも満床だってのに、てめえみたいなバカなことをして自業自得で入院してくる奴にどうして優しくしねえといけないんだ?」
「何?」
「この時期に汚ねえ台所に放置しておいた味噌汁を飲んで“トロミが出た、ラッキー”と喜んで、その挙句に食中毒を起こしたバカに優しくしろと?」
「うるさい!!」
矢野は言われたくないことを言われ顔を真っ赤にして怒鳴った。
「お前もチェンジだ!お前になんて診てほしくない!!」
「残念でした。」
直樹は言った。
「本当は俺だって診たくねえよ。俺は小児外科だからな。けれどお前の見てくれを見た、とある先生が“ビジュアル的に僕はNG”とか言ったから俺にお鉢が回ってきたんだ。怨むならNG出した先生を恨め。」
「ビ、ビジュアル的にNG…。」
さすがドン入江のいる病院である。とんでもない医者がいたものだ。外見で患者を拒否しえいいのだろうか。

ビジュアルに文句付けられた矢野はショックが大きく、その後は大人しく直樹に採血されたのだった。




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『イタズラなkiss』のほかには『ゴルゴ13』が好きです☆
多数あるイタキスの二次小説の中で邪魔することなく、ひっそりとマイペースで我が道をゆきつつ生息しております。
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二次創作については、いわゆる原作の隙間をぬった作品もありますが、主人公以外のキャラクターをメインとしたものや オリジナルキャラクターが出てくるものもございます。

そして、原作と違った時代(平安や明治やその他の時代を舞台にしております)、異なる設定(主人公を医者と看護師じゃない職業にしております)で書いてあるものが多いですが、原作を冒涜しているつもりは全くございません。

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