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2012.05.26 (Sat)

イリエアン・ナイト 7


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あんなに酷い仕打ちをしたのだから、もうコトリーナは来ないかもしれないとナオキヴィッチは考えていた。
しかし次の晩、コトリーナはまたナオキヴィッチの部屋のドアを叩いた。

「入ってよろしいですか?」
「…どうぞ。」
拒まれるかもしれないと不安だったコトリーナは胸を撫で下ろした。そして部屋へと入る。
ナオキヴィッチはそれを見るとまっすぐ寝室へと入った。コトリーナも後に続いた。

ナオキヴィッチも、コトリーナがまた来てくれて少し安堵していた。謝らなければいけないと思いつつ、なかなかその言葉が出ないままベッドへ入る。

「王子様。」
コトリーナはいつもの椅子に座ることなく、立ったままだった。
「私、何か王子様のご機嫌を損ねることをしてしまったんですよね?」
コトリーナの目は不安であふれそうになっている。ナオキヴィッチはその目を黙って見ていた。
「昨夜からずっと考えていました。何が王子様のお気にさわったのだろうかって。でも私、王子様もご存じの通りの馬鹿なので…全然分かりませんでした。」
泣きそうになりながら話すコトリーナを見ながら「違う、馬鹿は自分だ」とナオキヴィッチは言いたかった。コトリーナがこんなに自分を責めること必要はない。
「ごめんなさい、王子様。」
「いや…。」
ナオキヴィッチはそれを言うのが精いっぱいだった。

「馬鹿なりに私、考えました。」
胸の前で手を握りしめるコトリーナ。
「色々やってみたけど、王子様は全然眠れませんでしたよね。それで最後の方法を試してみます。」
「最後?」
「はい。これで王子様が眠れなかったら私にできることはもうありません。他の方へお願いして下さい。」
「最後」ということは、コトリーナが自分の前から姿を消すという意味である。

「最後ってどんな方法だ?」
ナオキヴィッチは緊張しながら訊ねた。
コトリーナは答えなかった。その代り手を伸ばしてきた。そしてナオキヴィッチの手を握った。
「これが最後の方法です。」
コトリーナは言った。
「自分が眠れなかったときのことを思い出してみました。そうしたら幼い頃、両親がしてくれたことを思い出したのです。私が眠れなくて泣いていたら、両親はこうやって私の手を握ってくれました。私はそれで安心していつの間にか眠っていました。」
コトリーナはナオキヴィッチの手を握る力を強くした。
「子供っぽいと笑われるでしょうけど。」
「…そうだな。」
ナオキヴィッチは軽く笑った。それを見たコトリーナも少し笑う。

「王子様がお休みになるまでここにいます。手を握っておりますね。」
「…ああ。」
ナオキヴィッチは眠りたくなかった。ここで眠ったらコトリーナと別れることになってしまう。
「それでは明かりを消します。」
コトリーナがランプを消すと部屋は真っ暗になった。

コトリーナの手は温かかった。自分のそれよりずっと小さく柔らかい。力を入れたら壊れてしまうのではないかと思う。
暗闇の中でナオキヴィッチがそんなことを考えていたら、手に何かが触れた。くすぐったい。
何かと思ってナオキヴィッチは起きた。そしてランプをまたつける。
「…おい!」
「…え?あ、いけない!」
手に触れていたのはコトリーナの髪の毛だった。つまりコトリーナはナオキヴィッチの手を握ったまま、また舟をこいでいたのである。
「すみません。大丈夫です。」
笑ってごまかすコトリーナ。ナオキヴィッチは溜息をついた。

「王子様、ランプを消しますね。」
「その前に…。」
ナオキヴィッチはコトリーナの手を離した。そしてベッドの中で体を動かした。
「ここに寝ろ。」
作ったスペースを指し、ナオキヴィッチはコトリーナに命じる。
「え!?」
コトリーナはまたもや顔を赤く染めた。
「そのままだとお前は眠ってしまい絶対風邪を引く。」
「大丈夫ですよ。」
「大丈夫じゃない。」
「でも…。」
「安心しろ。変なことは絶対しない。この間みたいなことはしないから。」
ナオキヴィッチも反省していた。
コトリーナは少し迷った末に心を決めた。
「…では、失礼します。」
ドレスのままだが、コトリーナはナオキヴィッチの隣に体を滑り込ませた。
「ん。」
ナオキヴィッチが手を出すと、コトリーナがそれを握る。
「あの、私あまり寝相がよくないので…もしもの時はすみません。」
「できればお手柔らかに。」
ナオキヴィッチはコトリーナに手を握られ、目を閉じる――。



「…あれ、謙遜じゃなかったのかよ。」
数十分後、ナオキヴィッチは自分の体の上に乗っているコトリーナの足を下ろした。もうこれも何度目だろうか。
「蹴られるし、踏まれるし。一体こいつは何様だ?」
王子をそんな目に遭わせる女なんて、他に絶対いない。
そう思っているとまたコトリーナの足が飛んでくる。
「これじゃ眠れねえ!」
ナオキヴィッチはコトリーナの体を抱きしめた。こうでもしないと一晩中コトリーナの手足による攻撃に悩まされてしまう。
しかし、それでも不思議なことにコトリーナはナオキヴィッチの手を握ったままだった。
「…。」
コトリーナの体は柔らかかった。手同様、力を入れたら折れてしまうのではないかと思う。
「おうじ…さま…。」
コトリーナの口から自分を呼ぶ寝言が飛び出す。ナオキヴィッチはその寝顔をのぞいた。
微笑んでいるその顔にナオキヴィッチもつられて笑う。
「…離れたくないのに。」
相手が眠っているのをいいことに、ナオキヴィッチの口から本音が飛び出した。しかしナオキヴィッチがそう思っていてもコトリーナはそうは思っていない。命じれば傍にいさせることはできるだろうが、王子の権力を使ってまでコトリーナの気持ちを無視したくはなかった。

「王子様…眠れましたかあ?」
夢の中でも自分を心配しているコトリーナ。ナオキヴィッチはその寝言が発せられる唇を眺める。
「これくらい許せよな…。」
ピンク色の可愛いその唇にナオキヴィッチは自分の唇をそっと重ねた。
そしてナオキヴィッチはコトリーナを抱きしめたまま目を閉じる。眠りたくない、眠ると朝が来てしまう。そう思っているうちにナオキヴィッチの意識は遠のいて行った――。



「…?」
目を開けたら部屋が明るかった。
「おはようございます、王子様!」
コトリーナの声にナオキヴィッチは顔を動かした。すでにベッドから出ていたコトリーナが自分を見ている。
「眠れましたか?」
「ああ…。」
成程、これが眠るという感覚かとナオキヴィッチは思った。
「よかった!!」
コトリーナは素直にそれを喜んでいる。
「私もぐっすり眠ってしまって。」
「みたいだな。」
「寝相でご迷惑はかけませんでしたか?」
「…お前、寝ている間にあれだけ動いていたら絶対太らねえな。」
「うっ!」
コトリーナは返事につまった。

「あ、あの、夢とかご覧になられましたか?」
コトリーナは話題を変えてきた。
「夢?見てない。」
「そうでしたか。私は見ましたよ。」
「…どんな?」
まさか自分がキスをしたことに気づかれたのかと、ナオキヴィッチはドキリとする。
「それが変な夢なんですよねえ。」
コトリーナは人差し指を口に当て思い出す。
「誰かがタラコを私の口にグイグイと押し付けてくるんです。」
「…悪かったな。」
「へ?」
「あ、いや。お前、夢の中でも食い意地が張っているんだな。」
「ひどい!別にタラコはそんなに食べたくないです。」
口をとがらせるコトリーナを見てナオキヴィッチは、その口にキスをしたことは自分だけの宝物にしようと決めたのだった。



「ナオキヴィッチが眠れたとは!!」
報告を受けた国王と王妃は大喜びだった。
「まあまあ、コトリーナちゃんのおかげなのね!」
「本当に苦労を掛けたね、コトリーナちゃん。」
二人に感謝の言葉を述べられ、コトリーナは笑った。が、その心はさびしさでいっぱいである。ナオキヴィッチが眠れれば自分の役目は終わりである。

「それじゃ、婚約ということで…。」
「いいえ、母上。」
すっかりコトリーナがナオキヴィッチの妃になると決めている王妃の前に、ナオキヴィッチが出てきた。
「俺とコトリーナ嬢は結婚はしません。」
「な、何ですって!?」
王妃の顔が真っ青になる。
「どういうことなの!」
「どういうもこういうも。コトリーナ嬢と結婚しないということです。」
平然と言ってのけるナオキヴィッチ。「コトリーナ嬢」という他人行儀な呼び方。今までは「てめえ」「お前」と気安く呼んでくれたのにと、コトリーナは俯いてそれを聞いていた。
「どうして!」
「…コトリーナ嬢は俺の妃になるつもりはないと、はっきり言いました。俺もその気持ちを尊重します。」
「そんな!」
婚約、結婚、二人の間に可愛らしい赤ちゃんとすっかり予想図が出来上がっていた王妃はフラフラと倒れてしまった。それを国王が慌てて介抱する。

「アイハーラ子爵。」
両親を放っておいて、ナオキヴィッチはコトリーナの父、シゲオの前に進み出た。
「ご令嬢には大変お世話になりました。礼を申し上げます。」
「と、とんでもございません、王子様!王子様が眠られるようになったこと、お慶び申し上げます。」
「この度のこと、子爵とご令嬢に対する御恩は生涯忘れません。」
「とんでもございません。娘がお役に立てて何よりです。」
「そして…。」
ナオキヴィッチは両親にチラリと目を向けた。
「母が何を騒いでいたかは大体想像がつきますが、ご心配なさらぬように。」
「え?」
「俺とご令嬢の間には何もありません。ご令嬢は何の心配もなくどうぞ子爵が良かれと思う相手と結婚されますよう。」
「それは…。」
つまりナオキヴィッチとコトリーナの間には何も起きていなかったということである。
「ご令嬢が結婚する際は、俺からもささやかな祝いの品を届けさせましょう。それが今回のことに対するお礼です。」
自分が結婚するときはナオキヴィッチが祝いの品を届けてくれる、コトリーナはそんな日が永遠に来なければいいのにと思った。ナオキヴィッチから祝いの品などほしくない。

「それでは、私共はこれにて失礼いたします。」
王妃は倒れたままである。国王は「すまない、こんな別れ方で」と何度も謝っていた。
「コトリーナ、王子様にご挨拶を。」
父に促され、コトリーナはドレスをつまんだ。
「…王子様のご健康を心よりお祈り申し上げます。そして…美しいお妃様を迎えられますことをお祈り申し上げます。」
「…ありがとう。」
ナオキヴィッチはナオキヴィッチで、コトリーナが誰と結婚するのか、それはきっとあのヨシヤという男に違いないと思っていた。ヨシヤのことを思い出すだけでコトリーナはあんなに幸せそうだったではないか。自分の幸せよりコトリーナの幸せを考え、身を引くのが一番いい方法だとナオキヴィッチは自分に言い聞かせた。

コトリーナとシゲオが乗った馬車が宮殿の門を出ていった。ナオキヴィッチは宮殿で一番高い場所からそれを眺めていたのだった――。




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 |  2012.05.26(Sat) 17:41 |   |  【コメント編集】

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 |  2012.05.26(Sat) 20:16 |   |  【コメント編集】

★水玉さん、ありがとうございます!

二人の温かなお話に余計キュンキュンしました。
「コトリーナ嬢」という言葉に、ナオキヴィッチの寂しさとコトリーナの幸せのためにという決心が伝わってきました。
~~ナオキヴィッチにヨシヤくんに合わせたい!
きっと、今も変わらず親切で誠実な男性に成長していると思います!でも、
“ヨシヤのことを思い出すだけでコトリーナはあんなに幸せそうだったではないか”
この思いには疑問符が付くような気がするんですが!?
ビジュアルも大切でしょ!?(ボソッ)

ナオキヴィッチが眠れるように手を握るコトリーナ。
寝相の悪いコトリーナが可愛すぎ♪
そして、
“ナオキヴィッチの手を握ったままだった。”。。。素敵です!!
~~続きも楽しみにしております。
あお |  2012.05.27(Sun) 00:45 |  URL |  【コメント編集】

★佑さん、ありがとうございます。

アラビアンナイトといえばランプの精ですよね!
似たような人?が次回出てきます~。
水玉 |  2012.05.27(Sun) 16:17 |  URL |  【コメント編集】

★あやみくママさん、ありがとうございます。

いえいえ、さすがに今回はコメディなので登場しませんよ!
香水の香り、確かにそんな感じですよね!コトリーナちゃんは石けんの香りってぴったりだと思います!
コトリーナちゃんの方が抱き心地はよさそう!
水玉 |  2012.05.27(Sun) 16:19 |  URL |  【コメント編集】

★あおさん、ありがとうございます。

ボソッに大爆笑~!!
確かにコトリーナちゃんは面食いですからね!ヨシヤくんはあの頃の優しさを失っていなければいいなと思います。でも幼いころの傷で恋愛に臆病になってるかも!

寝相がどれだけ悪くても手を離さなかったコトリーナちゃんに、ナオキヴィッチへの愛を感じますよね。
そんなことされたら、そりゃあナオキヴィッチも可愛くて愛しくてたまらないでしょう!
でもコトリーナちゃんの幸せを考えて身を引くなんて、なかなか男らしいところもあるような。
はっきりとコトリーナちゃんに聞いた方がいいんですけれどね♪
水玉 |  2012.05.27(Sun) 16:21 |  URL |  【コメント編集】

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 |  2015.07.06(Mon) 00:05 |   |  【コメント編集】

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