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2012.05.25 (Fri)

イリエアン・ナイト 6


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「言い過ぎだったわよね…。」
すっかりしょげてしまっているコトリーナは、宮殿の庭にある噴水の所に座っていた。
あれからナオキヴィッチの部屋を訪れてはいなかった。どんな顔をしていけばいいか分からない。
「パンツ王子はまずかった…。」
噴水から跳ねてくる水しぶきがドレスにかかる。しかしコトリーナは気に留めることなく考え込んでいた。
「だってあんな格好を王子様に見られていたなんて。」
思い出しただけでコトリーナの顔は燃えるように熱くなる。
だが恥ずかしさと同時に落胆も覚えるコトリーナ。
「あれを見ても王子様は何とも思わないんだ…。」
ということは自分は女性として見られていない証拠であろう。それが悲しい。


「何だ、あいつ?」
ここ数日姿を見せないコトリーナを見つけ、ナオキヴィッチは眉をひそめた。体でも壊したのだろうかと心配していたのに元気そうではないか。
「ったく、元気だったらさっさと騒ぎに来ればいいものを。」
心配している時間が無駄だったと勝手なことをナオキヴィッチは考えながら、そっとコトリーナの背後に回った。大きな噴水のおかげで勘づかれることもない。

「はあ…。」
コトリーナはまた溜息をついた。
肝心の任務、王子を眠らせるということはまだ遂行できていない。そのために宮殿にやってきたというのに。
あの時、ナオキヴィッチから自分の妃になりたくないのかと尋ねられ拒否した時、コトリーナの胸はチクンと痛んだ。それはこのままではナオキヴィッチと別れる時が来るということに気がついたのである。
眠らせることができなければ、次の方法、すなわちナオキヴィッチを眠らせることのできる女性を探さねばなるまい。いつまでも自分があれこれと試しても時間の無駄、いやナオキヴィッチの体だって心配である。
妃になりたいのかと問われた時、思わず頷きそうになってしまった。しかしそこで頷いてしまったら自分も妃の座を狙っているだけの人間とナオキヴィッチに思われてしまう。それは嫌だった。

「何か悩んでいてもしょうがないし、あ、そうだ!」
コトリーナは立ち上がった。
「この近くにヨシヤくんのお店があったはず!ちょっと行ってこよう!」
コトリーナはパッパッとドレスをはらうと、元気よく歩いて行ってしまった。
「…ヨシヤ?誰だ、それ?」
自分に全く気付かずに行ってしまったコトリーナを見ながら、ナオキヴィッチは呟いた。



その晩、コトリーナはナオキヴィッチの部屋を訪れた。
「王子様、ご機嫌はいかがですか?」
「…あんまり良くない。」
相変わらずムスッとしているナオキヴィッチにコトリーナは戸惑ってしまう。
「あ、あの…この間はすみませんでした。」
「この間?」
「はい。パンツ王子とか失礼なことを。」
「ああ、あれか。」
「本当にごめんなさい。」
コトリーナは頭を下げた。それを見てナオキヴィッチは、
「…俺も好き勝手なことを言ったし。」
と答える。まな板だの枯れ枝だのとは言い過ぎたとナオキヴィッチも反省していたのだった。
「それじゃ、おあいこってことで!」
コトリーナの顔に笑みが広がる。
「…ったく、調子のいいやつだな。」
ナオキヴィッチはプイと横を向いた。が、その口元が少し緩んでいた。

「今夜のコーヒーのお伴はこちらです。」
最近しているようにコーヒーを淹れた後、コトリーナは綺麗にラッピングされた箱を出した。
「何だ、これ?」
「開けてみますね。」
丁寧にラッピングをほどいていくコトリーナの手元をナオキヴィッチは見つめる。
中から出て来たのは、透明なケースに入ったおいしそうなマフィンだった。

「これ、紅茶の葉っぱを刻んで入れて焼いたんですって。」
「コーヒーのお伴に紅茶かよ。」
「まあまあ、おひとつ。」
コトリーナからマフィンを受け取り、ナオキヴィッチは頬張った。甘みがおさえられ悪くない味である。
「おいしい!」
コトリーナも頬張り笑顔を見せる。
「これ、お前が焼いたんじゃねえだろ?」
「当然!」
なぜか胸を張るコトリーナ。
「威張るなよ。どうせ焼くならこれくらい仕上げてほしいもんだ。」
「これは無理ですよ。だってプロが焼いたんですもの。」
「プロ?」
「はい。私の幼い頃の友達がこの近くにお店を出しているんです。」
それを聞いたナオキヴィッチは、昼間コトリーナが口にした「ヨシヤ」という名前を思い出した。

「その友達って、女か?」
「いいえ、男の子です。」
モコモコとマフィンを食べながらコトリーナは答えた。
「小さい時はそれはもう、粘土細工の上手な子だったんです。それが高じてお菓子職人になったという。」
「粘土とお菓子、一緒かよ?」
何となく目の前のマフィンが粘土のように見えてくるナオキヴィッチ。
「私にもよく教えてくれたんですよ。こうしたらお姫様が立つようにできるよとか、この色とこの色の粘土は混ぜない方がいいよ、とか。」
「…お前がどんな粘土細工を作ったか想像できるな。」
「今も優しいんですよ、ヨシヤくん…。」
マフィンを手にコトリーナはとうとう、その名前を口にした。天井を見つめうっとりとしているその顔。まるで恋人を想っているかのようである。

「で、お前はそのヨシヤに会いに出かけたってわけか。」
「はい!」
「ふうん…。」
落ち込んでいたコトリーナを笑顔にしたのは自分ではなく、そのヨシヤという男だったことにナオキヴィッチは腹立たしさを感じた。

「ヨシヤくん、お店出したばかりなんですよ。でもこれだったらすぐに人気店になりますよね!そうなったら私も嬉しいな。何かできることないかなあ…うぐっ?」
そう話すコトリーナの口にナオキヴィッチは自分の食べかけのマフィンを押し込んだ。
「お前なんかが手を出すとろくなことにならねえよ。」
「うぐっ、うぐっ、うぐっ!」
目を白黒させているコトリーナを放っておいて、ナオキヴィッチはベッドに横になり背を向ける。

「もう、ひどいじゃないですか!」
やっとマフィンを口から取り出したコトリーナは抗議の声を上げた。
「うるせえよ、お前はさっさと自分のすべきことをしろ。」
ヨシヤの店より自分を眠らせることが先だろと思いながらナオキヴィッチは言い返す。
「すべきこと…。」
コトリーナは溜息をついた。
「…そうですよね。王子様を眠らせるために来ているというのに、全然何も助けてあげられませんね。」
そのしょげっぷりにナオキヴィッチは顔を少し動かした。
「王子様、どうしたら眠れるのでしょうね?私にできる事なら何でもするのに…。」
「お前に出来ることなら、何でも…?」
「はい。こうしたら眠れるって方法があれば何でもします。」
その時、ナオキヴィッチはコトリーナの腕を引っ張った。
「え?え?え?」
一体何が起きたのかと確認する間もなく、気がついたらコトリーナはナオキヴィッチのベッドの中に倒れ込んでいた。そして自分に覆いかぶさるようにしているナオキヴィッチに気がつく。

「お、王子様?」
信じられない出来事にコトリーナの胸は早鐘を打つように落ち着かず、顔も赤くなってくる。
「お前に出来る事なら何でもするんだ?」
ナオキヴィッチはそんなコトリーナを顔色一つ変えず見下ろしていた。
「は、はい…。」
「それじゃあ…俺に一晩体を貸せと言ったら?」
「…え?」
「お前が夜伽をしてくれたら、俺はすぐに眠れると言ったら、そうしてくれるのか?」
自分でもかなり意地悪なことを口にしている自覚がナオキヴィッチにあった。しかし止まらない。
コトリーナはナオキヴィッチの顔を見つめていたが、やがて口を開いた。
「…それで…王子様が…お休みになれるのでしたら…。」
てっきり拒むと思っていたナオキヴィッチは驚く。そのナオキヴィッチにコトリーナは続けた。
「私の役目は、王子様を眠らせることですから…。それで陛下や王妃様、私の父が喜んでくれますので…。」
それを聞き、ナオキヴィッチは我に返った。
やはりそうだった。コトリーナは自分のことを想ってなどいない。王子である自分を眠らせるために体を張っているまでだ。国王に頼られた父を哀れに思ってここに来たまでのことだった。
きっと王子が自分じゃなかったとしても、コトリーナは抱かれようとするに違いない。

「…。」
ナオキヴィッチはコトリーナから体を上げた。
「王子様?」
どうしたのだろうと思ったコトリーナ。ナオキヴィッチはその腕をまた引っ張った。
そしてそのままベッドから下ろし、部屋のドアまで引っ張って行く。
「王子様?一体…。」
コトリーナの問いに答えることなく、ナオキヴィッチはドアを開けコトリーナを追い出した。
「お前はやっぱりそういう奴だったか。」
冷たく言い放つとナオキヴィッチはドアをパタンと閉めてしまった。
「王子様…?」
薄暗い廊下に一人取り残されたコトリーナは茫然とそこに立ち尽くした。そのうち目から涙があふれ始めたのだった。


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 |  2012.05.25(Fri) 15:03 |   |  【コメント編集】

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 |  2012.05.25(Fri) 17:09 |   |  【コメント編集】

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 |  2012.05.25(Fri) 18:24 |   |  【コメント編集】

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 |  2012.05.25(Fri) 21:04 |   |  【コメント編集】

★あけみさん、ありがとうございます。

食べかけのマフィンを入れるなんて、愛情がないとできませんよね~♪←あれ、違った?(笑)
ナオキヴィッチ、嫉妬の鬼となってしまって。まあとんでもないことをしてしまって。
まな板とパンツ王子の恋、どうなることか見届けて下さいね!
水玉 |  2012.05.27(Sun) 16:13 |  URL |  【コメント編集】

★佑さん、ありがとうございます。

もちろん、読んでますよ~♪
なんかやきもち焼きのお父さんを冷静に観察しているみたいで楽しいお話ですよね^^
頭が琴子ちゃんというお子ちゃまがとても新鮮ですよね!
水玉 |  2012.05.27(Sun) 16:14 |  URL |  【コメント編集】

★紀子ママさん、ありがとうございます。

琴子ちゃんが残酷にふったよしやくん…(笑)
可哀想でしたよね~でもある意味、小さい頃から琴子ちゃんは琴子ちゃんだったんだなあと思いました!
青い二人が熟すのはいつなのか。ウフフ♪
水玉 |  2012.05.27(Sun) 16:15 |  URL |  【コメント編集】

★anpanさん、ありがとうございます。

いますよ~!!琴子ちゃんの間違った恋の一人です(笑)
番外編みたいな感じで掲載されてました!
水玉 |  2012.05.27(Sun) 16:15 |  URL |  【コメント編集】

★あやみくママさん、ありがとうございます。

応援し隊なんて、ありがとうございます!!永久メンバーでいいですかね?(笑)
脱退絶対認めませんけれど(笑)
私も二人を温かく見守り隊に入隊します!あ、二人をいじめ隊にも時々入りたいかも(笑)
水玉 |  2012.05.27(Sun) 16:17 |  URL |  【コメント編集】

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