日々草子 イリエアン・ナイト 2

イリエアン・ナイト 2





村から宮殿まで遠い上、途中で道に迷ってしまいコトリーナ達親子が到着したのは夜になってしまった。

「シゲオ!!」
「これは陛下!!」
親友の到着を首を長くして待っていたシゲキヴィッチ国王がわざわざ玄関まで出迎えてくれた。
「まあまあ、遠いところをありがとうございます。お疲れになったでしょう。」
ノーリー王妃も一緒だった。
そして王族専用の居間へと通された。
「コトリーナ、ご挨拶を。」
「は、はい。」
コトリーナは緊張しながらもドレスをつまんで腰をかがめた。
「こ、コトリーナでございます。」
「まあ、何て可愛らしいお嬢様なんでしょう!!」
ノーリー王妃が頬に手を当て、コトリーナに目を細めた。

「あの時こんなに小さかったコトリーナちゃんが大きくなって。」
国王も目を細める。
「最後に会ったのは6歳でしたかしら?」
「はい。」
「では今は…。」
「18歳になりました。」
シゲオが答えている傍で、コトリーナは国王と王妃を見る。国王は背は高くはないが優しそうであり、王妃は美しい。
「うーむ、このお二人の間にあんなモンスターが…。」
コトリーナの頭には「突然変異」という言葉がまた浮かんでいた。

「それじゃあ、シゲオもしばらくはここに滞在してくれ。」
「勿体ないお言葉でございます。」
コトリーナ一人を宮殿へ残して村へ帰ることは不安だろうと、国王のシゲオへの配慮だった。
「コトリーナちゃんは私と沢山おしゃべりをしましょうね。ああ、娘ができたみたいで何て嬉しいことでしょう。」
素朴で素直なコトリーナを王妃はとても気に入ったのだった。
しかし、コトリーナには任務がある。

「あ、あの。私、王子様のお部屋へ伺いたいのですが。」
三人が昔話で盛り上がっている所に、コトリーナは意を決して声をかけた。
「え?どうして?」
王妃が首を傾げる。
「どうしてって…私がこちらへ来た目的は王子様の…。」
「あら、そうだったかしらね。」
自分でおふれを出しておきながら、コトリーナとシゲオの来訪ですっかり忘れていた王妃はやっと気がついた。
「あん、でもいいのよ。あんな訳の分からんちんな息子なんて放っておいてこちらで私とお喋りしましょう。」
コトリーナを抱きしめて頬ずりする王妃。
「いえ、ですが…早くなんとかしないと、その分からんちん、あ、いえ、王子様のお悩みを解消しないと陛下も王妃さまもご心痛でしょう?」
「まあ!!」
コトリーナの言葉に王妃はまた感涙する。
「なんて優しいんでしょう!シゲオ様、あなたは本当に子育てに成功されましたわね!!」
「は、はあ…。」
王妃のハイテンションぶりに、さすがにシゲオもたじたじとなっている。
「それに比べて私たちは子育てに大失敗してしまいましたわ。ああ、なんであんな息子に…。」
「いえ、王子様は頭脳明晰、スポーツ万能と素晴らしい方で国内はもとより国外にその名は広まっておいでですよ。」
「ふうん、そうなんだ」とコトリーナは思った。
「性格が問題なんですよ、性格が!」
王妃はシゲオに言い返す。
「そ、そのためにコトリーナを連れてきましたので…。」
シゲオの傍でコトリーナも頷いた。
「そうでしたわね。はあ…。」
仕方がないと、王妃は王子の侍従を呼んだ。



「こちらが王子様のお部屋でございます。」
一見普通のドアの前にコトリーナは案内された。
「…鉄格子かと思ってたのに。」
「は?」
「あ、いえ。そうですか。ありがとうございます。」
ここから先は一人で大丈夫だと、コトリーナは侍従を帰した。
そしてコトリーナはドアをノックした。
「…入れ。」
中から聞こえたのは普通の男性の声だった。
「ダミ声かと思ったのに。」
見た目怪物でも声は普通なのかなと思いながら、コトリーナはドアを開けた。

王子の部屋らしく、中はかなりの広さだった。壁という壁が全て本で埋め尽くされている。
「うわあ…すごい本。」
コトリーナは見回しながら感心した。

「母上も懲りないお方だ。」
声がした方へコトリーナは振り向いた。部屋の中央の肘掛椅子に、若い男性が座っていた。自分を睨みつけている。
コトリーナはその若い男性の顔立ちにまず目を奪われた。切れ長の目、高い鼻に形のいい唇。
「まるで王子様みたい…。」
絵本で昔見た王子様そのものの美しさにコトリーナが呟くと、
「王子だけど、何か?」
と冷たい声が返って来た。

「え、王子様ですか?」
「は?何を言ってるんだ、お前?」
「あ、いえ。すみません。」
そうだ。この部屋にいるのは王子しかいない。自分でもバカなことを口走ったと思いながらも、コトリーナは目の前の王子が自分の想像と遥かに違っていたことに驚いていた。
「普通の人間だった。」
「あ?」
「あ、いえ。」
コトリーナはあせった。つい本音が出てしまった。

「あの…コトリーナと申します。」
コトリーナは今さらながら挨拶をした。
「知ってる。父上の親友の娘だってな。だから他の女と一緒に扱うなと両親からうるさく注意されている。」
ナオキヴィッチ王子の目つきは鋭いままだった。

「俺はお前なんかと交流する気はない。両親の手前そうだな…。」
ナオキヴィッチは時計を見た。
「10時まではここにいていい。10時になったらさっさと出ていけ。」
「10時…。」
「本当はすぐにでも追い出したいのだが、両親がうるさいから仕方がない。」
「はあ。」
ナオキヴィッチの迫力に押され気味のコトリーナだったが、すぐに自分の任務を思い出した。

「いえ、私は王子様を眠らせるためにやってきたのです。」
「知ってる。でも無理。無駄なことはやめた方がいい。」
「いえ、でもやってみないと!」
コトリーナは勇気を出してナオキヴィッチの前へ進もうとした。その時。

ガタン!!

コトリーナのドレスの下からまな板が床に落ちた。

「…お前、まさかそれで俺を殴って“はい、眠りましたよ”とかいうことにする気か?」
床に落ちたまな板を拾ったナオキヴィッチが、コトリーナを睨む。
「とんでもございません!!」
真っ青になりながらコトリーナはブンブンと頭を振った。
「それは光線とか火の玉を防御するために仕込んできたものでして。」
「光線?火の玉?」
まな板とコトリーナをナオキヴィッチは交互に見た。

「…とうとうそんなふざけたことを口にする奴しかいなくなったわけか。」
ナオキヴィッチは意地悪く笑った。
「来る女全て追い返してきたからな。もう残っていないと安心してたら、どうしようもないバカが残っていたってわけか。」
「バカって…。」
「まあ、いい。とにかく10時になったらさっさと帰れ。」
「わかりました。」
時間は守った方がいいだろうと、コトリーナは思った。
限られた時間の中で何とかしてみよう。

ナオキヴィッチは立ち上がり、隣の寝室へと向かう。コトリーナはその後を追いかける。
「何でついてくる?」
「だって王子様を眠らせるために…。」
それを聞くとナオキヴィッチはまな板を抱えた。
「大丈夫です、それで殴ったりしませんから!!」
「どうだか。」
二人は寝室へと入った。寝室もかなり広く、大きな天蓋つきベッドが置かれていた。ナオキヴィッチはまな板を抱えたままその中へもぐりこんだ。
「ここもすごい本ですね。」
寝室も本がいっぱいだった。コトリーナはそこで思い付いた。

「そうだ。この本をお読みしましょう。そしたら眠れるかもしれませんよ。」
子供を寝かしつけるために本を読む。スタンダードな方法をコトリーナは選び、本棚から一冊の本を取り出してきた。
「さてと…。」
ベッド脇の椅子に座り、コトリーナは本を開いた。小さな字がぎっしりとページにつまっている。挿絵などない。
「ええと…。」
読もうとしたコトリーナはその小さな字を見ただけで、瞼が下がって来た。
「ぐう…。」
夢の世界へと行きかけたコトリーナの耳を、ナオキヴィッチが引っ張った。
「てめえが寝てどうする!!!」
「わあ!!!」
膝から落としそうになった本をコトリーナは慌てて拾う。

「お前、何しに来たか分かってるのか!!」
ベッドから起き上がったナオキヴィッチは腕を組み、コトリーナを鬼の形相で睨みつけていた。
「す、すみません。でもこの本、すごくよく眠れますよ?」
コトリーナはナオキヴィッチに本を渡そうとした。
「もう読んだ。ここにある本は全て読んだ。」
「え?それなのに眠れないのですか?」
「バカと違ってね。」
またバカ呼ばわりされて、コトリーナは頬を膨らませた。

「これだけの本を読んでいたら頭もよくなりますよねえ。」
コトリーナは本を片付けながら言った。
「私なんて、勉強苦手だったから。」
「だろうな。」
「う…。」
肯定されると言い返しようがない。

「勉強なんて学校のテスト前しかしなかったし。王子様はきっと毎日勉強されてたのでしょうね。」
「してないね。」
「え?嘘!」
コトリーナは目を丸くする。
「家庭教師の言葉など一度聞いたらすぐに覚える。だから勉強は授業の間だけだ。」
「すごい…。」
「どうせお前みたいなバカはテスト前に机に向かっても、何もできずに寝ておしまいだろ。」
「う…。」
またもや言い当てられ、コトリーナは言い返せない。

「ですが、裏技があったんです!!」
「裏技?」
怪訝な顔をするナオキヴィッチの前に、コトリーナは胸を張った。
「ええ。鉛筆の後ろのところに1から5まで番号を振っておきます。テストの時にそれを転がすんです。出た番号を答えに書く。」
「…そんなこと、マンガの世界だけじゃねえのかよ。」
呆れ果てるナオキヴィッチの前でコトリーナは続ける。
「バカにしたものじゃないですよ?なんと私はそれで…。」
「それで?」
ナオキヴィッチがコトリーナの話の続きを聞こうとした時だった。

ゴーン、ゴーン、ゴーン…ゴーン。

10時を知らせる時計の音が響いた。

「あ、約束の時間ですね。それじゃ今夜はこの辺で。」
コトリーナは立ち上がった。
「え?あ、ああ。」
話の続きはどうなるんだと思いながらもナオキヴィッチは頷いた。せめてそこだけでも話していってほしいところだが、自分から制限時間を設けた以上そんなことはできるはずがない。
「おやすみなさい、王子様。」
そしてあっさりとコトリーナは部屋を出て行ってしまった。

「ったく、何だ、あのバカは。」
一人ベッドに残されたナオキヴィッチは仰向けになり目を閉じた。あのバカに付き合ったから今日は疲れて眠れるかもしれない。

「何が鉛筆だ。んな古典的な方法でどうやって…。」
ナオキヴィッチは目を開けた。
「まさか…。」
その古典的な方法でコトリーナは満点を取ったとか?
「いや、んな訳ない。」
しかし、あのコトリーナの言い方は気になる。
「…その後のテストはその方法で全て満点を取ったとか?」
ありえない、ありえないとナオキヴィッチは頭を振った。しかし…。
天才のナオキヴィッチは自分の知らない世界があることに興味をひかれていた。
「…気になるじぇねえか!」
ナオキヴィッチの目はどんどん冴えてきてしまった。こんなくだらない話の続きが気になっている自分に腹が立つ。
「くそ、あの女!!」
ナオキヴィッチはコトリーナが残して行ったまな板を床へ放り投げたのだった。





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No title

「…気になるじぇねえか!」
そっくりそのまま水玉さんにお返しします!
すごく面白い!!
この話、ぎゃぐ路線ですよね??

あはは♪

こんばんは~
更新ありがとうございました(ペコリ)
クスクス笑いから始まり、「てめえが寝てどおする!!!」 からは大爆笑でした♪
ナオキヴィッチではないが、気になって眠れない! 
あはは~♪ 面白い♪ 

水玉様 お疲れですねぇ・・・
どうか御身体 ご自愛ください(^^)
          お母様 お大事に(^^)

水玉さん、こんばんは♪

偏屈入江くんがしんせ~ん!~♪

「ぐう…。」。。。(爆)
ゴーン、ゴーン、ゴーン…ゴーン。。。(爆)
「おやすみなさい、王子様。」~あっさり素直なコトリーナ☆(爆)
気になって悶えているナオキヴィッチも意外と単純で素直?(笑)

それにしてもまな板!まな板を見るたび当分笑えそうです♪(笑)

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紀子ママさん、ありがとうございます。

鉛筆コロコロのオチは、これまた超くだらないオチですよ~。
コメディは書いていて楽しいですが、滑る恐怖も味わっているのでドキドキです。
コトリーナちゃんは本当に天真爛漫って感じで巣よね♪

佑さん、ありがとうございます。

一夜目からすでにコトリーナワールドの住人になっている王子様。
あれで満点取れたら、みんな真似しますよね!

ぷりんさん、ありがとうございます。

気になってくださーい!!
といって、すごいしょうもない話なんですけれど^^;

ゆみのすけさん、ありがとうございます。

もちろん、ギャグ路線ですよ!!
ここからシリアス路線へ転向しろって言われても不可能ですもん!!
気になるって言っていただけて嬉しいです♪

メルさん、ありがとうございます。

てめえが寝てどうする!!は私渾身のギャグです(笑)
だから爆笑していただけて嬉しいです。
いつもお気遣いありがとうございます。
メルさんもお体に気をつけて下さいね。最近体調崩す人多いみたいですから。

あおさん、ありがとうございます。

そうなんです、素直なコトリーナちゃん、引き際完璧(笑)
逆に翻弄されている入江くんが…ぷぷっ。
まな板、私も見るたびに笑っています。

あけみさん、ありがとうございます。

ジンクス崩れました?いや、まだまだです…失速しそうで怖いのなんの!
この話はほとんどナオキヴィッチの寝室が舞台なので二人芝居めいてますよね。
二人の掛け合いは私も書いていて楽しいです。
無意識に王子様を翻弄しているコトリーナちゃん、二人の間に愛が芽生える日はくるのか!
プロフィール

水玉

Author:水玉
『イタズラなkiss』のほかには『ゴルゴ13』が好きです☆
多数あるイタキスの二次小説の中で邪魔することなく、ひっそりとマイペースで我が道をゆきつつ生息しております。
そっと見守っていただけたら嬉しいです。

※当ブログに掲載されている文章及びイラストの無断転載・使用はご遠慮下さい。

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このブログについてのお願い
当ブログは、『イタズラなkiss』の二次創作をメインとしておりますが、時折管理人の趣味や日々の出来事についての記事も書いております。

原作者様や関係各位とは一切関係ありません。

二次創作については、いわゆる原作の隙間をぬった作品もありますが、主人公以外のキャラクターをメインとしたものや オリジナルキャラクターが出てくるものもございます。

そして、原作と違った時代(平安や明治やその他の時代を舞台にしております)、異なる設定(主人公を医者と看護師じゃない職業にしております)で書いてあるものが多いですが、原作を冒涜しているつもりは全くございません。

二次創作が苦手という方及び原作のイメージと合わないと思われる方はどうぞお引き取り下さいますようお願いいたします。

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