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2012.05.20 (Sun)

イリエアン・ナイト 1


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「うわぁぁぁぁんっ!!!」
今宵もまた、イーリエ王国の宮殿に女性の泣き声が響いた。
「またか…。」
「またですのね…。」
国王シゲキヴィッチと王妃ノーリーは二人で溜息をついた。

「どうしてあの子はああやって女の子を泣かせるのでしょうか。」
「やはり方法が悪かったのではないのかい?」
「そんな!」
夫の言葉に王妃は美しい眉を吊り上げた。
「一石二鳥だと思ったんですのよ?」
「だがな、やはり一つずつ解決していくことが正しかったとわしは思うのだよ。」
「ですが、ああでもしないとあの子は…。」
王妃は叫んだ。
「一生独身で、この国は滅んでしまいますわよ!!」

イーリエ王国は豊かで戦いとも無縁の、国民皆が幸せに暮らしている王国であった。それはシゲキヴィッチ国王が上手に国を治めているからである。
国民は皆、優しく決断力のある国王と、美しく気さくな王妃を慕っていた。
が、その国王夫妻が頭を悩ませている重大な問題が現在発生しているのだった。

「王子の目下の問題は不眠が続いているということだ。」
シゲキヴィッチ国王が言った。
「ええ、ええ。それはよく分かっておりますとも。」
ノーリー王妃が頷く。
「不眠が続き不機嫌なところに…。」
シゲキヴィッチ国王が頭を抱えた。

国王夫妻には王子がいた。名前をナオキヴィッチという。
このナオキヴィッチはいずれ国王となる身である。そのナオキヴィッチが最近、不眠に悩まされているのだった。
一晩二晩では気にもしないのだが、さすがに続くと周囲は心配しだした。

「運動もしましたわよ?」
ノーリー王妃が言うとおり、昼間思い切り体を動かせば疲れて夜はぐっすり眠れるのではないかと最初考えたのだった。
そこで宮殿にてスポーツデーなるものを設け、その日は朝から晩までありとあらゆるスポーツを繰り広げてみたことがあった。
しかし。

「…あの子、無駄に運動神経良すぎですわ。」
ノーリー王妃が呟いたとおり、ナオキヴィッチはスポーツ万能であった。特にテニスを好んだのでこのスポーツデーでもそれを選択した。
しかし周囲の者との腕前があまりにも違いすぎ、試合開始→王子の勝利ですぐに終了ということが繰り返され、本人は全く疲れなかったのである。当然その晩も眠れなかったことは言うまでもない。



「催眠術をかけたこともあったなあ。」
とにかく何でも試してみようと、国一番の心理学者を呼んでナオキヴィッチに催眠術をかけさせたこともあった。
しかし。

「王子様の意志が強すぎて、全然かかりません!こんな方は初めてでとても私の手には負えません!」
と、心理学者は逃げてしまったのだった。
ナオキヴィッチは「胡散臭いものに引っかかるほど愚かではない」という態度を終始貫き、催眠術を跳ね返してしまったのである。

それからもありとあらゆる手を使ってみたが、まったく効果はなかった。ナオキヴィッチの機嫌がどんどん悪くなっていく一方であった。
そこでノーリー王妃は苦肉の策を出した。
それは――。

「王子を眠らせることができた女性は、王子の妃になれる。」

何ともめちゃくちゃな策だったのである。

実はこのナオキヴィッチ王子、見事なまでの女性嫌いだったのである。
王妃は元々ナオキヴィッチの女性嫌いを心配していた。このままでは未来の王妃はやってこない、当然、子孫はできない。ということはこの国の王室は滅んでしまう。
そこで王妃はナオキヴィッチの不眠症を解消と同時に、王子の妃も一緒に手に入れようと考えたのだった。

王子の妃、すなわち未来の王妃になれるということでそれは国中の女性が殺到した。といっても町民の娘なぞは恐れ多いと遠慮したので殺到したのは貴族の娘たちだった。
「私が王子様を眠らせてみせます。」
「いえ、私が。」
美しさに磨きをかけた娘たちが毎晩、宮殿へと足を運んだ。
しかし皆、冒頭のように悲鳴を上げて逃げていってしまうのがおちだった――。

「一体何をあの子はしたのでしょうか?」
「さあ、想像もしたくないな。」
我が子とはいえ、あまりそこは考えたくない両親であった。

そして今宵もナオキヴィッチ王子は不眠症に悩まされているのであった。



場所は変わり、イーリエ王国の首都から少し離れた、のどかな村。

「うーむ…。」
「どうかなさいました?お父様。」
顎に手を当て悩んでいる父親に声をかけたのは、髪の長い大きな目をくりくりっとさせた少女だった。
「おお、コトリーナか。」
父は娘に笑顔を向けたが、すぐにまた渋い顔に戻ってしまった。

「お手紙ですか?」
父は手紙を見て唸っていた。
「ああ、宮殿から届いてね。」
「宮殿?もしや国王陛下からですか?」
「ああ、そうなんだ。」

コトリーナの父、シゲオ・アイハーラ子爵は貴族でありながら都会から離れたこの村に静かに暮らしていた。
それは十数年前に愛妻を亡くした悲しみが大きかったこと、そして一人残された忘れ形見のコトリーナを静かな場所で育てたかったことからだった。
その父はさして高い位でないのに、シゲキヴィッチ国王と仲が良かった。

「私はお会いしたことがありませんが、とても素晴らしいお方ですよね。」
父の肩をもみながらコトリーナが訊ねる。
「ああ。わしがここに引っ越すと決めた時も引き留めて下さった。だが最後は快く許して下さったんだ。懐の広い本当に素晴らしい国王でおいでだ。実はその時に一度、お前は国王陛下と王妃様と顔を合わせているのだよ。」
「まあ、そうだったのですか。」
「覚えていないのも無理はない。お前は小さかったからな。」
「その国王陛下が何か?」
「うーむ…実は王子様のことで大層お悩みのようなのだ。」
「王子様?」
「そうだ。王子様がここしばらく眠れない夜を過ごしておいでで、お体を壊すことを大層心配しておいでだ。それに加え…。」
「加えて?」
ここでシゲオは、王子を眠らせた女性は妃になれるという話をコトリーナにした。もちろん、王子が女性嫌いであり多数の女性が犠牲になっていることも。
「まあ…それは何と言っていいやら。」
女性嫌いの人間に、眠らせるためとはいえ女性を近づけることは完全に逆効果である気がする。

「わしも陛下にはご恩がある。何とかお力になりたいものだが…。」
シゲオはまた悩んでしまった。コトリーナは父の背中をしばし見つめた後、口を開いた。
「私が何とかしましょうか?」
「何!?」
シゲオが振り向いた。
「お力になりたいです、お父様。」
「しかし、コトリーナ!」
シゲオは言った。
「王子様はただ者ではないんだぞ?たくさんの娘たちが毎晩泣き叫んで追い出されているんだぞ?」
「そんなお父様、王子様を怪物のようにおっしゃらないで。」
コトリーナは笑った。
「お父様が尊敬されている陛下と王妃様の間のお子様でしょう?そんなにひどい方とは思えません。」
「いや、しかし。」
シゲオは何とかコトリーナを止めたかった。娘をみすみす泣かせるような真似はしたくない。
「お父様には男手一つで育てていただきました。今こそ、親孝行をするときです。」
「コトリーナ。しかし…。」
「あ、もしかして私をお嫁にやりたくないと考えていらっしゃるのでは?」
「う…。」
図星である。いくら王子の妃とはいえ一人娘をまだ手元に置いておきたい。
「大丈夫です。別に王子様のお妃にならなければいけないわけじゃないでしょう?“王子様のお妃になれる”ということで“する”と命令ではありませんし。」
「まあ確かにそうだが。」
「私のような田舎娘に宮殿は向いていません。お父様を助けることができたらすぐに戻ってまいります。」
いくらシゲオが止めても無駄だった。コトリーナの決意は固かった。



「え!宮殿へ行く!?」
「うん、そうなの。」
友人のサティとジーンにコトリーナは全てを話した。
「何やて!?」
そこに加わってきたのは、同じく友人のキーンである。
「コトリーナは…俺の嫁さんになるはずやろ!!」
「そんなこと約束してないもん。」
ぷいとコトリーナは横を向く。キーンはずっとコトリーナを追いかけている。いい友人には違いないのだが、コトリーナにとってはそれ以上には考えられなかった。

「だ、大丈夫なの?」
キーンは無視し、サティがコトリーナを心配そうに見た。
「何が?田舎者だから馬鹿にされないかってこと?それならまあ多少は我慢するしか…。」
「違うって!」
ジーンがコトリーナの言葉を遮る。
「違う?」
怪訝な顔をするコトリーナの前で、サティとジーンは不安そうに顔を見合わせた。

「私、この前街に出かけた時に聞いたんだけど。」
「ああ、サティはこの前、宮殿近くに住む親戚の家に出掛けたんだったわよね。」
コトリーナは思い出した。
「うん。その時に聞いたんだけどね。王子様の噂。」
「噂?」
「…王子様って人間じゃないらしいよ。」
「…はい?」
「だって聞いたのよ!王子様の口からは無数の針が飛んでくるって。それを全身に刺されて貴族のお嬢さんたちは大けがをして帰ってくるんだって!!」
「…んなバカな。」
コトリーナは笑おうとしたが、サティの真剣さに顔が引きつってしまった。

「私も聞いたことがある。」
今度はジーンが口を開いた。
「王子様って身長が二メートル近くあるんだって。んでもって手を一振りするとそこから火の玉が出てきて目の前の相手をボロボロにするって。」
「…そんなこと、お父様は言ってなかったわよ?」
何でもシゲオはナオキヴィッチ王子が生まれたばかりの頃、顔を一度見たことがあるらしい。
「王妃様に似て美しい顔立ちだった。」
この前コトリーナにそう話していたばかりである。

それをコトリーナが二人に話すと、
「生まれたころは人間だったけど、ほら、あれよ、あれ。」
「あれ?」
「突然変異ってやつよ!それを隠しているんじゃないのかしら、国王様と王妃様は。」
「突然変異…。」
「そういえば、俺も聞いたことあるで!こないだ舎弟の奴が宮殿の侍女さんをナンパしようとしたら話しているのを聞いたって言うてた!」
「な、何を?」
コトリーナは唾を飲み込む。
「王子って奴はな、毎晩血を飲んで精をつけているらしいで?」
「血!?」
コトリーナは真っ青になった。
「ああ。毎晩毎晩、お付きの人間から生きのいいやつを選んでな?そいつの生き血をギューッと絞って飲んで“まずい。もう一杯”ってお代りしているらしいで?」
「ま、まずいなら飲まなければいいじゃない。」
キーンが雑巾でも絞るような真似をしたものだから、コトリーナは震えあがってしまった。
「それを飲んでいるのが残忍な証拠やないか。そうそう、あともう一つ。」
「な、何よ?」
「…王子の目からは怪しい光線が飛び出して、それを浴びたら石になるって話や。」
「光線…。」
「石…。」
コトリーナたちは話をまとめ、王子の外見を想像してみた。
二メートルの巨体で口からは針、手からは火の玉、目から光線を飛ばす…。それらのパワーの源は人間の生き血を飲むこと――。

「モンスター…。」
そうとしか思えなかった。

「ファイト、コトリーナ!」
三人はコトリーナを励ました。
「ふぁ、ふぁいと…。」
力なく返すコトリーナ。今すぐ父に「話はなかったことに」と言いたい。しかし、父を助けるためには行かなければ。



やがてコトリーナが父と共に宮殿へ向かう日がやってきた。
「ん?お腹が少し変じゃないか?」
馬車に乗り込んだシゲオはコトリーナを見て首を傾げる。
「そ、そう?気のせいよ、お父様。」
コトリーナは笑ってごまかした。何の役にも立たないと思うが、コトリーナはお腹の所にまな板を仕込ませていたのだった。少しでも光線や火の玉から身を守るために――。









ふざけたタイトルからお分かりかと思いますが、そういう話です。
前フリが思いのほか長くなってしまいましたが、この後どんどん失速する予定です(たぶん)

水玉のジンクス:成功した話の次作は失敗する

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*Comment

★おはようございます!

水玉様おはようございます!新しい物語、始まるんですね!
すみません、題名見た瞬間『エイリアン』に見えてしまい、固まってしまいました
ナオキヴィッチ様人間じゃなくなってますね。なんか可哀想ですね。噂におびれ…(でよかったかな?)とはいえども。コトリーナちゃんも信じてるし。
眠れないって、どうしたんでしょう?水玉様の感性は素晴らしいので、どんなお話になっていくのか楽しみです!
お身体を大事になさって、ゆっくりお話作って下さいね。
応援しております!
クチナシ |  2012.05.20(Sun) 04:28 |  URL |  【コメント編集】

★管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます
 |  2012.05.20(Sun) 07:11 |   |  【コメント編集】

★クチナシさん、ありがとうございます。

コメントありがとうございます。
エイリアン…確かにそう見えるかも!ある意味ナオキヴィッチはエイリアンみたいなところありますしね(笑)
コトリーナちゃん、本物のナオキヴィッチを見てどう思うでしょうか?
最初は一話で終わらせようかと思ったのですが、なんか長くなってしまって…。
でもどんどん尻つぼみになっていく予感が大きくて、ドキドキです!
水玉 |  2012.05.20(Sun) 15:13 |  URL |  【コメント編集】

★佑さん、ありがとうございます。

うわ~ありがとうございます!!
そんなこと言って下さるの、佑さんだけですよ~!!
水玉 |  2012.05.20(Sun) 15:13 |  URL |  【コメント編集】

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