日々草子 マドモアゼル・カメリア 19

マドモアゼル・カメリア 19

長い間、お待たせして申し訳ございませんでした。
と、書くといつも「待っている人がいなかったら、こんなこと言ったら笑われそうだな」と思うのですが(笑)
とりあえず全体的に見て…いらっしゃるかなと思って口にしてみました!
続きを待っていてくださる方がおいでだということは、とても幸せでありがたいことなのだとしみじみと思います。
とか言って、「あ、忘れてた~まだ続きあったんだ」とか思われてたら…笑うしかない!!










玄関先に現れた外国人夫妻を見て、相原家のばあやは息をのんだ。
「あ、あの…。」
「バッベル医学博士…琴子を救って下さるお医者さんですよ。」
夫妻の傍に立っていた背の高い女性の声を聞いて、ばあやはまた腰を抜かさんばかりに驚いた。
「その声は、入江様!?」
「一体なんでそのような恰好を」と尋ねるばあやに事情は後で説明すると言い、直樹は博士夫妻を家へ招き入れた。

「直樹さん!」
「直樹くん?」
直樹の変装姿を見て、紀子と重雄も驚いた。
「琴子は?」
直樹は寝ている琴子の顔を見た。
「今、少し持ち直した。一時はもうだめかと思ったが…。」
傍についている大原医師が説明しながら、旧友のバッベル博士に笑顔を見せた。
「来てくれるとは!」
「君は約束を守る男だからね。その君が推薦する彼も同じだろうと思って。」
そしてバッベル博士はすぐに琴子の診察を始める。後ろの方からバッベル夫人も心配そうに見ていた。
博士は琴子の白く細い腕に注射を打った。
「ひとまず、これで様子を見よう。」
バッベル博士の言葉に少し安堵し、直樹は着替えに一旦家へ戻ったのだった。



博士夫妻は入江家に滞在することになり、博士は毎日琴子へ、投薬治療を続けた。
荒かった息が段々と落ち着いたものになり、閉じたままの目を琴子が時に薄く開けることも出てきた。
「これで大丈夫だろう。あと少し手当が遅れていたら危ないところだった。」
博士がそう太鼓判を押したのは、直樹が横浜から戻ってから十日経っていた。
「ありがとうございます!本当にありがとうございます!」
重雄は涙を流し博士に礼を何度も言った。
「大原先生、そして直樹くんも本当にありがとうございます。」
「よかった、よかったよ、伯爵。」
大原医師も嬉しそうに笑った。
紀子もうれし涙を流しながら、
「琴子ちゃん、もう大丈夫ですって。よく頑張ったわね。」
と琴子に話しかけた。琴子は「ありがとうございます。」と小さな声で返事をした。



「先生、またいらして下さったんですね。」
琴子が目を覚ました時、そこには直樹しかいなかった。
重雄は入江家に滞在しているバッベル夫妻に料理を届けに出掛けていた。日本料理を愛する夫妻は重雄の料理を心待ちにするようになっていた。
「あの…先生?」
「ん?」
琴子の脈をはかり、口の中を見た直樹は琴子の顔を見た。
「沙穂子さん…心細く思っていらっしゃいませんか?」
「沙穂子さん?」
久しくその名を聞いたことがなかった名前だった。直樹自身全く思い出していなかった。
「ええ。もう私は大丈夫です。どうか沙穂子さんの元に…。」
「お前はそんな心配しなくていいよ。」
「でも。」
「いいんだ。だから何も言うな。」
「…はい。」
まだ何か言いたいことはありそうだったが、直樹に怒られて琴子はしゅんとなって布団を口まで上げてしまった。

「先生にはまたご恩ができてしまいましたね。」
琴子は話題を変えた。
「最初に会った時に助けていただいて。酔った時に介抱していただいて。そして今度は命を助けていただきましたね。」
「俺もパーティーについてきてもらったから、おあいこだろ?」
「そりゃあ一つはそうですけれど…まだ二つ残っています。」
「二つね。」
「はい。いつでも私にできることがあったら遠慮なく言って下さいね。私、どこにいても先生の元に駆けつけ…。」
そこまで話した時、琴子の大きな目から涙がこぼれそうになった。駆けつけたくとも、直樹の傍には沙穂子がいるのである。直樹が琴子を呼ぶなんてありえない話だ。

「…恩返し、する気あるんだ。」
直樹は琴子の顔を見て口を開いた。
「え?はい…。」
何か今してほしいことでもあるのだろうか。
「何でも?」
「はい、何でも…しますけど?」
答えると琴子は部屋の中を見回し始めた。
「何を探しているんだ?」
「えっと…その…積み上げる…。」
「その大道芸は今はやめてくれ!」
やっと良くなってきたばかりだというのに、そんなことをしたらまた倒れてしまう。

「まず一つ目の恩返し。」
直樹は指を一本立てた。
「…看護婦になること。」
「え?」
「看護婦になることが一つ目の俺への恩返しだ。頑張って勉強して資格を取れ。あれだけ一生懸命だったんだ、途中であきらめるのは勿体ない。」
「でも…。」
看護婦になりたかったのは直樹の傍で、共に医療に携わりたかったからである。その夢が消えた今は…それに大泉侯爵との約束もある。
「二つ目。」
直樹は指を二本立てた。
「…看護婦になって、一生俺の傍にいること。」
「一生…先生のお傍に?」
琴子は驚いて体を起こした。
「そう。俺の傍に一生いること。俺の傍で俺から受けた恩をずっと感じて生きろ。」
「そ、それは…。」
琴子が快方に向かったら、絶対に直樹はそう言おうと思っていたのだった。
「それは…先生のお傍で…ただ働きをしろって意味ですよね?」
「…は?」
「分かりました。」
直樹の戸惑いをよそに、琴子は大きく頷いた。
「勿論、それくらいします。先生には一生かかっても返せないご恩をいただきました。お給金なんていただけません。何でもしますね。厠の掃除からおむつ洗いまで何でも…。」
「ちょっと待て。」
誤解している琴子の口を直樹は止めた。

「意味が違う、意味が。」
「じゃあ何でしょうか?あ、看護婦の資格を持つ女中になれって意味でしょうか?それでも私は先生のお傍にいられるのなら…。」
うっかり自分の気持ちを打ち明けそうになって、琴子は慌てて口をつぐんだ。

「傍にいろっていうのは、俺と一緒になれって意味だ。」
「…はい?」
まだ意味が分かっていない琴子の手を直樹は握った。
「琴子。」
「はい。」
「俺と結婚してほしい。看護婦になって俺の妻となって、公私ともに俺を支えてほしい。」
「先生…。」
「お前以外の女と結婚するなんて、俺にはもう考えられない。」
「で、でも先生は…。」
「沙穂子さんのことも大泉家のこともお前は何も考えなくていい。何を言われたかは知らないが、俺がお前を守ってみせる。だから俺を信じてついてきてほしい。」
直樹の告白を聞いていた琴子の目に、またもや大粒の涙が浮かびはじめた。だが今度は口元がほころんでいる。
「先生…いいんですか?私で?私、あんなに頭悪くて不器用で取柄と行ったら大道芸しかないのに…。」
正直な琴子に直樹は思わず笑った。
「いいよ。一生その大道芸で笑わせてもらえるなら。」
「先生…。」
「お前の取柄は俺を笑わせることのできる唯一の人間であることだ。お前が傍にいてくれれば、もう他に何もいらない。」
直樹は琴子の手を強く握った。
「先生…実は私、先生が私を気まぐれでお妾さんにでもしてくれないかなあって思ってました…。」
泣きながら琴子が打ち明けた。
「沙穂子さんを不幸にすることだって何度も自分を叱りつけていました…。」
「妾?」
直樹は笑った。
「冗談じゃない。俺は妾なんて一生持つ気はない。」
「先生…。」
「俺の妻は琴子、お前以外にいらない。」
直樹の言葉の後、琴子が直樹の手を握り返してきた。それが琴子の返事だと知り、直樹は微笑んだ。



************

「…まさか女性の格好をすることになろうとは思いませんでした。」
彼は当時のことを思い出して声を立てて笑った。
「あの時の私を見た、彼女の家のばあや…女中の顔を私は一生忘れないでしょう。」
彼がそう話した時、「チリーン」とドアについているベルの音が聞こえた。入ってきたのが私の知り合いじゃないことを祈った。ここまで話を聞いてきたのだ、このラブストーリーの結末を最後まで聞きたい。あと少しなのだから。
すると、私の前の彼の眉が潜められた。彼がそういう表情を見せたということは、どうやら入ってきたのは彼の知り合い…考えられるのは彼の妻だろう。

「奥様が買い物を終えられましたか?」
あらかた話の結末は分かったものの、最後まで聞くことができなかったことが私は残念だった。
「ええ、そのようです。」
彼は立ち上がった。やはり来たのは彼の妻だったか。話の流れからすると彼の妻は…と思うが、それならばどうして彼は眉を潜めるのだろうか。あの話の後に何か起きたのだろうか。
それをまだ聞いていない私は不安を覚えながら、後ろを見た――。





関連記事

comment

管理者にだけ表示を許可する

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

お待ちしていましたとも!

水玉さん、お忙しい中でのアップ、ありがとうございました。

鈍い琴子への直球プロポーズ!読んでいてとっても嬉しかったです。
最終的な直樹の妻が果たして誰なのか、ハラハラしながら次回を楽しみにしています♪

・・・・・・が、余り無理はしないでくださいね。
お母様の回復と水玉さんのリラックスが先ですよー。
時間かかろうともお待ちしていますので、まずはご自愛ください☆

更新ありがとうございます!

続き楽しみに待ってました(^o^)
琴子ちゃんも元気になり、ついに直樹からのプロポーズ。ほんとによかったと思ってたら、直樹の妻は誰?みたいなハラハラ展開がまだ残されていようとは。さすがは水玉さん。
続きも楽しみにしておりますが、ご無理のない範囲でなさってくださいね。
気長にお待ちしてまーす。

おはようです

私も待ってましたとも♪続きが読めて嬉しいです(*^o^*)これで現れた奥さんが沙穂子嬢だったらびっくりだよね…もしそうなら“直樹の苦労は一体何だったんだ?”って突っ込んじゃう自信があるよ私(笑)はてさて奥さんは誰なのやら…明るくかわいい頑張り屋さんのあの人であって欲しい!!続き楽しみに待ってます(*^o^*)

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

更新、ありがとうございます♪

待っていました!もう見られないかも?の希少価値、女装入江くんの続き♪

指を一本、二本立てる入江くん。
手を握り琴子ちゃんに心を伝える入江くんのプロポーズ。
入江くんの手を握り返してそれに答える琴子ちゃん。
優しくって!可愛くって♪~~~素敵~♪水玉さん、ありがとうございます!!

眉を潜めた入江くん?~~(笑)
その訳は~~?すごくここ気になり、すごく楽しみです!わくわく(笑)

そして、まだ残されている大泉家の問題。

のんびり、わくわくを楽しみながら続きをお待ちしております。

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます
プロフィール

水玉

Author:水玉
『イタズラなkiss』のほかには『ゴルゴ13』が好きです☆
多数あるイタキスの二次小説の中で邪魔することなく、ひっそりとマイペースで我が道をゆきつつ生息しております。
そっと見守っていただけたら嬉しいです。

※当ブログに掲載されている文章及びイラストの無断転載・使用はご遠慮下さい。

現在の御訪問者
現在の閲覧者数:
御訪問ありがとうございます
このブログについてのお願い
当ブログは、『イタズラなkiss』の二次創作をメインとしておりますが、時折管理人の趣味や日々の出来事についての記事も書いております。

原作者様や関係各位とは一切関係ありません。

二次創作については、いわゆる原作の隙間をぬった作品もありますが、主人公以外のキャラクターをメインとしたものや オリジナルキャラクターが出てくるものもございます。

そして、原作と違った時代(平安や明治やその他の時代を舞台にしております)、異なる設定(主人公を医者と看護師じゃない職業にしております)で書いてあるものが多いですが、原作を冒涜しているつもりは全くございません。

二次創作が苦手という方及び原作のイメージと合わないと思われる方はどうぞお引き取り下さいますようお願いいたします。

コメント及びメールなどでの苦情及び批判は公開、非公開を問わず、私へ告げることはご遠慮いただけますよう、お願い申し上げます。

このブログ及び掲載されている話が嫌いだと思われたら、黙ってあなた様の中から、このサイトの存在を消去していただけますよう、お願い申し上げます。

カテゴリー+月別アーカイブ
 
最新コメント
最新記事
カボチャの世界
Private
カレンダー
06 | 2017/07 | 08
- - - - - - 1
2 3 4 5 6 7 8
9 10 11 12 13 14 15
16 17 18 19 20 21 22
23 24 25 26 27 28 29
30 31 - - - - -
リンク