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2012.05.09 (Wed)

西垣医師襲撃事件 3


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『ガイシャ、女にだらしない』と金之助は手帳にはっきりと書いた。
「面倒な事件にならんといいけど…。」
手帳を閉じると金之助は再び、一同の顔を見た。

「それじゃあ、その…ガイシャが相当恨まれていたってことは分かりました。その中で一番、こいつが恨んでいたっちゅう人間は誰かおるかいの?」
恨んでいる人間を一人一人当たることは不可能に近いので、まずは一番恨んでいた人物を探すことにした金之助だった。

「西垣先生を一番恨んでいたねえ…。」
呟きながら視線を合わせるのは幹、真里奈、啓太の三人だった。
「まあ一番も難しいってなら、とりあえず浮んだ人とか…あ、いやいや、最近トラブルを起こしていた相手とか。」
金之助が助け船を出した。
「最近トラブル…。」
幹たち三人の視線が一斉に同じ方向へと向いた。その先にいたのは…琴子。

「琴子、お前が?」
これには金之助が驚く。
「お前、入江に不満があるのは想像つくけど、だったら俺のところに来てくれれば…。」
「ちょ、ちょっと違うわよ!」
琴子は手を大きく振って否定する。
「何であたしが西垣先生とトラブルになるのよ!」
「だってアンタ、こないだも西垣先生につきまとわれていたじゃないの。」
幹が言った。
「そうよね。一番最近西垣先生とやりあっていたのは琴子、あんたよ。」
真里奈も頷いた。
「違うって、あれは先生が相変わらずくだらないことを言うから!」
「くだらないってどんなことや?」
「それは…。」
琴子は隣の直樹をチラリと見る。直樹は妻が窮地に立たされているというのに表情一つ変えていない。
「…入江くんは面白くないから、自分とデートしようとか。いつもそんなこと言ってるんだもん、あの先生。」
琴子は小さくなって答えた。
「そうそう。西垣先生のターゲットになるのって琴子が一番多いわよね。」
「だよな。」
幹と啓太が頷き合う。

「だ、だからといってあたし、西垣先生を殺したりなんかしてないって!!」
琴子がムキになって叫んだ。
「…まだ生きてるよ、残念ながら。」
直樹がボソッと呟く。
「そっか。まだ生きてたか。よかった。」
「いや、そういう問題じゃないやろ?」
なんか調子が狂うなあと、金之助は頭を掻いた。



「とりあえず、琴子のアリバイを確認したらどうですかね?」
啓太が手を挙げて発言する。
「そうやな。一応アリバイを確認するか。」
「そんなあ!」
琴子が涙目で金之助を睨んだ。
「いや堪忍や。俺だって琴子がそんなことをしたなんて思ってないで?でもな、これも捜査の基本ちゅうことで…。」
「その基本を素人に教えられている刑事ってどうかと思うがな。」
直樹がボソッと呟く。

「ええと、ガイシャが襲われたと思われる時刻は午後9時ちょっと前。この時間、琴子は何をしてたんや?」
手帳で時刻を確認しながら金之助は琴子に訊ねた。すると琴子は俯いてしまった。そして何も答えようとしない。
「琴子?」
「…答えないとだめ?」
琴子から消え入りそうな声が聞こえる。
「そりゃあ、答えないとお前の容疑が深くなっていくで?」
アリバイがないとなると、琴子が第一容疑者になってしまう。
「アリバイ、ないんか?」
「あるけど…あんまり言いたくない。」
「でも言わんと、お前に警察に来てもらうことになるで?」
「…患者にお詫びしてたよな。」
琴子に代わって直樹が答えた。
「お詫び?」
「ああ、あの西田さんのところにか。」
幹がポンと手を叩いた。
「そうだったわね、思い出したわ。アンタ、清水主任とお詫びに行ってたんだった。」
「思い出したくなかったのに!!」
琴子が泣きながら皆を見る。

「じゃあ一応…確認ってことでその…清水さんとやらを呼ばんとな。」
金之助は警官に清水主任を連れて来るように命じた。

「ええ、その時間、入江さんは私と一緒にいました。」
髪の毛一本も乱れることなく、今日もぴしっとした姿勢で清水主任は答えた。
「本当に入江さんには困るわ。西田さんは検査で禁食だってのにうっかり出しちゃって延期させちゃうし。消毒したばかりの入れ歯を床に落とすし。レントゲンへ連れて行ったら行ったで迷って戻って来ないし。まったくあなたったらどうしてこうなの?」
またガミガミと叱りだす清水主任に琴子は、
「すみません…。」
と小声で謝る。
「西田さん、すっかり疲れ切っちゃって。イライラして大変だったのよね。」
「すみません…。」
「で?刑事さん、どうします?西田さんにも確認しますか?でももう消灯時間で寝ていると思いますけれど。」
「あ、いや。」
清水主任の迫力に押されながら、金之助は首を横に振った。
「それで十分です。立派なアリバイになるんで。」
「そうですか。よかったわね、入江さん。あなたの駄目っぷりもこんな所で役に立つなんてね。」
嫌味を言い残し、清水主任はカンファレンス室を出て行った。

「…そりゃあ言いたくないわけやな。」
アリバイは証明されたものの、あまり嬉しそうじゃない琴子に金之助は同情を寄せた。
「思い出したくないのに!西田さんにすごく怒られたんだから!」
「怒られることをしたお前が悪いんだろうが。」
妻をまったく庇わない夫。
「酷い、酷いよ、入江くん!」
「わあーん」ととうとう琴子は声を上げて泣き出してしまったのだった。

「…泣きたいのはこっちやで。」
一向に進まない捜査に、金之助は疲れ果てていた。

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