日々草子 いつも噂の中に私たちはいた

いつも噂の中に私たちはいた

※このお話は琴子ちゃん目線です。入江くん目線のお話をぴくもんさんが『卒業』というお話で書いてくださいました!
とっても素敵なお話です♪










とうとう今日は大学生活最後の日だ。

「じゃーん、できあがりましたよ!」
お義母さんの声と共に、あたしはリビングへ入った。
卒業式は袴で出席、これは昔からの夢だった。お義母さんが可愛く着付けをしてくれた。
「おお、琴子ちゃん!大正の女学生さんみたいだな!」
一番に褒めてくれたのはお義父さんだ。
「馬子にも…。」
そこで止まったのは裕樹くん。ったく、成人式の時も同じこと言ってなかった?

「琴子…うう…。」
泣いているのはお父さんだ。
やだ、お父さんたら。そんな泣かなくてもいいのに。
「アイちゃん、うんうん。あまりに可愛くて涙が出ちまうんだよな。」
お義父さんが慰めてくれた。
「いや…もう…琴子の奴が…まさか…卒業できるなんて…。」
…何ですと?ちょっと、あたしがあまりにきれいだから泣いているんじゃないの?
「エレベーター式なのに、大学へ上がれないかもなんて言ってたし。」
「エスカレーターだよ、アイちゃん。」
「入ったら入ったで、留年しかけたし。」
「まあまあ、でも看護師さんになるってことで琴子ちゃん、入り直したんですよ?立派なことじゃありませんの!」
今度はお義母さんがフォローしてくれる。
「そうだよ。国家試験も通ったし!」
お義父さんの言葉に、お父さんはうん、うんと頷いている。
「そうだなあ。こいつは永遠に大学にいるかと思ったが、卒業できるのか。」
「永遠ってお父さん…そんな…。」
あたしはあんぐりと口を開けた。
「アイちゃん、大丈夫だよ。」
お義父さんがまたもやフォローしてくれる。
「大学ってのは大体八年しかいられないんだ。八年経っても卒業できなかったら退学。だから永遠に大学にいるなんてことはないんだよ。」
…お義父さん、フォローになってません。

「でもギリギリの七年だったよな。」
裕樹くんが余計なことを言った。
「だから琴子ちゃんはお兄ちゃんのために看護科に入り直したからよ!」
お義母さんがかばってくれた。
「同級生よりも年がいっている気分ってどう?」
「年がいってるって…。」
そりゃあ確かにあたしは同級生よりも数個上ですけどね。でも見た目はそんなに変わらないもん。
「大丈夫だよ、琴子ちゃん。」
お義父さんは今日はフォローばかりしてくれている。なんだか申し訳ないなあ。
「最近は定年後に大学へ入り直す人も多いんだ。だから50代60代の学生も多いし。それに比べたら25歳の琴子ちゃんは若い若い!」
…で、フォローになってないんだよね。とほほ。

「それにしても、お兄ちゃんたら!」
お義母さんが眉を潜めた。
「愛する妻の卒業式くらい、帰ってくればいいのに!」
「卒業できるか信じてないんじゃないの?」
「ちょっと、それはやめてよ!」
あたしは真っ青になった。そして想像してしまう。

会場で先生が、
「入江、お前は卒業できないぞ。連絡行ってなかったか?単位が足りないんだ。」
とあたしに言って。
「そんなあ!ちゃんと十回も数えたのに!」
と泣き叫ぶあたし…。

いやいや、大丈夫大丈夫。
ちゃんとモトちゃんにも確認してもらったし、卒業試験も通ったし(ギリギリだけど)。

「入江くんは忙しいの。電話でちゃんと卒業できることは報告したから。」
あたしは気を取り直してみんなに話した。
「それに、この間神戸まで行ってきたしね。」
国家試験に合格したことを、直接報告したくて嵐の中神戸まで行ったのよね。
あれは本当、大変だったわ。



『平成○○年度 斗南大学 卒業証書授与式』と書かれた看板が校門に立っていた。
卒業式は構内のホールで行われることになっている。
「琴子!」
「モトちゃん!」
いつものメンバーの所に、あたしは駆け寄る。

「あ、モトちゃんも袴だ!」
「そうよ!これがずっと夢だったんだから!」
「…美容師さん、着付けの時に腰を抜かしていなかった?」
「そこは抜かりないわよ。そんなことにならないよう、自分で着付けたもの。」
「自分で!すごい!」
…ああ、こうしてモトちゃんはどんどん女らしくなっていくんだなあ。色々大変なのね、なあんてことを考えるあたし。

「ね、入江さんは来ないの?」
モトちゃんと真里奈が聞いてくる。
「うん、忙しくて休みとれないみたい。」
「やあねえ。“あたしがちゃんと卒業できるか自分の目で確かめて”ってくらい、言えなかったの?」
モトちゃんが呆れ果てた。いや、言いたかったわよ。でもね…。
「入江くん、こう言ったの。」
「何て?」
「…“お前が看護学科の代表として卒業証書を受け取るんだったら、休みを取って神戸から参列する価値もあるんだけどなあ”って。」
そう、そう言ったのよ!!
あたしには絶対に無理だってわかってるくせに!!

「ああ、それは…行く気ゼロって意味だわねえ。」
モトちゃんは「はあ」と大きなため息をついた。ため息をつきたいのはこっちだっての。
んなこと、無理よ。代表に選ばれるのは各学科で一番優秀な成績をおさめた学生だもん。
去年は入江くんが学科どころか学生代表として答辞を述べてたっけ。

「でも写真いっぱい撮って送るんだ!」
そう、あたしの袴姿をバシャバシャ撮りまくって入江くんへ送るの!
お義母さんもビデオ回してくれているし!
「ああ、こんなに可愛いんだったら無理してでも行けばよかった」って言わせてやるんだから!



式はあっという間だった。
学長やら学部長やらの話が長々と続く中、あたしは七年間(確かにちょっと長すぎだわね)のことを思い返していた。
みんな入った時は同じだったのに、あたしが最後に出ていくなんてね。
理美、じんこ、松本姉、松本妹に武人くん…そして入江くん(ついでに須藤さんと船津くんも)。
皆に置いてかれちゃったときはさびしかったけど、でもやっとあたしも同じ社会人になれるんだなあ。



終了後、外で写真を撮ったりでみんな忙しい。
お義母さんたちは先に帰った。今夜はうちでみんなも呼んで卒業パーティーを開くことになっている。
その前に謝恩会でしょう…結構忙しい一日だな。
あたしは袴を見下ろす。でも少しでも長くこれを着ていたいしね。

「あら、智子はまたモテモテじゃないの。」
ひとしきり写真を撮った後モトちゃんが言った。智子は医学部の人たちに囲まれていた。
「俺、先生にあいさつしてくる。」
啓太は先生の所へ走って行った。
「啓太も男が少ないから苦労したものねえ。」
そう言うモトちゃんをあたしは黙って見る。いやいや、オカマがいる学年も滅多にないんじゃないでしょうか?

「ま、ま…り…な…さん。」
「何!この地獄からの使者のような呼び声!!」
突然聞こえたうめき声に、あたしは叫んじゃった。卒業式という晴れの日に、なんとふさわしくない声!

「船津さんじゃないの!」
モトちゃんの震える指の先には、ヨロヨロと今にも倒れそうな船津くんが!
「どうしたの!」
あたしとモトちゃん、そして真里奈は船津くんの元へと駆け寄った。
「真里奈さん…卒業おめでとうございます。」
船津くんはうめき声を上げながら、花束を真里奈へ差し出した。
「うわあ!すごい、バラじゃないの!」
モトちゃんが歓声を上げる。あたしもびっくり。だって真っ赤なバラがたくさん!
「どうしても渡したくて…。」
しかし、船津くんの顔はかなりやつれている。なんか前に会った時より痩せた感じ。

「ね、船津くん。どこか具合でも?」
看護師(そう、もう看護師。卵はつかない!)らしくあたしは船津くんに訊ねた。
「いえ、健康です。」
「それじゃあ、そのやつれようは…。」
「これはですね…その…真里奈さんにどうしても真っ赤なバラの花束を渡したくて。でもバラって思った以上に高くて…。」
「そうねえ。かなりするのよねえ。」
モトちゃんが頷く。
「…でも絶対赤いバラは譲れなくて。だから食事代を削ってお金をためたんです。」
「食事代を。」
「削った!?」
あたしとモトちゃんは顔を見合わせた。
いやあ…命を張ってるわ、船津くん。

「…馬鹿じゃないの。」
船津くんの話を聞いた真里奈は呆れ果てていた。
「ちょっと、真里奈。」
「そうよ、船津くんはあんたのために。」
あたしとモトちゃんはさすがに船津くんが可愛そうになった。
だって、こんなに真里奈のことを想ってくれているんだよ?そりゃあやり方は極端すぎるけど。

「医者がそんな愚かな真似をするんじゃないわよ。」
真里奈は船津くんの頭を軽くたたいた。
「体を壊してどうするの。医者なのにそんなことも分からないわけ?」
「真里奈さん…。」
真里奈の目にうっすらと涙が浮かんでいる気がするんだけど、ここは見なかったふりをしておこう。

でもいいなあ。花束かあ。
あたしも前はそんなこと夢見てたけどね。
今はそんな大それたこと望まないよ。
ただ「袴、似合ってる」の一言だけでも、ほしかったなあ…。



その後、あたしは一人、校門脇に腰を下ろした。
そして七年間(本当に長かったわ)通った学び舎を見る。
ここに入った時は相原琴子だったのに、出る時は入江琴子になっているなんて不思議な感じ。
まさか入江くんと同じ大学へ通えるとは思ってなかったな。
追いかけて冷たくされて…何だか全て懐かしいや。

結婚前も結婚後も、なんだかんだと噂になっていたあたしたち。
この門を入って視線を感じてドキドキしたこともたくさんあった。
あの時は恥ずかしかったけど、今はいい思い出だなあ…。

と、しみじみとまた思い出に浸っていたあたしは、その散々な目に遭った視線をまた感じていた。

あたしと同じような袴の女の子たちやスーツ姿の男の子たち、はては先生や学生の親までなんかこっちを見ている気がする。
いや、見ている!絶対あたしを見ている!

ちょっと待って!
あたし、今日は何もしてないよ?袴、そうだ袴が落ちているとか?うそ!そしたら卒業式に合わせた桜模様のパンツが丸見え…あ、大丈夫だ。タイツをはいてるからそれは心配ない…と、そんな場合じゃないっての!

いや、袴はちゃんとなっている。朝にお義母さんに着付けしてもらったまま。
じゃ、何だろ?

はっ!

「まさか…“入江琴子、卒業は間違い”とかいう張り紙がされていたとか!」
やだ、そんなの張り紙じゃなくて直接本人に言ってよ!!
「ちょっと掲示板…。」
立ち上がったあたしは掲示板めがけて走ろうとしたけれど、なぜか進めない。

「何、ちょっと!」
何かに襟を掴まれているような感じ。
「ちょっと!そんな場合じゃないっての!」
「…落ち着け、ばあか。」
「ばか?ちょっと!」

ん?
今の声、何かすごく聞き覚えのある声だったような…。

あたしは後ろを見た。

「こんな時までお前は何で落ち着けねえんだ、ばあか。」

そこに立っていたのは入江くんだった。

「入江くん!?何で!?」
「いいから座れよ。落ち着け。」
「う、うん。」
あたしはおとなしく、元の場所へ腰を下ろす。

「ほら。」
腰を下ろしたあたしの前に、大きな花束が差し出された。
「へ?」
何だ、これ?
「お前、ほしがってただろ?」
あたしは入江くんの顔を見た。入江くんはおかしそうに笑っている。
「あ、あたしに?」
「お前以外に俺は渡す人間はいない。」
嘘…入江くんが…あたしに花束を…?

「お前、言ってただろ。“袴はいて頭にリボンつけて。入江くんに校門で花束もらって”って。」
「そんな…だってあの時は…入江くん無視してたじゃない。」
「いや、あの時は本当にお前がもう一年落第するかと思っていたから。」
「ひどい。」
あたしは入江くんを恨みのこもった目で見上げた。入江くんは笑いながらあたしの頭のリボンに手を伸ばす。

「ふうん、本当にでかいもんつけたな。」
「だって夢だったんだもん。」
「じゃ、ほら。」
入江くんはもう一度花束を差し出した。すると周囲から「きゃあ!」という歓声が響いた(中には明らかにモトちゃんの声だと分かる野太いものもあった)。

さっきから感じていた視線は、これだったのか。
そういえばいつものからかうような視線じゃなかったな。なんかうらやましがられているような、そんな感じだった。
そりゃあそうよね。
こんなかっこいい人が花束持ってきてくれたんだもん!
入江くんが…あたしのために…。

「…何泣いてるんだ。」
「だって、嬉しいんだもん。入江くんがあたしの戯言を覚えていてくれてこうやって花束持ってきてくれたことが…。」
「…戯言を口にしたっていう自覚はあるんだな。」
うん、もういい。何を言われたって許しちゃう。

「さっさと受け取れ。」
「…ありがとう。」
あたしは入江くんから花束を受け取った。

…と、その受け取ったあたしの手を入江くんがつかんだ。

それと同時に入江くんの唇があたしの唇に下りて来て…。

「キャアーッ!!!」
ひときわ大きな歓声があたしたちを包んだ。


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「い、入江くん…。」
唇を離した後、あたしは真っ赤になって入江くんを見つめる。
「卒業おめでとう、琴子。」
入江くんは恥ずかしがることもなく、優しい顔で最大の祝辞を送ってくれた。
「文学部から看護科、全然違う分野でよく頑張ったな。」
「入江くん…。」
「さすが琴子だよ。お前の根性はただもんじゃない。」
うん…頑張った…頑張ったよ、入江くん…あたし、頑張ったよね?

「入江くん、今日は来れないって。」
「うん、最初は行くつもりなかったんだけど。」
入江くんはあたしのことをそれこそ、てっぺんからつま先まで見た後に言った。
「お前の妄想、一度くらいは現実にしてやらねえとな。」
入江くんはそういって笑ってる。その入江くんの肩には、桜の花びらがヒラヒラと舞い降りている。
「朝まで病院だったから、式には間に合わなかったけどな。」
「朝まで!」
それじゃあ寝ないで来てくれたんだ!
「ごめんね、無理させちゃって。」
「別に。いいもん見られたしいいよ。」
「いいもの?」
「…大きなリボンに袴、想像以上に可愛いよ。」
入江くんの言葉に、あたしは思わず両頬を引っ張った。
「痛い!」
痛かった、夢じゃない!
「夢じゃねえよ、ったく。」
入江くんは笑いながら、あたしのほっぺたを優しく撫でてくれた。

「…最後まで噂の的だったな、俺たち。」
「うん、でも…嬉しい。」
やっぱり入江くんと噂になるのはうれしい。
「病院ではそうならないように頑張る。」
「そう願いたいね。」

そしてヒラヒラと舞い落ちる桜の花びらの中で、あたしたちはもう一度キスをした――。












この話を書くきっかけになったのは、ぴくもんさんに「袴姿の琴子ちゃんが入江くんに花束をもらうところのイラストを~」とお願いしたことからです(なんて図々しい)。
どんなイラストが出来上がるかなあ、そしたらこんな話なんか読みたいなあと思っていたら、自分で書きたくなってきて…「私書きたいです!!コラボしましょう!」とこれまた図々しい主張をしておりました(『ぴくもんさん、なんでそこでNOと言わなかったんですか!!』というお声が聞こえる…)。
で、ぴくもんさんからすごく素敵なイラストが届いてむくむくと想像力が広がり、お話を書き上げました!

最近、ネタも浮かばず書いたら書いたですべったり失敗したりで調子が出なくて「こりゃあ、あたしも年貢の納め時かのう」と思っていたところだったので、このような機会がいただけて嬉しかったです。
というか、本当に私の想像以上のイラストだったので、ぴくもんさんにぐいぐいと引っ張っていただいて書けたという感じです。

ぴくもんさん、厚かましいお願いをした私にこのような素敵なイラストをありがとうございました!
とってもとっても嬉しかったです!!

素敵なイラストにお話がまったく追いついていないとは思いますが…すみません!!

でもまたコラボお願いします!!(『ごめんなさい!』って断られて夕日に向かって走る自分の姿が今、一瞬想像できた…)

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プロフィール

水玉

Author:水玉
『イタズラなkiss』のほかには『ゴルゴ13』が好きです☆
多数あるイタキスの二次小説の中で邪魔することなく、ひっそりとマイペースで我が道をゆきつつ生息しております。
そっと見守っていただけたら嬉しいです。

※当ブログに掲載されている文章及びイラストの無断転載・使用はご遠慮下さい。

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このブログについてのお願い
当ブログは、『イタズラなkiss』の二次創作をメインとしておりますが、時折管理人の趣味や日々の出来事についての記事も書いております。

原作者様や関係各位とは一切関係ありません。

二次創作については、いわゆる原作の隙間をぬった作品もありますが、主人公以外のキャラクターをメインとしたものや オリジナルキャラクターが出てくるものもございます。

そして、原作と違った時代(平安や明治やその他の時代を舞台にしております)、異なる設定(主人公を医者と看護師じゃない職業にしております)で書いてあるものが多いですが、原作を冒涜しているつもりは全くございません。

二次創作が苦手という方及び原作のイメージと合わないと思われる方はどうぞお引き取り下さいますようお願いいたします。

コメント及びメールなどでの苦情及び批判は公開、非公開を問わず、私へ告げることはご遠慮いただけますよう、お願い申し上げます。

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