日々草子 サルの惑星 中

サルの惑星 中

さあ、サクサクと行きますよ~!!









「ここが俺の寝室だ。」
「はあ…。」
ヒヒヒーンという馬の声に、モッティはビクッとなる。
そう、ここはアイハーラ家の馬小屋である。
「よしよし。トンブリ号、今夜も仲良くしような。」
馬に愛想のいいナオキヴィッチを見て、モッティは「なんておいたわしい…」と涙ぐむ。
「あの、旦那様はいつもこちらで?」
「ほとんどそうだな。」
ということは、その度にシゲオを怒らせているということなんだなとモッティは思った。

「ところで旦那様?」
「何だ?」
「どうしてロミオというお名前で呼ばれているんでしょう?」
なぜシゲオはナオキヴィッチをロミオと呼んでいるのか。そして…どうして村からナオキヴィッチはホモ扱いされているのか、それがモッティには不思議である。

「ロミオってのは…まあ、俺のエフ村ネームだと思え。」
「エフ村ネーム?」
「そう。ほら、クリスチャンネームとかあるだろ?」
「ペンネームとかハンドルネームとか?」
「そう、それだ。エフ村ネームもその類だ。」
「はあ…。」
よく分からないが、ナオキヴィッチが悲しいくらいに前向きなのでモッティもそれ以上は追及することをやめた。

「お義父さんは俺のこの面が嫌いなんだよ。」
ナオキヴィッチはペチペチと頬を叩いた。
「ええ!そのお顔を!?」
どれほどの女性が見惚れたであろうか、その美しい顔をシゲオが嫌っているなんて信じられない。
「…モテない男のひがみですかね?」
「…お前、何気にお義父さんに失礼なことを言っているぞ。」
しかしそうとしかモッティには思えない。
ナオキヴィッチは、コトリーナの母親がその昔結婚詐欺に遭ったこと、そのせいでシゲオが顔のいい男を毛嫌いしていることを手短に説明した。
「何せアイハーラ家の家訓は“色男、金と力はなかりけり”だからな。」
「よくまあ、ご結婚できましたねえ。」
「結構苦労したけれど。」
しかもナオキヴィッチはこのエフ村を納める領主でもある。それなのに、シゲオも村民たちもすごい態度を取っている。
「エフ村…未知なる世界だわ。」
そしてモッティは寝床を確保し始めた。
「ああ、そっちよりこっちの方が藁の質がいいぞ。」
すっかり慣れた様子のナオキヴィッチに「本当においたわしいこと…」とモッティはまた涙ぐんだのだった。



「モッティさん、おはよう。」
いつの間に眠ったのか、モッティはコトリーナの声で目を覚ました。
「奥様!」
「ごめんなさいね、こんな所で寝させちゃって。お父さんが絶対家に入れるなっていうから。」
コトリーナはモッティの体から藁を払った。
「あの、旦那様の方をどうぞ。」
モッティは自分で藁を払っているナオキヴィッチを見る。
「いいの。先生は大人ですもの、自分でできるでしょう。」
相変わらずコトリーナはナオキヴィッチには手厳しかった。

シゲオがジュゲムを連れて散歩に出かけたので、その隙に朝食をとコトリーナは言った。
「…先生も食べたければどうぞ。」
ツンツンしているが、結局コトリーナはナオキヴィッチが放っておけないらしい。
「いただくよ。」
そしてそんなコトリーナにナオキヴィッチは笑いを堪える。

「これかよ…。」
「文句があるなら食べなくて結構です。」
ミルクを注ぎながらコトリーナがナオキヴィッチを睨む。
テーブルに用意された朝食はあんパンだった。そして中身はつぶあんだった。
「甘っ。」
顔をしかめるナオキヴィッチ。モッティは食べられるのなら何でもといった様子で食べている。

二人が食べ終えた所でシゲオがキーンを連れて戻って来た。
シゲオはテーブルに座っている二人を見て、あからさまに顔をしかめた。
「どうだっぺ、つぶあんはやっぱりよかっぺな?」
なぜかつぶあんを自慢するシゲオ。
「お義父さん、ジュゲムを抱かせてもらえまっか?」
そしてなぜかシゲオを「お義父さん」と呼ぶキーン。
「何でお前がお義父さんって呼ぶんだ?」
ナオキヴィッチは小声で呟いた。

「おお、いいぞ。」
シゲオは機嫌よくジュゲムをキーンの手に渡した。
「ジュゲムちゃん、わしがジュゲムちゃんの新しいお父さんだべさ!いやあ、コトリーナにそっくりのめんこい顔だべなあ。」
キーンはジュゲムに「ベロベロバー」とおどけてみせた。
「ギャアーギャアー!!」
ところがキーンの顔を見た途端、これまで大人しかったジュゲムが火がついたように泣き出してしまった。
「え?え?どうしたっぺ?」
オロオロと戸惑うキーン。
「ジュゲムや、怖がることはないずらよ。すぐにこの顔に慣れるっぺ。」
シゲオもなだめるが、ジュゲムはますます大声を上げて泣く。
「新しいお父さんなんて言うからだ。」
ナオキヴィッチは呆れていた。
「そんなサル顔、絶対見慣れねえよ。」

「ジュゲムちゃん、泣きやむっぺ。」
キーンが何とかあやすが、ジュゲムは泣きやむ気配がなかった。
「もう、変なことを言うからでしょう!」
プリプリと怒ったコトリーナが、ジュゲムをキーンから奪う。
「はいはい、ジュゲムちゃん。あっちへ行きましょうね。」
あやしながらコトリーナはジュゲムを連れて二階へと上がって行った。



「旦那様、あちらを。」
モッティに言われた方をナオキヴィッチは見た。
「…またかよ。」
窓辺には、ジュゲムの泣き声を聞きつけたのか人々が顔を覗かせていた。

「なあなあ、姉ちゃん。」
キーンがモッティに近寄る。
「姉ちゃん、結構べっぴんさんやのう。」
「あら?」
モッティが嬉しそうに笑った。
「本当だべさ。」
「綺麗なおなごや。」
窓辺の人たちも、モッティの美しさに魅了されている。

「なかなかいい村かもしれないわね…。」
褒められて有頂天になっているモッティ。しかし、そのモッティに冷水を浴びせる人間がいた。
「そいつはオカマだべさ。」
それはシゲオだった。
「なぬ、オカマ!?」
キーンが目をむく。
「オカマ!」
「あれがオカマか!」
窓辺の人々も騒ぐ。

「ちょっと、シゲオ様!私はオカマではなく間違えて男に生まれてしまった…。」
説明しようとするモッティを、キーンがさえぎった。
「何ね!そいじゃ、あれかい!クリス松●と一緒だべさ!!」
「違うってばあ!!!」
モッティが顔を真っ赤にして叫んだ。

「クリス●村かい。」
「そうかい、そうかい。」
「なるほど、そっちの人だっぺさ。」
「いやあ、わしはオカマを初めて見たずら。」
「ありがたや、ありがたや。」
モッティを拝む人まで現れた。
「違うって!!私はピンク●ディなんて踊らないですってばあ!!」
何とかしてもらおうと、モッティはナオキヴィッチを涙目で見た。
「よかったな、お前にもエフ村ネームがついて。」
「旦那様、ひどい!!」
つれないナオキヴィッチにモッティは「わああ!!」と泣き叫んだ。

ナオキヴィッチにはモッティを慰める余裕はなかった。
なぜなら、次に何が起こるか予想がついていたからである。

「それじゃ、何かい。あんイケメンは男を愛人にしとるかの?」
「しかも女装までさせているってことかね?」
「はあ!お金持ちさんのやるこたあ、よく分からん!!」
「ホモだったら男のまま愛してやらんと!」
「いやいや、男と女のいい所、どっちもほしかったんべさ。」
「贅沢な奴やのお!!」

「…やっぱり、こうなるのかよ。」
コトリーナと結婚してジュゲムまでできたというのに、どうしてこの村の人間はすぐに自分をホモ扱いするのだろうか。
ナオキヴィッチは額を押さえた。
こんな時こそ、可愛いわが子の顔が見たい。

「コトリーナ。」
戻って来たコトリーナをナオキヴィッチは呼んだ。

「お!本妻と愛人の対決だっぺか?」
「いやいや、慰謝料の話し合いだっぺ。」
「何だっぺ、どっかの野球選手の金額を超えるべか?」

外野の声を無視し、ナオキヴィッチは続ける。
「ジュゲムの顔が見たいんだけど。」
「さっき見たでしょう?」
「よく見えなかった。」
「今寝た所なの。起こさないで。」
夫婦の間に火花が散る。

「コトリーナ、これを見てみるべさ。」
シゲオが二人の間に割って入った。手に何か抱えている。
「何、これ?」
「お前の再婚相手のリストだっぺさ!!」
「再婚相手!?」
これにはコトリーナだけではなく、ナオキヴィッチも目を丸くする。

「いやあ、コトリーナは都会に行ったらべっぴんさんになったもんなあ。」
「子供が一人いるとは思えん、あの若々しさ。」
「わしももう少し若かったら、立候補したずらよ。」

外野の声がまた賑やかになる。が、今度はナオキヴィッチがそれらを睨みつけたのですぐに静かになった。

「幸い、子持ちでもいいという男らが多くてよかったずらよ。」
リストをパラパラとめくりご満悦なシゲオ。
「その筆頭はわしだっぺ、コトリーナ。」
キーンが自分を指さして笑う。
「ちょっと待ってよ、私は…。」
「…よかったな、コブ付きでももらってくれる奇特な男が多くて。」
言いかけたコトリーナに冷たい声が浴びせられた。

「よかったじゃん、お前モテモテだな。」
ナオキヴィッチが腕を組み、コトリーナを見ていた。
「先生…。」
「お幸せに。慰謝料と養育費についてはワッターに頼むから。」
「先生、ちょっと!!」
「旦那様!!」
コトリーナとモッティを置いて、ナオキヴィッチは家を出て行ってしまった。



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『イタズラなkiss』のほかには『ゴルゴ13』が好きです☆
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