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2012.02.28 (Tue)

サルの惑星 上

コトリーナちゃんの話ばかりですみません。
何かこの話だけはネタが浮かぶんですよね。
で、言うまでもないですが超がつくくだらない話です。



【More】






喧嘩の理由は些細なことだった。
しかし、売り言葉に買い言葉がいけなかった。

「先生は私を家政婦だと思ってるのよ!!」
コトリーナが叫ぶと、ナオキヴィッチは「ぷっ」と噴き出した。
「何よ?」
「家政婦ね。あの家事の腕前でか?今日だってパンケーキに卵の殻がいっぱい入っていたし。家政婦だと思ってると言いたいならば、それなりに家事をこなせよな。」
ナオキヴィッチのこの台詞でコトリーナの怒りは頂点に達したのだった――。


『実家に帰らせていただきます。コトリーナ&ジュゲム』

そう書かれたメモをグシャグシャとナオキヴィッチは丸めた。
そしてそのナオキヴィッチの背後では…。

♪ある晴れた昼下がり 市場へ続く道
♪荷馬車がゴトゴト 子牛を乗せてゆく
♪可愛い子牛 売られていくよ
♪悲しそうな瞳で見ているよ

ノーリー夫人の指揮に合わせ、モッティとシップが見事なハーモニーを響かせていた。

「その歌はやめろっ!!」
三人に向かって怒鳴るナオキヴィッチ。
「ナオキヴィッチ様に止める権利はございません!!」
手を止めることなく、ノーリー夫人が怒鳴り返した。

「ああ、なんて可哀想なコトリーナちゃん…ちゃんと大事にしてあげれば大きくなったジュゲムちゃんがここで指揮棒を振る筈だったのに…。」
ノーリー夫人は涙をこぼす。

「ったく。」
このままでは四六時中、この最悪な歌を聞かせられる羽目になる。
ナオキヴィッチは妻子を迎えにいくため、エフ村へと向ったのだった――。



**********

沢山の猿が集う山にて、ボス猿がコトリーナを抱き寄せていた。
『ウキキキキキッ!!(訳:安心しろ、今日からお前は俺の女房さ!)』
『まあ、嬉しい!幸せにしてね』
『ウキキーキキキッ!!(訳:勿論!すぐにお前も俺みたいに毛深くなるぜっ!)』
『ジュゲムちゃんも頼もしい父親ができて安心だわ。』
『ウキーキキキッ!!(訳:任せろ!二匹まとめて面倒みてやるぜ!)』

**********



「…旦那様、旦那様。」
揺り起こされたナオキヴィッチは、ハッと顔を上げた。
「大丈夫ですか?随分眉をしかめておいででしたが…。」
モッティが心配そうに見つめている。
「ちょっと…夢を。」
「夢?どんな?」
「…高崎山でコトリーナがボス猿と再婚している夢だ。」
「高崎山…猿…。」
モッティはこれから向かう場所は高崎山ではなく、コトリーナの故郷のエフ村であることを改めて確認した。

「奥様の育ったエフ村って、どんな所なんでしょう?」
ナオキヴィッチがモッティを連れてきたのは、自分がコトリーナと二人で話をする際二ジュゲムの面倒を見てもらう都合があったからである。

「モッティ。」
窓枠に肘をついて、ナオキヴィッチは憂鬱そうな顔をした。
「エフ村は普通の村ではないから。」
「はい?」
「何せ、あのコトリーナ発祥の地だからな。」
ナオキヴィッチは「風」と溜息をつくと、また車窓の向こうに目をやった。
「奥様のエフ村…。」
モッティの頭に浮かんだのは、イーリエ家での初日、シップから見せられたコトリーナの写真だった。確かあの時シップは「捕獲されたばかりの奥様」というようなことを言いかけていた。
ということは、エフ村の人々は野生的なのだろうか。「エフ村=サファリパーク」だったらどうしようか。いやいや、まさかとは思うが村人が全員猿だったら。今ナオキヴィッチが見ていた夢のとおりだったら…。
「人間の言葉が通じればいいけれど…。」
モッティは一人呟いた。



エフ村の駅で降り立った二人は、コトリーナの実家へと歩き始めた。
のどかな村はとてもいい所だとモッティは思う。
「こんなゆったりとした場所で育ったから奥様はあのように天真爛漫になられたんですわねえ。」
「…。」
話しかけてもナオキヴィッチから返答はなかった。

暫く歩くと、前から女性が二人歩いてきた。一人は色っぽい美人、もう一人は、
「…水族館から脱走?」
と思わずモッティが思ってしまうくらい魚顔である。
その二人は言わずと知れた、コトリーナの友人のサティとジーンである。
「よかった。ちゃんと人間の格好で二足歩行しているわ。」
サティたちを見てモッティはエフ村の住民がちゃんとした人間であることに胸を撫で下ろした。
しかし相手はどうも違った。
サティとジーンはナオキヴィッチに気がつくと、
「キャア!!」
と叫び声を上げながら、サティたちはクルリと後ろを向いて逃げてしまったのだった。

「な、何で逃げてしまったのでしょうか?」
慌てふためいて逃げて行く二人の背中を見ながら、モッティはナオキヴィッチに尋ねた。
「あれは…エフ村式の歓迎の挨拶だ。」
ナオキヴィッチからは意外な答えが返ってきた。
「歓迎!?あれが!?」
どう見ても自分たちから逃げて行ったとしか思えない。
「モッティ、言っただろ?エフ村は普通の村ではないって。普通の挨拶が通用しない、それがエフ村だ。」
「はあ…。」
「行くぞ。」
「あ、はい!」
平然と歩くナオキヴィッチの後ろをモッティは慌てて付いて行った。

村の商店が集まっている場所へと差し掛かった。なかなか賑やかな感じである。
しかし、歩くモッティは視線をやたらと感じていた。
最初は村人じゃない自分たちを珍しがっているのかと思ったが、どうも違う気がする。
モッティが肉屋を見ると、その主人はすぐに反らしてしまう。八百屋も魚屋も同じだった。
「何かしら?」
そして耳にはヒソヒソ声が聞こえる。
しかしナオキヴィッチは顔色一つ変えず歩いている。

「ああ!!」
人が少なくなった所でモッティは「旦那様!」とナオキヴィッチを呼び止めた。
「あれ!あれをご覧ください!」
モッティが指さす方向には、新聞販売店があった。そこはエフ村唯一の新聞、エフ村日報の販売店であった。

『子までなした私を捨てた夫。やはり階級の差は大きかった…玉の輿のもろさについて今、全てを語る!独占手記“公爵夫人コトリーナの愛と裏切りの日々” Coming Soon!!』

と、大きな張り紙がされていたのである。


「あ、あれは…一体…。」
「モッティ。」
ナオキヴィッチは今度も眉ひとつ動かさなかった。
「あれは歓迎の横断幕の代わりだ。」
「はい!?」
「エフ村式の歓迎の横断幕なんだ、あれは。」
「いや、そんな風にとても見えませんって!!」
「いいから、そう思っておけ。」
そんなやりとりをしていた時、モッティが「旦那様、こちらに!」とナオキヴィッチの手を引っ張って物陰に身を隠す。

「コトリーナ、今日はキャベツをおまけしてやるっぺ。」
「ありがとう、おじさん。」
そこに現れたのは、ジュゲムをおぶって買い物かごをぶら下げたコトリーナだった。
「本当にコトリーナも苦労するずらね。」
「可哀想に、あんな赤ちゃんを抱えて…。」
八百屋の主人夫婦が鼻をすすっている。

「確かにあの奥様の姿は同情を集めますわよね…。」
他の店へと回るコトリーナを見つめながら、モッティは溜息をついた。
そのモッティの耳に再び声が聞こえ始める。
「ごらん、あれがホモ公爵だっぺ。」
「ホモが愛人連れて乗り込んできたずらよ。」

「ほ、ホモ!?」
そして自分は愛人扱いされているらしい。モッティはナオキヴィッチを見た。
「…とりあえず、行くぞ。」
ナオキヴィッチはまた歩き出した。



コトリーナの実家、アイハーラ家は、素朴な農家といった様子だった。
コトリーナの父、シゲオとは面識がある。モッティは安心していた。

二人がドアをノックしようとした時だった。
「…何しに来たずら、このホモが!」
背後からやってきたのは、畑仕事から戻ったシゲオだった。
「お義父さん、お久しぶりです。」
一応ナオキヴィッチは舅に挨拶をしようとした。が、その鼻先に突き出されたのは鍬だった。
「何だべか?コトリーナと時そばに何の用があるっぺ?」
「お義父さん、時そばじゃなくてジュゲムです。」
「うるさいっ!!」
鍬を振り回すシゲオ。そしてそれを避けようとするナオキヴィッチとモッティ。

「コトリーナを泣かせたくせに!!どの面下げてわしの前にやって来た!!」
「し、シゲオ様、落ち着いて!!」
モッティがシゲオを止めようとしたが、シゲオは鍬を振り回し続けている。
「うるさい!!ロミオもお前も同罪だっぺ!!!」
「ロミオって誰ですか!!」
「このホモのことだっぺ!!」
何故ナオキヴィッチをロミオと呼ぶのか。しかし今のシゲオとナオキヴィッチにはそれをモッティに説明する余裕はなかった。

「お父さん、やめて!!」
その声でシゲオは鍬を下ろした。
両手にエコバッグを提げたコトリーナが戻って来たのである。

「奥様!」
「モッティさん、来てくれたのね。」
コトリーナはモッティには笑いかけた。が、ナオキヴィッチにはにこりともしなかった。
「何しに来たの、先生。」
コトリーナは「よしよし」と背中のジュゲムをあやしながら、ナオキヴィッチを見た。
「…お前を迎えに行かないと、ろくでもない歌を始終聞かされるから。」
ナオキヴィッチの返事に、モッティは「ああ!!」と頭を抱える。
どうしてここで素直に「お前を迎えに来たんだぜ、ベイビー」と言えないのだろうか?
「…私、帰らないから。先生は私にひどいことをしたんだから。」
「そうずら。このホモ・ロミオはわしの娘にひどいことをしたずらよ。」
シゲオがナオキヴィッチを睨みつける。
「…こしあんのあんパンを選ぶなんて、人間とは思えないずらよ!!」

コトリーナとナオキヴィッチの喧嘩の原因は、ナオキヴィッチがコトリーナの好物のつぶあんではなく、こしあんのあんパンを買って来たことだったのである ――。


「アイハーラ家は代々、あんパンはつぶあんって決まってるずら。」
「そうよ。私、何度も先生につぶあんが好きって言ったのに。」
親子でブーブー文句を言う二人。
「んなもん、あんこならどっちも似たようなもんだろうが。」
甘い物が嫌いなナオキヴィッチにはそうとしか思えない。この態度がまた、コトリーナの機嫌を損ねるのである。

「とにかく!!その私に対する適当な態度が頭に来るの!!絶対帰らない!!歌でも何でも聞いてればいいじゃない!!」
コトリーナは「あっかんべー」とナオキヴィッチに舌を出した。

「コトリーナ!!」
その険悪な雰囲気を更に険悪なものとする声が響いた。

「キーン!!」
婿に対する顔と180度変え、いい笑顔でシゲオが出迎えたのはコトリーナの幼馴染のキーンだった。キーンはエフ村日報の記者を連れていた。

「コトリーナ、お前やっとホモの正体に気付いただっぺな?えかったのう。」
キーンはコトリーナの肩を抱いた。それを見たナオキヴィッチが初めて顔をしかめた。
「コトリーナ、取材をさせてくれるっぺな?」
記者が手帳を出した。
「コトリーナの手記が売れたら、ハリウッドで映画化するっぺ!!」
「ハリウッド!本当?」
コトリーナの顔が輝く。
「もちろんずら!」
「私の役はアンジーね、アンジー!」
「おお、交渉するずらよ!!」
「えかったなあ!わしも全力でコトリーナをサポートするずら!!」
コトリーナの肩に手を回す力を強くするキーン。ナオキヴィッチの眉間の皺がまた増えた。

「…何がハリウッドだ、馬鹿じゃねえの。」
ドスの利いたナオキヴィッチの声に、一同の声がピタリと止んだ。
「今、何と言ったずら?」
キーンがナオキヴィッチを睨む。しかしその手はコトリーナの肩から離れない。
「ハリウッド?アンジーだ?ばっかじゃねえの。」
キーンの手を睨みつけながら、ナオキヴィッチは鼻で笑った。
「何よ、先生。」
コトリーナがムッとする。
「先生、自分の役はブラピに演じてほしいとか思ってるわけ?」
「まさか。」
「じゃ、何なのよ?」
「お前の役をアンジーに演じてもらうなんて、百年早えんだよ。ていうか人間がお前の役なんて演じられるか。」
「何ですってええ!!」
コトリーナは顔を真っ赤にして怒り始めた。

「そうだよ。お前が似合うのはあれだ、猿だよ、猿。お前、『猿の惑星』に出ろよ。」
「信じられない!!」
コトリーナはカンカンになっていた。

※参考資料

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「お前が出れば特殊メイクもCGもいらねえよ。素顔で猿の役ができるよ、ハハハ!!」
笑うナオキヴィッチの腕をモッティが引っ張る。
「何だよ?」
「旦那様、お忘れですか。ここは…。」
モッティに言われ、ナオキヴィッチは我に返った。

「何ずら…わしの娘を…めんこい娘を猿呼ばわりずら?」
コトリーナよりも顔を真っ赤にしているシゲオが、ナオキヴィッチを睨みつけていた。
「しまった…。」
キーンのコトリーナへの態度にヤキモチを焼き、つい軽口を叩いてしまったナオキヴィッチは、そこにコトリーナの父親がいることをすっかり忘れていたのである。
娘を猿呼ばわりされて、怒らない父親はいないだろう。

「出て行けえ!!このホモロミオ公爵が!!二度とわしの前に顔を出すんじゃないずらよ!!!」

「そりゃあ怒るわ…ていうか、何しに来たんでしょうか…。」
仲直りをするためにエフ村へやって来たのではないだろうか。
それなのに、どうしてこういうことになるのか。
モッティはどうしようもない主人夫妻に、深い深い溜息をついたのだった――。


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