日々草子 大がかりな後輩 下

2012.02.11 (Sat)

大がかりな後輩 下

御心配をおかけしてしまって、申し訳ありません。
ゴルゴ入江の下をお届けいたします。
上で予告した通り、本当にくだらない展開なのでご注意を。





【More】


今日のあいつのターゲットは子供だ。名前は太郎くん。

「おはよう、太郎くん。」
「おはよう、琴子ちゃん。」
病室に入って来た琴子ちゃんを見ると、太郎くんは顔いっぱいに笑顔を広げた。
この太郎くん、琴子ちゃんにはすごくなついている。そう、「琴子ちゃん」にはね。

「…オカマも一緒なんだね。」
琴子ちゃんの後ろについてきた桔梗くんを見て、太郎くんは眉をひそめた。
「こら、そういう言い方しちゃだめでしょ。」
琴子ちゃんが太郎くんを諌めた。
「だってえ!あ、エロメガネも一緒だ!」
そして桔梗くんの後ろにいる僕にも有り難くない称号を口にする太郎くん。

「琴子ちゃん、疲れている?」
太郎くんは琴子ちゃんの顔を覗きこんで心配を始めた。
「そんなことないわよ?どうして?」
「だってすごく顔が疲れているみたいなんだもん。」
「ううん、大丈夫。」
琴子ちゃんは力瘤を作って笑って見せる。
ていうか琴子ちゃん、エロメガネと呼んだことに対する注意はないんだね…とほほ。

「本当?オカマとエロメガネが一緒だから大変なんでしょう?無理しなくていいんだよ?」
太郎くんは琴子ちゃんの髪を「よしよし」と撫でる。
まあ、琴子ちゃんと一緒で疲れているのは僕たちの方なんだけどね。
それに琴子ちゃんが疲れた様子なのは僕たちのせいなんかじゃないさ。
…つい十分前まで仮眠室で「愛の斗南病院」と叫んでいたからなんだよおって言ったら面白いことになるだろうな。
…同時に僕の命もないだろうけれど。



「太郎くん、今日はこのパジャマに着替えましょうね。」
桔梗くんが太郎くんに薄いブルーのパジャマを広げた。
「やだ。」
即断る太郎くん。
「オカマのパジャマなんて怖くて着られないもん。」
ぷいと横を向く太郎くん。
「太郎くん、このパジャマはね、魔法のパジャマなのよ?」
琴子ちゃんが笑顔で太郎くんに話を始める。
「魔法のパジャマ?」
「そうよ。これを着るとすぐにお熱が下がる魔法のパジャマなの。」
おいおい、琴子ちゃん。
この子は子供だけどさ、そんな子供だましの手は通用しないと思うよ?

「ね?着てみようよ。」
「…琴子ちゃんがそう言うなら。」
太郎くんは琴子ちゃんの言うことをすぐに信じた。
…こんなに信用するのなら、病院のスタッフ全員琴子ちゃんの顔に整形してみるか?

「さて、それじゃあちょっとお散歩に行きましょうか?」
桔梗くんは美しい笑顔で車椅子を運んできた。
「やだ。」
パジャマを着替えた太郎くんはやっぱり即拒否。
「僕がそれに座ろうとした時、オカマが僕のお尻に手を突っ込むかもしれないもん。それで嫌なお薬を入れるかもしれない。絶対やだ。」
うーん、なかなか一筋縄出ないかない子供だ。よほど座薬が嫌なんだな。
だからこんなに嫌がるなら点滴にしておけって言ったのに。

それにしてもオカマが尻に手を突っ込む…うん、確かにちょっと嫌かも。

「私、太郎くんと一緒にお散歩行きたいなあ。」
琴子ちゃんがまた説得にかかる。
「太郎くんのお尻は私が守るから。ね?」
太郎くんは車椅子と琴子ちゃんを交互に見る。
「琴子ちゃんがそう言うなら…いいよ。」
そしてまた、琴子ちゃんに陥落した太郎くん。

「琴子ちゃん、ちゃんと僕のお尻をガードしてね?」
「うん、大丈夫。こうやって。」
琴子ちゃんが太郎くんの後ろに立つ形になり、桔梗くんがサッと車椅子を差し入れる。
太郎くんは車椅子に難なく座った。

「…それにしても、良く我慢してるね。」
太郎くんの膝の上にブランケットをかける琴子ちゃんを眺めながら、僕は桔梗くんにこっそりと話しかけた。
「何がです?」
「いや、オカマッて連発された上、色々言われてもよく我慢しているなあって。」
「やだ、西垣先生。」
クスクスと桔梗くんは笑った。
「相手は子供ですよ。それに病院に閉じ込められて色々不満もたまりますって。その吐け口にされることはいたしかたないことです。」
おお、看護師の鑑!!
「それに。」
桔梗くんは続ける。
「…入江先生からこれをたんまりとね。」
見ると桔梗くんは右手の親指と人差し指で丸を作っている。それはすなわち…お金。

成程、精神的苦痛に対する慰謝料を協力料に上乗せしてもらっているってわけか。
…結局お金なんだよな、世の中は。



「さ、出発進行!」
「進行!」
琴子ちゃんが押すと色々危ないってことで、車椅子は桔梗くんが押している。
「オカマ、ちゃんと押せよ。」
「はい、わかってるわよ。」
「琴子ちゃんの足を踏んだりするなよ。」
「はいはい。」
「…エロメガネの足はいくら踏んでもいいけど。」
太郎くんは首を後ろに動かして、僕をジロリと睨んだ。
…ったく、本当に口の減らないガキめ!!


そろそろと慎重に車椅子は廊下を進んで行く。

「…あれ?」
太郎くんが車椅子の上でモゾモゾと動いた。
「太郎くん、どうかした?」
車椅子を止め、琴子ちゃんが身を屈めた。
「何かお尻がモゾモゾしたよ?」
「ええ?」
太郎くんは少し腰を上げた。琴子ちゃんがそこを覗きこむ。
「何ともないよ、太郎くん。」
「うそ!モゾモゾしたよ!お薬入れたんじゃないの?」
涙目で訴える太郎くん。
「そんな馬鹿な!だってほら、触ってみて!」
琴子ちゃんは太郎くんの手をお尻へと動かし触らせた。
「ね?穴も開いていないでしょ?だからお薬なんて入れることはできないわ。」
「うん…。」
「太郎くんの気のせいよ。大丈夫。」
「そうかなあ…。」
太郎くんはまだ疑っているみたいだけど、穴も開いていないのに薬を入れられるわけがないということは分かっているので信じることにしたみたいだった。



穴も開けずに薬を入れる…できるんだな、これが。



ええと、どっから説明しようか。
まず太郎くんのパジャマね。
これ、入江が親父さんを通して作らせた特殊素材のパジャマ(もちろんパンツも同じ素材で作らせた)。
そして車椅子も親父さんが作った特注品。

で、何が起こったかというと。

このパジャマに着替えて車椅子に乗り込んだ太郎くん。
太郎くんが廊下のある個所を通った時に、床下から薬が撃ち込まれるって仕組みが整っていたんだ。

その廊下のある個所の床下に、何と入江が身を潜めていたんだよ。
で、入江は自分の上を太郎くんが通るタイミングを見計らって…バーンッ!!
桔梗くんが車椅子を押したのはそのためさ。
琴子ちゃんだと一定のスピードで押すのは難しい。桔梗くんは結構上手だからね。
入江は桔梗くんのスピードから自分の真上を車椅子が通過する時間を計算してたってわけ。

先程説明したように、車椅子は特殊素材でできている。
弾、じゃない、座薬が貫通してもすぐにその穴は自然に塞がれていく。
で、パジャマとパンツも同様。座薬が貫通した後にすぐにサーッと塞がれていくから気付かれることはない。
座薬自体はお尻の中にはいったらシュワーッと溶ける…ってこう話すと某CMみたいだけど、とにかくそういうものだからこちらもばれる可能性はない。

車椅子の上の太郎くんのお尻を、ほぼ勘だけを頼りに撃ち抜いた…じゃない、座薬を注入した入江の腕はすごいとしかいいようがないね。

入江が身を潜められるように床を改造したのが、なんと琴子ちゃんのお父さんなわけだ。
誰にもばれないよう、工事は夜進められた。
そして入江の任務が完了した今、その床は元通り何もなかったようになっている。勿論それも琴子ちゃんのお父さんの仕事。

え?だったら太郎くんの病室にその仕組みを作ればよかったんじゃないかって?
そうすれば車椅子を改造する必要はなかったんじゃないかって?
工事はやっぱり物音がするから病室だと勘のいい太郎くんにばれてしまうだろ?
だからあまり人が通らない廊下を選んだんだよ。
にしたって、琴子ちゃんのお父さんの腕前はすごいね。
短期間でそんな工事をしちゃうんだから。

ていうか、琴子ちゃんがこのことを一切知らないってことも驚きだけどね。
旦那のことはもちろん、舅、実父、そして同僚がこんな黒い一団なんて気づきもしないんだろうなあ。
知らぬが仏ってやつか。



その太郎くんはそれからすぐに退院した。
お気に入りの琴子ちゃんと別れることがすごく悲しそうだったけど、でも元気になったんだから何よりだよ。

でもさ、やはり僕には理解できない。
何でこんな大掛かりな仕掛けを作ってまで…座薬にこだわるんだっ!!!


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