日々草子 声を上げさせる後輩

声を上げさせる後輩




今年も残り僅かとなった。
しかし、僕たち医者には年末も何も関係ない。
患者が来れば全力で治療する、ただそれだけだ。
お、今ちょっと僕、かっこいいこと言った!

明日は入江は手術が入っている。
結構大きな手術だけど、助手の腕がいいから大丈夫さ。
というか、なんで僕が助手なんだよ!

明日手術を受ける患者はこれまた大金持ちだ。
勿論、入江をご指名。そのために動かした金はどれほどか想像もつかない。
今年は本当にあいつに驚かされた一年だったよ。
もう何が起きたって驚かないさ。

そんなことを考えながら歩いていたら、琴子ちゃんがいた!
「琴子ちゃん!」
僕は手を上げ、可愛い天使ちゃんの元へと走る。
「西垣先生、お疲れ様です。」
「お疲れ様。」
ああ、かわゆいなあ。

「あれ?珍しい物を持っているね。」
琴子ちゃんが手にしていた物は栄養ドリンクだった。
しかも、一本3500円もする、超高価なタイプのもの!

「明日は大変な手術が入っているので。」
「ああ、そっか。」
入江のためか。
そうだよなあ、琴子ちゃんの献身ぶりはこの病院でも有名だ。
明日大手術を担当する旦那のために、ここぞの栄養ドリンクを買ってきたってわけか。
ああ、何て健気なんだろう!
こんなに健気な琴子ちゃん、入江が裏で人の尻をバンバン撃ちまくっていることなんて知らないんだろうなあ。

「入江だったら…。」
医局にいるよと教えてあげようとしたとき、琴子ちゃんは目の前でドリンクのキャップをひねった。
そして琴子ちゃんはそれをグイグイと、喉を鳴らして飲んだ!しかも腰に手を当てて!

「はあっ!!効く~っ!!」
一気にドリンクを喉へ流し込んだ後、琴子ちゃんはこれまた爽快な声を上げた。

「えと…琴子ちゃんって明日の手術に入る予定だったっけ?」
明日は手術ってさっき、言ってたよな?
琴子ちゃん、入るんだっけ?
おかしいな?
確か明日のスタッフには琴子ちゃんの名前はなかったけど。

「いいえ。手術には入りませんよ。」
琴子ちゃんはケロリと答える。
まあ、年末だし忙しさもすごいからさすがに頼らざるを得なくなっちゃったんだろうな。
ほら、患者だけじゃなくて看護師の間でも風邪だのインフルエンザが流行っているから。
一人休むと誰かが夜勤を引き受けなきゃならないからね。
この時期の看護師たちはみんな目の下にクマ作って、大変そうだよ。
いつも元気がトレードマークの琴子ちゃんだって、こういうのが飲みたくなるよね。
入江のために最初は買ったんだろうけれど、見ているうちに誘惑に勝てなくなって自分で飲んじゃったんだろう。

「琴子。」
出た!琴子ちゃんの行くところどこでも現れるあいつが!
「入江くん!」
そして可愛い声であいつを呼ぶ琴子ちゃん。
いいなあ、あの声でいつか「西垣先生」って呼んでくれないかな?

「時間大丈夫なの?」
「ああ、今日はもう上がりだ。」
あれ?何か、すごく嫌な予感がする。

「ごめんね、ちょっと今人が足りなくて、あたしは3時間くらいしか…。」
申し訳なさそうな琴子ちゃんにあいつは言った。
「大丈夫、師長にいつものように話をつけておいたから。」
…デジャヴ?この会話に覚えがあるぞ?

「そう?それならいいんだけど。」
いいの?ちょっと、琴子ちゃん!
人が足りないんでしょ?ね?病棟に戻ったほうがいいって!!

「ただし問題は…。」
入江は琴子ちゃんの(真っ平らな)体をじっと見る。

「あたしは大丈夫!」
琴子ちゃんは(ペッタペタの)胸を叩いた。
「ほら、今これを飲んで体力つけたし!」
そう言って琴子ちゃんは、先程飲み干した栄養ドリンクの空瓶を入江に見せた。
「そうか。それなら明日の朝まで何とかなりそうだな。」
「うん!入江くんのためだもの!」
明日の朝?え?やっぱり?
僕は今、自分がいる場所を確認する…ここは、やっぱり…。

「それじゃ、こっち。」
「はあい。」
入江は琴子ちゃんの手を引いて傍のドアを開けた。

そう、ここは仮眠室の前だった--。

…仕事上がったんなら、家でやれよ、家で!!
僕がそう思った時、閉まったばかりのドアが開き、入江が顔を出した。
「家とここを往復する時間がもったいないんです。往復の時間で貴重なことができますから。」
そしてパタンとドアが僕の鼻先で閉まった。

往復って、てめえ、そんな何時間もかかるわけじゃないだろうが!!
しかも何だよ、貴重なことって、え?
患者を治すこと以外に、病院でどんな貴重なことをするんですかあ?
そんな僅かな時間も惜しむほど、聖なる職場で何をするんですかあ?



立ち去ろうとした僕の耳に、ドアの向こうから声が聞こえた。

「すてき…ああ!!」
…え?こ、これって…琴子ちゃんの嬌声ってやつ?
しかも今この部屋に入ったばかりで、もう上げてるって…入江、お前って奴は!!

「ああ…!!雨の斗南大病院!!恋の斗南大病院!!」

なんちゅう声を出してるの、琴子ちゃん!
しかも、何なのその台詞は!!
僕も数えきれないくらいの女性と逢瀬を楽しんできたけれど、そんなよがり声を出した子いなかったよ!!

「抱いて!!もっと強く抱いて!!」
琴子ちゃんの声を背に、僕はそっと立ち去る。

もう何も驚かないと言ったけど、まさかこんなとんでもないサプライズが僕を待っていたとは!

琴子ちゃんにあんな意味不明なことを言わせる入江って…やっぱすごいかも。





☆ゴルゴ13の豆知識
南フランスのサントロぺにて。
ターゲットを見張るために買った娼婦に車の中で、「雨のサントロぺ、恋のサントロぺ」と意味不明な声を上げさせていた。
ちなみに何も知らないターゲット側からは「もう一時間も…」とあきれられていた。



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『イタズラなkiss』のほかには『ゴルゴ13』が好きです☆
多数あるイタキスの二次小説の中で邪魔することなく、ひっそりとマイペースで我が道をゆきつつ生息しております。
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そして、原作と違った時代(平安や明治やその他の時代を舞台にしております)、異なる設定(主人公を医者と看護師じゃない職業にしております)で書いてあるものが多いですが、原作を冒涜しているつもりは全くございません。

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