日々草子 失敗した後輩

失敗した後輩







僕たちはまた、病院の屋上にいる。
そして入江は何とかって名前の銃を…。
「M16アーマライトカスタム。」
そう、そのM16アーマライトカスタムを構えている(チッ!なんでまた僕の考えていることが分かるんだ)。

一体どこの誰(のお尻)がターゲットなのかは知らない。
とにかく緊張感が漂っていることは確かだ。

入江の指が引き金にかかった。
いよいよ弾が放たれる!

…カチッ。

あれ?
そこは「ズキューン!」じゃないのか?
何だ、その乾いた音は?

「…ミスファイア!!」
顔を上げた入江が呟いた。その顔は驚愕そのものだ。
ミスファイア?それって意味は…不発!
入江はM何とかを確認している。一度確認して、もう一度確認している。
あの冷静沈着な入江がこんなに動揺しているなんて!!
一体、何が起きたんだ?

「銃の調子が悪いとか?」
僕が話しかけると入江ははっきりと答えた。
「そんなことはありません。親父に限ってそんなことあるわけがない。」
おお!麗しき親子愛!!
お前の銃を作っているのは親父さんだもんな。
そうだよ、いくら冷徹なお前だからって親父さんのせいにはしたくないだろう。
うん、うん。よかった、よかった。
お前にも親子の情ってもんが存在していたんだな。
僕は嬉しいよ。



「何のために親父に大金を渡していると思っているんです?あれだけの金を受け取ってヘボな銃なんて作るわけがない。」
チッ!!結局金かよ!
僕が馬鹿だった。こいつに親子の情なんてもんは存在しないんだ。
こいつが信じられるのは金と琴子ちゃん(のナインペタな体)だけだった。



「ああ、入江先生!どうしたんですか、いくら待っても撃ち込まれないから心配してたんですよ!」
病室で僕たちを出迎えたのは西ヶ原さんという男性の患者さん。
そう、今日の入江の(座薬を入れる)ターゲットはこの西ヶ原さんだ。
勿論、結構な金持ち。特別室に入院中。命に別状なし。

「お尻を出して待っていたのに、何も起きないんですもん。冷たい風に当たっていたからカサカサになっちゃいました。」
そう言う西ヶ原さんは、お尻をツルンと出していた。
そして奥さんがそのお尻にせっせとオイル(アットコスメで評判の無印良品のホホバオイル)を塗り込んでいる。

「このオイル、お手頃価格な割には効き目いいんですよ。どうですか、先生も?」
嬉しそうに話す西ヶ原さん。
何でお尻にオイルを塗ってもらうのは平気なのに、座薬はNGなんだ?
その違いが僕には理解できない。

「西ヶ原さん。」
入江はもう動揺していなかった。
「はい?」
「今日のこと、誰かに話しましたか?」
入江の厳しい声に、思わず奥さんがオイルを塗り込む手を止めた。

西ヶ原さんと奥さんは顔を見合わせて、言った。
「とんでもない!!」
ブンブンと首を振る西ヶ原夫妻。
「そうですか?」
「もちろんです。他言したらどんな恐ろしいことになるかはよく知っています。入江先生に依頼したことは誰にも言っていません。」

どんな恐ろしいことになるんだろうか?
たかが座薬を撃ち込んでもらうことくらい、他言したって構わないと思うんだけど。
だって恥をかくのは撃ち込まれる本人だしさ。

「それで今回はキャンセルになるんでしょうか?」
西ヶ原さんは奥さんにオイル塗りを再開させながら、入江に聞いた。
「いいえ。」
おいおい。
お前の方の手違いで成功しなかったんだろ?
何だ、その態度は!

「こういう形で俺が出せる答えは“NO”以外はありません。」

はあ?
何だ、それ?
キャンセルになるのかって聞いている相手に向かって、その回りくどい言い方は何だよ、おい!おい!おい!
素直に「いいえ、キャンセルとはなりません」と言えばいいだろうが!



結局、入江が徹底的に今回の件を調べ上げることにするということになった。
銃に問題はない、依頼者にも問題はない、そうなると後は一体どこを調べればいいんだ?

そして入江が向かった先は――。

「やあ、待ってたよ。」

そこは小さなビルの一室だった。
僕たちを出迎えたのは、60代後半の老人だった。


「あんたの仕業か?」
入江はいきなりそう言った。
「何のことだ?」
老人が聞き返す。
すると入江は老人の前に弾(座薬)を突き出した。
「俺はあんたの腕を信頼して加工を依頼した。それなのに、不発弾を紛れ込ませたって言うのはどういう意味だ?」

え?この人が弾の加工者なの?
この間は製薬会社に依頼してたのに、どういうこと?

「今回の依頼者のサイズが小さいから、特別な加工が必要だった。だからこの世界では名の知れたあんたに依頼したのに。」

ええと、つまり。
依頼者、西ヶ原さんのお尻の穴はちょっと小さいわけね?
で、普通の座薬じゃ難しいと。で、この世界、つまり座薬を弾に加工する変な特技を持つ人々の中でも腕のいいこのおじさんに入江は依頼したと。

「許してくれ!!」
おじさんは突然、入江の前に土下座した。
「認めるんだな?」
入江は冷たく彼を見据える。おじさんは頷いた。
「わしは…わしは…まだ未練があったんだ!!」
何の未練でしょ?
「わしだって若い頃はあんたのように腕のいいスナイパ―だった。数えきれないほどの尻に弾を入れてきたんだ。」
うわあ…入江以外にもいたんだ、そんな変なことをする人が。
え?てことは、このおじさんは医者ってこと?それとも看護師?
薬を患者に入れられるのってどっちかだよね?

「だが緑内障を患ったことで、スナイパ―としての道は断念せざるを得なかった。わしは普通の医者になってしまった!!」
…普通の医者のどこが悪い!!!
僕は普通の医者だ!高額な報酬も受け取らなければ(くれるっていうなら遠慮はしないけれど)、スイス銀行に口座もない(いつかは作ってみたいけれど)。
こんな普通な医者の僕は、毎日地道に治療を続けているんだぞ!
その僕の何が悪いっていうんだ?え?

「だがわしは未練があった。あんたがうらやましかった!だからつい出来心で!」
「…不発弾を入れたってことだな?」
入江の声はどこまでも冷たかった。

「許してくれ!!」

「入江…許してやれよ。」
僕はたまらず入江に声をかけた。
数少ない尻専門スナイパ―の仲間じゃないか。

しかし入江はどこまでも冷たかった。
「一発の不発弾が時に敗北を招くんです。」
「え?」
またそういう難しい言い回しをお前は選ぶ!

「たかが座薬、されど座薬です。報酬をもらっている以上、俺に失敗は許されない。多々一度の失敗が俺の名前を落とすことになる。」
…座薬で名前を落とすのは、確かに情けないよな。

「わしは…座薬を撃つことをできなくなって辛かったんだ!」
「…手で入れればいいじゃないですか。」
僕は小声で呟く。
「わしから銃を奪って、どうしろっていうんだ!」
「…だから手で入れたらいいじゃないですか。」
さっきより少し大きめの声で、僕は呟く。

「あんたに銃を手にする資格はない!!」
入江が叫んだ。
…だから、銃じゃなくて普通に手で座薬を入れたらいいんじゃないですか?
って、誰も僕の台詞なんて聞いちゃいないし。いいけどさ、ふんだ。
無視されるのはもう慣れたもんね、あっかんべえ。



その後、あのおじさんは姿を消したらしい。
何だろうね、一体。
銃で座薬を入れられなくなったからって、加工業者に転身しなくたって。
そんでもって、医者までやめるってどういうわけ?
ていうか、医者の仕事って座薬を入れることだけじゃないでしょうが!

そして入江は西ヶ原さんの(お尻の)狙撃に今度は見事に成功した。

どうやらまともな加工業者を見つけたらしい――。







☆ゴルゴ13の名言
『ミスファイア!!』
『一発の不発弾が時に敗北を招く』
『こういう形で俺が出せる答えは“NO”以外はない』

☆ゴルゴ13の豆知識
ゴルゴ13が狙撃失敗確率は0.27%。
そのうちの一つが元はスナイパ―だった職人による出来心によって紛れ込ませた不発弾を撃った時。よほどショックだったのか「ミスファイア!」とつぶやき、二度もライフルを確認しているくらいである。



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『イタズラなkiss』のほかには『ゴルゴ13』が好きです☆
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