日々草子 機械仕掛けの後輩

機械仕掛けの後輩









120万人の僕の恋人たち、こんばんは。
覚えているかな?みんなのアイドルの西垣だよ。

で、今僕はどこにいるかというと。

「何で僕がこんな目に遭わなければいけないんだ。」
腕を動かすと手首にロープが食い込む。足首も同様だ。
リノリウムの床は冷たく、お尻が感覚を失いそうだ。
ああ、ブルックスブラザーズのスーツが台無しじゃないか。

「あなたが勝手についてきたからでしょう。」
僕の隣で涼しい顔をしているのはクソ生意気な後輩、入江だ。
こいつはというとこんな冷たい床に僕同様縛られているっていうのに、いつもと同じ顔。
あ、分かった。
きっとズボンの下に琴子ちゃんが作った毛糸のパンツを履いているに違いない(琴子ちゃんが編めるかどうかは分からないけれど)。
綿100%のグンゼ(多分そうだろう)の白ブリーフじゃ寒くて座っていられないさ。
『NAOKI』って大きな文字入りの真っ赤な毛糸のパンツを履いているんだ。


そんなことを思っていたら、入江はモゾモゾと動き出した。

「何だトイレか?おいおい、ここは窓もないんだから我慢してくれよ。」
僕の言葉を無視し、モゾモゾと動き続ける入江。
何をやってるんだ?
ストレッチか?

すると、入江の腕が前に突き出された。傍に切られたロープがヒラリと落ちる。

「ちょっと、何で解けたんだ!」
刃物なんて持ってないはずだ。
この部屋へ放り込まれる前に、ボディチェックを入念にされたんだから。
そんな物を持ち込む隙はなかったはずだ。

しかし入江は僕の疑問を無視し、足のロープを解いた。

「おい、どうやってロープを切ったんだよ!!」
僕は固く結ばれた足をドンドンと打ちつけて、存在をアピールする。

入江はすごくわざとらしく大きな溜息をついた。

「これですよ。」
「これ?」
入江が僕の前に腕を出した。そこには何の変哲もない腕時計がある。
どこのブランドだ?あ、僕は一応オメガだけどね。
いい男は腕時計にこだわるもんだよ。

「それが何だよ?」
すると入江はパチンと腕時計の文字盤に覆われているガラスを動かした。

「うわっ!!」
僕の鼻の先をかすめたのは刃物だった。
こいつの腕時計、中に刃物が仕込まれている!!

「これで切ったのか。」
何で飛び出しナイフなんて仕込まれているんだ?

「蓋はプラチナです。」
「プラチナ!?」
…僕のオメガもびっくり。
「機械式時計の弱点である磁力線を防ぐには、プラチナが必要なんです。」
「磁力線…。」
なんでそんなもんを防ぐ必要があるんだろう?
ていうか機械式?何だ、それ?
「これ、クォーツじゃありません。」
え?腕時計って今は殆どクォーツじゃないの?他に何があるの?

「トゥールビヨンです。」
「つ、ツール・ド・フランス?」
「…それは自転車レース。トゥールビヨンです。」
「何それ?」
「機械式時計の一つです。クォーツは水晶式ですけれど。」
「それ、どこがすごいの?」
「クォーツの弱点である、熱帯や極寒地での狂いをトゥールビヨンは防いでくれるんです。」
「はあ…。」

そのトゥールビヨンとやらがすごい時計なのは分かったけれどさあ。
何でお前、熱帯地だの極寒地だのを考えて時計を持っているわけ?
何度も言うけど普通に生きていればそんな所、行く必要ないだろうが。

「他に何か隠されているわけ?」
ちょっとワクワクしてきたぞ。
男ってこういうものに弱いんだよな。
ほら、仕組みとかさあ。

入江は時計の横についているゼンマイに手をかけ、引っ張った。
え?
ゼンマイって回す物であって、引っ張るものじゃないだろ?

ヒューッ!!

風を切る音がしたかと思うと、首筋に冷たい感触を感じる。

「な、何、これ?」
僕は目だけを動かして、それを見た。

「ワイヤー?」

ゼンマイを引っ張るとワイヤーが出る仕組みらしい。

「…一応、もしもの時は仕留めることもできますけどね。」
「し、仕留めるって…。」
ちょっと待てよ。

「安心して下さい。あなたなんかに使うつもりはないので。」
入江はパチンとゼンマイを元に戻しながら言った。

「あなたなんかって…。」
何だか優しいんだか馬鹿にされているんだか分からないや。

「それ、どこで作ったの?」
「スイスの時計職人に頼んだ特注品です。」
またスイスかよ!!
そりゃあ時計はスイスが有名ですよ?
でもお前、銀行もスイス、時計もスイス。

もうスイス人になれよ!!
そうだ、スイス人になってアルプスの少女ならぬ男にでもなっちまえ!!

「言っておきますが、俺は子ヤギと戯れる予定はないんで。」

くそっ!また僕の考えを読みやがった。
お前は本当に…。

「エスパー入江とか、何の捻りもない呼び方は止めて下さい。」

…人の心を読む天才だな、おい。
何でデューク入江はOKで、エスパー入江はだめなんだよ?

「あなたが単純すぎるんです。超能力なんてなくても誰だってあなたの考えくらい分かります。」
「悪かったな。」
そこまで言うことないだろうが。

「それじゃあ、俺は急ぐんで。」
「ちょっと待てよ!!」
僕はまた、縛られた両足をドンドンと打ちつけた。

「僕も助けろよ!おい!」
「…ったく。」
入江はまたもや、すごく面倒くさそうな顔をした。

こうして自由になった僕たちは逃げ出した。

「×:@#$!!」
まずい、どうやら敵に見つかったらしい。
そして今回も何語か分からない。

「入江、どうする?」
「逃げるしかないでしょう。」
入江は走り出す。僕も後を追いかける。
最近はこうなることのために、僕もジョギングを始めた。エレベーターも極力使わないようにしている。

「&!#*!」
ああ、言っていることは全く分からないけれどきっと「待て!」だろうな。

「ああ、追いつかれた!!」
屋上まで何とか出た僕たちだったが、敵に完全に追い詰められてしまった。

「¥*+$#%!」
何だかすごく怒ってる。そりゃあそうだよな。
「何て言ってるんだ?」
そもそも、どうして僕たちはつかまらなければいけなかったんだ?

「俺が拒否したからでしょうね。」
おいおい、医者が患者を拒否したらだめだろ。
「どういうこと?」
報酬が少なかったのか?
「この人、手術しないで痔を治せって言い張るんです。でもそれは無理だって。」
「結局、また痔かよ!!」
治してやれよ、それくらい!!

「もうだめですよ、あそこまで酷いと。」
「¥*+$#%!」
抗議するボス(日本語分かるんじゃないのか?)。
ていうか、あんたもこんな部下引き連れているくらいのツワモノだったら痔の手術くらい怖がるな!!

「で、今回はどちらの国の方?」
「それは…。」


バババババ…。

スッと雲に覆われたように、僕たちの頭上が暗くなった。
いや雲じゃない。
鳥だ、飛行機だ、違う、あれは…。

「直樹―!遅くなってすまなかった!」

…入江の親父さんだ!!


そして下ろされた梯子につかまる僕と入江。
些細なことなんだけど、最近入江は梯子の最後の数段を残してくれるようになった。
一応僕に対する優しさらしい。

何とか今日も僕たちは助かった。
結局どこの国の人か分からなかったけれど、まあいいや。

「やれやれ。俺は一介の小児外科医なのに。」
梯子につかまったまま、入江がポツリと漏らした。

「え!?」
僕は驚いて入江を見上げる。
「何か?」
「いや、だってさあ…。」
お前、あんなに痔の手術をやりながら…まだ小児外科医でいるつもりだったのかよ!!
とっくに肛門科に看板替えをしているもんだと思ったぜ!!







☆ゴルゴ13の愛用品
腕時計はスイスの時計職人の特注品。
仕組みは熱帯地や極寒地でも狂わないトゥールビヨン式。
飛び出しナイフ、機械式の苦手な磁力線を防ぐためにプラチナの二重蓋、人を絞め殺すこともできるワイヤーが仕込まれている。


関連記事
プロフィール

水玉

Author:水玉
『イタズラなkiss』のほかには『ゴルゴ13』が好きです☆
多数あるイタキスの二次小説の中で邪魔することなく、ひっそりとマイペースで我が道をゆきつつ生息しております。
そっと見守っていただけたら嬉しいです。

※当ブログに掲載されている文章及びイラストの無断転載・使用はご遠慮下さい。

現在の御訪問者
現在の閲覧者数:
御訪問ありがとうございます
このブログについてのお願い
当ブログは、『イタズラなkiss』の二次創作をメインとしておりますが、時折管理人の趣味や日々の出来事についての記事も書いております。

原作者様や関係各位とは一切関係ありません。

二次創作については、いわゆる原作の隙間をぬった作品もありますが、主人公以外のキャラクターをメインとしたものや オリジナルキャラクターが出てくるものもございます。

そして、原作と違った時代(平安や明治やその他の時代を舞台にしております)、異なる設定(主人公を医者と看護師じゃない職業にしております)で書いてあるものが多いですが、原作を冒涜しているつもりは全くございません。

二次創作が苦手という方及び原作のイメージと合わないと思われる方はどうぞお引き取り下さいますようお願いいたします。

コメント及びメールなどでの苦情及び批判は公開、非公開を問わず、私へ告げることはご遠慮いただけますよう、お願い申し上げます。

このブログ及び掲載されている話が嫌いだと思われたら、黙ってあなた様の中から、このサイトの存在を消去していただけますよう、お願い申し上げます。

カテゴリー+月別アーカイブ
 
最新コメント
最新記事
カボチャの世界
Private
カレンダー
07 | 2017/08 | 09
- - 1 2 3 4 5
6 7 8 9 10 11 12
13 14 15 16 17 18 19
20 21 22 23 24 25 26
27 28 29 30 31 - -
リンク