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2011.07.01 (Fri)

親を親とも思わない後輩


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「知ってる?闇の医者がどこかに存在しているんですって。」
「闇の医者?」
「そうよ。」
そう言いながらヨガをしているのは、僕の夜のお友達の如月待子さん。
彼女はテレビに出る機会も多い美人女医だ。

「どう?結構あたしの体、柔らかくなったと思わない?」
如月ちゃん(名前で呼ぶと蹴りが飛んでくる)は自信たっぷりに足を頭の上にあげた。
「…そうかも。」
「ちょっと!ちゃんと見てよ!」
「だってさあ…。」
如月ちゃんは素っ裸でヨガをやっている。
彼女はいつもこうだ。
僕の前で堂々と素っ裸でストレッチをやったりヨガをやったり。
さすがの僕も直視することは遠慮する。

「で、闇の医者って何?」
「ああ、それね。」
如月ちゃんは反対側の足を高く上げた。
「何でも、凄腕の医者らしいのよね。高額な報酬と引き換えに手術を引きうけるって話。」
「よっ!」と掛け声と共に如月ちゃんは立ち上がった。
高額な報酬で手術…もしかして?

「いくらくらいで引き受けるの?」
「最低こんだけ。」
如月ちゃんは今度はアキレス腱を伸ばしながら、指を三本立てた。
「三千万?」
「ピンポーン。よくわかったわね。」
今度は前屈を始める如月ちゃん。
そりゃあ分かるさ。
その報酬の受け渡しをこの目ではっきりと見たからね。
間違いない、あいつのことだ。

「本当にいるのかしらね?そんなブラックジャックみたいな医者。」
「さあ…。」
ブラックジャックのほうがずっとマシだけどね。

「そうだ!」
「何?」
「入江先生って元気にしてる?」
「い、入江?」
僕の声は裏返ってしまった。

「何驚いてるのよ。入江先生よ、あたしをコケにしたあのイケメン。」
「あ、うん。相変わらず愛想なし、遠慮なし、礼儀なしの三大ナシな男だよ。」
危ない、危ない。
その闇の医者が入江だってことがばれたら…僕はどうなることか。

「そう。まあ忙しいだろうなあって思っていたけどね。」
僕はあいつが忙しいなんて一言も言ってないけど?
「あれだけ優秀だったら、家に帰る暇もないかもね。」
家に帰る暇はないけれど、訳の分からない道具を作らせる暇はありますよ、なあんて。

「もしかして、そろそろ離婚とかにならない?」
「離婚?なんで?」
「もう、ガッキーは!これだから独身生活が長いとだめなのよ!」
あなたに言われたくありませんけどねえ。

「いい?家に帰る暇がない。すれ違いの生活。そうなると夜の方もご無沙汰になっちゃうでしょうが!」
「ああ…そうかな?」
「そうすると、もうお互い一緒にいる意味がなくなるわけよ!」
如月ちゃんの考え方だと、夫婦って夜を一緒に過ごすためになるもんなんだろうか。

「…そこは心配いらないと思うけどね。」
「何でよ?」
如月ちゃんは今度は股割を始めた。
「180度開脚!」とか笑うので、僕はひきつった笑いを返す。

「それは…。」
「それは?」
「…うまくやってるんじゃないのかなあ?」
「何、それ。答えになってなあい。」
だってさ、あいつは病院をホテル同様にしているからね。
ほぼ毎日琴子ちゃんを仮眠室に連れ込んでさ。

「そうだ、入江先生ってパンダイの社長の息子だったわよね。」
「うん。」
如月ちゃんは倒立を始めた。ピンと伸びた足は本当にきれいだ。
…全裸じゃなければ。

「パンダイってすごくいいことをしている会社なのね。」
「いいこと?」
ライフルで撃てる座薬を作ったり、怪しい組織に追われている息子をヘリで救出したり、装甲車を真っ二つにできるメスを作ったりする会社が?
あ、違った。
これらはパンダイの社長がやっていることで会社じゃないんだ。
社長があんなんでも、会社はまともなのかもしれない、うん。

「ちょっとガッキー。新聞くらい読みなさいよね。」
倒立を終えた如月ちゃんは綺麗にペティギュアを塗った足の指で、落ちていた新聞を掴み僕へ差し出した。

僕は新聞を広げる。

『株式会社パンダイへ六千万円の寄付』
あまり大きくない記事だが、はっきりとそう書かれていた。
この記事によると、パンダイは社長の意向に財団を設立し寄付金を募っているのだという。
その寄付は全て社会事業団体へそっくりそのまま送っているとのことだった。

「いやあ、この不景気の中、そんなことできる会社は中々ないわよ。」
「そうだね。」
「寄付は全部送るから、財団の運営費は社長のポケットマネーらしいわよ。」

こんなこともやってるんだ、パンダイ。
あ、もしかして。
入江が払っていたあのお金、親父さんはそれをそのままそっくり運営費に回しているのかもしれない。
そうだ、きっとそうに違いない!
何ていい人なんだ…息子はあんなんだっていうのに。

「せえの!!」
パンダイの善行に胸を熱くしていた僕は、如月ちゃんの声にはっとなった。
如月ちゃんは側転をやっている。

「昔、こんな実況があったわよね。」
一旦姿勢を戻した如月ちゃんが美しい笑顔を見せた。
「栄光への架け橋だ!!」
そう叫ぶと、如月ちゃんはまた側転をする。勿論全裸で。

僕としては「恥じらいへの架け橋」を架けていただけたらと…。




「あ、また寄付したんだ。」
数週間後、僕は新聞にまたパンダイ財団に寄せられた寄付についての記事を見つけた。
すごいなあ、パンダイ。
それに比べて…。

「お前も親父さんを見習えば?」
パソコンに向かっている後輩に、僕は新聞を出した。
「何ですか?」
「見てみろよ。」
入江は新聞を受け取り、記事に目をやった。

「分かったか?お前もこんな立派な親父さんに育ててもらったんだから…。」
「出かけてきます。」
「え?お前、人が話している最中に。」
入江は僕を無視し、白衣を脱ぐと医局を飛び出した。
もしかして、感動したのか?
知らなかったのかもしれないな。親父さんは照れ臭くて言えなかったのかもしれないし。
「ごめん親父!こんな立派な親父に俺はなんてくだらないものを作らせていたんだ!」
と、激しい後悔に襲われているに違いない。

さあ、そうときたら僕も行かなければ!!



「…何ですって?」
パンダイの社長室で僕は耳を疑った。
僕の前にいるのは入江の親父さん。
入江はというと、反省どころかそこのソファで足を組み、優雅にコーヒーを飲んでいる。

「いいのか、直樹。話しても?」
親父さんは息子に確認をする。
「ええ、構いません。そうしないとこの人、引き下がらないから。」
「そうだろうな。」
親父さんはフウと溜息をつくと、僕を見る。
「それに教えても、十分後には全部忘れていますから。」
「そうか、それなら安心だ。」
失礼な!!
この間は三日で忘れると言っておいて、今日は十分かよ!
段々僕の記憶力の持続性を短くしやがって!

「ええと…パンダイ財団の寄付っていうのはつまり?」
「あれは暗号みたいなものなんですよ。」
親父さんはニコッと笑う。

「直樹に仕事の依頼する方法はいくつかありましてね。」
「百万本のバラの他に?」
「ええ。いつ、どんなトラブルがあるか分からないから万全を期しているんです。」
「それでこの寄付も?」
親父さんは頷いた。

「直樹に仕事の依頼が入ると、私は新聞にそれを掲載します。今回は報酬が五千万円だったので、五千万円の寄付があったという風に。それを見た直樹が依頼を受けるかどうするかを決めてこちらへ返事をします。で、私が依頼人に伝えると。」

あんた、息子のパシリかよ!!


「で、その報酬はそっくりそのまま…。」
「もちろん、直樹のスイス銀行の口座へ。」
「それじゃあパンダイ財団というより、入江直樹財団じゃないですか!!」

何だよ、それ!!
僕の感動を返してくれよ!!

「そんな面倒な方法を取らなくとも、同じ家に住んでいるんだから直接言えばいいじゃないですか!!」
「それは危ない。」
親父さんは即否定する。
「こういう仕事をやっていると、どこでどんな目が光っているか分からないんです。」
「それじゃあこの部屋は大丈夫だと?」
「当然でしょう。」
そう答えたのは入江本人だった。
「ここは俺がありとあらゆる手を加えて改造している部屋ですから。」
「そうそう。」
にこやかに頷く親父さん。
どんな手が加えられているかは…聞かない方が無難なのだろう。
会社を何とかするより、自宅に手を加えるべきじゃないの?

「でも少しくらいは報酬を受け取ってもいいのでは?」
そんな面倒な方法を取らされて、社長室まで自由に使われてさ。そのエセ財団だって運営するのに大変だろうに。依頼人への電話代とか。こいつの依頼人、外国人が多いから国際電話なんじゃないの?

「いいえ。」
親父さんは首を横に振った。

「いいんですよ、私は。直樹を通して社会貢献できている、それだけで十分満足なんです。」

だーかーらーっ!!!
あんたの息子は社会貢献なんてしてないんだってば!!

人のケツに座薬ブチ込んだり、カルテを目の前で燃やしたり、嘘をついたら許さないと脅しをかけたり、そんなことばっかりしているのがあんたの息子なんです!!
これのどこが社会貢献だと?

あんただって知っているでしょうが!!
そんなことばっかりやってるから、変な組織にしょっちゅう追われていて。
その度に救済しているのはあんたでしょうが!!



「それじゃ、そろそろ俺は行くから。」
カップを置くと入江は立ち上がった。

「例の物、どれくらいでできそう?」
「そうだなあ。一週間ほどあれば…。」
「間に合わない。三日で頼む。」
「三日!?」
親父さんは目を丸くした。
何だかわからないが(わかりたくもないが)、またロクでもない物を親父さんに作らせているらしい。

「…分かった、他を探す。」
入江は背中を向けた。
「ディーブ・マッカートニーには永遠にかなわないと。」
「待ってくれ、直樹!!分かった、三日で何とかやる!!あいつに負けたくはない!」
親父さんは立ち上がって息子の背中に叫んだ。

「そうこなくちゃ。」
入江はニヤリと笑った。

ディーブ…誰?
ディーブっていったらスぺクターしか浮かばないんですけれど?

「あなたに関係のない人物です。」
入江がまたエスパーになって、僕の心を読みやがった。
はいはい。関係も持ちたくありませんよーだ!アッカンベー!…とは本人に向かって言えないしできないので、心の中で僕は舌を出す。

それにしても親父さんにライバルがいたとは。しかも海の向こうの人物っぽいし。
親子揃って国際的だよなあと、妙なところで関心してしまう僕。

親父を平気で顎で使う息子に、息子のパシリであることを喜んでいる親父。
…入江親子、ますますわけわかんねえー!!









☆ゴルゴ13の豆知識
ゴルゴ13への依頼方法の一つとして孤児院へ寄付をし、それを新聞に掲載する方法があった(依頼人の裏切りによりこの方法は消滅)。

ディーブ・マッカートニー
ゴルゴ13が最も信頼するといっても過言ではない、ニューヨーク在住の武器職人。
ペンタゴンの技術者もできなかった、宇宙でも狙撃できる銃を作った。



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