日々草子 騙す後輩
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騙す後輩




僕はいつも思っていた。

どうして入江はあんなに好き放題できるのか。
この病院はいつから、あいつにとっての無法地帯になったのか。



「何でしょうか、西垣先生。」
今日も可愛い琴子ちゃんは、僕の目の前でカツカレーを食べている(今日が給料日だからだろう)。
「ちょっと琴子ちゃんに聞きたいことがあってね。」
「またですか?」
そう言いながら、可愛いお口にカツを運ぶ琴子ちゃん。
琴子ちゃんって食欲旺盛だよね。痩せの大食いってやつ?

「で?」
モグモグと口を動かす琴子ちゃん。
ああ、可愛いなあ。
これが人妻、しかもあのわけのわからない、正体不明の未確認生物みたいな男の妻なんて許せないよ。

「あのさあ、入江についてなんだけど。」
「またですか?」
琴子ちゃんは二切れ目のカツを頬張る。
「あんまり先生の妄想に付き合うなって言われているんですけれど…。」
「妄想って…。」
もう僕は君の中で妄想男決定なんだね。
それもこれもあの男のせいだけど。

まあ、あいつがほくそ笑むのも今だけさ。

「あいつ、とてつもない秘密を抱えているんじゃない?」
「秘密?また外国の何かのお話ですか?あの妄想、まだ途切れていないんですか?」
可愛い顔してあの子、割とやるもんだねと…って懐かしい歌が僕の脳裏に流れる。
ほんと、可愛い顔して琴子ちゃん、結構毒を吐くよね…。

「まあ聞いてよ。」
しかし、ここでくじけている場合ではない。

「入江がさ、あんな性格になったのって何か理由があるような気がするんだ。」
「あんな性格?」
「そう、あの意地悪で人間を人間とも思わない、血も涙もない、どうしようもない男になった理由。」

…ちょっと言い過ぎたかな?
でもさ、これくらい言わないと琴子ちゃんも真剣に考えてくれそうにないんだもん。

僕の想像はこうだ。
入江は出生に秘密がある。
なぜかって?
だって、あの親父さんがあそこまで入江を気遣っているっておかしいだろ?
親だったら息子があんな危険な目に遭っていたら「そんなことはやめるんだ」って説教の一つも垂れるもんだ。
ところが説教どころか、ニコニコ笑って協力体制をしっかり築いてやがる。

その理由はただ一つ。

…入江はおふくろさんがよその男との間に作った男である。

え?
昼ドラとか韓国ドラマの見過ぎじゃないかって。

ばっかだなあ!
事実は小説より奇なりって名言があるだろ?

結構そこらへんに転がっているもんだよ、こういう謎もさ。

話を戻そう。

おふくろさんがそんなことをしたのは、仕事人間だった親父さんに構ってもらえない寂しさからだ。
しかし入江を身ごもって、おふくろさんは初めて罪の重さに気がついた。
そして親父さんに許しを求めた。
親父さんも自分が仕事に夢中で、おふくろさんを構ってやれなかったことを深く反省し、生まれた子供は我が子として大事に育てようと決意した。

が、罪の意識はお互い消えず。

その結果、親父さんは必要以上に入江を気遣うこととなりました、チャンチャン!

どうだろう、僕の想像は?
かなり高い確率で当たっていると思うんだけどね。
シマシマだかミズタマだかという二次創作を書いている人間が「これ使える!」とか笑っているんじゃないのかな?そいつはワンパターンばっかり書いているからな。



「それって…。」
カチャンと琴子ちゃんはスプーンを置いた。
お?核心をついちゃった、僕?
よっしゃあっ!!
エスパー西垣と今日から呼んでくれ!!

「…あたしのせいかも。」
「え?」
琴子ちゃん、今なんつった?

「入江くんの性格って、あたしのせいかも。」
真っ青になって震える琴子ちゃん。
え?え?
あれれ?
予想外の展開?

「琴子ちゃんのせいって?」
「あたしが…入江くんを脅したりしたから。」

なぬーっ!?
こ、琴子ちゃんが…あの男を…脅した!?

「お、脅したって?どうやって?」
「それは…詳しくは言えませんけれど…高校時代にちょっと。」

高校時代って、そんな昔!?
え?もしかして琴子ちゃん、その頃は警察と仲良しこよしの関係だった?
高校時代に脅すって、入江を体育館裏に呼び出して…。
僕は琴子ちゃんの目の前のカツカレーを見る。
…カツアゲ?

「今思うと、よくあんなことしたなって。入江くんをすごく傷つけるような真似。」
「傷つける?あいつを?」
どうやって!!
教えてよ、琴子ちゃん!!

「自分がいい思いをしたいがために…入江くんはすごく嫌だったのに…。」
そして琴子ちゃんは「わあっ」と顔を手で覆ってしまった。

「あたしのせいかも…。入江くんは…早く寝たかったのに!!」

早く寝たかった!?
ええと…カツアゲってそんな時間かからないよな?
一晩中一人をカツアゲなんてありえないし。

じゃあ、じゃあ…一晩中って…。

――僕の脳裏には、入江を襲う琴子ちゃんが浮かんだ。

いやいや、琴子ちゃんに限ってまさか!!
僕はブンブンと首を振って、その絵を追い払う。
この可愛い琴子ちゃんが、そんなことをするわけがない。
カツアゲもないさ!

しかし、ここまで琴子ちゃんが悔いているってことは、やっぱり今のあいつの性格は琴子ちゃんに脅されたことがきっかけということで間違いないのかな?

あ、わかった!!
この事件をネタに、今は入江が琴子ちゃんを脅しているんだ!!
そうだ!
「お前のせいで俺の性格は破綻した。だから責任とって俺に体を寄越せ」とかうまいこと言ってさ!
で、琴子ちゃんは呼び出されたらすぐに体を提供にやってくると!

ううっ!!何て可哀想な琴子ちゃん!!



「…何で俺の妻を泣かせているんですか?」
地の底から響く声が聞こえた。
そしてそこには、壁にもたれている入江が!

「入江くん!」
「…時間になっても来ないから。」
「え?あ、そうだ!」
琴子ちゃんは慌てて時計を見る。
「ごめんね。精をつけようと、カツカレー食べてたんだ!」
「お前が精をつける必要ねえだろ。」
「でも…。」

琴子ちゃん、君って子は!!
こんな、こんな精力絶倫な男のためにカツカレーで体力をつけていたなんて!!
入江、てめえも高級栄養ドリンクくらい飲ませろよ!!

「この人に構うなって言っただろ?」
入江は琴子ちゃんの顎に手をやると、上向かせてそのままキス。

おーい、ここは食堂ですよ…って聞いちゃいないよな。

「…ごめんなさい。」
昔脅した男に対する態度とは思えないくらいに、入江に甘える琴子ちゃん。


くそっ!!
お前の秘密は今日はお預けだな!!


「ねえ、入江くん?」
琴子ちゃんは子猫のように、入江に甘え続ける。
「どうして、突然入江くんに呼び出されても、師長は文句言わないのかなあ?

いいこと言ったあ、琴子ちゃん!!!

そうだよ、それが最大の疑問だよ!!
勤務中に二人でしけこんでも、どうして誰も文句を言わないんだ!

「お前は気にしなくてもいいんだよ。」
またキスをする入江。

「でも、気になる。」
キスをされても、引かない琴子ちゃん。

よし、行け!行くんだ、琴子ちゃん!

「それはだなあ…。」
入江は琴子ちゃんを抱きしめる。

フフン、さあ、どう出る、入江直樹!!
お前の悪運もここまでだ!!

いかに自分が好き勝手にやってきたか、そしてそれを知った愛妻に幻滅されるがいいさ!!

「やだ、入江くんって最低…欲望のおもむくままに動いてたのね」
と軽蔑されるがいいさ!!(実際はこんな難しい言い回し、琴子ちゃんはしないだろうけれど)

アーハッハッハッハッハッ!!!
アーハッハッハッハッハッ!!!
アーハッハッハッハッハッ!!!


「…医者と看護師が夫婦だと、生活のすれ違いが出てくるだろ?」

ん?何だ、そりゃ?

「それで夫婦生活が破綻しないようにという、病院の心遣いなんだ。」

はあーっ!?
何を言ってるんだ、この男!!

「なかなかゆっくり、過ごすことができないだろ?」
「そうね。入江くんが当直であたしがお休みって日とかあるし。」
頷く琴子ちゃん。

「そう。だから病院側が、二人一緒に過ごす時間を取らせようって配慮してくれているんだ。」
「それで、仮眠室でも…いいよってことなの?」
「ああ。寛大な職場だよな。」

なあにが寛大な職場だよ!!
どこの世界に、すれ違いが多い夫婦のためにホテル化する病院があるってんだ!!

入江、お前のその口、よくもまあそんなでたらめがペラペラと出るもんだ!

「素敵、入江くん!」

あーあ、琴子ちゃん、すっかり騙されちゃったよ、このペテン師に!!

「そんな職場で働けて、あたし幸せ。」
「俺も幸せだよ、琴子。」

そして二人はブチューッ(本当にそんな感じ)とキスをする。

そんな職場で働けて僕は不幸ですが、何か?

「だから職場がそう言ってくれているんだから、お言葉に甘えないと。」
「そうね。ここまでしてくれて離婚することになったら悪いわ。」
「俺たちは夫婦仲良くすることで、職場に恩返しをするんだ。そのために仮眠室も最大限に利用しないとな。」
「うん、入江くん!」


やりたけりゃ、家に帰ってやれよ!!
何だ、お前ら!!


「おい、入江。」
仮眠室へ向かう入江を僕は呼び止めた。
入江はまたもや面倒臭そうな顔を隠すこともなく、僕の元へ来た。
「…食後に運動すると、琴子ちゃんはお腹が痛くなるんじゃないのか?」
これくらいの嫌味言わせてくれよ。

ぷっと入江は噴き出した。
何だよ、寛大な先輩の僕が忠告してやってるんだぞ?
何だ、その態度は。

「西垣先生、俺を誰だと思ってるんですか。」
「は?」
「ペースをちゃんと守って、“ゆっくり”と運動させますからご心配なく。」
入江は「ゆっくり」の部分を殊更強調した。

「ああ、そういうことで。俺たち、三時間は戻らないので。」
そして最後にそう言い残し、奴は去って行く。

三時間…。
そんなにうち、昼休みないんですけれどねえ?

ていうかさ、入江。
お前、今日は手術もうないだろうが!!
お前がいたすのは、手術前限定じゃねえのかよ!!

「…手術以外にも依頼があるんですよ。」
入江はクルリと振り返った。
くそ、またもやエスパー入江になりやがって!!

「それじゃ、あとはよろしく。」
入江は手をヒラヒラと振ると、琴子ちゃんを連れて消えたのだった。
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プロフィール

水玉

Author:水玉
『イタズラなkiss』のほかには『ゴルゴ13』が好きです☆
多数あるイタキスの二次小説の中で邪魔することなく、ひっそりとマイペースで我が道をゆきつつ生息しております。
そっと見守っていただけたら嬉しいです。

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当ブログは、『イタズラなkiss』の二次創作をメインとしておりますが、時折管理人の趣味や日々の出来事についての記事も書いております。

原作者様や関係各位とは一切関係ありません。

二次創作については、いわゆる原作の隙間をぬった作品もありますが、主人公以外のキャラクターをメインとしたものや オリジナルキャラクターが出てくるものもございます。

そして、原作と違った時代(平安や明治やその他の時代を舞台にしております)、異なる設定(主人公を医者と看護師じゃない職業にしております)で書いてあるものが多いですが、原作を冒涜しているつもりは全くございません。

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