日々草子 狙う後輩
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狙う後輩







僕はまたもやパンダイ本社に来ていた。
入江直樹にくっついて来てしまったんだ。

「…どうして又来るんですか。」
入江は今日も露骨に嫌な顔をする。
「お前の全てを知りたいんだ。」
率直に気持ちを打ち明けたら、一緒にエレベーターの到着を待っていた重役と美人秘書がこれまた露骨に、僕たちから離れた…。

うん、ちょっと語弊があったよね。

「悪いんですが、俺は妻がいるんです。」
入江の答えに、また重役と美人秘書がサササッと距離を取る。
というか、彼らは明らかに僕を不審者扱いしていた。

そしてVIP専用のエレベーターが到着した。
僕たちにつづいて、重役たちも乗り込む。
しかし、彼らは入江の傍にぴたりとくっついていた。
…完全に誤解されたよね、僕。

そして降りたのは役員専用フロア。
今日も塵一つ落ちていない絨毯の上を歩いて、目指すは社長室。



「来たな。」
笑顔で迎えてくれたのは、入江の親父さん。
「あ、また…。」
僕を見てそれだけ言うと、首を横に振る。

…ええ、無視して結構ですよ。
最近は無視されない時の方が逆に居心地悪く感じるようになってきちゃった、すっかりM体質な僕。

「約束の物だ。」
親父さん、今日は何を作ったんだろうか。
だが今日は小さい箱だ。

入江は中を開けた。

「なっ…!!」
叫びそうになった僕を、入江がギロリと睨む。
「…あなたは小学生、いや幼稚園以下ですか?」
「へ?」
「何度も言いましたよね?ついてくるのは我慢するけれど何も聞くなって。」
「だ、だって…。」
「黙って下さい!」
「は、はい。」
僕は両手でお口を塞いだ。

でもさ、これを見て叫ばない人間はいないぜ!?

「法の壁があるから、今回は外部に依頼した。」
「外部?」
入江が眉を潜める。
「ああ、心配せんでもいい。わしの古くからの友人がそっちの筋の仕事をしておったから。彼は信頼できる人間だ。わしが保障する。」
…そっちの筋って、どっちの筋の方なんでしょうか、お父様?

「まあいいでしょう。」

そして作ってもらった割には本当に偉そうな態度のこの男は、懐から出した封筒を親父さんの机の上に置いた。

「今回は余分に入れておきました。」
「すまんな。」
親父さんは中身も確認せず、遠慮もせずに懐に入れた。
…今回はいくらなんだろう。前回よりも封筒が厚いからかなりの金額だろうな。



その翌日。
僕は病院の東病棟の屋上にいた。
「…暇な人ですね。」
そして僕の前にいるのは入江。
「だって、お前が何をするか見張っていたいんだもん。」
「仕事して下さいよ。」
その台詞はお前にそっくり返すよ。

その入江の顔は今日もスッキリとしている。
おそらくここへ来る直前、琴子ちゃんとまたいいことをしてきたに違いない。

入江は屋上の片隅に隠していたアタッシュケースを出してきた。
何だそれ?
もしかして金塊か?

入江は無言でケースを開けた。

ガシャッ!
ガシャッ!

ケースの中に入っていた物。
それはライフル銃の部品だった。
入江は無言でそれらを組み立てて行く。

ジャッキーン!!

完成したライフルは、先日の水鉄砲仕様と同じだ(と思う)。

何でこんな場所でこんなものを組み立てたんだ?
ここからどこに水鉄砲を発射するっていうんだ?

そして入江は白衣のポケットに手を入れる。
中から出てきたのは、この間親父さんから受け取っていた例の小箱だった。

「ちょ、ちょっと待て!!」
とうとう僕は声を上げてしまった。
入江が面倒くさそうに振り向いた。
「…何ですか?」
「それはまずいって!!お前、水鉄砲じゃないのかよ、それ!」
「あの時のものは水鉄砲ですが、今回は違いますよ。」
そう言いながら入江は無表情で小箱を開けた。
中に入っているのは銃弾だ。
だからあの時、僕はパンダイで声を上げそうになったんだ。

入江は僕を無視して、それをライフルにこめる。
そして構えた。

銃口が向けられたのは…病院の西病棟!
その一室、特別室だ!

入江、お前はとうとう医者よりもスナイパーの人生を選ぶのか!
いいのか、撃ったら最後、もう医者には戻れないぞ!

そして僕!
ああ、どうするべきなんだ!
患者を守るために、銃口の前に飛びこむべきだろうか。

ズキューンッ!!!

そんなことを考えている合間に、入江は引き金を引いてしまった…。

ああ…もう終わりだ。
今日の夕方のニュースに『大学病院で発砲事件』『医者が患者を射殺』『犯人は大企業の御曹司』とか報じられるんだ。
僕も犯人の同僚として、インタビューされるんだろうな。
どうしよう、顔を隠してもらった方がいいのか。
あ、ネクタイ!今日は寝坊して適当な物を選んじゃった。
このネクタイで全国放送はいやだなあ…。
そうだ、琴子ちゃん!
犯人の妻として色々週刊誌に書かれるんだろうな。
可哀想に…でも大丈夫!
僕が身も心も君を癒してあげるから!

しばらく頭を抱えていた僕は、恐る恐る顔を上げた。
あれ…?
何の騒ぎも起きていない。
僕は時計を見る。あれからもう10分経っている。
パトカーも救急車も来ない。

そして…入江の姿もそこにはなかった。



「いやあ、入江先生には本当にお世話になりました!」
僕の前で嬉しそうに話すのは、特別室の患者さんだ。
そう、入江が屋上から狙撃した部屋の患者さんで名前は西園寺さん。
どこも怪我してない。ピンピンしている。

「…西園寺さん、あなたって方は。」
僕は深い溜息をついた。
「だって、恥ずかしいものは恥ずかしいですよ。」
「だからって、そんなことを頼まなくとも。」
「すみません、驚かせてしまって。」
ガハハハと豪快に笑う西園寺さん。
その西園寺さんを見ながら、つい1時間前に入江から聞いた話を僕は思い出す。

あの時、入江が撃ったのは実弾ではなかった。
え?何を撃ったんだって?
それはね…。



**********
「西園寺さんはどうしても他人に座薬を入れられることを嫌がるんです。」
入江は今日も面倒臭そうに僕に説明する。
「かといって、自分で入れることも嫌だと。」
「それであの方法って!!」
「患者のプライドを守ることも医者として必要ではありませんか?」
入江が僕を睨む。
いや、それはそうだけどさ。
だからって、あんな手段を取らなくとも!

そう。
入江があの日ぶっ放したのは、座薬だったんだ。

親父さんに依頼していたのは、あのライフルで…。
「ライフルじゃありません。M16アーマライトカスタムです。何度言えば覚えるんですか?」
「覚える必要ないよ!」
…そのM何とかで発射できるように座薬を加工することだった。
何に使う目的であろうが、薬には変わりない。薬を加工するにはそれなりの資格が必要だ。
親父さんは優秀な経営者であっても薬剤師ではない。
そこで友人が経営している製薬会社(ちなみにここも名前を聞いたら誰でも知っている大企業だった)に外注委託したってことらしい。
その筋は、製薬会だったってわけだ。



「ところでさあ…そのライフル…M19…?」
「M16アーマライトカスタム!」
本当に記憶力のない人だと言っている入江を無視して、僕は続ける。
「…にこだわる理由は何かあるの?」
何でそんな銃身の長い物を利用するんだろう?
短銃でもいい気がするんだけど?

「…俺は一人の軍隊です。」
「…はい?」
いや、お前は軍隊じゃなくて医者だろ?
「自分の使う銃は軽くて命中精度が優れて、体に一番合うサイズ。そして狙撃銃、突撃銃の機能両方が成り立つものを必要とするんです。」
「…はあ。」

何かすごく難しい。そして悔しいけれどすごく格好いいことを口にしやがる!!
本当にお前ってやつはすごいよ、入江。

でもさあ、入江。
今の台詞、人のお尻以外の標的を撃った時に聞けたら、もっと素敵に聞こえたと思うんだけどね?



**********
「しかし入江先生はすごいですよねえ!」
西園寺さんは窓を見た。

「こんな隙間から、見事に僕のお尻に命中させたんですから!」

病室の窓は事故防止のために全開できない仕組みだ。だから開けられるのはわずか数センチ。
人なんて出入りできない細さ。

確かに入江の腕はすごいと思う。
東と西の病棟は、結構広い中庭を挟んで建っている。
そんな距離を経て、窓の狭い隙間から、更に狭いお尻の穴に座薬を命中させたんだから。

でも。
僕はナースに座薬を入れてもらうことより、窓に向けてお尻を丸出しにしている方が恥ずかしくないという、この人の羞恥心に首を傾げているけどね。

しかも、こんなことにも何千万円っていう金が動いているわけで。

世の中は本当に謎に満ち溢れている…。








☆ゴルゴ13の名言
『俺は一人の軍隊だ』
(M16アーマライトにこだわる理由を問われた際の返答)


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Author:水玉
『イタズラなkiss』のほかには『ゴルゴ13』が好きです☆
多数あるイタキスの二次小説の中で邪魔することなく、ひっそりとマイペースで我が道をゆきつつ生息しております。
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