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2011.07.01 (Fri)

追われる後輩


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休日。
僕はなぜか得体の知れない外国人に追われていた。
え?
何をしたんだって?

違うよ!
追われている原因は僕じゃない。今僕の前を走っている、あの面倒くさい後輩のせいだ!

「×△@!!」
「…イリエ!!」

ほらまた!
「イリエ」って叫んでる!

「お前、何をしたんだよ!」
せっかく買い物をしていたってのに、こいつと出くわしたせいでこんな目に遭うなんて!

走っていくうちに、行き止まりになってしまった。
塀が僕たちを阻んだ!

もう終わりだ、殺されるーっ!!



「こっち!!」
へ?
僕と入江は上を見た。

「こっちです、早く!」
「鴨狩くんじゃないか!」
塀の上から手を出しているのは、鴨狩くんだった。
何で彼がここに?
いや、質問は後でいいや。
今はこの状況をなんとかしないと!

入江は何も言わずに鴨狩くんに手を貸してもらって、ひょいと塀を乗り越える。
くそ、何をやっても絵になるやつだ!

「僕も頼む!」
入江の奴が面倒くさいと言わんばかりに顔をゆがめた…。


「乗って下さい!」
塀の向こうには鴨狩くんが車を止めていた。
僕と入江はその後部座席に滑り込む。
乗ったと同時に、車が出発した。

どうやら僕たちは逃げ切ることができそうだ。



「お前、何をして追われていたんだよ?」
ようやく息を整えた僕は、こんな状況でも顔色一つ変えない後輩に訊ねる。
「別に。」
「別にってこと、ないだろ!」
「…手術を断った患者の手の者ですよ。」
「断った?何でまた?」
「だって、本当は痔の手術なのに周囲にはかっこいい病気にしておいてくれって無理を言うから。」
「また痔かよ!」
いつからお前は痔の手術専門医になったんだ?

「でもそれくらい聞き入れてやればいいじゃないか。向こうだって事情があるんだろうし。」
それに今回だって、それなりの金がスイス銀行とやらに振り込まれているんだろ?
それくらいのわがままを聞いてやってもいいと僕は思うけどね。

「かっこいい病名なんてありませんよ。病気にかっこいいなんて変です。」
まあ、それは確かにそうだな。
痔だろうが水虫だろうが、病気は病気だ。
珍しくまともなことを言うな、こいつ。

「そしたら、どうしても手術しろってうるさくて。」
「で、追われたと。」
「ええ。」

鴨狩くんは見ザル、聞かザル・言わザルとなってハンドルを握っている。

「でもあの人たち、外国人だよな?」
「ええ。モサドです。」
「モ、モサド?」
何だ、それ?

「…イスラエル諜報特務局のことですよ。そんなことも知らないんですか?」
入江は心底呆れ果てた顔をした。
「知るかよ!そんなの学校で習わないだろ!」
「学校で習ったことが全てだと?ああ、そういう人いるんですよね。ったく知識は学校以外からも吸収すべきだってのに。」
「普通に生きていて、何でイスラエルの諜報機関を知る必要があるんだ!それにそんなもんに追われる日本人、お前くらいだろ!」

一介の外科医がどうしてイスラエルの諜報に追われるんだ!
ちゃんと真面目に生きていたらそんなことあるわけないだろうが!


「…なあんてのは、冗談ですけどね。」
「へ?」
「冗談ですよ。いくら俺だってそんなやばい所から追われませんから。」
「冗談…。」
こいつ、冗談のレベル高いんだか、低いんだか…。

「ただのアラブの大富豪ですよ。」
「ただのって。」
アラブの大富豪と知り合える機会も、そう簡単に日本には転がってないけど?


「着きました、入江先生。」
車が止まった。
「助かった。」
「いえ、契約ですから。」
入江は車をサッと降りると、どこかへと消えてしまった。

「契約って?」
「ああ、西垣先生、まだいたんですか?」
ひどい…。
さっきからずっといたよ、僕。

「…これは入江先生救援システムなんです。」
「救援システム?」
何だ、それ?
また謎が一つ出てきた。

「入江先生はあの通りの人だから、今日みたいに追われることもあるんです。あとアクシデントに見舞われる可能性もあるし。」
そりゃあそうだろうな。

「で、そういう時のために俺がいるってわけです。」
鴨狩くんはニッと笑った。
「つまり、入江に何か起きたら救援に向かう役目を担っているって意味?」
「正解です。」
「それって、連絡とかが来るわけ?」
「そこはシークレットってことで。」

出た、シークレット。
この間の桔梗くんも同じことを言ってたな。

「年に一度もらえる報酬が結構いいんでね。」
鴨狩くんが説明を続ける。
「報酬?」
僕は桔梗くんが受け取っていた封筒の中身を思い出す。

「ど、どれくらい?」
「まあ…年に数回、両親をファーストクラスでヨーロッパ一周旅行させることができる金額ってやつです。」
「ファ、ファーストクラス!?それも年に数回も!?」
「はい。おかげで俺も親孝行できています。」
「ちょっと待って。それってさ、入江から連絡がなかった年ももらえるの?」
「ええ、それが契約ですから。」

何て…何ておいしい仕事なんだ!!

「…でも何をしていても、連絡があったら必ず駆けつけないといけない仕事ですよ?」
僕が考えていることをどうやら鴨狩くんは見透かしたらしい。

「西垣先生がベッドに美女を連れ込んでいても、連絡があったら放り出して向かわないといけないし。」

僕は天秤に美女と入江を乗せた。
ゆらゆらと天秤が揺れる。
ガクーンッと美女を乗せた天秤が下がり、入江はその拍子にどこかに飛んで行ってしまった。

僕にこの仕事は無理だ。
やはり僕はちゃんとまともに働こう。

そう決意して、鴨狩くんの車から降りた。

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