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2011.07.01 (Fri)

秘密主義な後輩


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目の前のステージでは、美しいダンサーがかなりきわどい衣装を身にまとって踊っている。

「ハ~イ。」
美女がステージ上から僕たちに手を振る。
僕は弱弱しく手を振り返した。

「…相変わらず軽い人ですね。」
そんな僕に冷たい声がすかさず飛ぶ。
「だって振り返さないと失礼じゃないか。」
「向こうは商売だからやっているだけで、あなたが好みのタイプとかじゃないですからね。」

分かっているさ、そんなに釘を刺さなくたって。
それに僕だって喜んでいるわけじゃないよ。

だってさ、ここ…オカマバーなんだもん。
オカマに手を振られたって、ねえ?

そのオカマバーの一番角のテーブル。
店内を全て見渡すことができる席に陣取っているのは、生意気で何を考えているのか最近ますます分からなくなった後輩だ。

そいつはこの席から、隙一つ見せずに店内を見回している。
沢山のダンサーがお前の気を引こうとしているのにも気づかずにね。



「遅れてしまったかしら?」
僕たちのテーブルに、ドスのきいた声がした。
「いや、時間通りだ。」
入江が腕時計を確認する。
「そう、よかった。申し送りでちょっと時間がかかったから。」
そう言って座ったのは。

「桔梗くんじゃない。」
「あら、西垣先生。」
よかった。
桔梗くんは僕の存在を認めてくれた。
なんか最近、無視されることに慣れてきているんだよね、僕。

「どうして西垣先生が、ここに?」
不思議な顔をする桔梗くん。
「それはね…。」
「余計な質問は時間の無駄だ。」
説明しようとした僕の口を、この意地悪な後輩がピシャッと押さえた。

「ああ、そうね。」
おいおい、桔梗くんまで納得するのかよ。
やっぱり今夜も僕は、こんな扱いなんだ…ふんだ。

なるほど、桔梗くんと会うからこの場所だったわけか。
木を隠すなら森に。
オカマを隠すならオカマバーに…ってことか。



「内藤さんの件について知りたい。」
入江は目の前の酒に目もくれない。
内藤さん…ああ、あの大金持ちの内藤さんか。
会社いっぱい経営していて、入江に手術を依頼した内藤さんね(勿論、その報酬も指5本×1000万円)。

最近、内藤さんは元気がないんだよな。
担当の看護師も首を傾げている。
病状は悪くない。手術も成功した(そりゃあ5千万円も払えば入江だって腕をふるうさ)。

「勿論、ちゃんと調べました。」
桔梗くんは運ばれてきた水割りを一口すすった。
彼女(いや正確には彼)の赤い唇が濡れる様子が艶めかしい。

「内藤さんね、ドラえもんのグッズに囲まれていないと眠れないらしいの。」

はあ!?
内藤さんが…ドラえもんのグッズ!?
内藤さんって、一見、相当の修羅場をくぐって指の数本を犠牲にしてきましたって感じの人だぞ?(そう見えるが、内藤さんは性格は極めて温厚だし、警察のお世話には一度もなったことがない)

あの人がドラえもん!?

「でもね、これは家族にも側近にも秘密にしていることなの。自宅には内藤さん一人しか入ることのできないドラえもん専用部屋があるくらいよ。」

いや、その家族も側近も知らない秘密を桔梗くんはどうやって知り得たんだ!?
僕としてはそっちに興味があるよ!

「だから家からグッズを持ってきてもらうとか頼めないわけ。それで我慢して病院の白い枕と布団、普通のパジャマで寝ているんだけど…そろそろ限界みたいね。」

まあ、言えないよなあ。
一部上場企業のオーナーが「ドラえもんグッズを持ってきて」なんて、口が裂けても言えないよ。


「なるほど、それで様子がおかしいわけか。」
ドラえもんを連発されても、入江はにこりともしなかった。

「さすが桔梗だな。良く調べた。」
「ありがとうございます。」
桔梗くんがまた色っぽく笑う。

「それじゃあ彼が望むグッズを揃えたほうがいいな。」
入江が言うと、
「そこはもう揃えました。」
と、桔梗くんはVサインをした。
「それじゃあ、内藤さんの担当は桔梗、お前に任せる。」
「はい、わかりました。」
「師長には俺から手を回しておくから、他の看護師や医者を誰も内藤さんの個室に入れないように。」
「了解です。」

…ついでに藤子・F・ミュージアムのチケットもオプションで付けたらどうでしょう?



「あと、琴子にチョッカイ出していた吉本さんの件ですが。」
「ああ、あの盲腸で入院している若い男か。」
入江の表情がここで初めて変化を見せた。
やはり琴子ちゃん絡みだと、こいつは変わる。

「二度と琴子に手を出す気にならないようにしてくれただろうな?」
「はい、それはもう。」
「よし。お前を信用しているから。」
「ありがとうございます。」

あの~すみません。
二度と琴子ちゃんに手を出す気にならないようにって、何をどうされたんでしょうか?
って質問したら、またメスが飛んできそうなのでやめておこう。



「それじゃあ、これ。」
入江は懐から分厚い封筒をテーブルの上に置いた。
「どうも。」
それを遠慮一つせずに受け取る桔梗くん。
「分かっていると思うが、今日ここで話したことは…。」
「勿論、全部忘れます。それが入江先生の情報屋の役目ですもの。」

情報屋!!
桔梗くんは、入江の情報屋をサイドビジネスにしているのか。
それにしたって、たった二件の情報だけですごい報酬じゃないか?
やってることは情報屋兼秘密工作員って感じだけどさ。

チラッと見えたけど、低く見積もっても百万円は絶対入っているよな。



そして入江は一人で立ち上がると、店内を出て行った。

オカマバーに残されたのは、僕とオカマだけ…。


「西垣先生も他言しないで下さいね。」
「ああ。」
桔梗くんはもう一杯、水割りのお代わりを頼んだ。

「それにしても、すごい金額だね…。」
「ああ、これ?」
またフフフと美しい笑みを浮かべて、桔梗くんは封筒の中身を「ひい、ふう、みい…」と数え始める。
いやいや、「ひい、ふう、みい…」と数えられる金額じゃないでしょ?

「必要経費も含まれていますから。」

いやいや。
必要経費って、ドラえもんグッズを揃えるのに、そんな大金必要ないでしょ!

「このことってさあ、琴子ちゃんは知っているの?」
訊ねた僕の唇を、唇と同じ赤いネイルで彩った人差し指で桔梗くんは押さえた。

「西垣先生、この報酬にはね、口止め料も含まれているんです。」
「口止め料…。」
「いい子はおしゃべりしないんですよ?」



そして桔梗くんは、オカマちゃんたちに大きく手を振った。

こうして僕の夜も更けて行った…。




ゴルゴ13の習性
乗り物や店内では、後部座席や一番奥の席など、内部を見渡せる場所に座る。



Q:入江くんはスイス銀行に預金したお金を何に使っているのか?

A:こうやって必要経費を惜しみなく出しているんですねえ~。

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