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2011.07.01 (Fri)

臆病な後輩 3


【More】




ということで、午後は手術の打ち合わせだ。
まずは患者さんとの御対面。

「はじめまして。どうかよろしくお願いします。」
どこから見ても一般人そのものである患者さん。
「全力を尽くします。」
僕は患者さんとがっちりと握手を交わした。

「こちらが入江先生でしょうか?」
まったく、お前って奴は…。
患者さんがいても、こうやって壁にぴったりと背中をくっつけて立っている入江に僕は溜息をついた。

「名医という評判の高い入江先生に執刀していただけるなんて幸せです。」
ちょっと待て!!
執刀医は僕じゃないのか?
入江なのか!?
そういや、院長も執刀医はどっちでもいいとか適当なことを言っていたが。

患者さんは入江にも握手を求めた。

しかし、奴は組んでいる腕を解こうとしない。

「?」
戸惑う患者さん。

「…悪いんですが、俺は初対面の相手に利き手を預けるほど、自信家じゃないんで。」

カーッ!!!!
お前、本当に何様だよ!!

「あ、そうですね。申し訳ありません。入江先生の習慣はきちんと把握しておいたつもりがつい…。」

不思議なことにこんな失礼な態度を取った男に対し、患者さんは気を悪くすることもない。



「で、これが紹介状なのですが…。」
患者さんが鞄に手を入れた時だった。

ヒュッ!!!

風を切る音がしたかと思ったら、

ストンッ!!

テーブルに何かが刺さる音がした。

「め、メス!!!」
それはメスだった。
メスが患者さんの前のテーブルに突き刺さっていた。
ちなみに、このメスは先程受け取った装甲車用のものではない。

「入江、お前何してるんだ!!!」
さすがに僕は怒鳴りつけた。
医者ともあろう者が、患者に向かってメスを投げつけるなんて!!!

「…ゆっくり出して下さい。」
しかし、入江は完全に僕を無視した。
「あ、そうでした。」
そして驚くことに患者さんも冷静だった。
「申し訳ありません。入江先生の前で資料等を取り出すときはゆっくりとするようにと注意を受けていたのに。」
何だ、それ!?
それもあれですか?
懐から危険物でも取り出された時のための用心ってやつかよ!!


「こちらがカルテですね。拝見しましょう。」
紹介状の後に、(ゆっくりと)患者さんがカルテを出した。
一応この患者さんの病状については把握してきたが、こうやってカルテを見た方が万全の態勢で明日の手術に臨めるってもんだ。

僕はサッと目を通した後、このクソ生意気で自称臆病な後輩にカルテを渡した。

「…。」
奴は無言でカルテに目を通した後、ポケットからライターを取り出した。
何だ、こいつ。
おいおい、病院内は禁煙だぞ?

ところが、奴がライターの火をつけたのはタバコではなく…。


シュボッ!!!

「おいっ!!!!!」

何と、カルテに火をつけやがった!!
入江は焦る僕とは正反対の冷静な顔で、燃えるカルテを見つめている。

「カルテの内容は暗記しました。」
全て燃え尽きた後、入江は平然と言ってのけた。

「いや、僕は暗記してないぞ!!」
「別に関係ないでしょう。執刀医は僕なんですから。」
「だからって燃やしてどうするんだ!!」
「暗記した以上、カルテは不要です。変な証拠を残すことは避けたいので。」
何の証拠だよっ!!
こいつの考えていること、全く分からない!!
これも臆病者だからっていう理由からの行動なのか!!



「それでは手術を執刀して下さるということでよろしいんですね。」
メスを投げつけられカルテを燃やされても、この患者さんは気を全く悪くしていなかった。
何だか、一人焦っている僕がおかしいみたいじゃないか。

「ええ。入金が確認され次第取りかかりましょう。」

入金?
何だ、それ?

「分かりました。早速これから、入江先生のスイス銀行の口座に全額振り込みます。」

ちょっと待ったあ!!!

スイス銀行って何だ、一体!!

お前、いつからそんな所に口座を持っているんだ!!

「金額は三千万円でよろしいですね。」
「結構です。」

「三千万円!?」
僕の悲鳴に、入江が怪訝な顔をする。

「お前、何だよ。その金額ってまるでブラックジャックじゃないか!!」
そうだよ。
あの名作マンガ『ブラックジャック』の報酬じゃないか!!

「全く西垣先生もしょうがない人ですね。」
入江は溜息をついた。
「ブラックジャックは無免許でしょう?俺はちゃんと医師免許を持っています。」
「そういう問題じゃない!!」
「じゃあどういう問題なんですか?」
「僕たちは斗南大から派遣されて来たわけだろ?これも給料に入っているんじゃないのか?」

つまり、余分なお金はもらう必要はないんだ。
入江、お前が受け取ろうとしているお金は「袖の下」ってやつだ!!

「正当な報酬です。何の問題もありませんから。」
僕の正義の主張を簡単に退けやがった。
「そうです。入江先生に手術をしていただけるだけでもうお金など…。」
いや、こいつはペーペーですよ!
僕の方が経験豊かなんですって!!

だったら僕だって…僕だって!!
僕は財布からキャッシュカードを取り出そうとした。
今ここで、僕のメインバンクの関東四菱銀行の口座を告げたら三千万円振り込んでくれるんだろうか?


「それでは、これで。」
しかし僕がカードを出す暇も与えず、患者さんは立ち上がった。
「よろしく、よろしく」と何度も繰り返して出て行ってしまった。

僕はポケットの中でカードを握りしめたのだった。






ゴルゴ13の習性

1.絶対に他人と握手を交わさない
2.相手に資料等を取り出させる時はゆっくりと取り出させることを要求する
3.依頼人からの大事なデータであろうと、不必要なものはその場に残さない
4.報酬は前金で現金で受け渡すか、スイス銀行への振り込み


ゴルゴ13の名言
『俺は初めて会う相手に利き腕を預けるほど自信家じゃない…』
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