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2011.07.01 (Fri)

臆病な後輩 1


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「そろそろ時間だよな。」
僕は腕時計を見た。12時55分。うん、待ち合わせの時間5分前だ。
今日は都内のとある病院に手術の打ち合わせに出向くことになっていた。
何だか知らないが患者の事情とやらで、僕が勤務する斗南大学医学部付属病院ではなく違う病院で手術を受けたいとのことだ。
まあ、院長直々の依頼なので仕方ない。

しかもどういう理由か分からないが、僕たちは手術が終了するまでその病院の近所のホテルに宿泊することになっていた。
今から、そのホテルへ向かうところである。

行くのは僕一人ではない。
そいつと斗南大学病院の玄関で待ち合わせしているんだが、まだ相手は姿を見せない。
まったく、後輩だったら先に来て先輩の僕を待つのが常識だろう。



「時間どおりですね。」
突然聞こえた声に、僕は後ろを振り返った。
そいつはなぜか壁に背中をぴったりとくっつけて、僕を見据えていた。

「入江、来てたのか。」
「ええ、西垣先生が今ここを通過した見舞客に鼻の下を伸ばしているところを見てました。」
鼻の下って…。
そりゃあ確かにあの見舞客は美人だったけど。



僕たちはタクシー乗り場へと向った。

「先に乗って下さい。」
入江は僕を促した。
そうか、そうか。
こいつも先輩を敬うということを覚えたか。
態度のでかい男だと思ったけど、やっと世間の常識というものを理解したってわけだな。
僕はお言葉に甘えて、先に乗り込んだ。

「…何が仕掛けられているか分かりませんからね。」
「は?」
後から乗り込みながら、入江が話したことに僕はきょとんとなった。
「何がって何が?」
「それが分かれば苦労しませんよ。俺は他人と乗り物に同乗する時は後から乗るようにしてます。100%安全が保障されないと怖いんで。」
ちょ、ちょっと待て!!
何だ、それ?
それじゃあこのタクシーに何か仕掛けられていた場合、僕が犠牲になるのは構わないって意味か?
先輩を敬うどころかこいつ、先輩を盾にして自分の身を守ろうって考えかよっ!!

いや、それよりも。
お前、誰かに命を狙われるようなことをしでかしてるってことか?
そりゃあお前は態度はでかい、愛想はない、性格はお世辞にも褒められたもんじゃないが。
まあ誰かに恨まれている可能性はないとはいえない。
だからといって、命を狙われるまでは…。

あーあ、それにしてもこいつをほんの僅か見直した僕がバカだった。
後悔しているうちに、タクシーは目的地に到着した。



フロントにてチェックインを済ませると、僕たちは部屋へと向った。
念のためがだ同室ではない。

エレベーターは最上階に止まった。
「じゃあ、俺はあっちの部屋なんで。」
入江が指したのは、最上階、非常口のすぐそばの隅の部屋だった。
「ああ、それじゃ後でそっちに行くから。」
僕は入江の部屋の隣の隣の部屋に入った。



荷物を置いた後、僕は入江の部屋を訪れた。
「どうぞ。」
入江はドアの陰に隠れるように僕を迎え入れる。
何だかいちいち、鬱陶しい動きをする奴だ。

「ええと明日のことなんだけど。」
ソファに座って話を始めようとした僕だが、入江は部屋の中を何か探し回っている。
「何か探しているのか?」
「いいえ。」
そう答えながらも入江はカーテンの陰、テレビの陰、電話の受話器等々、せわしなく見て回っている。

「盗聴器とか仕掛けられているんじゃないかと思って。」
「盗聴器!?」
何でそんなもんが、お前の部屋に!?

「お前、映画の見過ぎじゃないの?」
僕がそう言うと、入江は呆れた顔で僕を見た。
「タクシーの件といいさ、この部屋に何かが仕掛けられているんじゃないかとかさ。考え過ぎだって。」
「西垣先生。」
「何だよ?」
入江は先輩である僕を、蔑むような目つきで見た。

「この世界は病的な用心深さと、それ以上の臆病さを持ち合わせている奴だけが、生き残れる資格を持っているんです。」

はあ!?
この世界って、どの世界!?
何だ、それ!
僕たちは一介の医者だぞ?
医者にそんなものが要求されるのか!?

「ちなみに、隣の部屋も俺が予約してますから。」
「何で!?」
だからお前の隣の部屋に僕が入れなかったわけかよ!
「何かあった時のためですよ。」
だから何かって何だよ、一体!!

ちなみに、今回僕たちが手術する患者は普通の一般人だ。
変な世界の住人じゃないことだけは、強く主張しておく。

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