日々草子 一輪の花 18

一輪の花 18

本当にいろいろご心配をおかけしました。
クイズはちっとも浮かばなかったので、このまま公開させていただきます。

注意書きは…『歯を食いしばって耐えて!!』ですかね?
耐えられそうもない方は、このブログに『一輪の花』が並ばない日までご遠慮下さい。

先日「話を書きながら次の話を考えている状態」と申し上げましたが、最後は一応決めております。
でも19話がまだ白紙…。





沙穂子は実家から乳母を始めとする、気心の知れた女中たちを連れて来ていた。
今日から二人の寝室となる部屋から出てきたところに、直樹はその乳母に出くわした。
「お嬢様…いえ若奥様を何卒よろしくお願い申し上げます。」
乳母の言葉を聞き、直樹は沙穂子が今日からこの家で「若奥様」と呼ばれる立場になったことに改めて気が付いた。
そして沙穂子が待つ寝室のドアを開けた。

真新しいベッドはあまりに大き過ぎるものだった。
結婚の準備については全て人に任せていたため、直樹は初めてこれを見た時は言葉を失った。

「あの…すみません。父が選びました。」
驚いている直樹に、沙穂子が小声で謝る。
「私は直樹さんはお仕事でお疲れの時もあるから、ベッドは別々のものをと申したのですが…父がその…。」
そこまで話した時、沙穂子は赤くなった。
「…入江家の跡取りのためにはこの方がと。」
そういうことかと直樹は正直、呆れた。しかしそれにいちいち答える気分ではない。

結婚式、披露宴と終え、やっと夫婦二人きりになったところである。
本来ならば思い切り愛情を示す場なのだろうが、とてもそういう気分にはなれそうもなかった。

「直樹さん、乳母がお風呂を沸かしましたので。」
どうやら乳母は寝室についている風呂を沸かしにやってきたらしい。
本当ならば乳母の仕事ではないのだが、沙穂子にとって入江家での初めての夜となるこれからのことを色々と教える目的があったのだろう。

「先に入っていいよ。」
直樹は沙穂子に言いながら、上着を脱いでベッドに投げた。
それを沙穂子がすぐに拾い上げ、ハンガーにかけた。

「私は後からお湯をいただきます。」
きっと夫より先に入ってはいけないと、あの乳母に言われているのだろう。
ここでお互いに譲り合っているのは時間に無駄なので、直樹は入ることにした。

脱衣場には新しいパジャマと下着が既に用意されていた。
それらにチラリと目をやり、直樹は風呂場へと向かった。



カラスの行水よろしく、直樹は短時間で上がってきた。
入れ替わりに沙穂子が風呂場へと向かう。
パジャマ姿の直樹は、大きなベッドに大の字になった。
朝から結婚式、披露宴と慌ただしかった。目を閉じると疲れが押し寄せてきてそのまま眠りそうになる。
だが、自分にはまだやるべきことがあるので眠るわけにはいかない。

その直樹の頭に浮かぶのは、花嫁ではなかった。

――今頃、どうしているだろうか。

それはこの家にいた、何一つ教えることのできない自称家庭教師の琴子の顔である。
報酬として渡した金も、そのままそっくりこの家に置いて行った琴子。
天涯孤独の彼女は住む所もないはずである。
きちんと食べているだろうか。暖かい所で眠れているだろうか。

そんなことを考えていたら、
「直樹さん…。」
という声が聞こえ、直樹は体を起こした。

パジャマではない、だが新しい寝間着に身を包んだ沙穂子が恥ずかしそうに立っている。

「パジャマじゃないんですね。」
そんな言葉がふと口をついて出た。
「幼い頃から寝る時は寝間着なのですが。」
直樹から声をかけられた嬉しさで、沙穂子の口元には微笑が浮かんだ。

「こちらへ。」
直樹に言われるがまま、沙穂子はその傍に腰を下ろした。
「ふつつかものですが、末永くよろしくお願いいたします。」
沙穂子は丁寧にあいさつをする。
沙穂子の体から、上品な甘い香りが漂う。
そういえば、石鹸がそのような香りだったことを思い出す直樹。

「これからのことを、ご存じですよね?」
直樹が訊ねると、沙穂子は小さく頷いた。
「乳母が…何事も直樹さんに従うようにと言っておりました。」
なるほど、一応教わってきたわけかと直樹は思った。

そして直樹は沙穂子の体をベッドへ倒す。
確かに沙穂子はされるがままであった。

きっと朝にはもう、琴子のことなど思い出さないだろう。

キスをした時と同じよう、自分の今の立場を自覚するために沙穂子を抱くのだと、直樹は自分に言い聞かせながら沙穂子の帯に手をかけた。

するりと帯はほどけた。
直樹は自分のパジャマの上着を脱ぎ捨てた。
露わになった直樹の上半身に、沙穂子が顔を赤くして目をそらした。
「そらさないで。」
直樹が声をかけ、沙穂子の顎に手をかけ自分をまっすぐに見るよう誘導させる。
これから数えられないくらい、見てもらう体である。

直樹は沙穂子の寝間着の前を広げた。
白い肌が直樹の前に現れる。石鹸の香りがますます強く直樹の鼻をついた。
思ったより弾力のありそうな胸だった。
ほっそりとした体にしては大きさがある胸だと、直樹はまるで研究者のような気分で観察する。
だがそれを見ても直樹は何一つ、気分が向上しない。
それでもやらねばならない。

その直樹の視線に、沙穂子は顔をますます赤らめ体を震えさせた。

直樹はそのまま体重をゆっくりと、沙穂子の体へとかけていった――。





東京から離れた、とある村にて。
子供たちが集まって、寺の床下を覗き込んでいた。

「おい、何を騒いでいるんだ?」
「あ、尼さんのいい人だ!」
子供たちは声をかけてきた若い男に笑いかける。
「だから違うって言っているだろ。」
その男は言った子供の額を小突いた。

「あのさ、人が死んでいるんだよ。」
「死んでいる!?」
それはただ事ではない。男は子供たちを押しのけて前へ出た。
そして長身の体をかがめ、床下をのぞいた。

「女!?」
そこには、洋装の女が身を横たえている。
男は床下へもぐる。

「おい、あんた!大丈夫か?」
男は声をかけながら女を引っ張り出した。
「くせえ!!兄ちゃん、くせえ!!」
子供たちが鼻を一斉につまむ。
「こら!」
男は注意するものの、その匂いに自分も鼻をつまみたい気分だった。
そしてその臭さは、この倒れている女から発せられている。

「死体が腐った匂いってこれ?」
すっかり女が死んでいるものと思い込んでいる子供たちが鼻をつまんだまま、男に尋ねた。
「う…ん…。」
すると女の口からうめき声が漏れる。

「生きてる!!」
子供たちは驚きのあまり、鼻から手を離して叫んだ。
これには男も驚いた。だが生きているならば助けなければ。
男は女の体を抱き上げた。



「おい、尼さん!開けてくれ!」
写経をしていたこの寺の庵主は聞き慣れた声に溜息をつき、立ち上がった。

「ちょっと!尼さんっていう呼び方はやめろって言ったでしょうが!!」
尼は障子をガラリと開け怒鳴った。
「庵主様と呼べってあれほど…。」
と言いかけた庵主の口がそこで止まった。只事ではないその状態に目が見開かれる。

「どうしたの!」
庵主は裸足で外に駆け下り、男の前に立った。
「この寺の床下に転がり込んでいたんだ。生きている、助けないと!」
「それじゃあ、こちらに!」
庵主は部屋へ男と女を招き入れた。

敷かれた布団に、倒れていた女を寝かせる。
「それにしても、すごい匂いだわ…。」
庵主は思わず鼻を覆った。
「もうずっとお風呂に入っていなかったのね。」
肌が真っ黒である。
「体を拭いてあげましょう。」
庵主は女中にお湯を沸かして運んでくるように命じる。

「医者は?」
「そうね。一度診ていただいた方がいいでしょうけれど…まずはきれいにしてあげないと。」
心配する男に庵主が答える。
「とにかくいったんアンタは下がって、啓太。」
「あ、そうだな。」
啓太と呼ばれたその男は言われた通り、部屋を出て行ったのだった。



「…ここは?」
女が目を覚ましたのは、体をきれいに拭いてもらってから数時間経った頃だった。
「ああ、気が付いたのね。」
庵主が笑顔を見せる。
「あの、ここは一体?」
見たこともない場所と人間に驚いている女に、庵主が答える。
「あなたはこのお寺の床下で倒れていたのよ。」
「そうなんですか?」
どうやら自分がどこに倒れ込んだか、まったく覚えていないらしい。

「ここは尼寺だからご安心なさい。私は桔梗尼。この寺の庵主です。」
美しい庵主は自己紹介をした。
「私は相原琴子といいます。」
女―琴子は起き上がって挨拶をしようとした。
「ああ、だめよ!無理をしては!」
桔梗尼が慌てて琴子を寝かせる。
その途端、琴子のお腹が大きな音を響かせた。
「あ…。」
恥ずかしさで琴子は顔を真っ赤にする。
「お腹が空いているのね。今お粥を作りましょう。」
立ち上がる桔梗尼は、どうやら倒れていた原因は病ではなく空腹と疲労であることを知り安堵していた。

「あの、庵主様!」
その桔梗尼を琴子が呼び止める。
「何でしょう?」
琴子は布団の上に正座をし、手をついた。
「申し訳ございません!私は罰当たりなことをしてしまいました。」
「罰当たり?」
一体何事かと、桔梗尼は琴子の前に座り直す。

「私…私…空腹のあまりにあちこちのお地蔵様にお供えされた食べ物を食べてしまったのです。」
「まあ…。」
「本当に…それなのに庵主様に助けていただいてしまって!」
頭を下げ続ける琴子を、黙って桔梗尼は見つめていた。

「…お金がなかったのね?」
琴子は頷いた。
「汽車で行けるところまで行こうと思いたどり着いて。でもお金がなくて泊まるところもなくて。体もきれいにできなくて、段々人に石を投げられるようになってしまって…。橋の下やこのようなお寺の下で昼間は過ごすようにしました。そして夜になり人が少なくなった時に動くようにして。」
「何てこと…。」
桔梗尼は言葉を失う。
「お腹が空いて空いて我慢ができなくなって。その時にお地蔵様の前の食べ物に気が付いて。何度も謝って手を合わせて…いただいちゃいました。それも一度ではありません。」
頭を下げたままの琴子の肩に、桔梗尼は手を置く。
「あなたがしたことを仏様もお地蔵様も責めませんよ。」
そして桔梗尼は琴子の顔を上げさせた。
「困っている者を救って下さるのが仏様なのです。」
「庵主様…。」
「苦労したのね…。」
桔梗尼は、一体この女性がどんな理由からそのような境遇になったのだろうかと思う。
物腰も言葉遣いも丁寧である。きっとよくよくの事情があったに違いない。
だがそれを今は訊くつもりはなかった。
まずは体を治すことが最優先である。

「少し熱があるから、後でお医者様に来ていただきますからね。」
桔梗尼はそう言うと、部屋を出て行った。


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『イタズラなkiss』のほかには『ゴルゴ13』が好きです☆
多数あるイタキスの二次小説の中で邪魔することなく、ひっそりとマイペースで我が道をゆきつつ生息しております。
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