日々草子 Master&Butler 2
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水玉

Author:水玉
『イタズラなkiss』のほかには『ゴルゴ13』が好きです☆
多数あるイタキスの二次小説の中で邪魔することなく、ひっそりとマイペースで我が道をゆきつつ生息しております。
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当ブログは、『イタズラなkiss』の二次創作をメインとしておりますが、時折管理人の趣味や日々の出来事についての記事も書いております。

原作者様や関係各位とは一切関係ありません。

二次創作については、いわゆる原作の隙間をぬった作品もありますが、主人公以外のキャラクターをメインとしたものや オリジナルキャラクターが出てくるものもございます。

そして、原作と違った時代(平安や明治やその他の時代を舞台にしております)、異なる設定(主人公を医者と看護師じゃない職業にしております)で書いてあるものが多いですが、原作を冒涜しているつもりは全くございません。

二次創作が苦手という方及び原作のイメージと合わないと思われる方はどうぞお引き取り下さいますようお願いいたします。

コメント及びメールなどでの苦情及び批判は公開、非公開を問わず、私へ告げることはご遠慮いただけますよう、お願い申し上げます。

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Master&Butler 2




それから渡辺は直樹の留守中、手が空いた時に書斎で書類を読み続けた。
元々頭のいい渡辺は、内容をどんどん吸収していく。

「すごい…こんな短期間で業績をここまで上げるなんて。」
直樹が会長になってから、入江財閥の業績は上昇を続けていた。
「何がドラ息子だ…。」
勝手にそう思い込んでいた自分が恥ずかしくなる。
それもそのはず。直樹は東京帝大を一等の成績で卒業している秀才だったのだ。
学問が優秀でも仕事にそれが結びつくとは限らないが、直樹の場合は違うらしい。

「こんな人、本当にいるんだなあ。」
少し休もうと、渡辺は立ち上がった。部屋にかけられていた鏡が目に入った。

「…同じ男とは思えないし。」
頭だけではない。あの容姿。本当に同じ人間なのだろうか。



そのような日々を過ごすうちに、直樹と渡辺、お互いの信頼関係はどんどん深くなっていった。





そしてそんな直樹には書類の他にもう一つ、山のように届けられるものがあった。

「また来たのか…。」
帰宅した直樹はため息をついた。
「御親戚の方がぜひにと。」
「しつこいな。」
直樹は眉をひそめた。
渡辺は一つ、それを手に取り広げる。

「こちらは某銀行の頭取のご令嬢でいらっしゃいます。とてもいいお話だからと…。」
まだ渡辺が話している最中に、直樹は見合い写真を奪い放り投げた。
「俺は結婚はしない。」
「ですが…。」
渡辺はサイドテーブルに山高く積まれている見合い写真に目をやった。いずれも名門の令嬢ばかりである。
入江財閥の若き会長、入江直樹の噂は財界に広まっている。加えてこの容姿。年頃の令嬢のいる家からの縁談が持ち込まれるのも無理はない。

「適当に積んでおいて、あとでまとめて処分しておけ。」
「そんな!」
「命令だ。」
そう言われると執事としては従うしかない。


「…どうして結婚されないのですか?」
とりあえず直樹の目の届かない所へ写真を運んだ後、渡辺は訊ねた。
「女に興味がないから。」
「興味がない…。」
直樹の答えを聞いた渡辺は絶句する。

「まあ…人それぞれの生き方がありますから、何とも言えませんが。」
「は?」
直樹は目を丸くする。
「仕方ありませんね。旦那様がそういう…。」
「そういう?」
「…性癖の方でしたら。」
「ちょっと待て。」
「何でしょうか?」
渡辺は直樹を見る。
「女に興味がないというのは、そういう意味じゃないぞ?」
「え?」
今度は渡辺がキョトンとする番だった。

「誤解するな。俺だって美人が歩いていれば見るさ。」
「そうなんですか?」
「当たり前だろうが。」
直樹に睨まれ、渡辺は笑ってごまかした。
「そうですよね。旦那様も男ですもんね。」
「あ、それ。」
「え?」
直樹の言葉に、渡辺は不思議そうな顔を見せた。

「その旦那様って呼び方、やめろ。」
「どうしてですか?」
「何か…年寄りくさく感じる。名前でいい。」
これまた意外な直樹の言葉に、渡辺は戸惑う。
「お名前というと、直樹様?」
「ああ、それで構わない。大体お前と俺は同じ年なんだから。」
直樹はニヤッと笑った。
「…かしこまりました、直樹様。」
直樹と渡辺の距離が、さらに縮まった。



しかし直樹の年齢は結婚適齢期でもある。
直樹の元に結婚式の招待状が届いたのは、その年の秋のことだった。


「つまらない披露宴だった。」
帰宅するなり、直樹はフォーマルも脱がずにソファに座った。
「直樹様、おめでたいことをそのように仰るのは…。」
渡辺が止める。
「いいんだよ。お前にも見せたかった。どれだけくだらない宴会だったか。」
直樹は襟元を緩めながら、うんざりした顔をした。

「今日は帝大のご学友のご結婚披露宴でしたよね?」
「…友人じゃねえけどな。」
「はい?」
「俺には友人はいない。何せみんな競い合って出し抜こうって連中ばかりだったから。」
「そんな。切磋琢磨しあって勉強に励まれたでしょうに。」
競い合うことは悪いことではないと渡辺は思っている。

「俺に友人面する奴らは皆、入江の恩恵に預かりたいって奴ばかりだ。」
直樹が脱ぎ捨てる上着を受け取りながら、渡辺は直樹の寂しい環境に同情した。
直樹の言うとおりなのだろう。今日の披露宴もおそらく、入江の当主と昵懇であることを自慢したいがために、直樹を招待したのかもしれない。

「親の決めた者と結婚らしい。」
「今日の新郎新婦ですか?」
直樹は頷く。
「驚いたことに、新郎の愛人が末席にいた。」
「はい!?」
渡辺は思わず上着を落としそうになった。
「それを新婦側も承知しているんだ。馬鹿じゃねえのか、あいつら。」
直樹は吐き捨てる。
「それで結婚って何だよ、おかしくないか。」
「でも、お互いの家を結びつけるためだから、仕方ないのかもしれませんね。」
渡辺も入江家で働くうちに、いわゆる上流階級の世界を理解するようになっていた。

「俺はますます結婚なんて嫌になった。」
「そんな。直樹様は愛する方とご結婚されたらいいじゃありませんか。」
悪い例を見て結婚を拒否するのは悲しいことである。
「どうせ俺は性格が悪いしな。」
「ご自分で性格が悪いと仰る方、初めてお会いしましたよ…。」
「そんな俺でもいいという女がいるやら。」
「中には変わった方がいらっしゃるかも。」
「頭が良くて美しい女だったら、考えてもいいけれど。」
「美しく賢いご令嬢も、きっと沢山いらっしゃいますよ。」
捨てられずに倉庫の片隅で眠っている見合い写真を頭に浮かべながら、渡辺は話す。
「どうだか。」
直樹はソファから立ち上がった。

「…あの写真の連中が好きなのは俺じゃない。俺の金だからな。」
「直樹様…。」
その寂しい言い様に、渡辺はこれまでの直樹の環境がどんなものかが少し分かった気がした。

「直樹様。」
渡辺の声に直樹は振り返った。
「直樹様も絶対に、心から愛する方と出会えます。その方も絶対、直樹様を愛されると、私は思います。」
「…こんな性格の悪い男でもかよ?」
「…はい。」
真面目な執事に、直樹は黙って笑うだけだった。



散々こけにしたその披露宴をきっかけに、あろうことか直樹に縁談が持ち込まれた。

先日の披露宴で、その令嬢は新婦の友人として招待されており、初めて見た直樹の姿に一目惚れしたらしい。
その家は、貿易で成功したいわゆる成金の家だった。
明らかに入江家とのつながりを欲していることは間違いない。

「…中々美しいお嬢様ですよ。」
相変わらず写真を見ようともしない直樹に代わり、渡辺が見た。
「名門の女学校をご卒業…頭も良い方のようですね。」
これなら直樹にぴったりなのではないかと、渡辺は勧める。

「一度会うだけ会わなければならないしな。」
面倒だと直樹は呟いた。
「うちの重役たちを通しての縁談だ。顔を立ててやらないとまずいだろう。」
会って断ればいいと、直樹は最初から乗り気ではない。
渡辺は令嬢と会って直樹の気が変わればいいと、その時は思っていた。
――どうか、直樹様の理想通りの方であるように。



見合いは忙しい直樹の立場を考え、入江家で行われることになっていた。
当日、令嬢は両親と共にやってきた。

豪華な振袖を纏ったその令嬢は、実物も美しかった。

しかし、時刻になっても直樹は戻らない。
渡辺がそわそわしていた時に、電話が鳴った。
電話は直樹の秘書からで、会議が延長しており先方には少し待っていてほしいとのことだった。

渡辺はその通りに令嬢たちに伝えた。そのことについて彼らは不満は抱かなかったことに渡辺は胸を撫で下ろした。

「ところで執事を呼んでもらえないか?」
令嬢の父親が渡辺に命じる。
「この絵画の作者を知りたい。」
「そちらでしたらフランスの画家の作品でございまして。」
渡辺は絵画の作者とその時代背景、作品について簡単に説明した。
邸内の美術品についていつ訊ねられても答えられるようにしておくことも、執事の大事な仕事であった。だから渡辺はこの邸内の美術品についての知識は全て頭に入っている。

しかし説明を終えた渡辺に、父親はまた命じた。
「執事を呼べと私は言っている。私は執事から説明を受けたい。」
「執事は私でございます。」
「君が!?」
父親はジロジロと渡辺を見た。
「…その若さで?」
「はい。」

「まあ、何てことかしら!」
声を上げたのは令嬢の母親だった。
「こんな若い者が執事だなんて!入江家ともあろうお家が信じられないわ!」
確かに執事というと、それなりの年齢の者が多いのだろう。
しかしそこまで言われることは不思議である。

「まったくだ。」
父親も母親に同意した。
「これほどの名家の執事がこんな若い人間だなんて、世間に恥ずかしい。結婚する際には家からきちんとした執事をつけよう。」

まだ本人同士が顔を合わせていないというのに、もう結婚することを決めているこの両親に渡辺は呆れ果てた。

「ちょっと、何をするの!」
今度は令嬢のキンキン声が部屋に響いた。
「も、申し訳ございません。」
「何か失礼がありましたでしょうか?」
渡辺は急いで令嬢の席の傍に駆け寄る。
そこでは女中が震えていた。

「この女中が、私の着物にこぼしたのよ!」
キャンキャンと犬のように吠える令嬢の声に、渡辺は耳を塞ぎたくなる気持ちを必死で堪えた。
見ると、令嬢の着物の袖にほんの少し、クッキーの粉がこぼれている。

「も、申し訳ございません。お皿には触っておりませんのに…。」
新しいお茶を運んで来た女中は、真っ青になっている。
おそらく、令嬢の手元がくるい皿からクッキーの粉がこぼれたのだろう。
それを女中のせいにしているのである。

「申し訳ございませんでした。」
渡辺は頭を下げるしかなかった。
「弁償しなさいよ!!」
「お前の給料などで払えると思ってるのか!」
渡辺に喚き続ける親子。

「ああ、こんな使用人はそっくり入れ替えないと、お父様!」
令嬢が叫んだ時だった。



「…ここはいつから犬小屋になったのか?」
その声にその場にいた全員が顔を動かした。

「渡辺、いつからうちは犬を飼い始めたんだ?」
いつからいたのか、応接間の入り口に直樹が立っていた。
「い、犬って!どういうことですの!」
一番見られたくない所を見られてしまった令嬢が真っ赤になる。
「ああ、失礼。あまりに吠えるからてっきり犬がいるものだと。よく見たら人間でした。」
直樹の声は冷たい。

「俺はとうとう、犬と見合いをさせられるのかと思いました。」
「君、失礼じゃないか!うちの娘を犬だなんて!」
「失礼…?」
直樹はギロリと父親を睨んだ。この眼光に一家が震えあがる。

「失礼はどちらでしょう?」
「何…!」
「先程からうちの執事と女中をバカにして。しかも呆れることに俺ともう結婚するつもりでいらっしゃる。」
「それは…見合いまでしたのだから。」
「俺にだって選ぶ権利がある。」
直樹は言った。
「うちの家族をバカにするような家と縁を結ぶつもりはない!」

「家族」――その言葉に渡辺の胸に熱いものが込み上げてきた。

「フン、何が家族だ。」
父親が虚勢を張って見せた。
「使用人じゃないか。」
「この家で暮らす人間は全て、俺の家族だ。」
直樹は言い返す。

「俺は彼らの生活に責任を持つ立場だ。彼らは俺のために毎日尽くしてくれている。それを家族と呼んで何が悪い。」

直樹の言葉に、一家は言葉を詰まらせる。

「悪いが、俺は世界に残った女があなただけだとしても、絶対あなたとは結婚しない。」
「んまあっ!!!」
令嬢は歯ぎしりをする。その顔はもはや醜いの一言だった。

「そしてうちの執事はどの家の執事よりも優秀だ。」
直樹は続ける。
「悪いが、あなたなんかと比べ物にならない。」
「この若造が!!」
父親は直樹に向かって怒鳴りつけた。
「ちょっと成功したからといっていい気になりやがって!礼儀もわきまえていないのか!」
「あなたにわきまえる礼儀は持ち合わせていないので。」

そして直樹は渡辺に命じる。

「渡辺、お客様がお帰りだ。玄関までお見送りするように。」
「かしこまりました。」
渡辺は胸がすく思いだった。

「ふざけるな!」
父親は直樹に掴みかかろうとした。
その間に渡辺は割って入った。

「…玄関にご案内いたします。」
父親は渡辺に腕を取られ、唸ることしかできない。

「ああ、忘れていた。」
部屋を出ていこうとする令嬢に、直樹は財布を取り出す。
「洗濯代です、どうぞ。」
直樹は紙幣を引きぬくと、令嬢の手に握らせた。

「失礼な!!こんな家に娘をやれるか!」
一家はカンカンに怒って入江家を後にしたのだった。



「なかなかやるじゃねえか。」
夕食の席で、直樹は渡辺に笑いかけた。
「あのような失礼なご家族は初めてでした。」
渡辺も笑う。
「やっぱり結婚なんてするもんじゃないな。」
直樹はこりごりだと肩を動かした。

「これで俺の性格の悪さが広まるだろうな。」
しばらく縁談も来ないだろうと、直樹は楽しそうである。

渡辺はこの時、思った。
直樹は自分で言うほど、性格は悪くない。いやむしろ優しい方である。
どこの上流階級の家を探しても、今日の直樹のように使用人を大事にしてくれる主はいないだろう。

直樹の不器用な優しさに、渡辺は気がついたのだった。


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