日々草子 Master&Butler 1
FC2ブログ

プロフィール

水玉

Author:水玉
『イタズラなkiss』のほかには『ゴルゴ13』が好きです☆
多数あるイタキスの二次小説の中で邪魔することなく、ひっそりとマイペースで我が道をゆきつつ生息しております。
そっと見守っていただけたら嬉しいです。

※当ブログに掲載されている文章及びイラストの無断転載・使用はご遠慮下さい。

現在の御訪問者

現在の閲覧者数:

御訪問ありがとうございます

このブログについてのお願い

当ブログは、『イタズラなkiss』の二次創作をメインとしておりますが、時折管理人の趣味や日々の出来事についての記事も書いております。

原作者様や関係各位とは一切関係ありません。

二次創作については、いわゆる原作の隙間をぬった作品もありますが、主人公以外のキャラクターをメインとしたものや オリジナルキャラクターが出てくるものもございます。

そして、原作と違った時代(平安や明治やその他の時代を舞台にしております)、異なる設定(主人公を医者と看護師じゃない職業にしております)で書いてあるものが多いですが、原作を冒涜しているつもりは全くございません。

二次創作が苦手という方及び原作のイメージと合わないと思われる方はどうぞお引き取り下さいますようお願いいたします。

コメント及びメールなどでの苦情及び批判は公開、非公開を問わず、私へ告げることはご遠慮いただけますよう、お願い申し上げます。

このブログ及び掲載されている話が嫌いだと思われたら、黙ってあなた様の中から、このサイトの存在を消去していただけますよう、お願い申し上げます。

最新記事

Master&Butler 1






「やれやれ…ようやく落ち着きましたね。」
入江家の執事渡辺は、自分の部屋に戻り、とっておきのティーセットで紅茶を楽しんでいた。
今日は朝から大忙しだった。
主人直樹の結婚式、そこでの花嫁の父役、そして新夫婦を新婚旅行へ送り出した。
「まあ、庭師を探すのはあとにして。」
出発寸前に命じられたことは後廻しにしてもいいだろう。

「あの直樹様が結婚かあ。」
ティーカップを手に渡辺はフフフと笑うと、思い出の世界に浸り始めた――。




**********

――さすが、大財閥の会長室だ。

渡辺は失礼にあたらない程度で、周囲を見ていた。
今日は自分もとっておきの一張羅を身につけているというのに、この部屋の豪華な調度品の中では浮いている。

ここは入江商事本社の会長室だった。
入江商事は日本有数の大財閥である入江グループの中でも主要企業である。

渡辺はひとしきり部屋の中を見回した後、チラリと前を見た。
その前に座っているのは、入江財閥の会長、入江重樹だった。
彼は現在、渡辺の履歴書に目を通している最中である。

「ん?」
渡辺の視線に気がついたのか、重樹が顔を上げた。
「ああ、お菓子でも持って来させよう。」
「いえ、とんでもありません。」
「まあいいから、いいから。」
とても大財閥の総帥とも思えない優しい笑顔で、重樹は秘書に菓子を運ぶよう命じた。
「そんなに緊張しなくていいんだからね。」
「はい、ありがとうございます。」

どうして自分はここにいるのだろうか。
渡辺は入江商事の中途採用試験を受けに来ただけであった。以前勤務していた会社が倒産し、就職口を探しているところだった。

採用試験はかなり難しかったが、それなりの手ごたえを渡辺は感じていた。
もしかしたら採用されるのではないだろうか。そのような期待を胸に抱いていた時に、入江商事の秘書部より、会長が直々に会いたいと連絡があったのである。

「ふむ…。」
履歴書を読み終えた重樹は、他の書類にも目を通していた。
「…渡辺くん。」
「は、はい!」
渡辺は背筋を伸ばした。
「見事なものだ。採用試験は一番だった。」
「え!ほ、本当ですか!」
「ああ。二番との差をかなりつけてな。」
重樹はにっこりと笑った。

そうか、そうだったのか。
手ごたえがあったとは思っていたが、まさか一番だったとは。
だから会長に呼ばれたというわけだ。

「ありがとうございます!精一杯がんばります!」
渡辺は立ち上がり90度のお辞儀をした。
「うん、それでだね。」
「はい!」
「…うちに採用しないことになったから。」
「…はい?」
渡辺は耳を疑った。

「あの、申し訳ございません。今何と仰られたか、よく聞こえなかったのですが。」
「入江商事は君の採用を見送ることになった。」
採用を見送るというのに、なぜか重樹はニコニコと笑っている。

なぜ、なぜだろうか?
一番の成績なのに、どうして採用を見送られなければいけないのだろうか。
もしかして、今ここで待っている自分の態度が気に入られなかったのか。
素直にお菓子をくれと言うべきだったのか。
渡辺の頭はめまぐるしく回転する。

「君には、入江家で働いてほしいのだが。」
重樹は変わらない笑顔で告げた。
「入江家?」
「ああ。会社じゃなく、入江の本邸で働いてほしい。」
「どういうことでしょうか?」
事態は想像できない方向へと進み始めていた。

「実は、わしは今週一杯で会長職を退くことになっている。」
「ええ!?」
思わず渡辺は声を上げてしまった。
「入江財閥の業務から引退して、妻と那須の別荘に移住することにしているんだ。そこでのんびりと農作業をして暮らすのがわしたちのかねてからの夢でね。」
「はあ…。」
「それで息子に全てを託すことにした。来週からは息子がこの席に座り、入江財閥を率いることになる。」
「御子息が跡を継がれるわけですね。」
「ああ。」
重樹は頷いた。

「それで、わしと共に長年屋敷で働いてくれた執事も引退することになった。いや、彼もかなりの年齢でそろそろ老後の生活を楽しみたいと言っていたのだ。そこで。」
重樹は両手を組み、渡辺を見た。
「君に執事をしてもらいたい。」
「わ、私がですか!」
入江商事の一社員となって働くつもりだったのが、入江家の執事になれと言われるとは。

「君の履歴書を拝見した。独り身だそうだね。」
「はい。」
入江商事は寮があった。渡辺は仕事と住居、両方が手に入るからこの会社に入りたいと希望したのである。

「家は部屋が有り余っている。勿論、君の部屋も用意させよう。食費、光熱費、一切取らない。まあ執事なんだから当たり前だが。」
「ですが、私は若輩者でして。とても名家の執事職など無理です。」
「いやいや。」
重樹は手を振った。
「少し話して分かった。君は頭のいい青年だ。君になら安心して息子を任せられる。」
そして重樹は席から立ち上がると、渡辺の前へ立った。
「わしらの代わりに、息子を見守ってもらえればと思う。頼みます。」
重樹は頭を下げた。
「そんな、会長!頭をお上げ下さい。」
渡辺は慌てて重樹の頭を上げさせようとする。



「…つまり、ドラ息子のお守ってわけか。」
大財閥の会長にあのような真似をさせてしまった以上、渡辺は断ることができなかった。
入江家の執事を引き受けることになったのである。
息子を見守ってほしいということは、相当手がかかるのではないだろうか。
「入江商事もおしまいかもしれないな。」
重樹はかなりのやり手だったというのに。渡辺はまたすぐに次の就職先を探さなければいけないのかと憂鬱になっていた。

「うそ、ここ?」
長い塀の傍を歩き続け、やっと途切れたと思ったらそこが門だった。
表札に「入江」と書かれていることを確認する。
その門をそっとくぐると、また少し歩く。
やがて渡辺の前に現れたのは、見たこともない大豪邸だった。

「お城…じゃないよな。」
豪邸を見上げ、渡辺はゴクリと唾を飲み込んだ。
そして勇気を出し、呼び鈴を鳴らした。

「こんにちは。」
玄関に顔を見せたのは、引退予定の老執事だった。
「君のことは旦那様から聞いているよ。」
「よろしくお願いいたします。」
見るからに執事という風貌である。自分にこの人の代わりが務まるのだろうか。
渡辺は不安を覚えながら、老執事の後に続いた。

「すごい。」
屋敷の中も見事だった。中央に大階段があり、その天井には豪華なシャンデリアが下がっている。
しかしどれも品のよいものだと渡辺は思った。成金が金にあかせて集めたものではない。それはすぐに分かる。

重樹は数日前に那須へ出発したという。
「直樹様も大変お忙しくされているのだが、君を紹介する時間だけは空けて下さった。」
どうやらドラ息子の名前は直樹というらしい。

二人は二階の重厚なドアの前に立った。
「こちらが直樹様の書斎だ。」
老執事はノックをする。
「直樹様、新しい執事がまいりました。」
「入れ。」
中から声が聞こえ、老執事がドアを開けた。

「…随分若いんだな。」
それは渡辺も同じことを思った。

この家の新しい主、入江直樹は机によりかかるように立って、渡辺たちを見ていた。

「何歳だ?」
直樹が訊ねる。
「今年25歳になります。」
「何だ、俺と同じか。」

渡辺は直樹が想像より若かったことに驚いていた。
大財閥を率いるくらいだから、それなりの年齢だろうと思っていたのに、まさか自分と同年齢だったとは。

そして渡辺は、初めて男の顔に見とれた。
美男子という言葉は、彼のために存在しているに違いない。足も長く背も高かった。

「ご挨拶を。」
老執事に促され、渡辺はハッとなった。
「渡辺と申します。至らない点が多々あるかと思いますが、精一杯お仕えさせていただきます。」
「ああ、よろしく。」
直樹はそれだけしか言わなかった。

これが入江直樹と執事渡辺の出会いだった――。



老執事はそれからすぐに引退し、屋敷を去って行った。
渡辺の執事としての日々が始まった。

「おはようございます。」
直樹の朝は早かった。
「おはよう。」
そして朝食の席に着く。直樹は新聞を読みながら朝食を摂る。
新聞に夢中になっているのか、味わうこともないようだった。

そして迎えの車に乗り込み、直樹は会社に向かう。
渡辺はそれを玄関で見送る。


「お帰りなさいませ。」
直樹の帰りはいつも遅かった。
時に12時を過ぎることもあった。しかし執事となると先に休むわけにはいかない。



「先に休んでいていいぞ。」
直樹が声をかけたのは、渡辺が執事になって2週間目のことだった。
「ですが。」
「俺は帰りが遅い。急用がなければ先に休め。」
「いえ、大丈夫です。それに。」
「何だ?」
「暗い家に一人でお戻りになるのは、お寂しいかと…。」
直樹は呆気に取られた顔をした。

「暗いって…俺は子供じゃない。」
渡辺はハッとなった。
「申し訳ございません!」
「いや、いい。」
渡辺は直樹の顔を窺った。その顔は怒っていない。

「それじゃあ、起きていられる時は起きていればいい。あとは昼寝をして身体を休めるように。何せ執事は激務だからな。」
気遣う直樹の言葉に、渡辺の胸は熱くなった。
「ありがとうございます、旦那様。」
「ん。」
そして直樹は書斎へと向かった。

渡辺はそれを見送ると、何か軽い飲み物でも用意しようと思い台所へと足を向けた。

「渡辺。」
飲み物を部屋に運んだ時、直樹が渡辺を呼び止めた。
「今日、この部屋を掃除したのはお前か?」
「はい。」

いつもは女中に掃除させていたのだが、渡辺は直樹について色々知りたいという思いもあり掃除を変わったのである。
主人が何をしているか、どんな仕事か。それも掃除するうちに何かつかめるのではないかと思ってのことだった。
何せ直樹は日々激務で、そのような質問をすることもはばかられた。

「何か粗相でも?」
何も失くした覚えはないのだが。渡辺の顔色が青くなった。
「いや、何もない。」
渡辺は胸を撫で下ろす。しかし直樹は腕を組んで考え込んでいる。
しばらく考えた後直樹は、今後は書斎の掃除は渡辺に任せると告げたのだった。



それから数日経った頃である。

「何でしょう、これは…。」
執事の仕事にもだいぶ慣れた渡辺であったが、目の前に積まれた大量の箱に目を丸くしていた。

「ああ、着いたか。」
一度戻り、今度は夜の会合に出かけようとしている直樹がやって来た。
「旦那様がお頼みになられたのでしょうか?」
入江商事から届けられたものだった。
「ああ。」
直樹は箱の一つを開けた。
渡辺も中を見た。そこは書類を束ねたものがたくさん入っていた。
「これは入江商事やその他の関連企業の数年分の書類だ。」
「さようですか。」
それをなぜ家にまで運ばせたのだろうか。直樹が参考にするのなら会社で見れば済むことである。

「お前、好きなだけ見ていいから。」
「ええ?」
驚く渡辺に、直樹が笑いかける。
「書斎の掃除を始めたのは、俺の仕事について知りたかったからだろう?」
「ご存じだったのですか!」
直樹がそれに気が付いていたとは。

「あの、旦那様のお仕事の内容を知っておけば、御来客などの対応もよりよくできると思いまして。それに今のお仕事の内容が分かれば、旦那様に確認しなくとも、お帰りの時間なども分かるかと。」
「そうだろうと思ったよ。」
直樹は「ほら」と数冊の日記を渡辺に渡した。
「これは親父がつけていた日記だ。日記と言っても仕事内容しか書いていない。これを読めばこれまでうちがどんな仕事をしてきたか分かるだろう。そしてこちらは…。」
直樹はそれらより新しい日記を出す。
「俺の日記だ。一応この家の当主につくまでは入江財閥の関連企業の重役をしていたからな。そちらの業務内容もこれを読めば分かるはずだ。」
「…拝見してもよろしいのですか?」
日記を手に渡辺は直樹を見た。
「ああ。お前は信用できる。口も固い。」
そろそろ時間だからと、直樹は玄関へと向かう。

「行ってらっしゃいませ。」
「行って来る…と、忘れていた。」
車に乗り込もうとした直樹が振り返った。
「会社からの書類は全部、俺の書斎に運んで整理しておいてくれ。」
「かしこまりました。」

直樹の車を見送った後、渡辺は気がついた。

「…私が一人で運ぶってこと?」

山積みの箱を見て、渡辺は「はあ…」と深い溜息をついたのだった。
関連記事

 BLOG TOP