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2011.08.23 (Tue)

リネン室の怪人 5

予想外に続きを待っていたという方が多くて、嬉しい悲鳴を上げております!

すみません、如何してもギャグ風味に落ち着きそうな気配です。
私のギャグ、いつも滑りまくっているというのに…。

私の話に足りないものはなんでしょうか?ラブか?ラブなのか?←きっとそうに違いない



【More】





「それで、あんな噂になったわけですか。」
昼も過ぎた時刻、閑散となっている職員食堂の片隅で幹は西垣から噂の真相を聞いていた。
「琴子もねえ。そんなことならアタシに一言相談してくれたらいいのに。」
「最初は一人で頑張るつもりだったらしいからね。」
西垣はフフと笑ってジュースを飲む。

「で、琴子ちゃん、今日はどんな感じ?」
「…あんな感じですよ。」
幹は顎をしゃくった。
その先にはこれまた雨雲を頭上にくっつけているかのような冴えない顔をしている琴子が、食べそびれた昼食とおぼしきカルボナーラをフォークでつついていた。

「何だか知りませんけれど、入江先生から“鼻の頭でダイコンをおろせ”って言われたらしいですよ?」
「鼻でダイコンおろし?何だ、それ?あいつも嫉妬でどうかしちゃったか?」
「さあ?それに加えて、今日から入江先生が出張だったことにここに来て気がついたみたいで。」
「ああ、そうだった。あいつ今日から三日間、岡山で学会だった。」
西垣はもう一度琴子を見た。もう食欲がないのか、皿を追いやってしまっていた。

「でもあんな調子じゃさ、琴子ちゃんミス連発してるんじゃない?」
「それが、そうでもないんですよ。」
幹が「ちょっと聞いてよ、奥さん」と言うように手をヒラヒラとさせた。
「今日はミス、一つもないんです。それどころか逆に冴えていて清水主任から褒められてました。」
「へえ。入江との仲が悪化すると仕事ではプラスになるわけか。」
「だからといって、離婚勧める気にもなりませんけれどね。」
二人がそんな会話をしているうちに、琴子はトレーを手に立ち上がり、ヨロヨロと食堂を出て行ってしまった。



「ヒィィィッ!!」
幹の悲鳴がリネン室に響き渡った。
「…そんな悲鳴を上げなくとも。」
琴子は恨めしそうに幹を見た。
「そんなにひどいかなあ?」
琴子は手鏡を手にし、ニヤッと笑った。
「ああ、アンタ、ちょっと!笑った拍子に口元にひびが!」
琴子の顔は見事にファンデが塗りたくられ、おてもやん状態にチークベッタリ、その瞼は絵の具でも塗ったかというくらいに真っ青だった。

「うーん…メイクの腕は退行してしまったようだね。」
幹と一緒にやってきた西垣もさすがに言葉を失ってしまった。

「大体、モトちゃんがどうしてここに?」
幹と西垣、二人にメイクを落としてもらいながら琴子が疑問をぶつける。
「まあ、大体の事情は聞いたから。力になれればと思って。」
「なかなか落ちないわね」と、幹はメイク落としに力を込めながら言った。



「琴子ちゃん、これで分かっただろ?」
メイク落としのコットンが山と積まれたものを見ながら、西垣が優しく声をかけた。
「琴子ちゃんはね、そんな凝ったメイクなんてしなくていいんだよ。」
これは前から西垣が琴子に言おうと思っていたことだった。
琴子を見かねて協力したが、西垣は内心、メイクなどは琴子に必要ないと思っていたのである。
「でも…入江くんと…釣り合わないんですもん…。」
べそべそと琴子はまた泣き始める。
「だけどさ、人間は見た目じゃないよ。中身だよ、中身。」
「そうよ、そうよ。」
「凝ったメイクなんてもんは、しなければいけない人間がすればいいんだ。」
西垣はチラッと幹を見る。幹は西垣の脇腹を肘で突いた。

「…とにかく、琴子ちゃんだって入江の顔だけを見ていたわけじゃないだろ?」
脇腹を押さえながら苦しそうに西垣が話す。
「いいえ、顔です。」
琴子はきっぱりと答えた。
「ええ!?」
想像してなかった答えに、西垣は目を丸くした。

「先生、先生。」
幹が小声で西垣を呼び、白衣を引っ張った。
「…琴子は入江先生の顔に一目ぼれしたんですよ。」
「え?そ、そうなの?」

西垣は「コホン」と咳払いをし、仕切り直す。
「ま、最初は顔でもさ。あいつの…(どこがいいのか分からないけど)性格にも惹かれていったんだろ?好きになるってそういうことだよね?」
「性格…。」
琴子はペタンと両手を床につき、うなだれる。
それはまるで、暗闇のステージに琴子の部分だけスポットライトを当てているかのようなポーズ。
「性格…性格…。」
ブツブツとつぶやく琴子。
「性格…入江くんの…性格…。」
そして琴子は頭を抱え、
「ああっ!!!」
と悲鳴を上げる。

「先生、先生。」
またもや幹が西垣の白衣を引っ張った。
「…何か僕、パンドラの箱を開けちゃったみたいな感じ?」
「そうですよ。アタシも怖くて未だに聞けてないんですけれど、入江先生のあの性格に琴子は相当酷い目に遭ったみたいですよ?」
「そうなの?」
西垣は琴子を見た。
「そうよ…あの意地悪な性格にどれだけ、あたしが苦労したか!!」
琴子は二人の存在を忘れ、頭を抱えながら一人騒いでいた。



「と、とにかくさ…琴子ちゃんも入江の性格の(一つくらいはあるだろう)長所を知ったから、結婚したわけでしょ?」
「…そりゃあそうですけれど。」
今まで騒いでいた琴子は、ピタリとそれを止めた。
そして琴子は、ニンマリと笑った。

「入江くんの優しさっていうんですかね?まあ、あたしにしか見せないものなんですけれど。普段冷たいんだけど本当はとっても優しくて家族思いで…。」
ムフフと笑いながら、琴子は一人だけの世界に羽ばたいていってしまった。

「…だから、人間は要は中身なんだよ。」
ひとしきり琴子の話を聞かされた後、西垣が琴子を現実に戻した。
「入江だってそうだよ。琴子ちゃんの可愛い顔だけじゃなくて、その明るく素直で元気いっぱいな性格が好きで結婚したんだよ。」
すらすらと並べ立てる西垣の口を見ながら幹は、
「うーん。さすが百戦錬磨だわ。」
と舌を巻いていた。

「あたしの性格…ですか?」
「そりゃそうだよ。琴子ちゃんの一生懸命さに入江は惹かれたんだよ。間違いない!」
「そうですか?」
「そうに決まってる。幾多の女性と関係を持った僕が断言する!」
「そうかなあ?」
琴子は首を傾げている。

「幾多の女性と関係を持った人に断言されるのはどうかしらね?」
幹は二人に聞こえないよう、ポツリと呟いた。



「琴子ちゃん、意地張って入江と仲違いしちゃったんだろ?」
「…はい。」
琴子はコクリと頷いた。
「入江も素直になれない、捻くれた男だからさ。お互い引くに引けなくなってるんだよ。」
「…先生。」
西垣は琴子を安心させるように微笑んだ。
「あいつは下手したら、精神面では琴子ちゃんよりお子様かもしれない。だから、琴子ちゃんから折れてやった方がいいかもね。」
「そうでしょうか?」
「ああ。きっとあいつ、琴子ちゃんが話しかけてくれるのを待っていると思うよ。」
「…分かりました。」
琴子はやっと明るい笑顔に戻った。
「しょうがないから、あたしから折れてあげます!」
「そうよ、琴子!」
幹が手を叩く。
「アンタの取り柄は、その素直さ(正しくは単純さ)なんですもの!入江先生はそこが好きになったのよ!」
「うん!ありがとう、モトちゃん!」
そして琴子は西垣に向かって、
「西垣先生、ありがとうございます。」
と頭を下げた。
「あたし、入江くんが戻ったら全部話します。」
「うん、うん。それが一番だよ。」
西垣も嬉しそうに頷いた。



それから三日後。
疲れた様子で学会から戻った直樹は、寝室のドアを前に溜息をついた。
今日もこの中に琴子はいないだろう。
「ったく…。」
どうしてこんなことになったのだろうか。こんな時こそあの明るい笑顔に迎えてほしいものを。
そう考えながら、直樹はドアを開けた。

「…お帰りなさい。」
直樹は驚いて足を止めた。
ベッドの中に、いるはずのない琴子がいたのだった。


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*Comment

★幸せです~♪

時間がなくてお邪魔できずにいたところ、なんと一気に5話まで!
ありがとうございます、幸せです~♪
途中「もしや、またしても水玉さんを前に正座をして、ハラハラしながら夜を過ごすのだろうか!?」と思いましたが、入江くんが今回は割と冷静に自分がお子様であることを自覚してくれたようで、よかったです(笑)
琴子ちゃんの前向きな性格、本当に可愛い!ガッキーとモトちゃんの連携も見事で、このドタバタ感がイタキスだよね!と楽しく読ませていただきました。

入江くんったら、本当は笑顔の琴子ちゃんに出迎えてもらってぎゅうってしたいくせに……売り言葉に買い言葉とはいえ、辛いところですよね。
ギャグ風味の中に適度にきかせたラブスパイス、楽しみにしてます♪更新ありがとうございました!
miyaco |  2011.08.24(Wed) 00:01 |  URL |  【コメント編集】

★おはようございます♪

水玉さん~♪~~手をヒラヒラ
「とにかく面白いです♪でもね、楽しいお話なのに、なぜか涙まで出そうになっちゃいましたよ。。。」

今日も水玉さんにとってよい日でありますように!
あお |  2011.08.24(Wed) 07:30 |  URL |  【コメント編集】

早く仲直りして、二人のラブラブぶりがみたいです。
みほ |  2011.08.24(Wed) 09:01 |  URL |  【コメント編集】

大変ご無沙汰です♪
琴子ちゃんすっごくかわいい!!!
元のラブラブなイリコトに戻りますように♪

今となっては入江君の優しも全て知っている琴子ちゃんだけど、
初めは一目ぼれだったのよね
ガッキーの質問にはっきりと「顔です」と答える琴子ちゃんが
またかわいい!!
琴子ちゃんって、本当に馬鹿がつくほど正直で、鈍感なんだから~!!
早く、こんなかわいい琴子ちゃんを抱きしめてくださいね直樹さん。
ゆみのすけ |  2011.08.25(Thu) 11:23 |  URL |  【コメント編集】

★miyacoさん、ありがとうございます。

大丈夫です、今回はmiyacoさんを正座させたりなどしませんから!!
普通のイリコトは結構、うちの入江くんは自分のお子様度を理解しているんですよね。
だからそんなに琴子ちゃんを泣かせることはしないんですよ♪

ガッキーとモトちゃんは本当にいいコンビで。
なんだかんだと二人を心配しているような気がします。

入江くんも「俺が言い過ぎた」とか一言言えれば、もっといい方向へ動くんでしょうね。

お忙しい中、こちらこそ来て下さりありがとうございました!
水玉 |  2011.08.25(Thu) 13:26 |  URL |  【コメント編集】

★あおさん、ありがとうございます。

あおさ~ん♪

「あらあら奥様、そんなことないのよ~」と、手をヒラヒラ(ついでに反対側の手には買い物かごしっかり)

面白いとの言葉、とても嬉しいです。
途中から何か方向がおかしくなってきているのが不安でしたので!
水玉 |  2011.08.25(Thu) 13:27 |  URL |  【コメント編集】

★みほさん、ありがとうございます。

もうすぐ見られると思います~♪
水玉 |  2011.08.25(Thu) 13:27 |  URL |  【コメント編集】

★ゆみのすけさん、ありがとうございます。

お久しぶりです!!!
速読会を退会されたんですね(笑)

私は速読会でも遅読会(こんな言葉あるのか?)、どちらでも嬉しいです~♪

琴子ちゃん、最初は一目ぼれでしたもんね。
それでその性格のギャップに激沈して。それでもまた、好きになってね~。
でもあの頃から、入江くんはなんだかんだと優しさを時折見せていたような。
そのきっかけは手紙でしたけど(笑)

琴子ちゃんのまっすぐな思いが入江くんに届いた?瞬間でしたよね~あ~懐かしい!!

水玉 |  2011.08.25(Thu) 13:29 |  URL |  【コメント編集】

★拍手コメントありがとうございます。

拍手コメントをありがとうございます。

Foxさん
大丈夫!元々上中下で終わらせる予定だった話だから、そんなにこじれませんとも!!
入江くんはとことん、ひねくれていますからね。
自分が素直になろうという選択肢はない、やれやれ…ふう。

まあちさん
もう、まあちさんのお嬢さんの話、うちの母が大受けでした!!
笑点の話といい、ザビエルといい…。話さずにいられないんです!!
「面白いお嬢さん」と親子で爆笑してるんですよ~。
そういや、いとこが昔、叔父の薄くなってきた頭を見て「聖パウロ」と言っていましたよ…。
禿げ方が中央から始まったものでねえ(笑)
私の父は髪はまだあって黒いのですが…白髪が一本でも見つかったら騒ぎます。
そして私はその父の髪を受け継ぎやはり黒いので、白髪が見つかったら騒いでおります…。

chan-BBさん
入江くんはオスのカブトムシですら、嫉妬しそうですよね。
そして確かに、ガッキーは入江くんに嫉妬されて喜んでいるに違いないです。
入江くんがイケメンじゃなく、天才ツンデレ…それだったら少女漫画のヒーローじゃないですよね(笑)
やっぱりイケメンだから、あの数々の名セリフが映えるわけでして!
ドラマだと天才ぶりがすごく主張されてますけれど、イケメンは忘れてほしくないわ!
私は外見より内面重視でしたね~一目ぼれの経験がないなあ。
そもそも、そんなカッコいい人が身近にいなかったという(涙)

紀子ママさん
いえいえ、いつも書きながら「ラブが足りないような…」と思うんですよね。
でも紀子ママさんに優しい言葉をかけて頂けて、ちょっとホッとしました。
入江くんは本当に性格は「…」でしたもんね!琴子ちゃんだって何回「最低」を口にしたことか。
でもそんな入江くんも少しずつ人間らしさというか他人への思いやりを持ち始め…金ちゃんとクリスの恋の成就に手を貸した場面では、その成長ぶりに涙が出そうになりましたよ(涙)

ちぇりさん
こっそりなんて、そんな!大声でおっしゃって頂いてよかったのに(笑)
でもお待たせして期待に添えなかったらと、すごく心配でした。
楽しんで頂けているようでホッとしました。
入江くんのツンデレぶり、出てますか?
すごく嬉しいです!ツンデレの意味が未だに理解できてない私なので、その辺がいつも不安なので。
水玉 |  2011.08.25(Thu) 13:43 |  URL |  【コメント編集】

★雨、槍、降りそう・・・。

こんにちは
 今回は珍しく珍しく 良い事言ってるじゃないですかぁ・・・とあるお方さん。 観察力もあっていて・・・そんだけ女を追いかけてるからこそですねぇ。

 お互いに素直になれれば苦労せずに済むのにねぇ・・・。
吉キチ |  2011.08.31(Wed) 11:22 |  URL |  【コメント編集】

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