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2011.08.22 (Mon)

リネン室の怪人 4

コメントありがとうございます。
間が空いてしまったにも関わらず、待ってましたとのお言葉とても嬉しかったです。

それにしても、どうしてこんな展開に…。
そして書いている本人にも最後がどうなるかは分かっていないという…。




【More】




「よいしょっと。」
押し入れから客用の布団を琴子は出していた。
今夜は和室で寝るのである。

「…とうとう家庭内別居か。」
それを見ていた裕樹が冷たく声をかけてくる。
「失礼な!!」
「だってそうじゃん。別々に寝るんだろ?家庭内別居から始まりやがて家を出て…。」
「そ、そこまではならないもん!」
布団を敷きながら、琴子は頬を膨らませた。なんて縁起の悪いことを言う義弟か。

「これ、裕樹!」
様子を見に来た紀子が雷を落とした。
「琴子ちゃん、大丈夫?寝られそう?」
時折は干して風を通しているがと、紀子はあまり使われることのない布団の様子を心配する。
「あ、大丈夫です。ふかふか。」
琴子は布団を押して、紀子に笑った。
「こじれないうちに、さっさとお兄ちゃんに謝ったほうがいいぞ。」
裕樹が懲りずに言った。
「これ!琴子ちゃん、謝る必要なんてないのよ。どうせお兄ちゃんが悪いんだから。」
「え?おふくろ、理由知ってるの?」
「知らないわ。でもお兄ちゃんが悪いことは確かでしょ?」
紀子は100%、喧嘩の原因は直樹だと信じている。



「それじゃあ、おやすみなさい。」
挨拶をして紀子と裕樹が出て行こうとした。
「あ、裕樹くん。」
襖を閉めようとした裕樹の手が止まった。
「そこ、ちょっとだけ開けておいて?ええと…5センチ、いや、10センチくらい。」
琴子は指を広げて裕樹に頼んだ。
「何で?」
「ほら、もしかしたら…。」
「もしかしたら?」
「…入江くんが夜中に覗きに来るかもしれないじゃない?」

二人の間に、沈黙が訪れた。

「…絶対にない!!!」
裕樹は断言した。
「何でよ!」
「何のために覗きに?」
「そりゃあ…あたしが心配で。いや、その…あたしが恋しくなって。」
モジモジしながら、琴子はポッと頬を染めた。
「お前、馬鹿か?」
自分から「今夜は入江くんと一緒に寝ません」と宣言しておいて、直樹が夜這をかけてくる。本気で信じているんだろうか?

「まあ、裕樹くんには分からない、夫婦の色々があるのよ。色々がね。」
「はん!勝手にしろ!」
裕樹は一ミリも隙間がなく、ぴったりと襖を閉めたのだった。



「…来ないなあ。」
暗闇で琴子は、天井を見ながら呟いた。
あれから自分で開けた襖の隙間から、視線を感じることはない。
「入江くん、やせ我慢しなくていいのに。」
あの時、西垣にあらぬ疑いをかけた直樹に腹を立てたことは本当だった。
しかしそれよりも、西垣に話した通り、自分を信じてもらえなかったことが悲しかった。
つい喧嘩になってしまったが…やはり同じ家にいて別々に寝るということは寂しい。

「戴帽式だって…入江くんが神戸に行くときだって…どんなに気まずくなっても寝る時だけは一緒だったのに。」
ぐすんと琴子は鼻をすすった。
「言い過ぎたかしらね?」
あそこまで言わなくてもよかったのかもしれない。
自分の冷静さを欠いた言動を琴子は悔やんだ。

「待てよ!」
琴子はハッとなった。
自分が言い過ぎたと今思っている。ということは、直樹だってそう思っているのかもしれない。いや、思っているに違いない。

「そうよ。入江くんだって疑って悪かった。謝りたい。でも…って反省会をしているに違いないわ!」
膝小僧を抱え、「琴子、一人じゃ寂しいよ」とシクシク泣いている直樹の姿を琴子は想像する。
「何て可哀想な入江くん…。」
そんなことは絶対あり得ないのに、琴子の頭には「可哀想な夫」の姿しか浮かんでいなかった。

「もう、しょうがないな!」
誰もいないのに一人でブツブツ呟き、挙句の果てには「エヘヘ」と笑って琴子は起き上がった。



「…ドアの隙間くらい開けておきなさいよ。」
寝室のドアはこれまた、ぴったりと閉められていた。それはまるで琴子を拒絶しているかのようである。
「照れ屋さんなのよね、入江くんは。」
拒絶されていることを、スーパーポジティブにとらえて琴子はドアをそっと開けた。
きっと部屋には膝小僧を抱えた直樹が…。


しかし ――。

琴子が目にしたのは、膝小僧を抱えるどころか、これまた気持ちよさそうにぐっすりと眠っている直樹の姿だった。

「な、泣き疲れて寝ちゃったのかしらね?」
持参したペンライトで、琴子はそっと直樹の顔を照らした。
「まあ…いつもと同じ綺麗な寝顔。」
涙の痕などどこにも見当たらない。

その時、直樹の目がカッと見開かれた。

「きゃあっ!!か、怪人!!」
思わず琴子はペンライトを落としそうになった。
「…どんだけ俺を怪人にしたいんだ。」
眠りを邪魔された直樹は、不機嫌な声を出した。
「お、起きてたの?」
慌ててペンライトを拾った琴子は、またそれを直樹の顔に当ててしまった。
「眩しくて目が覚めたんだよ!」
直樹は琴子の手からペンライトを奪い、今度は琴子の顔を照らす。
「眩しい!」
「分かったか。」
直樹はライトを当てる位置を下げた。

「で、何だ?謝りに来たのか?」
直樹はペンライトをクルクル回しながら尋ねた。
「謝り…何であたしが!」
あくまで自分は悪くないと思っている直樹の態度に、また琴子は腹が立った。
「何であたしが謝らないといけないわけ?」
「お前が悪いからに決まってるだろ。」
「は!冗談じゃないわ!」
「じゃあ、何でここに来た?え?」
「それは…。」
まさか直樹がしょげている様子を見たかったとは言えない。

「何しに来た?ほら、言えよ。」
「それは…。」
琴子は言葉に詰まった。
その様子を見ていた直樹が口を開いた。
「まあ、寂しくて一人じゃ眠れないって言うんだったら、俺も折れてやってもいいけど?」
「寂しくて…?」
その高飛車な言い方に、琴子はカチンと来た。

「笑わせないでよ!」
腰に手を当て、琴子は「はあん!」と虚勢を張った。
「あたしが一人じゃ眠れない?入江くんがいないと眠れないって?笑っちゃうわ!」
「ふうん。」
直樹は冷たく琴子を見る。
「あたしの体が入江くんなしじゃいられないって言いたいんでしょ?残念でした!入江くんがいなくたってぐっすり眠れるもんね!!」
「あ、そ。」
「あたしがここに来たのはね、これよ、これを取りに来たの!」
そう言って琴子は、ベッドサイドに置いてあったティッシュを手にした。
「そんなもん、下にいくらだってあるだろ。」
「違うわよ!これはウルトラスーパーソフトティッシュだもん!あたしのデリケートな鼻にぴったりなのよ!」
「お前のデリケートな鼻?」
直樹はぷっと噴き出した。
「お前の鼻なんて、ダイコンもすり下ろせるくらい丈夫な鼻だろ?」
「何ですってえ!!」
「さっさと行けよ。眠れなかったら…。」
直樹は言わなくてもいいことまで口にしてしまった。

「愛しの西垣先生の顔でも思い浮かべりゃいいだろ。」

この台詞を言った瞬間、直樹の顔面にティッシュボックスが命中していた。

「信じられない!!ああ、そうするわよ!!入江くんより西垣先生の方が大人で素敵だもん!!」

それを捨て台詞に、琴子は寝室を出て行ってしまった。



「ったく…。」
後に残された直樹は、衝撃でくぼんでしまったティッシュボックスの角を直しながら呟いた。
「…悪かったな。どうせ俺は子供だよ。」

あんなことまで口にするつもりはなかったのに。
だが、琴子が鼻がどうとか言い出した時、その鼻に西垣が…いや自分以外の男が手を触れたのかもしれないと思ったら、もう口は止まらなくなっていた。

「あの鼻…顔に触っていいのは俺だけなんだぞ?」
ティッシュを乱暴に置くと、直樹は頭まで布団の中に潜ったのだった。
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*Comment

早く仲直りしてね~。
みほ |  2011.08.23(Tue) 10:29 |  URL |  【コメント編集】

★意地の張り合い??

水玉さん、こんにちは。
このお話の続き、待っていました。

本当に、この二人ときたら、お互い一緒に眠りたいのに、意地の張り合い。
琴子も、今回はちょっと、やりすぎかもしれなくてよ。
直樹、うわさになっていたから、心配してあのリネンの部屋に、いたと思うのに、あぁ、売り言葉に、買い言葉で、やっちゃったのよね。
でも、早めに、仲直りした方が宜しいかと思いますが。
tiem |  2011.08.23(Tue) 14:26 |  URL |  【コメント編集】

★夏の夜

今日も可愛らしすぎる琴子ちゃんの思考回路♪
お話から、いろんな『イタキス』のシーンを思い出しました。~
~♪~~~♪~~~
入江くんの
「まあ、寂しくて一人じゃ眠れないって言うんだったら、俺も折れてやってもいいけど?」
(お子様が入っていて好きです!^^)
から、高三の夏休み最後の日琴子ちゃんが入江くんの部屋に忍び込んだ時の、
「夜這いしに来たんだろ。」
あの時の、ただのイジワルな青い入江くんのセリフと重なりました^^
あの『イリコト』が夫婦喧嘩をしていると思うと~しみじみ~~。
なんだかね嬉しくなってきました!!

続きも楽しませていただきます♪
あお |  2011.08.23(Tue) 15:35 |  URL |  【コメント編集】

★みほさん、ありがとうございます。

本当にそうですよね!
水玉 |  2011.08.25(Thu) 10:23 |  URL |  【コメント編集】

★tiemさん、ありがとうございます。

ありがとうございます!

意地の張り合い、まさしくそうですよね。
入江くんも心配だったんでしょうが、本当に素直になれないというか。
琴子ちゃんもそうなんですが。

今回は珍しく琴子ちゃんが強気なので、仲直りするタイミングを失っている感じですね~。
水玉 |  2011.08.25(Thu) 10:24 |  URL |  【コメント編集】

★あおさん、ありがとうございます。

そうなんですよ!!

あの「夜這い」とかいう意地悪な入江くんと琴子ちゃんが夫婦に…。
私も本当に結婚後の話を読むと「あの入江くんが」と涙しそうになります(笑)

入江くん、かなりお子様ですよね。
琴子ちゃんも付き合い長い割には、いまだにそこに気がつかない所がまた初々しくて♪

いつまでもラブラブって意味なんでしょうけれどね。
水玉 |  2011.08.25(Thu) 10:25 |  URL |  【コメント編集】

★拍手コメントありがとうございます。

拍手コメントありがとうございます。

まあちさん
そりゃあ野次馬になりますよね。
まあちさんの口ぶりが、ちっとも深刻じゃないところが笑えました。
琴子ちゃん、引くに引けないんでしょうね。
でも入江くんから素直に謝られたら、それはそれで「あたしが悪かったの!」と泣いちゃいそうな気がします(笑)

りんさん
ありがとうございます。
ずうずうしいなんて、とんでもないです。
お願い、嬉しいです。
プレッシャーにはなっていないので大丈夫ですよ~♪

のんびりははさん
ありがとうございます。
続きを書いてみたら、予想の倍より長くなってしまって。
本当に青い入江くんですけれど、最後まで見守って頂けたらいいなと思います。

anpanさん
珍しく拗ねさせてみました、入江くん(笑)
可愛いと言って頂けて安心しました~。

紀子ママさん
二人とも完全にお子様ですよね。
入江くんは、本当に素直になれないんですよね。
琴子ちゃんはそこがまだ分かってないし。
この二人も年齢を重ねたら「あらあら、入江くんは素直じゃないのね」と琴子ちゃんが笑う日が来たりするんでしょうかね?

嘉村さん
こちらこそ、このような拙い話を休憩時間の友にしてくださるなんて!!
読んで下さってありがとうございます。
可愛い話はめったに書かないので、そう言って頂けて嬉しかったです。

ちももさん
こちらこそ、ありがとうございます!

Foxさん
琴子ちゃんは悪くないんですよね。入江くんが嫉妬して変なことを口にするから。
確かに入江くんから折れることは考えにくいし…。
でもいつも琴子ちゃんから折れるのも可哀想だし…。
お互い自分は悪くないって思っているだけに厄介ですよね。
水玉 |  2011.08.25(Thu) 10:35 |  URL |  【コメント編集】

★愛暴走

    こんばんは
 琴子も直樹も意地の張り合いですねぇ・・・。
直樹も・・・なんで嫌かぁを言えばここまでコジレないのにねぇ。
 琴子は直樹が琴子への・・・愛の独占欲の塊り なんて知らないから・・・

   
吉キチ |  2011.08.30(Tue) 19:36 |  URL |  【コメント編集】

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