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2011.08.17 (Wed)

公爵夫人の憂鬱 上

御心配をおかけし、すみませんでした。

そしてまたコトリーナのお話ですみません。
この間書いたばかりなのに。







【More・・・】





「最近、奥様のご様子がおかしいんですの。」
イーリエ家に仕えるメイドのモッティは、絹さやの筋を取りながら溜息をついた。
「おかしいって?」
そのモッティの前で、やはり同じように筋を取っているのはガッキー・ウェスト男爵である。
「何だい?あの偏屈公爵が妻が妊娠中であることをいいことに浮気でもして、それでコトリーナが心を痛めているってか?」
「違いますわ。旦那様はそのようなことありません。」
モッティが怒って抗議した。
「そうですとも。」
モッティの抗議に同意したのは、同じようにイーリエ家で執事として仕えるシップである。
「旦那様に限ってそのようなことがあるはずないです。」
「そうですわ、お二人の仲はいたって良好ですもの。」
モッティが鼻息荒く話す。

「…ご存知ですか、男爵様?」
「何を?」
モッティは「フフフ」と美しい笑みを浮かべた。

「…朝食のテーブルで奥様が恥ずかしそうにされている時があるんですの。」
「へえ?」
男爵は興味深そうに体をモッティへと動かした。
「その時、必ず奥様は髪の毛を下ろされておいでです。」
楽しそうに話すモッティとは対照的に、シップは顔を赤くして懸命に筋を取り続けていた。
「コトリーナの髪?それが何か関係が…あ!」
漸く男爵はその理由が分かったらしい。

「ええ、ええ。」
モッティは何度も頷いた。
「…分かったぞ。髪を上げると…ばれるんだろ、あれが。」
「ご名答!」
モッティはパチパチパチと手を叩いた。
「旦那様がつけられた、“あの印”が奥様の首の後ろにくっきりとあるんですの。」
「ブチブチブチ」と、シップの手がせわしなく筋を取って行く。

「それで、その奥様をご覧になる旦那様のお顔ったら…。」
「すごく誇らしげなんだろ!」
モッティと男爵は盛り上がっていた。

とにかく、ナオキヴィッチとコトリーナの仲は親密であることは変わりはない。

「それなのに、最近の奥様は時折旦那様を見て溜息をつかれるんですの。」
一体何をコトリーナは心配しているんだろうかと、その理由はモッティとシップにも分からない。



その時、男爵から深刻な声が出た。
「…どうやら、ばれてしまったのかもしれないね。」
「え?」
キョトンとするモッティ。だがその手は筋を取ることを止めなかった。
「産まれてくる…ジュゲムについてだよ。」
男爵はそう言うと「ブチッ」と威勢よく筋を取った。
「ああ、もう。男爵様、それじゃあだめですわよ。」
失敗した絹さやをつまんで、モッティは溜息をついた。

「いんげんより、僕の話を聞いてくれ。」
すっかりむくれてしまった男爵は、取った筋が入ったボウルをシップへ押し付けた。
「何でございます?」
男爵の分まで筋を取り始めたシップが尋ねる。

「産まれてくるジュゲムの父親が、ナオキヴィッチではないということさ。」
深刻な表情で男爵は語り始めた。
「きっとコトリーナは罪の意識にさいなまれ、辛い日々を送っているのだろう。」
モッティとシップは顔を見合わせた。
「そして、ナオキヴィッチは産まれて来たジュゲムを見て…自分に似ていない黒髪のクルクルパーマであるジュゲムを見て…不義の子を我が子として育てなければいけないわけで…ああ!」
男爵は頭を抱えた。
「何て僕とコトリーナは罪深いことを!すまない、ナオキヴィッチ!僕たち三人は一生、この罪を背負って生きていかねば…うぐっ!!」

最後の変な声は、喉元にステッキが食い込まれたことによって発生したものだった。

「…何が罪深いだ?え?」
ギリギリと男爵の喉元を絞めあげているのは…この家の当主、ナオキヴィッチであった。

「し、死ぬ…。」
苦しさのあまり赤くなっていく男爵の顔。
「…誰が黒髪のクルクルパーマでエロに生まれてくるだ?え?」
「え、エロとは一言も…。」
男爵を絞めあげていたナオキヴィッチは、手を突然緩めた。その拍子に男爵は床に尻もちをついてしまった。

「おい!何でこの馬鹿の戯言を黙って聞いていた!」
今度のナオキヴィッチの怒りの矛先はシップとモッティに向けられる。
「も、申し訳ございません、旦那様。」
「その…男爵様の妄想がどこまで行きつくか知りたくて。」
平謝りする二人に、
「ったく、暇人ばかり揃いやがって。」
とナオキヴィッチは睨んだ。

「とにかく、この馬鹿を外に出せ。明日はゴミの日だろ?」
ナオキヴィッチは咳き込んでいる男爵を見ながら、シップに命じた。
「ちょっと待て!ご、ゴミってお前…それはあんまりだろうが!」
「あんまり?」
ナオキヴィッチは男爵の襟元を引っ張り上げた。

「大体、コトリーナの出産が無事に終わるまではこの家に入るなと言ったはずですが?」
「そんな!」
再びもがき苦しみながら、男爵は叫んだ。
「ひどいじゃないか。僕は君の先輩…。」
「あなたの存在が胎教によくないんですよ。」
「ひ、ひどい!」
「コトリーナには美しいものを見せたり聞かせたりしたいんです。健やかな出産のためにね。」
そしてナオキヴィッチはシップに、男爵を家から追い出すよう再度命じたのだった。



「ただいま!」
明るいコトリーナの声が居間に響いた。その手に持っているバッグにはマタニティマークが三つもついていた。
これは、前に大学にやってきたコトリーナのお転婆ぶりを心配したナオキヴィッチが命じたものである。

「お帰り。」
そして、何事もなかったように迎えるナオキヴィッチ。
「先生、ジュゲムちゃんは順調だったわよ。」
コトリーナは、最近ふっくらとしてきたお腹を愛おしそうに撫でながら報告する。
「そうか。」
コトリーナはノーリー夫人に付き添われて定期検診に出かけていたのだった。

「ところで、モッティさん?」
お茶を運んで来たモッティに、コトリーナは不思議そうな顔を見せた。
「門の所に置かれた、大きな小麦の袋はなあに?」
「そうそう。あんな大きな袋が捨ててあって二人で驚いていたのよ?」
ノーリー夫人もモッティの顔を見た。

「小麦の袋…それは…。」
モッティはチラッとナオキヴィッチを見た。
ナオキヴィッチは優雅な手つきでティーカップを取り、あっさりと言った。
「ゴミだ。」
「ゴミ?あんな大きなゴミ?」
コトリーナとノーリー夫人は顔を見合わせる。
「ああ、俺も父親になるしな。いい機会だから“邪魔なもの”を思いきって処分したんだ。」
「まあ、そうなの?言ってくれたら手伝ったのに…。」
そう言うコトリーナに、
「こら。」
とナオキヴィッチはその額を突いた。
「あんな大きなゴミ、持たせるわけにはいかないだろ?」
「でも…。」
それでもコトリーナは口を尖らせている。
「大体、あれは触らない方がいいんだ。」
「そんなに危険な物を詰め込まれたんですの?」
真っ青になってノーリー夫人はナオキヴィッチを見た。
「まあ、毒と言っても過言ではないかもな。」
「毒!」
コトリーナとノーリー夫人は手を組んで震え上がる。
「よかったわ、コトリーナちゃん。触らなくて。」
「ええ、おばさま。何だかモゾモゾしていたから、変な虫も入っていたのかもしれませんね。」

二人の会話を、モッティとシップは複雑な気分で聞いていた…。

そして、そのような会話がイーリエ家のリビングにて交わされていた頃、「毒のようなもの」で「モゾモゾと動いていたもの」を、連絡を受けたウェスト家の執事が汗をかきながら回収していたのだった…。



このようにコトリーナへの愛情がますます募っているナオキヴィッチが、妻の異変を気づかないわけがない。

ナオキヴィッチも、時折元気がない様子のコトリーナが気になっていたのである。



「カントリーハウスに?」
その晩、ナオキヴィッチはコトリーナに、流産の危険も落ち着いたことから久しぶりにカントリーハウスへ行こうと提案した。
「シゲキスキーにもジュゲムのことをちゃんと報告したいしな。」
「まあ!」
コトリーナは、カントリーハウスを守っている名執事、シゲキスキーの温和な顔を思い浮かべる。
「素敵だわ、先生!」
コトリーナは大喜びで、ナオキヴィッチの意見に賛成した。

これでコトリーナの憂鬱さが少しでも晴れれば…ナオキヴィッチはそう思っていた。


しかし ――。

数時間後、ナオキヴィッチの腕にちょこんと頭を乗せているコトリーナの顔は浮かない表情だった。

「先生…。」
自分の悩みなど知らずにスヤスヤと眠っているナオキヴィッチの顔を見て、コトリーナは深い溜息をついたのだった ――。
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Comment

★お元気でしたか?

水玉さん、ご無沙汰してます!

PCがぶっ飛び、チョー古いので拝見してます PCに年齢を付ければ後期高齢者対象になるくらい?かも なんとか動いてます

さて私事は兎も角、コトリーナ奥様のため息の原因は?ナオキヴィッチ旦那様をどんなイジメが待ってるのかな?笑(////)
相変わらずのガッキー!!!大好きだよ~
美優 |  2011.08.17(水) 21:10 |  URL |  【コメント編集】

★うちはアラフォー(笑)

元気です!!美優さんもお元気そうで何より!!

そして、さすが美優さん!早速笑わせていただきました!

何ですか、「後期高齢者」なパソコンって(笑)
でもすごくイメージがわきます!!

私のパソコンは…ノートパソコンの寿命を考えると折り返し地点…かな?
そうなると…アラフォーか(笑)
一番脂がのっている年齢といえるのかもしれません。

やっぱりナオキヴィッチいじめはこのシリーズには欠かせませんよね。
気がついたら「ほぼ」オールスター出演となっておりました!
水玉 |  2011.08.19(金) 15:04 |  URL |  【コメント編集】

★お情けかな

       こんばんは
 コトリーナの憂鬱が気になってますが・・・
懲りない懲りない あのお方は、袋入りになっちゃったのねぇ・・・。
でも、でもナオキヴィッチの玄関先行きなのが ナオキヴィッチの情けなのか? ほんと ドコゾに置いてかれたら なんて思ったら 見たかったなぁ・・・その続きって思っちゃいました。 
吉キチ |  2011.08.29(月) 19:45 |  URL |  【コメント編集】

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