日々草子 めでたし めでたし 2
FC2ブログ

めでたし めでたし 2



お琴は渡辺屋が持参した土産の団子を運んできた。

「このお団子、わらび屋さんのお団子ですよね?すごくおいしくて行列ができてるって。」
もこもこと頬張るお琴。
「渡辺屋さん、こういうお店も御存知なんですね。」
「ほら、うちは女の奉公人も結構いるからさ。女の人はこういう甘いもの好きじゃない?たまに買って帰ると喜ぶんだよね。」
「いいなあ、渡辺屋さんの女中さんは!思いやりのある御主人で!」
感心しながらも、お琴は次の串にと手を伸ばす。その食べっぷりに直樹は呆れ果て、
「そんなにうらやましければ、渡辺屋に雇ってもらえよ。」
と冷たく言い、お茶をすすった。直樹は甘いものが苦手なので団子に手を伸ばそうとしない。

「別にお前にここにいてくれって、俺は一言も言ってないし。」
「あら!だめですよ!」
団子を振り回しながら、お琴が言い返した。
「私がいなくなったら、誰が師匠のお世話をするんです?」
「だからお前に世話をしてもらわなくとも、おれ一人で十分だし。」
「そんな!師匠は読本を書くことに専念してもらわないと!」
そう言いながらお琴はまた団子を頬張った。
「売れている今、稼がないとどうするんです!!」
「…どこの強欲婆さんだ、お前は。」
直樹がお琴をさらに呆れた様子で見た。

「だってここで稼がないと、師匠の老後は散々たるものになっちゃう!」
「老後?」
「そうですよ。ここでたんまりとお金をためておかないと、老後師匠は誰の世話も受けずに一人寂しく…。」
そう言ってお琴は袂で目を押さえる。
「そうだなあ。確かに入江の老後を考えると、寂しいものがあるかも。」
お琴の話をそれまで黙って聞いていた渡辺屋もうんうんと頷いた。
「お前のような偏屈な奴は、竹馬の友の俺ですら首を傾げる時があるし。こんな奴の世話をしてくれるお琴ちゃんはかなり貴重な存在だ。」
「お前まで、何を!」
直樹は渡辺屋をにらんだ。

「でしょ、でしょ?」
お琴は渡辺屋が同意してくれたことが嬉しい。
「俺の店にもお前の弟子になりたいって奴が何人も来たけど、全部追い返されたし。」
「やっぱり。」
渡辺屋の話に頷くお琴。
「難しい人ですものね、師匠は。」
「頭がいいぶん、何を考えているかまったく理解できないんだよね。」
「分かります、分かります。」
気が合うお琴と渡辺屋の相手をしていられないと、直樹は、
「勝手にしろ。」
と二人に背を向けてしまった。



「でも確かに、いい子だよな。お琴ちゃんは。」
その後、直樹の実家に出かけたお琴。家には男二人が取り残された。
「家事は何一つできないけどな。」
やっと静かになったと、直樹はくつろいでいる。

「お前さ…。」
渡辺屋が突然、声を潜めた。
「何だよ?」
渡辺屋は周囲を見回し、誰もいないことを確認する。
「…お琴ちゃんのこと、女として意識してないの?」
「はあ!?」
突然何を言い出すのかと、直樹は怪訝な顔で渡辺屋を見た。
「あいつが?女?どこをどう見て?」
「だって、一つ屋根の下で男女が二人で暮らしているんだぞ?」
「はん!」
親友の言うことを「くだらない」と言わんばかりに、直樹は鼻で笑った。
「お前はともかく、お琴ちゃんは嫁入り前で…。」

「あれ、見ろ。」
渡辺屋を遮り、直樹は顎を動かした。
その先にはお琴が洗ったばかりの直樹のふんどしが、パタパタと風にそよいでいる。
「俺を男として意識していたら、あんなことすると思うか?」
「確かに…。」
嫁入り前の女性が赤の他人の男のふんどしを平気な顔で洗えるとは、渡辺屋にも思えない。お琴はそれを歌を歌いながら洗っていたわけで。
「俺も一緒だ。あんなスットコドッコイ、女として意識なんてしたこともないね。」
「ふうん。」
完全に「師匠」と「弟子」の関係なのだと渡辺は思った。



「それで、母上様。ここはどうすれば?」
「ああ!お琴ちゃん、待って!それじゃ手を切ってしまってよ!」
直樹の母、紀子がお琴の手を動かす。
「そうそう…大根はそうやって切ると食べやすいから…。」
おぼつかない手で包丁を動かすお琴を優しく教える紀子。
お琴は時折、直樹の実家である入江家にやってきては、紀子から料理や裁縫などの家事一般を教わっているのだった。

「この間作った大根のお味噌汁、師匠にしょっぱいって怒鳴られてしまって…。」
お琴はしょんぼりと紀子に報告する。
「んま!何てことを言うのかしら!こんな可愛いお琴ちゃんに作ってもらえるだけ、有難いと思わないといけないとうのに!そんなことを言うバカ息子には煮えたぎったお湯でも飲ませておけばいいわ!」
「でも私が悪いんです。一向に上達しないから。」
「まあ、お琴ちゃん!」
紀子はお琴を抱きしめる。

突然息子の元に転がり込んできたお琴を、紀子は実の娘のように可愛がっていた。元々娘が欲しかったということもあるのだが、それだけが理由ではなく、お琴の素直さ、努力家なところをいたく気に入っているのである。
このお琴がいつか直樹の嫁になってくれたら…密かに紀子はそれを望んでいる。

「あ、ふんどし洗いがまた来てやがる。」
「裕樹!!何てことを!!」
背後に聞こえた声に、紀子がお琴に見せていた笑顔から一転、鬼の形相へと顔を変えた。
やってきたのは直樹の弟、入江家の二男の裕樹だった。
「だって本当のことじゃん。お前、兄上のふんどしを洗うことしかまともにできないんだろ?」
「裕樹!!」
「いいんです、母上様。裕樹さんの言うとおりですので。」
お琴が紀子をなだめる。

「そんなに言うのなら、あなたも明日からは自分のふんどしは女中じゃなく自分で洗いなさい!!」
「やなこった。」
そして裕樹は、
「おい、鍋がすごいことになってるけど?」
と指さした。
「あ、いけない!っと、熱い!!」
入江家でもお琴は失敗の連続である ――。



「…その後お戻りになられた父上様にもご挨拶しましたが、お元気そうでした。」
「あ、そ。」
入江家で紀子と作った料理を詰めた重箱を夕食に、お琴は直樹に報告する。

「時折は、皆様にお顔を見せて上げて下さいね。裕樹さんも生意気ですけれど、兄上様が恋しいみたいで。」
「そのうちな。」
「そのうち、そのうちって、師匠!!」
お琴は箸を置き、直樹を睨みつけた。
「師匠が滅多に顔を見せないから、皆さま心配されているんですよ?」
「便りがないのは元気な証拠っていうだろ。第一、家を出た息子が頻繁に実家に顔を出していることのほうが変だ。」
「師匠は顔を見せなさすぎなんです!!」

別に直樹が実家と折り合いが悪いわけではない。
紀子だって時折、こちらにやってくる。しかし重樹は旗本の当主という身分柄、なかなか出歩けないのだ。直樹から顔を見せに行ってほしいと琴子は願っている。

「お前こそ、いいのか?」
「何がです?」
直樹の分の出汁巻き玉子を皿に取り分けながら、お琴が訊ねる。

「田舎の親父さんにちゃんと連絡してるのか?」
お琴は早くに母親を亡くし、田舎で父親に育てられた身だった。そのお琴が単身、江戸に出てきている。
昼間の渡辺屋の話ではないが、赤の他人の男の家に転がり込んでいることをその父親は知っているのだろうか?
江戸ですらあまり褒められた話ではない。田舎などに伝わったらもっとすごいことになるのではないかと、直樹は密かに心配している。

「大丈夫です。時折こちらから手紙も出していますし、それに…便りのないのは元気な証拠でしょ?」
先程直樹が口にしたことをお琴が笑顔で口にした。
「人のことばかり心配して。」
「師匠が心配ばかりかけるからです。」
「俺がいつ…ぐっ!!」
お琴は直樹の口に出汁巻き玉子を放り込んだ。

「おいしいですね、母上様のお料理は。」
目を白黒させている直樹とは対照的に、お琴は大きな口を開け玉子焼きを頬張った。



「でも師匠?」
「何だよ?」
ようやく玉子焼きを食べ終えた直樹がお琴を睨む。
「どうして師匠は、旗本のお家を継ぐことをせずに作家になったんです?」
「…別に。」
お琴が焦した魚を苦そうに直樹は口にする。

「あ、もしかして、渡辺屋さんが地本屋の養子に入ったからそれを追いかけたとか?」
「はあ!?」
一体今日、何度目の「はあ!?」だろうかと思いつつ、それでも直樹はそう言わずにいられなかった。

「何でおれがあいつの後を追いかけて!」
「だって渡辺屋さんも旗本のお家に生まれて…。」
「渡辺屋を追いかけて俺が作家になったなんて、まるで俺があいつに恋焦がれているみたいじゃねえか。」
「気持ち悪い」と言い、直樹は味噌汁をすすった。

「だって二人とも武家の出で、似たようなことをやってるんですもん…。」
お琴は口を尖らせる。
「あいつは母親の実家である渡辺屋に跡取りがいないから、養子に入ったまでの話。俺は人生一度きりだから、それなら好きなことをしてみたかったまでの話だ。」
「人生一度きり?」
「そうだよ。どうせ人生は一度しかないんだ。それなら好きなことをやったほうが得だろ?」
「それで…作家?」
「武術の修行も、学問の修行ももう治めるところまで治めた。そしたら武家の生活がつまらなくなってきたんだ。」
直樹が名門の旗本の長男として、文武両道で有名だったことを渡辺屋が教えてくれたことをお琴は思い出していた。

「まあ、それだけの理由だ。分かったらくだらないことは二度と口にしないように。」
「はい。」
やはり師匠は変わっている人だと思いながら、お琴は味噌汁をすすったのだった。












お久しぶりです。…といっても、日数的には大して開いていないんですよね(笑)
その間、御訪問下さった皆様、ありがとうございます。

そして、先日はこのお話とオタク部を読んで下さり、本当にありがとうございました!


ボチボチと戻ってまいりましたので、またよろしくお願い申し上げます。
関連記事

comment

管理者にだけ表示を許可する

更新ありがとうございます。

おひさしぶりです。お忙しいようですが毎日欠かさずこちらと、チラシの裏にお邪魔してます。
直樹&琴子以外で好きなキャラのが紀子と渡辺君なのでこのお話楽しいです。無理ないペースで書いてくださいね。
続きを楽しみにしています。

No title

水玉さ~~ん♪
お久しぶりです!!大好きよ~♪
直樹さんは独り暮らしだけど
しっかり、紀子ママが登場されたところが何よりうれしいです!!
そして紀子ママの琴子ちゃんLOVE光線も嬉しい♪

全く先が読めませんがどんな展開になっていくのか楽しみです♪
これからは暑く大変でしょうがお体気を付けて頑張ってくださいね♪

杏子さん、ありがとうございます。

ありがとうございます!!
あちらもチェックして下さっているんですね♪

渡辺くん、なんだか西垣先生と大して差のない書き方になってしまって(汗)
今回はちょっとほのぼの路線でスタートしてみました!
ぜひ続きも読んで下さると嬉しいです。

ゆみのすけさん、ありがとうございます。

お久しぶりです!!私もゆみのすけさ、、だーいすきっ!!
またこうしてお会いできて嬉しいです♪

紀子ママはどんなに原作を逸脱した設定にしても、琴子ちゃんLOVEなところは変えられませんね!
嫁いびりする紀子ママなんて想像できませんもん!!

またよろしくお願いしますね!

拍手コメント、ありがとうございます!

拍手コメント、ありがとうございます!!

babaちゃまさん
覗いて下さってよかった~♪
またよろしくお願いします!

紀子ママさん
ただいま!!
ありがとうございます!!
そうなんです、タイトル変わったんです(笑)
休んでいる間に、こっちのタイトルの方がいい気がして。
ふんどし洗ってくれるだけ、なんて可愛いんでしょう!!
本当に泣かせたら私も承知しません(笑)

ひろりんさん
お久しぶりです。お元気そうで!!
江戸のお話は、受け入れられるんだろうかとすごく不安でしたが…思いのほか、皆様に楽しんでいただけているみたいで安心しました!!
是非続きも楽しんでいただけたらと思っております。

chan-BBさん
いや、私もその逆を想像したことはあります!!
琴子ちゃんを献身的に介護する入江くんとか…。
それを想像した当時、琴子ちゃんに尽くす入江くんを妄想して止まらなかったんです!
ふんどしを洗うってことは、本当に心を許している証拠だと思うんですよね。
本当に嫌いだったら、触られたくもないでしょうし。
それにしても、書きながら疑問に思うのは…お琴ちゃんが来るまで入江くんは自分でふんどしを洗っていたんだろうか(笑)
その様子を想像すると、ちょっと笑える…。

佑さん
ちょっと私にしては珍しく気に入っているタイトルであります(笑)
可愛いと言って下さって嬉しいです。
ぼちぼちとか言いましたが…頻繁に更新していたらごめんなさい(汗)

Foxさん
ただいま!!ありがとうございます!!
本当に暑い日が続いていますね!!私も早くも夏バテしそうです。
私もこの暑さをブログ更新でもして、忘れたいなと思っていたり。
しかし…暑い!!!!!
というわけで(どんなわけだ?)またよろしくお願いします。
あ、そうそう。トンイはまだ見てません。もうちょっと話が進んでから見ようかと(笑)
でも「ホジュン」というドラマは全65話のうち、1話分をのぞいた64話をブルーレイに録画しました!!!

まあちさん
もう、まあちさんまで!!ありがとうございます。
さすがオタク部永久名誉部員のまあちさん!青木とデートをシュミレーションしてますかあ?(笑)
またまあちさんから面白いコメントをお待ちしております♪

あやはさん
お久しぶりです。そんな挨拶なんて気にしないでいいのに~(笑)
再び来て下さりありがとうございます!!
皆さんとこうしてコメント交換できて、私も幸せをかみしめております^^

ぴくもんさん
ただいま!!
ぴくもんさんにそう言っていただけるなんて!!
私もお会いしたかったです!!ありがとうございます、また来て下さって!
そうそう、私も書きながらまるで熟年夫婦みたいだなあと思ってました。
何だかんだと気がすごく合っているようではありますが。
タイトルは一応、これで決定です♪
最後が「めでたしめでたし」になるかどうか…その辺もぜひ、ぴくもんさんに見届けてほしいな!
ふんどしは、これからも「またかよっ!」と思われるくらい登場すると思います。本当に…ふんどしなんて身につけさせてしまっていいのかしら。でも、この時代はこれしかありませんもんね(笑)

NoTitle

   こんにちは
 ママ だぁ~いぃ好き・・・ほんと一生懸命な琴子だからですよねぇ。 ママの口に、勝てるお方はいるんでしょうかぁ? 裕樹も負けてないですがねぇ。

 お互いがお互いの家族の事心配してるのも二人らしい・・・。
プロフィール

水玉

Author:水玉
『イタズラなkiss』のほかには『ゴルゴ13』が好きです☆
多数あるイタキスの二次小説の中で邪魔することなく、ひっそりとマイペースで我が道をゆきつつ生息しております。
そっと見守っていただけたら嬉しいです。

※当ブログに掲載されている文章及びイラストの無断転載・使用はご遠慮下さい。

現在の御訪問者
現在の閲覧者数:
御訪問ありがとうございます
このブログについてのお願い
当ブログは、『イタズラなkiss』の二次創作をメインとしておりますが、時折管理人の趣味や日々の出来事についての記事も書いております。

原作者様や関係各位とは一切関係ありません。

二次創作については、いわゆる原作の隙間をぬった作品もありますが、主人公以外のキャラクターをメインとしたものや オリジナルキャラクターが出てくるものもございます。

そして、原作と違った時代(平安や明治やその他の時代を舞台にしております)、異なる設定(主人公を医者と看護師じゃない職業にしております)で書いてあるものが多いですが、原作を冒涜しているつもりは全くございません。

二次創作が苦手という方及び原作のイメージと合わないと思われる方はどうぞお引き取り下さいますようお願いいたします。

コメント及びメールなどでの苦情及び批判は公開、非公開を問わず、私へ告げることはご遠慮いただけますよう、お願い申し上げます。

このブログ及び掲載されている話が嫌いだと思われたら、黙ってあなた様の中から、このサイトの存在を消去していただけますよう、お願い申し上げます。

最新記事
最新コメント
Private
カレンダー
07 | 2020/08 | 09
- - - - - - 1
2 3 4 5 6 7 8
9 10 11 12 13 14 15
16 17 18 19 20 21 22
23 24 25 26 27 28 29
30 31 - - - - -
リンク
カテゴリー+月別アーカイブ