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2011.04.10 (Sun)

月読みの光に来ませ 2 


【More・・・】


結局、直樹が琴子に切り出せないまま数日が過ぎた。
鴨狩帝からは「返事を」と催促され、その度に誤魔化す日々。

直樹は考える。
先に琴子に想いを表示したのは鴨狩帝であった。
それなのに、後から打ち明けた直樹を快く祝福してくれたのも鴨狩帝であった。
結果として帝の想い人と直樹は奪ったことになった。しかし帝はその後も直樹を頼りにすることは変わらず、態度も変わらない。
そのことは直樹の胸を痛ませる理由には十分であった。



「お帰りなさいませ、お兄様。」
その日も琴子の部屋からは煙がもうもうと立ちこめていた。
「また香を合わせたのか?」
琴子の三番目の趣味は香を合わせることであった。とはいえ、やはり不器用さが災いして、一度たりとも気分を良くさせる香りが発生したことはない。
「はい。お兄様のお衣装に薫きしめるものをと。」
失敗だらけでも、琴子は直樹のために一生懸命である。
直樹は今日こそ言わなければいけないと思い、琴子を抱きしめた。
「お兄様?どうしたのですか?」
突然の直樹の行動に琴子は驚く。
直樹は周囲にかしづいていた女房達を下がらせた。そして部屋には琴子と直樹の二人だけとなった。

「やはり、何か悩まれているのですね?」
この間からずっと気にしていたことを琴子は口にする。
妻として支えにならねばならないのに、直樹が何で悩んでいるのか、それすら分からない。そして打ち明けてもらえないことに少し悲しみを覚えていたところだった。

「…もし、嫌だと思ったら、そう言ってほしい。」
琴子を抱きしめたまま、直樹は静かに切り出す。
自分が嫌だと思うようなことなのだろうか。もしかしたら自分以外の女性の所へ通っているということを直樹は打ち明けるつもりなのでは。
直樹が京で評判の貴公子であることは、世間に疎い琴子でも知っている。まだ二人がただの兄と妹であった頃、どれだけ直樹に縁談があったことか。
中には出世の足がかりともなる縁談も多数あったにもかかわらず、直樹は世間から離れて暮らしていた父の友人の娘である自分を選んでくれた。

「何でしょうか。」
いつもならまるで空に浮いているかのような心地よさを感じる直樹の腕の中で、琴子は体を固くして直樹の次の言葉を待つ。

「宮中の尚侍としてお前に出仕してほしいと、帝の仰せだ。」
「尚侍…?」
他の女性についての話ではないことに、琴子は少し安堵した。しかし話の内容は想像もしていないものだった。
「欠員ができた。色々候補となる姫はいるのだけれど、帝はお前をと望まれておいでだ。」
「私が…?」
琴子はどうして帝が自分を尚侍にと言っているのだろうかと、疑問に思った。
そして直樹はその理由に予想は付いていた。しかしそれを琴子に言うことはしない。願うなら、琴子がその理由に気付いてほしくない。

「どうする?」
「どうすると言われても…尚侍がどのようなお勤めなのかよく分からないですし。」
名前こそは聞いたことがあるが、琴子にはピンと来ない。
「内侍司の長官…まあ、宮中の女官の最高位だと思えばいい。」
「そんな地位の高いものなのですか。でしたら…。」
「帝のお勤めを補佐するようようなものだ。」
あえて直樹は、琴子が不安になるようなことばかり話す。
心のどこかで、琴子に断ってほしいと思っている。

本当なら自分が一言、「断れ」と言ってもいいし、琴子に話をしなくとも「本人が辞退した」と帝に話してもいいことではあった。
その考えが直樹の頭に過ったことは認める。しかし、直樹はそれをしたら帝に顔向けができなくなると思っていた。自分を今でも認めてくれている帝に、そのような卑怯な真似はしたくない。正々堂々と振る舞いたかった。だから琴子に判断を委ねることにしたのである。

「どうする?」
直樹は琴子の答えを待った。
突然の話に、琴子とて驚いているに違いない。簡単に返事ができるものではない。

「少し考えてからでも…。」
暫く時間を取った後、直樹は口を開いた。
「宮中に参ります。」
琴子は直樹の腕の中ではっきりと告げた。

「出仕いたします、お兄様。」
直樹の顔を見つめ、琴子はもう一度言った。
「本当に?」
直樹は念を押す。
「はい。」
琴子は頷いた。ちっとも迷っている顔ではない。

琴子は最初、そのような大役はとても自分に務まらない、断ろうと思っていた。
しかし、この問題は数日の間、直樹を悩ませているものである。
自分が断ったことで、更に直樹を苦悩させることになるのではないだろうか。ふとそのような疑問が琴子の中に湧き出た。
悩み一つ、気軽に打ち明けてもらえない不甲斐ない妻である自分である。それならば、少しでも直樹の負担にならないようにしたい。

「宮中で暮らすことになるんだぞ?」
直樹は更に念を押す。
琴子が宮中に出仕するということは、二人は離れて暮らすということでもある。
琴子にとっても直樹にとっても、それはあまりに辛いことである。

「でも宮中にはお兄様も参内されておいででしょう?」
琴子は笑顔を作った。直樹を安心させるために。
「今はお兄様が参内されている間は、私は一人ぼっちです。でも私が宮中に参れば、お兄様と同じ場所、同じ屋根の下にいることになります。その方が距離が近いでしょう?」
「お前って奴は…。」
琴子の前向きさに、直樹は少し助けられた。

「帝が私をと仰って下さったのです。少しでもお役に立ちたいわ。」
そう話す琴子の顔を見ていた直樹は、その愛らしい唇に自分の唇を重ねた。
そして琴子を再び抱きしめる。

「もしかして、寂しいと思って下さいます?」
自分の寂しさを隠し、琴子は努めてからかうように直樹に訊ねた。
「まさか。」
直樹は精一杯の強がりを見せる。
寂しいと正直に言えればどんなにいいだろうか。だが、それを口にすると琴子の決意も揺らぎ、帝へのやましさも増す。
「…お前の変な絵とか、虫よけのような香とか、新しいのに古着のような染めものとかから解放されてせいせいするよ。」
「んまっ、ひどい。」
琴子の抗議に直樹はクスッと笑い、そしてまたその体を強く抱きしめたのだった。









☆あとがき

この後、宮中に出仕した琴子は鴨狩帝の寵愛を受け、世継ぎを生み、野望が芽生え…。
『メイヤ?(何だと?)』を口癖に勢力を伸ばし、息子を位につけるために悪事に手を染め…。

という『女人天下』と『チャンヒビン』(いずれも韓国時代劇)を足したような話に…なることは絶対にないので、ご安心を(笑)

※水玉のジンクス その35
『すぐにタイトルが浮かんだ話は、比較的失敗が少ない』

このジンクスは当たってほしい!!
でも未だに、自分で選んだタイトルなのに、覚えていないのです(笑)




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Comment

★思いやり

     こんばんは
 やっぱり琴子だぁ・・・ 自分の思いよりも直樹の思いを優先にしてるねぇ・・・即答に直樹も色々思えどなんだかんだで、琴子に助けられるんですよねぇ。 直樹もお口の方が正直になったら、いいのにねぇ。 お身体は正直なようで
吉キチ |  2011.04.11(月) 23:48 |  URL |  【コメント編集】

★吉キチさん、ありがとうございます。

琴子ちゃんは直樹のことを思っているから、自分より直樹が大事なんですよね。
そんな琴子ちゃんだから、直樹も選んだんでしょう。
だけど愛しすぎているから、打ち明けることができずにいて…色々考えているからこその行動なんでしょうけれど。
その分、愛情はたっぷり琴子ちゃんに注がれているようですが(笑)
水玉 |  2011.04.12(火) 21:41 |  URL |  【コメント編集】

★拍手コメントありがとうございます。

拍手コメントありがとうございます!!

紀子ママさん
いやもうジンクス当りつつあるような…^^;
何か、おもいきり改編したテレビ番組が大外れで早くもテコ入れを考えているテレビ局な気分です。
『女人天下』、あれ本当に長いですよね!!
私も全部は観てはいませんが、たまに観ると確かに回せなくなる…(笑)
この間最終回だけは録画して観ました。
あの女二人の腹黒さに最後まで腹を立てつつ。だからとことん悪であることを隠さないチャンヒビンの方が好きです、私は(笑)

まあちさん
『まあちの鉄則』、笑えました!!
確かにそうかも!2つ以上観ると、どっちがどっちか分からなくなる時が時々あります。
「あれ?あ、そっか。こっちは○○が王妃か」とかブツブツと言ったり(笑)
同じ王様の時代が重なっている時ありますもんね。
『女人天下』と『チャングム』は同じ王様の時代なんですけれど、前者はしょうもない王様で後者はいい王様で、うちの母は混乱してました(笑)

佑さん
今回はかなり無茶するんじゃないでしょうか?(ニヤリ)
だって天下人だもん♪もうやりたい放題、誰も止めることができないし♪
そんなちょっと過激な鴨ちゃんも書いてみたかったりします^^
琴子ちゃんの気持ち?そんなんで引き下がるようだったら男じゃないでしょう!!

がっちゃんさん
私のジンクスですか?
そりゃあ全部は教えることはできません(笑)
すくなくとも当る確率が高いのはそれです、ええ。
何だか最近、悩んでいる入江くんばかりですね(苦笑)
まずいわ、これは…。
途中でおもいきり爆発してもらわないと、愛想尽かされちゃいますね!

Foxさん
密かに憧れていたんですよ。宮中物って!だから今回それを実行に移してみようかと決心したのですが^^;
琴子ちゃんがあんな悪女になるわけないですしね。そもそも琴子ちゃんは裏表のない子だから!
そしてタイトルなんですが、『月』が出てくる和歌を検索して見つけました。
そんな高尚な知識、私にあるわけないじゃないですか~(笑)
水玉 |  2011.04.13(水) 10:49 |  URL |  【コメント編集】

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