日々草子 God bless you

God bless you







「僕の名前、ウェストにちなんでイーストはどうだろうか?」
「ウェストは名字でしょう?そこはガッキーにちなんでグッキーじゃありませんか?」
「何だと、ユウキスキー。それじゃ入れ歯のじい様を想像してしまわないか?」
「ではこうは?ヨットというのは?」
「なぜヨットだ?シップくん。」
「私の名前がシップでございますから。シップとくればヨットかと。」
「執事学校の万年二位が考えることは、所詮そんなところでしょうね。」
「ユ、ユウキスキーくん!!君は先輩に向かって何ということを!」
「そうだぞ、ユウキスキー。先程から文句ばかり。それじゃあ君は何かいい名前があるのか?」
「ナオキスキーとか…。」
「何の捻りもありゃしないじゃないか!」

好き勝手なことを話している三人の頭上に、
スパン!スパン!スパン!
と小気味のいい音が響いた。

「痛い!何をするんだ、ナオキヴィッチ!!」
頭を押さえ叫んだのは、この家の主ナオキヴィッチのパブリックスクール時代からの先輩であるガッキー・ウェスト男爵である。
ウェスト男爵は、ナオキヴィッチが手にしている物を見て、更に叫んだ。
「しかもそれはトイレのスリッパじゃないか!!」
ナオキヴィッチは今どき探しても見つからないであろう、男女のシルエットと“Toilet”という文字が描かれたスリッパを手に、目をつり上げていたのである。

「まだ未使用なだけ、有り難いと思ってほしいものですが。」
「未使用とかそういう問題じゃないだろ!」
ウェスト男爵の抗議にナオキヴィッチは聞く耳をもたない。
「ったく、どいつもこいつも勝手なことを抜かしやがって。」
「いや、名前の候補は多い方がいいだろうと。」
「余計なお世話です!それにどうして俺の子供なのに、他の男にちなんだ名前をつけなければいけないんです?」
ギャーギャー騒ぐナオキヴィッチと男爵。その二人をシップとユウキスキーも頭を擦りつつ、黙って見ている。



「さあさあ、お食事ですから、お静かに。」
丁度そこに食事の支度をしにノーリー夫人とコトリーナがやってきたので、その場は何とか収まったのだった。



タウンハウスでのイーリエ家の食事は、家政婦と執事も同じテーブルにつく。
「また人の家でタダ飯を食っていくんですか。」
しれっと席についている男爵をナオキヴィッチは横目でにらんだ。
「先生、またそんなことを。」
ナオキヴィッチの横では、コトリーナが心配そうに見ている。
「いいじゃないか。食事は賑やかな方が楽しいだろ。」
ナオキヴィッチの態度にすっかり慣れている男爵は何食わぬ顔でフォークとナイフを手にした。

「コトリーナ。」
同様にナイフとフォークを手にしたコトリーナに、ナオキヴィッチの声が飛んだ。
「あ…。」
コトリーナは気がついたように、手にしたばかりのナイフとフォークを置く。
「ごめんなさい、先生。」
「何だい?こんな時までマナーかい、ナオキヴィッチ。」
楽しい食事の席だというのに、ナオキヴィッチはコトリーナにマナーの注意をする気なのだろうか。
確かに、この家へ来たばかりのコトリーナは高崎山のボス猿ゴルゴ(2010年にボスの座を交代。ちなみに現在のボス猿はタイガーである)と戦っても勝てるのではと思うくらいであった。
しかし、今ではそのような過去は影を潜め、どこから見てもレディそのものである。
そこにナオキヴィッチの愛情と母親になる喜びが加わり美しさも増すばかりであった。

「ん?」
男爵は執事たちの様子がおかしいことにも気がついた。
二人はテーブルの下にタバスコを隠し持っている。
今日の夕食のメニューにはタバスコを必要とするものはない。それにタバスコが必要であるなら、堂々とテーブル上に出すはず。
「何だい、それは…。」
訊ねかけた男爵の口がそのまま、開いたままになる。

―― な、何だ、あれは…。

「ほら、口を開けて。」
「はい、先生。」
コトリーナは可愛らしい口をぱっくりと開けた。ナオキヴィッチがそこに切った肉を運んでいる。
「もう一つ。ほら。」
「あーん。」
何とも見ている方が恥ずかしくなる…いや、夫婦仲睦まじい光景である。

男爵が視線を戻すと、執事たちはじっとタバスコを見ている。

「あまりに甘過ぎて…。」
夫婦に聞こえないよう、シップが呟く。
「これでも見ていないと、口の中が甘ったるくなるんです。」
ユウキスキーもタバスコの瓶を撫でながら呟く。二人とも視線はタバスコから動かさない。

「な、何で?」
こちらも声を潜め、男爵は執事たちに訊ねた。
「…妊婦は重い物をもつことは厳禁だということで。」
ひそひそと答えるユウキスキー。
「重い物って…。」
男爵はナイフとフォークを見る。
「これが重いってか!?」
どこの世界にナイフとフォークを重い物に分別する人間がいるのだろうか。ナイフとフォークが重いから持てないなどと言ったら、世界中の産婦人科医からそれこそナイフを投げつけられる。
「それでナオキヴィッチはああやって?」
シップは頷いた。
「奥様のご懐妊が分かってから、毎日ああでございます。」
「毎日…。」
あのような光景が目の前で毎日繰り広げられたら、そりゃあタバスコでもハバネロでも触りたい気分だろう。
男爵は執事たちに同情する。
ノーリー夫人は執事たちとは対照的に、にこやかな表情で甘い夫婦を見つめている。

「他にも、階段は危ないから御自分がコトリーナ様を抱えて上り下りをするとか仰られて。」
「それ、余計危ないだろ。」
「はい。それはノーリー夫人とコトリーナ様がそう仰いましたのでナオキヴィッチ様はやめられました。」
「なんちゅう過保護さなんだい。やれやれ、天下の秀才、ナオキヴィッチ・イーリエ公爵もここまで来ると…。」
そこまで男爵が言いかけた時、ヒュッと風を切る音がした。

―― 男爵の顔の傍には、ナイフが突き刺さっていた。

「…何をコソコソ話しているんです?」
ナオキヴィッチがジロリと男爵を睨みつけている。
「い、いや…ナオキヴィッチくん、ナイフは…食器であって武器ではないんだよ?ハハハ…。」
冷や汗を垂らしながら、男爵は笑いを浮かべる。
それをシップとユウキスキーは真っ青になって見ていた。



「それにしても…まあ、やるもんだよな。」
そろそろデザートの準備をとノーリー夫人とコトリーナが席を外した時である。
小声で男爵は執事たちに話しかける。
「あんな澄ました顔してさ。やるこたやってたんだから…。」

そこに、また風を切る音がした。
「ひぃぃぃっ!!」
今度は男爵の口から悲鳴が出た。
男爵がテーブルに出していた左手、それも全ての指の隙間と外側にナイフが六本、突き刺さっていたのである。

「…シップ。」
ナオキヴィッチが静かにシップを呼んだ。
「は、はいっ!旦那様!!」
声がひっくり返ったシップ。
「お前の手入れは見事だ。お前が毎日磨きあげてくれるおかげで、ナイフの切れ味も抜群のようだな…特に先端が。」
上品に口元をぬぐいながら、ナオキヴィッチがシップを褒めた。
「お、お、お褒めにあずかり光栄でございますっ!!」
褒められているのに、なぜか青ざめているシップ。
「…抜いて。」
その傍では小声で男爵が、ユウキスキーに助けを求めていたのだった ――。



「ったく、どうしようもない奴だ、あのエロ男爵が。」
ベッドに入りながら、ナオキヴィッチは胎教に悪い言葉を吐き出していた。
「でも先生。男爵様もシップさんたちも、赤ちゃんのことをおめでとうって言ってくれたわ。」
コトリーナが庇った。
「それでね、先生。」
「何?」
「せっかくみんなが考えてくれた名前でしょ?全部つけたらどうかしら?」
「全部!?」
「そう。ええと…“イースト・ハグキ・ヨット・イカダ・ナオキスキー・ポリデント”だっけ?」
宙を見つめ、うろ覚えの名前を繋げるコトリーナ。
「おい、待て。あいつらが言ってない名前も入ってる。」
「え?そうだった?」
「それに何だ、その長ったらしい名前は!寿限無じゃあるまいし!」
「ジュゲム?ジュゲムって名前がいいの?先生。」
コトリーナがナオキヴィッチに縋りついた。
「いや、それは…。」
「いいわ。先生がそれがいいのなら。まだ男の子かどうかも分からないけれど、ジュゲムちゃんって呼びましょうよ!」
「ちょっと待て。」
「ジュゲムちゃん、お父様が可愛い呼び名を考えてくれましたよ。」
ナオキヴィッチの止める声も無視し、コトリーナはお腹に呼びかけた。



「先生、ジュゲムちゃんにご本読んであげて。」
すっかりジュゲムという呼び名が定着したらしい。ナオキヴィッチはあきらめた。
「何がいいんだ?」
「ほら、先生の好きな本。カニが船に乗っている話とか。」
「カニが船?」
そんな本読んだ覚えはないと思いつつ、ナオキヴィッチは思い出す。
「…“蟹工船”?」
「そう、それ!」
「…それは胎教にあまり良くないからやめておこう。」
「そうなの?先生の好きな本を読んであげれば、頭のいい子になると思ったんだけどな。」
しゅんとなるコトリーナ。
ナオキヴィッチはそんなコトリーナの肩をそっと抱き寄せた。
「大丈夫。可愛い子が生まれることは間違いないから。」
「本当?」
「ああ。俺とコトリーナの子なんだから可愛くないわけがない。」
またもや、執事たちが聞いたらハバネロを口に頬張りたくなるような台詞をナオキヴィッチはコトリーナの頬を撫でながら、その長い髪を手で梳かしながら平然と口にした。

「お母様の好きな話の方が、きっとジュゲムも喜ぶさ。」
「そう?」
コトリーナの顔が輝く。
「お姫様が出てくる話が好きなんだよな?」
「ええ!」
そしてナオキヴィッチは『眠れる森の美女』を話し始めた…。

気がつくと、隣でコトリーナは笑みを浮かべスヤスヤと眠っていた。
その幸せそうな寝顔を見ていたナオキヴィッチは、可愛い唇にキスを落とす。
「おやすみ、俺の眠り姫。」
そしてナオキヴィッチはそっとコトリーナのお腹に手を当て、
「おやすみ、ジュゲム。」
と優しく話しかけて、枕元の明かりを消したのだった ――。












♪あとがき
コメントをありがとうございます。

そして、チラシの裏に関する件も皆様許して下さりありがとうございました。

正直なところ、あのような公開方法がでいいのだろうかというところは、まだ不安で心配ではあります。

パスを既にお持ちの方には本当に申し訳ないと思っていたのですが、その方たちから「大丈夫」「きっと喜ぶ人が多い」と温かい言葉を頂戴して本当に嬉しくありがたいと思いました。
本当に私の勝手な振る舞いを許して下さり、ありがとうございます。
また、初めて入られた方も楽しんで下さっているようなのでそこも安堵しました。

震災でブログの世界も辛い言葉が多く並ぶようになったと聞き、せめてここでは明るくのんびりと、そしてほっこりとした気持ちを味わっていただけたらなと思っております。
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バランスへの絶妙スパイス

   こんばんは
 ウエスト男爵・・・絶妙のスパイスでナオキヴィッチのバランスが保たれる良いお仕事をしに、偶にはお越し下さい。執事達が激甘に耐えられなくなった辺りにお越しいただいて・・・。

 今の直樹は激甘でユウスキーもシップも・・・食事にタバスコ瓶見つめてルンだから・・・ここは男爵の出番かと思います。《断言します》

 お越しの際には、毎度のナオキヴィッチからの、なんかしらの鉄拳は飛ぶの承知でやってくるんだし、お食事も頂いているのだから・・・その代わりに鉄拳を受けてあげてください。

 ナオキヴィッチも激甘が続くわけでもないと思うので、お仕事に支障があってもいけないし、執事に激辛が行っても困るからここは男爵の出番かと思います。 そうする事でナオキヴィッチもバランスが取れ、執事もキチンとお仕事をこなせるかと思います。

 そこでスリルを味わってもらう為に、シップさんにはナイフの先端磨きをより一層頑張って頂いて・・・手が滑ったとナイフが触れる事は無い?かと想うので・・・刃先と自身の僅か数ミリスリルを味わってナオキヴィッチのバランスの為に一役頑張って欲しいです。

 コトリーナ・・・日に日に大きくお腹が近づくと、より激甘になりますよねぇ。この先どんなナオキヴィッチ様が見えられるのかが楽しみです。

この異国物シリーズ大好きです♪
ナオキヴィッチの過保護っぷりは目に浮かびます☆コトリーナちゃんの幸せを分けてもらいたいです(笑)

No title

寿限無って覚えるの大変ですよね♪
数年前、子供とよく覚えました。
琴子ちゃん寿限無はとってもありがたい名前だけど、
フルネームを覚えるのは琴子ちゃんにはちょっと大変ね。
直樹さんの優しさがすごく好き!!
琴子ちゃん幸せいっぱいでいいですね♪


吉キチさんへ

これから先も、男爵は顔を出す予定です。
そしてマタニティコトリーナちゃんにちょっかいを出しては、吉キチさんがおっしゃる通り、ナオキヴィっチから鉄拳をくらうと(笑)
そのために存在しているくらいですからね、男爵は(笑)
痛い目に遭うとわかっていても、それでもやってくるって本当にごくろうさまの一言ですね。
これから先、どんどんナオキヴィッチも崩壊していくことになるかと思いますが…それでも付いてきてくださるとうれしいです。

スノーさんへ

ありがとうございます!
私も自分でかなり気に入っているシリーズなので、そう言っていただけると書く勇気がわいてきます!

ゆみのすけさんへ

そうそう、教育テレビでやってたんでしたっけ?
寿限無をそらで言える子供たちが多くなったと聞いたことがあります!
私は全然だめですが(笑)
琴子ちゃん、今までドナドナされた分(または自分からした分)、直樹さんから愛情たっぷり注がれていますね。

うらやましい~

私が妊娠中、旦那は何にもやってくれませんでした。だからコトリーナちゃんがスッゴク羨ましい!平安シリーズでも悪阻がひどい琴子に直樹がごはんを食べさせてあげてましたよね。今回は悪阻もなく元気そうで良かったけど、あんまり甘やかすとぷくぷくに太っちゃいますよ~。そして見事なナイフさばきは直琴軒シリーズを彷彿させるし、今年はベビーラッシュですか?そして呼び名!本当に水玉さんのネーミングセンスは最高!コトリーナちゃんも何の迷いもなく気に入ったみたいだし、でも、他の人は何て思うかな?とにかく、今回も笑わせていただきました。
プロフィール

水玉

Author:水玉
『イタズラなkiss』のほかには『ゴルゴ13』が好きです☆
多数あるイタキスの二次小説の中で邪魔することなく、ひっそりとマイペースで我が道をゆきつつ生息しております。
そっと見守っていただけたら嬉しいです。

※当ブログに掲載されている文章及びイラストの無断転載・使用はご遠慮下さい。

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御訪問ありがとうございます
このブログについてのお願い
当ブログは、『イタズラなkiss』の二次創作をメインとしておりますが、時折管理人の趣味や日々の出来事についての記事も書いております。

原作者様や関係各位とは一切関係ありません。

二次創作については、いわゆる原作の隙間をぬった作品もありますが、主人公以外のキャラクターをメインとしたものや オリジナルキャラクターが出てくるものもございます。

そして、原作と違った時代(平安や明治やその他の時代を舞台にしております)、異なる設定(主人公を医者と看護師じゃない職業にしております)で書いてあるものが多いですが、原作を冒涜しているつもりは全くございません。

二次創作が苦手という方及び原作のイメージと合わないと思われる方はどうぞお引き取り下さいますようお願いいたします。

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このブログ及び掲載されている話が嫌いだと思われたら、黙ってあなた様の中から、このサイトの存在を消去していただけますよう、お願い申し上げます。

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