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2011.03.22 (Tue)

はじまりはダンス、そして… 23


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相原家の借金が、天宮司によって仕組まれたものだと知ったのは、琴子と重雄が帰京して間もなくのことだった。


「全部天宮司の仕組んだこと?」
当面は入江家に滞在することになった重雄と琴子は、重樹の話に驚く。
「はい。失礼とは思いましたが調べてみたのです。」
重樹は話す。
「天宮司という家は前から胡散臭い噂があって。その…。」
重樹は琴子をチラリと見る。
「どうぞ、こちらは構わずに。」
重樹が何を言わんとしているのかが分かった重雄は、気を遣った。
「その、あそこの息子が自分の趣味を誤魔化すために…簡単に窮地に陥れることができる家を探していたらしいのです。」
「それがうちですか。」
重雄と琴子は悲しそうに呟く。
「…婿養子の私が全く華族の懐具合に疎かったばかりに、借金を作ってしまったとばかり。」
「確か、事業の話をもちかけられたのでは?」
「ええ、そうです。」
重樹の調査は短時間でよくぞそこまでというくらいのものだった。

「どう家を保てばいいのか、お恥ずかしいことに私は全く分からず…元は料理人ですからその腕で食べていこうと思っていたら、周囲から伯爵がみっともないと言われて。途方に暮れていたところに、ある人から持ち掛けられたのです。」
「それが天宮司の息のかかった人物だったんです。」
「じゃあ、最初から本当にうちを狙っていたのですね?」
重雄は深い溜息をついた。
「全くお恥ずかしい…私がしっかりしていなかったばかりに、直樹くんと琴子に苦労をさせて。」
「俺のことは気にしないで下さい。」
同席していた直樹が重樹を気遣う。

「色々証拠を集めて、天宮司に突きつけてみたのです。」
「本当ですか?」
「しかし…。」
重樹の顔は明るくはなかった。
「…破産後も散々放蕩三昧だったようで、もう財産はありませんでした。かろうじて戻ったのは、相原家の屋敷だけでした。」
「では、それを売却して直樹くんにお返ししましょう。」
重雄は重樹の話を聞くと、すぐに決めた。琴子も隣で頷く。
「受け取りませんよ、俺は。」
直樹も重雄の提案を即却下した。
「そうですよ、相原さん。」
重樹は息子と同意見だった。
「しかし…あ、売却した時のお金が少し残っております。それだけでも…。」
「ですから受け取りません。」
「直樹さん、お願い。」
琴子が手を合わせる。
「断る。」
直樹はてこでも動かない構えである。

「このように直樹も頑固ですし、私もそれは受け取ることはできません。」
重樹は笑った。
「そこで、こう考えてはいただけないでしょうか?直樹が相原家の為に払ったお金は、琴子ちゃんへの結納金ということで。」
「家一軒分の結納金!?」
それでは、ますます受け取れない。
「私たちはこう考えているんです。」
固辞し続ける相原親子を見て、重樹と紀子は顔を見合わせ笑う。
「琴子ちゃんが守ったあの家から…琴子ちゃんをお嫁に出していただけたらと。」
「しかし。」
「琴子ちゃんだって、たまには息抜きに御実家に戻りたい時もあるでしょう?」
紀子が補足する。
「生まれ育った家の方がゆっくりとできますわ。」
「でも。」
それでも重雄と琴子は困っている。
重樹と紀子は続けた。
「こんな可愛いお嬢さんがお嫁さんに来てくれるんです。家一軒でも安いくらいです。」
そこまで言われて、もう重雄と琴子に断ることはできなかった。これ以上、入江家の親切を無にすることはしたくない。

「ありがとうございます。」
何度も何度も、重雄と琴子は礼を言い、この提案を受け入れることにしたのだった。



「そうそう、相原家を狙った理由はどうももう一つあったらしいんです。」
「もう一つ?」
重樹はまた琴子を見た。
「天宮司という男は、琴子さんを気に入っていたらしい。」
「嘘でしょう!!」
これには琴子が叫んだ。
「こら、琴子。行儀の悪い。」
重雄がたしなめる。
「だって、お父様!あの男が私を気に入るなんてありえないわ!」
数々の仕打ちを思い出しても、どこにもそのような余地は考えられない。

「…俺はそうかもしれないと思った。」
直樹がぽつりと呟いた。
「え…。」
琴子は唖然として直樹を見る。
「お前を奪いに行った時…あの夜。お前はあの男に“殴る価値もない”と言っただろ?」
「…ええ。」
「お前に言われた時のあいつは、怒るというより…悲しんでいるように見えた。」
「嘘よ。」
「嘘じゃない。」
直樹は続ける。
「俺とお前が一緒に出て行く時、あいつはお前を止めたそうにしていた。もしかしたら、あいつはお前のことが好きになりかけていたのかもしれない。」
「だって、あの男は!」
「…嗜好が変わる場合もあるか、または…両方大丈夫になったか。その辺はよく分からないけど。」
その答えはきっとこの先も見つからないだろうと直樹は思う。だが天宮司が琴子に特別な感情を抱いていたという自分の勘は当たっていると思う。

直樹の話を聞いていた琴子は、不安な顔を浮かべている。
「あなたは、自分の婚約者を不安にさせてどうするの!」
その琴子の様子を察知した紀子が、直樹の耳をひっぱった。
「痛え!何をするんだ!」
「お、おば様!」
紀子の仕打ちに、琴子は目を丸くする。
「終わったことを言っても仕方がないでしょう!じゃあ、何?そのろくでなしに琴子ちゃんを返すっていうわけ?」
「まさか!絶対返すか!」
答えた直樹はハッとして琴子を見る。
「…よかった。」
安堵し、頬を染めて微笑む琴子がいた。
「…ごめん。変なことを言って。」
「ううん。」
何となく、その場の雰囲気がバラ色に染まったかのようになる。

「いやあ、いいですな、相原さん!若いっていうのは。」
「ああ、本当に。」
「どうです?私の部屋で一局?」
重樹は碁を打つ真似をする。
「ほう。それはぜひ。」
重雄と重樹は気が合うらしい。
今後は料理人として働きたいという重雄の相談にも重樹は快く乗ってくれることになっていた。



そして、重雄と琴子は二人で懐かしい家にと戻った。
「まあ、ばあや!!」
「お嬢様!!」
戻った二人を出迎えたのは、かつて相原家に仕えていた使用人たちだった。
「どうしたの?」
「入江様が…事情を全てお話し下さって。」
重樹が手配して、呼び戻してくれたのだという。
「でも…。」
嬉しいことだが、重雄と琴子は困る。
使用人を雇う余裕は正直、ない。

「何を仰るんですか!」
タキが叫んだ。
「あんなにお世話になったお二人を見捨てるようにしてしまった私たちです。」
使用人たちも頷く。
「お給金はいりません。どうかお世話をさせて下さいませ。」
「みんな…。」
それも重雄と琴子が使用人たちを家族同然に接していた証拠である。
二人は有り難く、その申し出を受け入れることにした。
だが、給金は少なくとも出すつもりである。
幸い、料理長が急に止めて困っているレストランがあり、そこで重雄は働くことになっていた。何とかやっていけるだろう。



結婚式は琴子と重雄は二度目ということで反対していたのだが、直樹にとっては初めて、そして堂々と世間にお披露目をした方が、とやかく言われる心配もないという入江家の意向でささやかな式が行われる運びとなった。

その準備で琴子は連日、入江家へと足を運ぶ。
紀子がとにかく琴子を気に入っていることが大きな理由だが、直樹も琴子の顔を見ないで過ごす日が耐えられないのである。

「琴子は?」
来ているはずだが、姿が居間にも応接間にも見えない。直樹は女中に訊ねた。
「音楽室でお待ちです。」
「音楽室?何でそんな所に?」
二人の寝室や居間となる部屋の家具の打ち合わせをしたいのに…直樹はそう思いつつ、かつてピアノがあったその部屋へと向った。

「…!」
ドアを開けた直樹は、足が止まった。
琴子が笑って直樹を迎える。その琴子の横には…あのピアノがあった。
「何で、これが?」
手放したはずのピアノである。それがどうしてここに?直樹は驚いて立ち尽くす。
「直樹さん。」
そんな直樹の前に、琴子は歩み寄った。
「…探したのか?」
琴子は頷く。
「あちこちのお店を訪ねて…噂をたどってやっと見つけたの。お店の御主人がとても親切で、事情を話したら安く売ってくれました。」
「それでもかなりの…。」
「本当は家を売った時のお金をお返ししなければいけなかったのに、直樹さんもおじさまも受け取って下さらなかったでしょう?それと、お父様と私の貯金で何とか。」
「それじゃ俺たちが提案した意味がないだろ!」
直樹は怒鳴った。だが琴子も引かない。
「結納金でしょう?だったらお嫁入り道具を用意することに使っても問題はないわ。」
「嫁入り道具?」
「ええ。」
琴子はピアノの前に立った。
「侯爵家に迎えて頂くのに、私はお家に相応しいお嫁入り道具を用意できなくて。だからこれだけでもと思って。」
そして琴子は笑顔で言った。
「このピアノが、私の唯一のお嫁入り道具です。だから…。」
琴子の口から最後まで言葉は聞けなかった。
気がつくと、琴子の体は直樹の中に包まれていた。

「な、直樹さ…。」
「…ありがとう。」
直樹は琴子の細い体をギュッと抱きしめる。
「本当にありがとう、琴子。」
直樹の声を聞きながら、琴子の顔に笑みが浮かぶ。
やっぱり、直樹はピアノが必要だったんだと確信した ――。



「あら?」
「おや。」
重樹と紀子は久々に聴く音色に耳を傾けた。
「兄様のピアノだ!」
裕樹の声も弾む。

屋敷中に流れるワルツで、人々の心は弾む ――。
琴子も弾む気持ちで、ピアノを奏でる直樹の背中をじっと見つめていた。



「ねえ、あなた。」
紀子が重樹を呼んだ。
「あの話、いつ直樹さんに仰いますの?」
「あの話って?」
裕樹が母の顔を覗きこんだ。
「うーむ…そうだなあ。」
言葉とは裏腹に、重樹は嬉しそうである。
「お医者様になるお勉強の学費をお父様がお出しになるって話ですよ。」
「本当?」
「ああ。」
重樹は頷く。
「まったく、あいつと来たら…親に頼るってことをしなさすぎる。」
「本当に。何でも一人で決めてしまって。私たちがいる意味がないわ。」
「親の私たちを少しは頼ってくれればいいのに。」
「早くお医者様にならないと、可愛いお嫁さんに逃げられてしまいますものね。」
「すごい…兄様と琴子が聞いたら大喜びだ!」

そんな嬉しい会話を三人が交わしていることも知らずに、琴子と直樹は二人だけの世界に浸っていたのだった ――。









☆あとがき
コメントありがとうございます!
色々「え?」と首をかしげる個所が多いことは分かっています!
が、考えれば考えるほどややこしくなってきたので、強引に進めてしまいました!お許しを!
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*Comment

★続き読みました。

そうなんだ、最初からターゲットにされてたのですね(驚)。
天宮司が琴子を気に入っていたなんて、びっくりです。
好きな子をいじめてしまうって奴なのかしら?
なんか入江君に似てますね(失礼な(笑))。
ともかくハッピーエンド、良かったです。
ルナルナ |  2011.03.22(Tue) 20:31 |  URL |  【コメント編集】

★素晴らしい!

琴子ちゃんが人妻だったり 借金があったり 直樹がお見合いしてみたり…ここに来るまでいろいろあったね
まるで走馬灯のように記憶が駆け回ります!
水玉 愛の劇場 さすがいい人だらけです
入江パパとママのナイスフォローで お医者様にもすんなりなれそうだし! 良かった
二人には笑顔が似合うね(^_^)
さくら子 |  2011.03.22(Tue) 21:41 |  URL |  【コメント編集】

★うふふ・・・

こんばんは、水玉さま。

お話を読んで、本当に心が温かくなります。

お互いがお互いの事を思いやり、周りもそんな2人を温かく見守り、
本当に胸がいっぱいになりました。

地震で、本当に辛い思いをしている人が大勢いるなか、人々のやさしさを踏みにじるような詐欺のお話を聞くたびに、本当に情けない思いをしていました。

でも、こちらで癒されて、明日も頑張ろうっていう気持ちがわいてきます。

これからも、元気を貰いに来ますのでよろしくお願い致します。<(_ _)>
りきまる |  2011.03.22(Tue) 23:24 |  URL |  【コメント編集】

★度々すみません(汗)。

ハッピーエンドじゃないですね、まだ終わってないですもん(笑)。
続き楽しみにしてます。
それではまた。
ルナルナ |  2011.03.23(Wed) 07:18 |  URL |  【コメント編集】

★もう少しですね♪

入江夫妻の素晴らしさにただただ感激です。何でこんなに優しいご両親なのに、直樹は甘えなかったんでしょうか?甘えてくれない直樹に物足りなさを感じてたでしょうね。親に甘えるのも親孝行の1つだと思いますよ。でも、天宮寺が琴子を好きだったとは!あの母親のせいで女性不信にでもなったんですかね?そんな天宮寺の気持ちに気付くとは、さすが直樹様。でも知ったからと言って琴子を譲ることは出来ないけど。何よりピアノが2人の元に返ってきて嬉しいです。琴子、きっと必死に探したんでしょうね。直樹が必死に琴子を探した様に。
祐樹'Sママ |  2011.03.23(Wed) 17:45 |  URL |  【コメント編集】

★賑やかに

     こんにちは
 ピアノ・・・二人を繋いだ大切なピアノだもんねぇ。
ワルツ・・・ずっとこのお屋敷で聞こえるだろうなぁ。

直樹もゴウワクあやつの思い・・・同じ相手が好きだからこそ気づいたんだろうなぁ。 でもママが言うように不安にさせたらマズイですねぇ。

 
吉キチ |  2011.03.24(Thu) 14:25 |  URL |  【コメント編集】

★ルナルナさんへ

琴子ちゃんの魅力なら、そっちの人もきっと虜にしちゃうんじゃないかなと思って。
確かに好きな子をいじめるっていうのは入江くんと共通しているかもしれませんね。
でも入江くんはクッキーを捨てたりとか、違う男とどうこうしろとか絶対言わないけど。
本当、終りでもいいくらいだったんですが、まだ肝心のダンスを二人で踊ってなかったので、もう一回余分になってしまいました(笑)
水玉 |  2011.03.25(Fri) 22:13 |  URL |  【コメント編集】

★さくら子さんへ

もう、最後はまとまりすぎって感じかなと自分でも思ったのですが。
いい人だらけのハッピーエンドだからいいかと言い聞かせてました(笑)

本当に色々ありましたよね…。
でもそれが話の中ではわずか数カ月(笑)ここまで怒涛の人生を歩んだ子も珍しいです、琴子ちゃん♪
水玉 |  2011.03.25(Fri) 22:15 |  URL |  【コメント編集】

★りきまるさんへ

ありがとうございます!!

りきまるさんにそう言っていただけて、勇気を出して書いた甲斐がありました!
地震は本当に…自分の中のいろいろな面を見つつ、そして不合理なことを知り…。
平等であるべきものが平等ではないっていうことの辛さも味わっています。

癒されているのは私の方です!ありがとうございます。
こちらもまたコメントから元気を下さいね。待ってます♪
水玉 |  2011.03.25(Fri) 22:17 |  URL |  【コメント編集】

★祐樹'Sママさんへ

甘えてばかりの子供も困りますけれどね。
でも少しは頼ってくれれば…という親心もあるんでしょうね。

天宮司の本心には驚かれた方が多くて!またもや一人ガッツポーズをしている私です。
直樹が琴子ちゃんを探したように、琴子ちゃんもピアノを…うん、うん、その通りだと思います!
だからこそ、直樹さんもすごく嬉しかったんでしょうね。
水玉 |  2011.03.25(Fri) 22:19 |  URL |  【コメント編集】

★吉キチさんへ

さすが吉キチさん!深い!
自分が琴子ちゃんを好きだったからこそ、ライバル(?)のことも分かった、その通りだと思います!

これからずっと、このお屋敷からピアノが途切れることはないんでしょうね。
水玉 |  2011.03.25(Fri) 22:20 |  URL |  【コメント編集】

★拍手コメントありがとうございます。

拍手コメントありがとうございます。

まあちさん
そうなんです。男色家ですら虜にする我らが琴子ちゃん…。
もう入江くん、ライバルはそこらじゅうにいると思っても過言じゃないかも!!

佑さん
そう言っていただけると安心します。ありがとうございます!
もうめっためたの甘甘でいいですよね!!

Foxさん
この日は余震が多かったですよね。
それなのに震度にすると大したことなかったり…ちゃんと計測できているのかが心配です。

紀子ママさん
本当にそこに驚かれた方が多くて!
男女の道は分からないものですよね…うん、うん。
だからといって天宮司に同情の余地は皆無なのですが!!

chan-BBさん
睡眠時間を削ってまで…来て下さって!!
もう本当にchan-BBさんの元へは足を向けて眠れません!!
ありがとうございます!
髪の毛振り乱しての演奏…なんだかそれを聞くと、ほら、使いすぎて変な風になった箒の毛先、あんな髪形になって弾いている入江くんを思い出します。
しかし私、自分の萌えポイントも人と変っているなあと思っていますが、副部長のポイントもすごいですよね!だからオタク部なんて結成したんだろうか、私たち…。

りあさん
あんなに尽くす琴子ちゃん、惚れない男はいないのです!!←強調
だから男色家も両方OKになっちゃうという(笑)
入江くん、ますます琴子ちゃんを愛するでしょうね。
本当にこんなにけなげなお嫁さんなんですから!

るんるんさん
地震酔い、多いですよね。私は船とかには強い方だと思っていたのですが、どうやら地震は別だったらしい…。
さすがに何度もあると結構体にきました。
地震は天災だからどうにもならないのですが…収まるのを待つしかないのか。

水玉 |  2011.03.25(Fri) 23:46 |  URL |  【コメント編集】

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